《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

作者の過去作の脇キャラ夫婦の馴れ初めの話で、この後の作品の主人公の両親の話(らしい)。

純愛特攻隊長!(1) (別冊フレンドコミックス)
清野 静流(せいの しずる)
純愛特攻隊長!(じゅんあいとっこうたいちょう!)
第01巻評価:★★★☆(7点)
 総合評価:★★☆(5点)
 

学校一の問題児・平田明史(ひらた・あきふみ)に気に入られてしまった遊佐千笑(ゆさ・ちえみ)。ただのワルだと思っていたのに、平田は意外にイイヤツみたい……。 千笑はドキドキが止まらなくて――!? ギャグに爆笑! 純愛にドキドキ! 男気に感動! 三拍子そろいまくった、完全無欠のパワフルラブコメ

簡潔完結感想文

  • 読切短編が好評で計7年の連載 全17巻の作品。序盤は恋愛メインだったのになぁ(遠い目)。
  • 退学回避のために問題のある生徒と交流。そこで知るのは彼の以外の顔、そして恋する自分。
  • 3話目で早くも新キャラ追加。ネタの枯渇とキャラの描き分けに苦労する作者が見える…。

1巻どころか、本書における恋愛イベントを1話で消化する 1巻。

本書は、主に白泉社の少女漫画でよく見られる読切短編が長編化した作品。
連載は2004年~2011年まで及び、途中で謎の改題をするが、
『純愛特攻隊長!』が13巻、そして『純愛特攻隊長! 本気(マジ)』が4巻と全17巻の大長編である。

最初はシリーズの続編かと思っていたが、連載中の改題で、登場人物は全く同じ。
掲載誌の変更に伴い、などという理由もない。
同じ雑誌に連続で掲載しながら、題名だけがマイナーチェンジするという本気(マジ)で謎の現象が起きている。

そして その17巻の中で恋愛イベントは最初の1話で終わる。
恋心が着実に降り積もっていく描写とか、切なくすれ違う2人の関係とか、期待してはいけない。
いつでも本書は「パワフルラブコメ」だということを念頭に置かなくてはならない。

連載中の改題が可能なぐらい、いつでも区切りをつけられる内容が続く。
それぐらい長期的展望のないままで、序盤から新キャラで話を作って、
それが終わったら次のキャラでの話と、特に世界観が広がる訳でもなく、オムニバスのような連載形式となる。

読者からの一定以上の支持がある限り、出涸らしになるまで連載を続ける「別冊フレンド」の意向が見える。
別フレ」は連載開始から作者が終わりまで構成を練っている作品が余りにも少ないように思う。
シチュエーションを最重視するも「別フレ」の傾向だろう。
1話でどれだけ読者を魅了する設定を作れるかに注力して、その後の展開がお粗末なことが多い。
要するに私は「別フレ」が好きではない。

当初はヒロイン・千笑(ちえみ)とヒーロー・平田(ひらた)のラブコメだったはずが、
どんどんと千笑が暴走するだけの内容となり、平田の存在が希薄になっていく。

完読後に読み返すと、最初の頃は、千笑と平田が一緒に行動していて、それが嬉しく思う。
そのぐらい後半は平田の影が薄く、恋愛要素も減っていく。

『1巻』からその傾向が見られるが、解決するだけの腕力や頭脳がないままに、
目の前の問題に介入しては、出口の見えない努力をする様子は、段々と苛立ちを覚えた。
また、関わる問題が陰湿なものが多くて、作風と合わないのも残念だった。

特に後半は内容が「ごくせん」化していくが、
どうせなら最初から千笑を教師にして、平田との恋愛を縦軸にした、
多くの少女漫画とは逆の教師モノにすれば恋愛ドラマのパートを引っ張れたのに。
読み切り以降、物語の根幹となる部分がないまま続けるから飽きるのだ。


ちなみに最終巻のあとがきによると設定は1994年頃が舞台だと明かされる。
なので本書には携帯電話は出てこない。
21世紀の子供たちにとっては、なぜ電話が有線なのか理解できなかったりするのだろうか。

そしてこの設定のお陰で、この作品が終了した3年後に早くも子供世代の続編が生まれたと言える。
この続編は全3巻で、5巻以上のシリーズを読書対象としている私の対象外だけど、
いつかは手を出して感想文を書いてみるかも。

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6ページで分かる『純愛特攻隊長!』その1。2人の馴れ初めは本当にこれで全て。あとは追加オプション。

人公の遊佐 千笑(ゆさ ちえみ)は正義感が強いから、目の前で起こっていることを放ってほけず、
問題に介入し、その解決に暴力を振るってしまう高校1年生の女子。
入学式で停学、その2か月後に停学となり、今回、また暴力沙汰を起こして退学の危機となる。

その千笑が退学を免れるために教師から出された条件が、
クラスの男子生徒・平田 明史(ひらた あきふみ)と関わること。
この高校の黒鬼とウワサされる彼の、遅刻やサボりの常習犯を更生させるのが教師の狙い。。

早速、平田が喧嘩しているところを発見した千笑は、平田の顔面に蹴りを入れる。
それに続いて、教師でもしなかった彼への一喝をして立ち去る。
これは退学直前の背水の陣だから出来たこと。

だが、それが2人の馴れ初めとなる。
教室に現れた平田から千笑は交際を申し込まれることとなった。
だが平田のことを知らないからと断ると、彼から交流を深めることを提案される。

教室の真ん中で告白する男気、フラれても負けない精神力、
平田という人は なかなかに面白い人物だということが分かる。

千笑もまた彼と一緒に過ごし、平田は千笑のことをちゃんと見ていることを知る。
顔も褒めてくれるし、千笑の凶暴さにも理由があることを見抜いていた。
千笑の側も平田と話してみると、印象がまるで違った。

