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稀代のプレイボーイ、平成の光源氏は究極のセラピスト。癒してやるぜベイベ★★

愛してるぜベイベ 3 (集英社文庫(コミック版))
槙 ようこ(まき ようこ)
愛してるぜベイベ★★(あいしてるぜベイベ★★)
第03巻評価:★★☆(5点)
 総合評価:★★☆(5点)
 

結平たちの前に突然現れたナゾの少女、ミキ。ゆずゆのイトコを名乗り、「ゆずゆを迎えに来た」というミキは、なぜか片倉家に居座る事に…。平和なはずの夏休みが一転、波乱でいっぱいの予感――!? <同時収録>愛してるぜベイベ 番外編 片倉家のヒトビト/愛してるぜベイベ 番外編 こころのココロ

簡潔完結感想文

  • 夏休みに新たな問題に巻き込まれる結平。彼らの周辺・血縁の家庭はトラブルばっか。
  • サキの問題に結平がいて心から良かったと思うが、もはや別作品の話のようにも思う。
  • 女性専用セラピスト・結平の出番は女性が傷ついた時。いつも放置していることは不問。

やし系イケメンが一番 大事な人を傷つけている疑惑、の 文庫版3巻。

文庫版『3巻』は夏休み前後の話で、全体の流れがあって良かった。まず待望の日常回であるプール・水着回で結平(きっぺい)は恋人・心(こころ)に夏休み中の連絡を約束するのだが、別問題に かかりきりで彼女を放置。そして夏休み明けに謝罪をするが、世話をしている5歳児・ゆずゆ と二股状態のため心の優先順位が低い。そうして一人にしてしまった心にトラブルが起き、傷ついたところを結平が癒やすという作者が作品の流れを ちゃんと把握した話作りをしているのが好印象だった。

ただ仕方ない面は あるにしても彼女に夏休み中、連絡しないことで結平の本気度が疑われる。そして彼女を軽く扱い、そして謝罪も特別なものではなく お弁当。しかも二股状態である ゆずゆ のついで、というのが場合によっては人のプライドを傷つけるものなのが気になる。
本書において結平は稀代のプレイボーイなので、そんな小さなことでも心は彼を許してしまいベタ惚れ状態なのだが、どうしても特別扱いしてくれない結平では物語の恋愛面で糖度が不足していると言わざるを得ない。

浮気している訳ではないし、女性が周辺に絶えないのも女性側が寄ってくるのは分かるのだが、心に感情移入して読んでいる読者たちは果たして これで満足しているのだろうかと心配になってしまう。私は心が結局 チョロい女性に成り果てているというか、プレイボーイの手のひらで もてあそばれているように見える。そして結平の彼女に対する姿勢に腹立たしさを覚える。


んな結平が実力を発揮するのは女性の前、それも傷ついている女性に滅法 強いのが彼がプレイボーイたる ゆえんであろう。ただ逆に言えば傷ついている女性にしか効力を発揮しないパワーとも言え、文庫版『3巻』で登場するサキや心など、傷ついてから彼女たちを癒やすのが結平の役割となる。

最初から傷ついていたサキはともかく、心は彼の放置が原因で傷ついており、その彼女をプレイボーイ面して癒やすのは自作自演の勘違い男のように見えてしまい、結平は果たして本当に彼氏として合格点を与えられるのかという疑問が消えない。


書独特で面白いな、と感じたのは、追加キャラ・新キャラが ことごとく女性である点。…と書きながら文庫版『3巻』には結平に顔が よく似た、もうちょっと描き分けようよ思わざるを得ない板垣(いたがき)という男性キャラが登場するのだが。けれど彼女は作品にとって悪。心に心的外傷とピンチを招くためだけに用意され、この後で あっという間に退場するのが見えているから唯一の例外だ。

板垣は ようやく少女漫画らしい展開をもたらす当て馬かと思いきや、ただのトラウマ発生装置。

これまでも結平が向き合ってきたのは心、ゆずゆ と その母親、虐待寸前だった翔太(しょうた)の母親、ストーカー化した女子生徒、サキと全員女性である。男性である翔太やサキの父親とは基本的に会話をしていない。

少女漫画、しかも掲載誌「りぼん」の中で、こんなにもサブの男性キャラに焦点が当てられない、追加されない作品も珍しいだろう。読者にヒーロー以外のイケメンキャラを好きになってもらうことでファン層を厚くしようというのがイケメンキャラを追加する理由だと思うが、本書は結平の一点突破。その辺が やはり光源氏とか在原業平とかプレイボーイ物語の流れを汲んでいるということなのか。
サキの問題の解決場面といい、結平なら心を託せると思わせる何かが確かにあるけれど。

