
sora
墜落JKと廃人教師(ついらくジェーケーとはいじんきょうし)
第15巻評価:★★★☆(7点)
総合評価:★★★☆(7点)
灰仁に「同窓会」のお知らせが。その流れで彼の卒業アルバムを見ることになり、かつて灰仁が告白したという同級生の写真を見つけ、その大人っぽい容姿に動揺する扇言。そして何故かその告白相手と扇言が邂逅して…!?「押し倒すのに邪魔になるだろ」まだまだ夏は終わらない――。キケンなつり橋効果LOVE!
簡潔完結感想文
- 元カノが存在しないアラサー男子のために元同級生の女性を召喚して扇言の嫉妬に再点火させる。
- 扇言が兄に気軽に電話したり、一緒に心霊スポット巡りをしてるだけで涙腺が活動し始める。
- 10年以上が経過しても家を覚えているのは、塩漬けされた恋心が漬物になり まだ食べられるから!?
灰葉が他者の口を借りて本当に語りたかったのは何なのか、の 15巻。
冒頭から巻末まで灰葉(ハイバ)の中学~大学時代を振り返る灰葉の過去青春編となっている。冒頭から同級生の召喚の呪文は詠唱され始めて、中盤で姿を現し、終盤で成仏するような百物語ならぬ六物語(収録が6話分だから)のような展開を見せる。
教師モノのJKヒロインにとって妙齢の成人女性は全員 仮想敵。特に灰葉は元カノの存在がいないようなので、成人女性の新キャラを随時投入することによって扇言(みこと)側に嫉妬を覚えさせて恋愛のアクセントにしている。
ただ問題は灰葉は その成人女性に2/2の確率でモテていることだ。最初の成人女性である姫野(ひめの)は灰葉にフォローされることで好意を抱いていたし(『9巻』)、今回の新キャラ・一升(いっしょう)も灰葉にフォローされた過去がある。この一升は ぼっち灰葉も気に掛けてくれた優しい女性なのだけど、その後のフォローで ぼっち だからではなく灰葉だから気になったようにも思える。
でなきゃ高校卒業から10年以上が経過して灰葉の職業を知ったり、住所も何となくでも覚えていることが少し不自然だ。そして いくら酔っていたからと言って同窓会で友人関係を壊すほど灰葉側に立つ物言いはしないだろう。むしろ酔っていたからこそ本心が出たとも言える。
いつも演技をして扇言を自分の進ませたい方向に誘導する灰葉は今回も演技をして彼女が気に病む一升への誤解を解く機会を用意している。それによって一升は「灰葉が好きだった人」ではなくなったけど、かえって「灰葉を好きだった人」疑惑が強まったようにも思える。そして見ようによっては今回の演技は灰葉のモテ自慢とも考えられる。自分の口から扇言を悲しませるような事実は語らないのが灰葉の美学だけど、人の口に戸は立てられぬ とばかりに一升にベラベラ喋ってもらうよう仕向けているように見えた。
また今回 扇言は灰葉が5人の女性に告白した過去を掘り下げている。そこで5人中4人が年上で1人だけが高校の同級生ということが判明。年下を決して狙わなかったのは万が一にも上手くいきかねない、それは困ると思ってのことだろうか。つまり自分に本気にならない人を選んでいたと私は考えた。または「先生」のような存在を求めて年上の女性か同級生の中でも大人びた人を選んだようにも思う。灰葉にとって「先生」は母親なのは確かだけれど遅れて発生したマザコン気質が精神年齢の高そうな女性を求めている気がしてならない。なぜなら扇言が そうだから。灰葉にとって大事なのは実際の年齢ではなく精神年齢なのではないか。


『15巻』は完全に灰葉メイン巻だけど、『14巻』を経た扇言の変化も読み逃せない。前巻が扇言の大きな節目だったから今回は日常回の連続で緩急を付けているようにも見えた。
まず何と言っても兄・詞(つかさ)との関係性の変化。何でもないことで電話したり、素顔のまま会話しているだけで胸が熱くなる。そして会う人によっては詞は島袋(しまぶくろ)になることもあり、島袋が死んでいないことにも安心する。
そして『15巻』を通して扇言のメンタルが安定していることも見逃せない。灰葉との年齢差や嫉妬など恋する女性としての悩みは抱えているけれど、自分の存在を消そうとか これまでのような内罰的な傾向は見受けられない。ただ扇言は一馬(かずま)への対応など生きることの難しさに直面する運命が避けられないので どこまで このメンタルの安定が継続するかは不透明なのだけど。
