《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

あの日 彼女の頭を撫でたいと願ったオレと、今日 彼女に撫でらることを受け入れたオレ。

青春しょんぼりクラブ 11 (プリンセス・コミックス)
アサダニッキ
青春しょんぼりクラブ(せいしゅんしょんぼりくらぶ)
第11巻評価:★★★☆(7点)
  総合評価:★★★☆(7点)
 

日御崎に本当の気持ちを伝える決意を固めた依子。その結果は! ? そして、にまは隠岐島からまさかの壁ドン! ! 乱れ飛ぶ、切ない想いのたどり着く先は……! ? 新世代ざんねんラブコメディー、心・奪・恋・慕の第11巻! !

簡潔完結感想文

  • 珠算部廃部の危機。自業自得の盛衰にも巻き込まれてあげる隠岐島の優しさ。
  • 隠岐島コネクションによって珠算部を公開乗っ取り。あと一手で終了。UNO!
  • 珠算部は表向きの騒動。そちらに隠れて両想いの準備もあと一手。嘘、UNO⁉

ルチまがい商法の利益を そろばんで弾き出す 11巻。

『8巻』あたりから感想文で馬鹿の一つ覚えみたいに偶像 偶像って書いてますが、
今回の偶像は隠岐島(おきのしま)自身。
といっても正確には、人の役に立とうとして自分を大安売りしたり、権利を譲渡していたら
フリー素材にまで落ちぶれた この学校における「隠岐島」というアイコン または アイドルである。

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誰にでも優しい隠岐島君は、誰が使ってもいいフリー素材にまで拡大解釈される。

隠岐島は、この学校のアイドルなんですよね。
アイドルというと きらびやかなイメージが先行しますが、
彼の場合は、誰かが自分に望む姿になる奉仕の精神があり、
それが結果的にアイドルの鑑のような、人の心を満たす行動に繋がっている。
その象徴的なものが女装で、初恋の女性に与えられた役目を果たそうとした彼の姿勢であった。

本質的に優しいのだろうが、人に望まれるまま笑顔で役をこなしていたら、
いつの間にか みんなのアイドル としての地位を確立した。
それが行きついた先が フリー素材で、彼の偶像は いつの間にか どこかの広告塔に なっていた。
もはや隠岐島自身も権利を見失うほど「隠岐島」が独り歩きしている。

『11巻』は 隠岐島が そんな自分の著作権をその手に戻す、自己回復のための最後の戦いとも言える。


分の一部(写真や声)が引き起こした、現実の隠岐島は全く関知していない騒動に巻き込まれても、
その騒動収拾の目途をつけるまでが、隠岐島の落とし前の付け方。

しかし今回、問題解決に尽力しながらも なかなかうまく事が運ばず、
更には その解決法にも異論が唱えられてしまった隠岐島は凹(ヘコ)む。
隠岐島が物事の解決に動いて上手くいかないのも珍しい。

もっと珍しいのは、今回の隠岐島は ちゃんと落ち込み、自分の弱いところも曝け出しているところだろう。
自分を逆恨みする生徒によって雨の日の屋上に放り出さた時も、
他人からの恨みは雨に打たれるより相当 心にダメージを受けるにもかかわらず、
発見時には笑っているような人だったのに(『4巻』)。

だけど今回 ちゃんと隠岐島は凹んだ。
そして その凹んでいる姿を他者に見せていた。
弱さを見せ、そして他者からの慰撫まで彼は受け入れることが出来た。
これは隠岐島にとって大きな変化だと思う。
望まれるまま役を演じるのではなく、自分の望むまま その手を受け入れたのだ。

頭を撫でる、という行為は『7巻』隠岐島が にま にした行動である。
その時も自発的で、彼女の好意を自覚した上での行為だった。
そして今回は、にま から頭を撫でられることを了承した。
それは彼女の好意を受け入れる、という隠岐島の覚悟の証のように思える。

この2つの撫でる/撫でられるのシーン。
これは2人とも自分が巻き込まれた事情に出来る限りのことをしようとして精一杯 奮闘し、
それが否定されてしまった後の出来事である。

なかなか上手くいかない青春模様の苦い一場面であるが、
その結果の「しょんぼり」に対して、手を伸ばしてくれる人がいることも分かった。
自分の奮闘を、良いところも悪いところも認めてくれる人がいるだけで、
しょんぼりした甲斐があるというものだ。

こうした苦い教訓から隠岐島は「フリー」ではなく、
特定の誰かのための自分になる決意をまた一つ固める遠因になったのではないか。

なぜ そんなことが言えるのかといえば次巻『12巻』が恋愛の決着だからである(ネタバレ)。
深読みをすれば『11巻』でUNOが大きく取り上げられていたのも、
あと1巻で恋愛が成就するから もうすぐ上がるぜ、という意味で何回もUNOという言葉が連発していたのかも…?

