アサダニッキ
青春しょんぼりクラブ(せいしゅんしょんぼりくらぶ)
第14巻評価:★★★☆(7点)
総合評価:★★★☆(7点)
にまの従弟・海潮の女装隠岐島への勘違いLOVEは大暴走!!
隠岐島の主演舞台も近づいて――。そして待望の2人きりのデート、ついに、ついに、はじめての××…!!??
新世代ざんねんラブコメディー、動・悸・無・限の14巻!!
簡潔完結感想文
- 失恋から続く出来事に心的ストレスが限界に達し幼児退行を起こす一族。
- 冬は恋愛イベントに ぴったし。学校カレンダーと連鎖する2人の関係性。
- 演劇界に彗星のごとく現れたのは女王? それとも? 最終回が近い…(泣)
海潮(うしお)の問題など時間稼ぎと前座に過ぎない 14巻。
どうやら学校カレンダーに沿って恋愛は進むようです。
(この学校は3学期制として話を進めます)
1学期中に青心研と出会い、そして隠岐島(おきのしま)に恋をした主人公・にま。
その あふれる想いを告げたのは夏休み中のこと(『5巻』)。
1学期は片想い期で、そして2学期は失恋期が長かったが、
ようやく両想いになることが出来た(『12巻』)
そしてこの『14巻』で冬休みに突入し、ここから本格的に交際期に突入する。
両想い後も何かと騒動が起きて落ち着かなかったのは、2学期の終了を待っていたからか。
本格的に到来した冬は、恋の季節でもありました。
…でも、このスケジュール進行から言うと、交際編は3学期までなのではないか、
なんて思っていたら、とんでもない角度から遠距離恋愛のお知らせが落下してくる。
春なのに お別れですか??
ってか、この漫画とも お別れですか⁉
その場しのぎと勘違いを重ねる にま の一族が作り出した
『13巻』から状況が悪化し続ける にま と そのいとこ・海潮と、隠岐島=女装島ことオッキーの、3人による四角関係。
収拾は困難かと思いきや、隠岐島の度量の広さが全てを解決してくれた。
ドジっ子にまが心理的にズタボロになっているところを助けてくれるのが隠岐島特有の胸キュンですね。
いつも見守っててくれて、小さな変化にも気付いてくれるけど、
最後の最後に にまが間違えそうになる寸前で必ず手を差し伸べてくれる。
これ見よがしな胸キュン場面じゃなくて、静かで確かな愛が2人ならではである。
あれほど にまが恐れていた自分がついた些細で突拍子もない嘘も、
隠岐島に真実を話したら笑って許してくれた。
現実は先が見えないけれど、彼がいれば、一人で考えているよりも悪くならないだろう。
そうして事情を知った隠岐島は、海潮と面談の機会を設ける。
だが隠岐島は、女装島こと海潮の中での「オッキー」の姿で彼の前に現れる。
自分とオッキーが同一人物だと手っ取り早く示すためだったのだが…。
にま のことを思い、オッキーに身を引いてくれと頼む海潮は良い子です。
事の発端も、にま に不釣り合いな彼氏が出来たことは詐欺で、
にまが悲しむのではないか、という彼女を守るため、が海潮の行動原理でしたものね。
にま の咄嗟の嘘も、海潮を思ってのことである。
彼らは同じぐらい いとこが大事で、2人とも生来の優しさが似てるのだ。
だから隠岐島も海潮のことを気に掛けるし好意を抱くのだろう。
…だが、男子トイレでウイッグを取り、化粧を落とした「隠岐島」の姿を見た海潮はキャパオーバーで現実を受け入れられなかった。
個室トイレに立てこもり、現実の扉を閉ざして自分の世界に逃避してしまったのだ。
これは『1巻』1話の にま と同じですね。
さすが いとこ というところか。
「失恋から続く出来事に心的ストレスが限界に達し幼児退行を起こしている…」
という当時の依子(よりこ)の分析が、今回の海潮にも適応されよう。
ま、海潮の場合は2人の前で道化を演じていた自分への羞恥もあるだろう。
大事な いとこ に加えて、初恋の女性は にま に奪われた二重の悲しみもあるだろう。
そうして心を閉ざして立てこもった海潮を個室から出す方法は、隣の個室でイチャつくこと。
バカップルへの怒りが悲しみに落ち込む我を忘れさせてくれたようだ。
そんな紆余曲折を経て演劇部の舞台が始まる。
…にまの役、必要(笑)??