灰葉が黒歴史と同義の青春を回想して鬱々としているのに対して扇言は それに引きずられることなく ずっと彼のメンタルを気遣っているように見えた。これまでの扇言なら一升との過去のエピソードを知って本人を目の前にしたら私が消えれば丸く収まると考えたかもしれないのに、今の扇言は一升を仮想敵にして それに負けないぐらいの大人っぽさを身につけようとバリバリに対抗する。墜落することばかり考えるのではなく背伸びをして将来を見据えている扇言は普通の少女漫画ヒロインである。
灰葉の携帯電話に高校時代の同窓会の連絡が舞い込む。開催日の間際になって灰葉に連絡が来るのは参加者が集まらず、勧誘の輪を広げたからだと灰葉は邪推する。そんな末端の灰葉の連絡先を知る人がいるのは、当時 ノリで聞かれて教えたのと、灰葉が「先生」から与えられた携帯番号を変えていないから。こんなところにも灰葉の先生への強い思慕(または執着)が見える。住んでいる部屋と同じだ。
そこから卒業アルバムの話になり、灰葉が扇言の中学時代の卒アルを希望。そこで扇言が兄・詞(つかさ)に卒業アルバムの所在を気軽に電話で聞いているところに、兄妹の関係性の変化が見られる。それだけで泣きそうだ。
灰葉の卒アルを見て、唯一の同級生告白相手を見て扇言は動揺する。様々な動揺が重なって「先生」が卒アルに挿んでいた彼女が撮影した写真が発見される。それは灰葉に内緒で撮られた、間違いなく その時代の彼の記録。そういう自分がいたことを「先生」は教えたかったのだろう。
外部への電話が邪魔者召喚フラグになっているのが笑える。


お盆は季節イベント・墓参り回。墓地で扇言は灰葉と安路川(あじがわ)の祖母に遭遇する。認知症の兆候が見られる安路川の祖母は学校外部の安全圏の人なので、誰にも言えない扇言の恋の相談相手となる。
扇言の相談内容は灰葉との年齢差が今更 気になりだしたこと、そして彼の好みが年上なのではないか ということ。つまり自分が灰葉に相応しいかに悩んでいる。安路川の祖母は実体験から扇言に一つの見解を与える。
安路川との勉強回。以前も2人で勉強していたけど(『12巻』)、扇言の唯一の同校同級生だから交流が多い。淳人(あつと)らと同じように死の誘惑から戻ってきた安路川もまた好意を抱くのだろうか。扇言との交流で安楽死から進学へと将来を変えたけれど、具体的な目標がないため安路川のモチベーションが低い。そんな進路相談を受けた灰葉は2人をオープンキャンパスに連れていく。これもまた特に目標のなかった高校時代の灰葉に「先生」が やってくれたことの一つ。大学構内で元 教育実習生の姫野(ひめの)が再登場するけれど別に彼女のエピソードは展開しない。
この回で一番重要なのは灰葉が扇言に指輪を贈るフラグを立てることではないか。
灰葉の夏はクーラー禁止の夏。昨年の夏も同じような展開だったような…。
家庭問題が解決した扇言は死の誘惑から脱却した状態だけど、灰葉は身体が弱ると心も弱る。精神的に寒気を覚えるために灰葉が恐怖を覚えた中学時代の実体験を披露する。このエピソードはフラグである。続いて扇言のターンとなり、兄・詞と一馬・なずな と遭遇した昨夜の実体験を話す。これもフラグ。扇言が心霊スポットで出会ったのは灰葉の高校時代の同級生で告白相手の一升 心美(いっしょう もとみ)だった。
扇言にとって怖い話になったのは一升の正体の説明を受けた詞が彼女を灰葉に送り届けたはずなのに灰葉の家には到着せず兄も帰宅しなかったことだった。その2人が翌日の今日になって ようやく灰葉邸を訪れる。詞は酔い潰されていた。
一升は陽気に気兼ねなく灰葉に接する。扇言は そこに灰葉の語る過去との齟齬を感じる。実は一升は中学時代から灰葉に優しく接していたが、灰葉が その厚意を塩漬けにしてしまった過去が判明。扇言は誤解が無ければ2人は上手くいったのではないかと葛藤が生まれる。姫野に続いて2人目の仮想敵だ。
灰葉の社会的立場の保護のため一升には、灰葉との関係は教師と生徒ではなく家族ぐるみの付き合いという もう一方の側面だけ伝える。灰葉もその扇言の設定に便乗する形で自分の扇言への好意を一升に明らかにする。
扇言の誕生回(『11巻』)と同じように、なぜか人が集まると死屍累々になるのが本書で一升のお酒を飲んだ成人男性たちが撃沈。年齢的な問題で飲まなかった扇言と うわばみ の一升だけが生存する世界となる。
そこで一升は灰葉の語る自分たちの関係の誤りを訂正する。一升は灰葉の「悲しい優しさ」を理解している人間だった。嵐を呼んだ一升がまた再登場するか分からない。灰葉の実は鈍く輝いていた青春を象徴する人だから出てきてほしい気もする。こういう無頼派の人、作者が好きそうだし(扇言の元担任の女性教師と同じ匂いがする)。