もはや遠い記憶である『6巻』のマラソン競技の副賞を持ち出したのも、
これまでの隠岐島大セールの総決算の意味もあったのではないか。

これ以降は隠岐島の権利は、隠岐島がしっかり管理していくのだろうか。

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『4巻』で寝ている隠岐島の頭を無断で撫でた にまが、今回は許可を取って好き放題 撫でる。

回の表向きの騒動は単純で、
ラソン大会優勝の副賞、隠岐島を好きにできる権利を曲解して、
隠岐島を珠算部の勧誘ポスターの広告塔に使用したことから始まる、珠算部の悲喜劇である。

これはハッキリ言って、珠算部部長の自滅である。
有名人とのコネクションが思わぬところから転がってきて、
それに捕らぬ狸の皮算用をして、欲望に目がくらみ、大事なものを見失った哀れな転落人生としか言えない。

だが、彼ら珠算部は厚顔無恥にも自分が利用した隠岐島に泣きつき、事態を打破してもらおうとする。
珠算部もポスターに※画像はイメージです、と注意書きを書き加えておけば問題なかったのに。

隠岐島が珠算部のために動く理由はまるでないのだが、
律儀にも彼は勧誘のチラシを配り、廃部の危機を救おうとし、そして徒労を感じる。

皆、隠岐島と同じ空間にいられることは望んでいるが、
隠岐島自身が勧誘しても彼のいない活動には何の興味も持たない。
完全なる慈善活動なのに、その行動自体を誰も評価してくれない(にま以外は)。

この辺りは、握手券商法がバレたアイドルと同じの悲哀を感じさせる。
CDの好調な売り上げは音楽活動が評価されているのかと思いきや、
握手が出来なければ ただのプラスチックでしかなかった。
商魂たくましい珠算部部長も、入部特典にハグ券をつけようとしてるし。

人に望まれることをし続けなければ自身の価値がないと思わされる手痛い経験である。


(部費)に目がくらんだ珠算部部長のせいで、思いのほか長期化する珠算部存続問題。
この実に下らない珠算部の騒動は表向きのもので、その裏で2つの恋愛が動いている。

1つが隠岐島
これは前述の通り、隠岐島の努力と限界が示されることで、にま との距離が縮まる。
まるで選挙戦に出馬した候補者と、その人を支える夫人である。
苦労を共にすることで、一層 互いの絆は強まるのであった。

もう1つが依子(よりこ)。
日御崎(ひのみさき)からの交際の申し出を受け入れ、彼と交際することになった依子。

そつのない人づきあいではなく「誰かときちんと向き合ってみたくなった」日御崎が依子を交際相手に選んだ。

ただし日御崎は好きな人が別にいるが向き合うことから逃げていて、
依子は自分が逃亡先として利用されていることを承知で受け入れる。
もはや訳ありの熟年男女という関係性である。

依子は にまに、日御崎が にまを好きなこと以外は あけすけに事情を話す。
にま は得心は出来ないが、依子を信頼して状況を見守ることにした。
この期間中、にま は珠算部に巻き込まれているせいで、依子と距離が出来たのは不幸中の幸いか。
依子も、無自覚に愛されている にま に、とやかく言われたくないだろうし。

それでも依子-日御崎問題を気にする にまが、
尾行と称して隠岐島と映画を見ることになったのは にま の役得である。
(またも女装バージョンだったが。最初から男女バージョンでの待ち合わせは両想いまで お預けか)


なみに慧眼の簸川(ひかわ)は日御崎の好きな人は にま だということを見抜いていた。
色恋沙汰には疎いと思っていたが、ちゃんと人を見ている。

日御崎の想いに にま だけ気づかないのも、当て馬体質の悲しい経験で自己評価が低いからという理由で納得ができる範囲。
無自覚なモテモテヒロインの中でも、にま は応援したくなるタイプだ。
そして相変わらず他の人なら見抜くのに、自分を好きになった人が放つ輝きは見逃している。
だからこそ交際一歩手前の、一番ドキドキする期間がとても長くなっているのだが。

ただ 一つ残念なのは、津和野(つわの)問題が棚上げされてしまったこと。
津和野を想う香菜(かな)との関連もあり 簡単に彼を動かせないのだろうが、
そのポジションを日御崎に奪われて、彼の想いがないもののようにされているのが残念。
ってか、ここ何巻も彼を登場しないことで、話をややこしくさせないようにしている気がする。

一気に3人の男性からアプローチされてるなんて、にまが当て馬体質どころか姫ポジションになるのは分かるが、
明確な理由もなく あきらめる流れになっているのが承服しかねる。

いよいよ両想いになる『12巻』で、彼の扱いがどうなっているのかも気になるところです。