また良かったのは、片倉家は他者に寛容という点。来客も拒まないし、変な遠慮もしない。ゆずゆ の責任は結平に押し付けたものの、かなりオープンな家庭で、サキを何も言わずに置いてあげる家族たちの懐の深さを感じられた。さすが結平の家族ということなのだろうか。


頭は久々で待望の日常回。ゆずゆ の通う幼稚園では夏休みが終わったらプールが始まるらしい(どういうスケジュールなんだ??)。けれど ゆずゆ は水が大嫌い。それを知った結平は彼女のためにプールでの特訓を始める。でも ゆずゆ は顔に水を掛けただけで大泣きするレベル。

このプール・水着回に、友人に連れられた心も参加するが、彼女は結平に ゆずゆ を優先させる。そんな心に今度は ゆずゆ が遠慮して結平を譲ろうとする。この女性2人の間には やはり継母と連れ子のような妙な遠慮が存在する。そこで心は ゆずゆ に自分と遊ぼうと提案し、結平を巡る2人の女性は一緒に遊ぶことになる。かなり長い間 一緒に時間を過ごすのは初めてかな。

ゆずゆ の特訓に心が付き合い、水に潜れたら母親が喜ぶと彼女に動機を作って、勇気を出させることに成功する。うーん、心に悪気はないんだろうけど、いきなり母親の存在を出すとか、会ったこともない母親のことを言うとかデリカシーに欠けるしマナー違反のような気もする。心は もう少し格好良く ゆずゆ に接して欲しかった。

こうして終業式では 呆気なく分かれた結平と心は、夏休み中も連絡することを約束し距離が近くなった。…ように思われたが、その夏休みに とんでもないことが起きる。


こまで文庫版1巻分につき1回は手紙や接近により登場していた ゆずゆ の母親の代打なのか、ゆずゆ の坂下(さかした)家から刺客が送られる。それが ゆずゆ の父親方のイトコ・坂下 ミキ(14)。彼女は ゆずゆ を迎えに来たという。

しかも彼女は強硬手段に出ても ゆずゆ を渡してもらおうとし、そして その許可が出るまで この家で居候すると言い出す。夏休みならではのイベントが発生したという感じだろうか。

どうでもいいけど外観的には そこまで広そうではない この家。けど少なくとも姉・結平・皐(さつき)の部屋があり、両親、祖父母がいる。その上で来客用の部屋まで用意できるようだ。少なくとも6LDKぐらいの家らしいが とても広そうには見えない。外見に対して内側の空間が広すぎないか。

結平たち片倉(かたくらけ)家としては、坂下家が ゆずゆ を引き取りたいという意向を無下に出来ない。なぜなら彼女は両家の親戚であるから。実際 ゆずゆ はミキと面識があり、記憶もあるらしい。それでも結平は ゆずゆ がミキに近づかないように注意を払い、監視を続ける。


かし姉がミキの実家に連絡を入れたことで状況は一変。ミキの父親は登場早々 娘を平手打ち。それに激昂したミキがナイフを投げて父親を威嚇した後、彼女は外へ飛び出していく。

シリアスな場面なのに、問答無用の暴力の応酬に どこの世紀末世界なのかと笑ってしまった。

追いかけるのは女性対応専用の結平。そして結平はミキの右手首に 幾つもの火傷の痕を見つける。彼女は現在 家出をしており、ナイフは自衛のため、そして火傷は自分の意思を示すためにあるらしい。それでミキの家庭の事情を何となく察した結平は、夏休み中は気の済むまで家にいればいいと告げる。深く事情を聞かないのは物語のためであろうが、間違いなく結平の優しさの賜物である。
そしてミキへの警戒レベルを引き下げ、ゆずゆ と2人きりにすることを許容する。ゆずゆ と2人きりになった後、ミキは自殺願望を口にしている。

居候を許可する代わりに、ミキには家事手伝いの義務で自宅前の掃除が課せられる。ゆずゆ は植物担当で水やりや草むしりをしているらしい。労働、特に掃除は人の心も綺麗にする作用も持つらしく、ミキは久々に晴れやかな表情を見せている。そのままミキは結平のペースに巻き込まれ、普通の日常を送り始める。彼だけは自分に偏見を持たない。さすがプレイボーイである。


休み中の ある日、結平の登校日にミキも同行する。彼が楽しいという学校生活を見てみたかったようだ。だが心を開きかけた結平が心とキスをする場面を見てしまったためにミキの結平への信頼は勝手に失われる。

それはミキが この世界で居場所を失ったという意味でもあった。だから結平に隠されたナイフを見つけ出し、彼女は母親の名前を出し、ゆずゆ を連れて片倉家を後にする。

ミキが向かったのは自宅。しかし この日は親族で集まっていて窓の向こう側の世界は笑い声に満ちている。そうして自分がいなくても家族は、世界は成立することにミキは絶望する。