平田の家は両親がおらず(おそらく死別)、彼が6歳の弟の幼稚園に迎えに行ったり。
自分の身辺のお金だけでも稼げるようバイトをしているため、部活にも入らない。
そして平田もまた、友人たち3人と外見だけで判断されて、ケンカを売られるだけで、こちらからは売らないことが分かる。

バイト先のガソリンスタンドで働く平田は真面目で、
そちらに比重を置くから、学校が疎かになりがち。

千笑は見た目や風評で緊張していたが、徐々に緩和され、
平田の意外な一面が いちいち胸キュンとなったのだろうか。


お弁当を作ってみたり、平田が千笑を下の名前で読んだり、2人の「交流」は順調だったが、
まるで千笑が色仕掛けで平田に近づいて、手懐けたと平田に誤解されてしまう。
平田は千笑を軽蔑し、そして学校に来る意味を失い、退学届けを提出してしまう

関わるキッカケは退学回避だったが、純粋に彼のことを想っていた千笑。
千笑もまた平田のいない学校生活を考えられなくなっていた。
だから もう一度、平田の顔に蹴りを入れて退学処分を目指す(なぜ(笑)⁉)。

殴りかかりながら、自分の本心を話し、彼と心を通じさせる千笑。
心の暴力は、心をもって癒したといえる。

読切短編の1話は確かに面白い。
2人とも個性的だし、2人の交流も描けている。
告白方法も風変わりで、他作品との違いが明確に出ている。

…が、恋愛イベントは1話が全て。
ここから話を継続・発展させていくのは至難の業。
しかし ここから全17巻の物語になっていく。
どこが受けたのか、私には分からない…。

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6ページで分かる『純愛特攻隊長!』その2。初めて自分を叱った女性。ホント、千笑が教師だったらなぁ…。

うして読切短編の1話で大体の恋愛イベントを終えた2人。
白泉社の少女漫画だったら、一度は成立したかのような2人の両想いや交際をリセットするところでしょうね。

ただし本書の場合はリセットせず、2話は交際後3ヶ月が経過するが、2人の関係性は変わらないという状態となる。

キスはしたけど、手も繋がない赤いスイートピー状態の2人。
そもそも平田はバイトばかりで、接点すら少ない。

だが珍しく平田からデートに誘われる。
友人たちからの冷やかしもあり、性的関係を意識する千笑。

だが平田がデート中に友達を同行させて、千笑の怒りは爆発。
1人で走り去ったところに、平田を恨む学校の先輩が千笑を囲む。
そのピンチに助けに来るのはヒーロー・平田。
そして これまでの精神的な不満も解消されるラストへと一気呵成に物事は動く。

どうしても少女漫画におけるサプライズは、すれ違いがセットになってしまう。
高校生男子にスマートな行動は無理なんでしょうね。

そもそも千笑が自分の誕生日を忘れているというのが無理がある。
ただ平田が千笑の誕生日を知る伏線がちゃんとあるのが良い。
何だかんだで拾った千笑の持ち物の隅々までチェックしている平田が笑える。

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6ページで分かる『純愛特攻隊長!』その3。純愛なのは平田。まぁ3話で別れようと言い出すぐらいの純愛ですが。

して早くも3話目からキャラが増える。
多分、恋愛で描くことがないのだろう(笑)
両想いになったし、誕生日など重要なイベントも使ってしまいましたし。

ちなみに冒頭で、千笑が自分のことをブサイクを揶揄されただけで、顔面を殴ったことに違和感を覚える。
千笑は自分から手を出さない正義があるのかと思ったら、結局、血の気が多いだけではないか。
笑いのために、こういう線引きを間違えて欲しくないなぁ。

新キャラの瑞希(みずき)は千笑のいとこで、転校生。
中性的な雰囲気を醸し出す男子で、いとこだけあって千笑に親しく接する。

平田は警戒するが、物事は瑞希のペースで進む。

瑞希の過剰なスキンシップと、千笑に守られる態度、
そして千笑も瑞希を守ろうとするから平田は不機嫌になり、初めて大きな喧嘩をしてしまう。
平田は怒りの余り、交際の終了まで宣言する。

3話目で別れる別れないの話を出して欲しくなかったなぁ。
そもそも それほど深い恋情じゃないから、軽薄な言動が、この恋を一気に安っぽくしてしまう。

瑞希はイジメられ体質で、更には千笑に頼りっきりの性格。
千笑は瑞希に降りかかる災難を撃退するが、やがて肉体的な限界がきてしまう。

更には数の暴力で訴える人に、千笑は非力だということを思い知らされる。

私は ここも好きではない。
本書において、男女の力の差は描かなくても良かったのではないか。
千笑も、平田と同様本書の中では無敵の存在のままで良かったのに。

ここで千笑の力が及ばないのは怪我のせいにすれば良かったのに。
早くも彼女が男性に屈服するような姿を描いて欲しくなかった。

こうすることで平田がヒーローという分かりやすい構図が生まれるのだろうが、
千笑が弱いくせに頑張っている空回りばかりしているように見えてしまう。
そして残念ながら、千笑の空回りは後半になるに従って増幅していく…。

瑞希も根本的に弱い人間に描いているし、問題解決後はネタ要員として消化するだけ。
全体的に陰湿な事件や性格の人物が多く、ここぞという笑いもカラっと笑えない。

主人公たち側の「正義」に細心の注意が払われていない印象ばかりが残る。
千笑も作品も どこか雑なのだ。