舞台で見ると、ただ ぽつんと立っている子である。
枝が小さくて木にも見えないし。
その端役ですらミスをしてしまう にま。
だが それをカバーしてくれる隠岐島の器の大きさが、荒れていた海潮の心を落ち着かせた。
しかしオチはこれでいいのか。
海潮の性癖の扉が開いてしまったような気がする…。
まさか、ライバルはいとこで、1人の男性を頂点とした2人の男女で彼を争う三角関係勃発⁉
書名を「消えぬ初恋」とでもすれば、これで本書は あと10巻は戦える。
ってか、そんな話を むしろ読みたい。
男女どちらに傾くか最後まで分からない恋は、
分かりやすい当て馬のいる三角関係よりも 余程スリリングだと思われる。
演劇と海潮騒動、そして2学期が終わって、初めて2人の交際らしい交際が始まる。
棚上げされていた2人きりでのデートの約束が果たされる。
この前後が面白いですね。
物問いたげに隠岐島を見つめる(睨みつける)にま も楽しいし、
すぐに頭を下げて、デートを懇願する にま も可愛い。
そしてデートの話を聞きつけてアニ研部長と生徒会長のW眼鏡が個性を発揮するのも楽しい。
琴引(ことびき)兄といい、みんな隠岐島 大好きすぎるだろ。
女子生徒だけじゃなく、男子生徒からも動向が注目される隠岐島は、やはり学園のアイドルである。
…が、初デートは大雪。
行きたかった遊園地に何とか辿り着くも、案の定 臨時休園。
空いていた店に入り、カフェデートに落ち着く。
あっ、もしかして大雪って、
こういう重要な場面での邪魔者排除の意味もあるんでしょうか(笑)
アニ研部長や生徒会長は、こういう時でも椅子の後ろから現れそうですもんね。
(現に生徒会長は冬休み中も警邏してるし)
こんな日に出掛けようとするのは想いあってる男女ぐらいなもんですよ。ペッ。
ここは安易な少女漫画ならば交通機関全ストップの、ひなびた旅館へのご宿泊コースでしょうね。
そんなことを本書がしないことに一安心。
というのも、宿泊ドキドキは交際が安定して長期化してきて読者がマンネリを感じた際の胸キュン手法だから。
交際開始から結構な時間が流れているが、今回が初デートの彼らには まだまだドキドキの鉱脈が埋まっている。
何てったって、キスもまだしていないんだから。
今回のメインイベントは初キスです。
もう背表紙にも「そで」の部分もキスシーンで溢れてます(服装 違うけど)。
背表紙の隠し方は面白いなぁ。
でも「そで」はネタバレ感があって残念。
本編で最初に見たかった。
初デートでロマンチックな景色を見下ろしながらキスですよ!
隠岐島の満たされた顔を見れただけで、もう読者としても満足です。
もちろん学校によるんでしょうけど、
私の中では冬休みって12月25日から始まるイメージなんですよね。
作中で一切クリスマスという単語は出ないけど(その次のイベント・バレンタインは連呼するのに)、
きっと この日は25日で、ホワイトクリスマスなのではないかと思われる(豪雪とも言う…)。
言わないけれど特別な記念日というのが粋ではないか。
特別な日を終えてから、物語の箍(たが)は外れた気がする。
両想い後(とくに初キス後)は作者の読者サービスぐらいに思った方が良いだろう。
私は大好きですよ。
色々と振り切ってて。
ここからはギャグに特化しているのも特徴。
笑いの要素がふんだんに盛り込まれている。
バレンタインデーに手作りチョコを内緒で渡すために、隠岐島を避ける にま。
ほんと、避けるか近づくか睨むか見つめるかの両極端だな。
しかし隠岐島は にまのコントロールが上手いなぁ。
それでいて自分も照れて「赤メン」となるんだから、もう無敵である。
もはや恋人というより、上手くいかなくて駄々をこねる子供を あやしているようでもあるが…。
こういう等身大のイベントの様子でも読者の胸はキュンとするんだよ、
と胸キュンだけを目的とした漫画に言いたい(今読んでる漫画が酷い内容で、つい…)。
だが そんな順風満帆な2人に見えたが、隠岐島に悩み事が生まれる。
校長室に呼ばれて以降、心ここにあらずの隠岐島。
これだけ長く続いた話だから、交際編を見せてくれるのは作者の配慮だろう。
そして、これだけ長く続いた話だから、クライマックスは盛り上がるように設計されていて当然。
ハリウッドは笑かしにきてると思うが(笑)、
要するに「少女漫画あるある」の最終回間際の遠距離恋愛の危機ってことですよね。
くっつけたものを一度引き剥がしてみようという、上げて下げて上げる少女漫画の作法みたいなものです。
過剰に心配せずに、作法の一連の流れを楽しみましょう。