になっても帰らない2人を結平たち家族は心配する中、ミキから連絡が入る。ミキが ゆずゆ といる居場所を聞いた結平は そこへ向かう。

都会のビルの屋上にいるミキの回想によって、彼女が中学校を学費の高い私立を志望したこと、合格後、学校生活を充実させることが親への恩返しだと思っていたミキだったが、ある日、教師による生徒への暴力を咎めたことから、教師によるイジメが始まった。
そして教師から存在を無視され、その雰囲気に便乗した生徒たちからも暴力の対象になってしまう。それでも親には学校が楽しい振りをしたが、ミキの心は限界を迎えており、ナイフを所持し、髪色を変えた。それはまるで非行のサインのように両親には見え、理由を話そうとしない娘に父親は暴力で訴えるという悪循環に陥る。
誰も信用できず、誰からも信用されない日々の中にミキはいた。


女は周囲の人間に精神を殺された。そんな自分の存在を確かめるために自分の腕に火傷の痕を残す。それは彼女の声にならない悲鳴だろう。そして彼女は自分の存在が無視される世界から さよなら しようとしていた。それほどまでに自分の この世界での価値を見つけることが出来ない。

結平が到着し、いよいよ彼女は死への飛躍を試みる。だが それを結平は許さない。ミキをミキとして話し掛け、彼女の存在を認める。きっと世界中で結平しか こなせなかった困難なミッションだっただろう。彼は傷ついた女性に滅法 強い。

こうして彼女は落ち着き、再び両親が迎えに来る。娘が自殺を試みたと告白して父親は再び手を上げようとするが、母親が それを制止する。父子どちらも感情を爆発させることなく話は進み、ミキが ゆずゆ を家に連れて帰ろうとしたのは、父親に存在を否定された自分に代わる新しい子供が必要だと思ったからということが明かされる。娘の存在を否定し、そこまで思い詰めさせた父親の罪は大きい。

ミキは両親にだけは存在を認めて欲しかった。そして これから新天地で自分が期待に応えられるよう奮起することを誓う。こうしてミキは家に帰っていく。後日、荷物を取りに来たゆずゆ に ちゃんと謝罪をする。そして言わないけれど もちろん結平に感謝しているはずだ。もしかしたら少し好意を抱いたかもしれない。


うしてヒロインが一度も登場しないの夏休みの大騒動が終わる。

突入した2学期は修学旅行という大イベントがある。結平はミキに振り回されていたとはいえ、心に一度も連絡しなかった。プレイボーイなのに本命に弱い、というのが面白い点なんだろうか。私は結平が本当に心が好きなのか疑わしく思ってしまう。約束を覚えていられない人なのだろうか。

しかも結平は謝罪とキスだけで ゆずゆ の お迎えに行く。そんな隙間風に入ってくるのがライバルの存在。野球部の板垣(いたがき)が心に告白をしてきた。心は すぐに自分には好きな人がいると断る。そして好きな人として ちゃんと結平の名を出す。
だが そこから板垣は結平を審査し、彼の周囲に女性が絶えないことを見てしまう。

結平も彼なりの謝罪として心にも お弁当を作る。それは ゆずゆ の ついでだし、結平は したことに対しての謝罪が軽いというか、結平が少し真面目になると心も見直してしまっている お手軽さを感じる。実際、心と お弁当を交換し合って、これからは心が結平の お弁当を作ると約束する。

その幸せムードを板垣が壊す。彼は結平の一方的な審査で答えを出し、自分の方が相応しいと言わんばかりに心に強引なキスをして想いを遂げようとする。そんな心の一大事にも結平は登場しない。少女漫画ヒーローなら、なんで出てくるの?という場面でも参上するものだが、結平は二股状態だから別の女性の元にいる。


垣からの暴力行為で心は精神的外傷と足にも外傷を負う。そして精神的に不安定になり、男性からの身体的接触に恐怖を感じるようになる。そのせいで結平は自分が拒絶されたことに落ち込むが、心は板垣によってストレスを抱えていることには まだ気が付かない。

そんな状況で沖縄への修学旅行が始まる。しかし結平は心のリアクションで落ち込み、修学旅行を楽しめない。その上、板垣から宣戦布告をされ、自分は失恋したのかもと放心する。いやいや、夏休み中 彼女を放っておいた人が、自分だけ傷ついているアピールとか鬱陶しい。

宿泊先のホテルで結平は偶然、心に出会い、教師の見回りから逃げるため彼女と部屋に2人きりなる。そこで自分たちの交際のことを切りだし、ライバル宣言をされた男子生徒の話をすることで、心が あの日に受けた被害について話し出す。結平の拒絶も その影響であることを話し、交際が終わるなんて言わないでと泣いて訴えるのだった。
その心の傷に対して結平は真剣に向き合い、癒やすために彼女に優しく語り掛け、そして身体に触れる。