《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

直接 目に付く場所に置くプレゼントと、何重にも蓋をして封じるプレゼント。その理由は?

ひるなかの流星 6 (マーガレットコミックスDIGITAL)
やまもり 三香(やまもり みか)
ひるなかの流星(ひるなかのりゅうせい)
第06巻評価:★★★★(8点)
  総合評価:★★★★(8点)
 

獅子尾と思いが通じあって、ドキドキしっぱなしのすずめ。キョリをもっと縮めたくていろいろ頑張りますがうまくいったり、いかなかったり。しかも、馬村が何か気付いたみたい──? 季節はもう、クリスマス。すずめは獅子尾を誘おうとして…。
【収録作品】ツユカオル

簡潔完結感想文

  • プレゼント大作戦1。寿司ネクタイ。センスが悪くても相手の心を撃ち抜いたもの。
  • プレゼント大作戦2。マフラー。高価な物をさり気なく くれちゃう人。狙え 玉の輿。
  • プレゼント大作戦3。宝箱。中身は空でも中には私の初めての恋心が詰まっている。

生日とクリスマス、私にとって特別な日はどっちだろう の6巻。

『6巻』には3つのプレゼントが登場します。

1つ目が、誕生日を迎えた獅子尾(ししお)に すずめ が贈るプレゼント。
2つ目が、誰にも祝われなかった すずめ の誕生日を馬村(まむら)がお祝いしてくれたもの、
3つ目が、クリスマスプレゼントに獅子尾が すずめ にくれたもの。

渡し損なった4つ目としては、獅子尾が すずめに贈る熱い口づけ、というのもあります。

その全てが心がこもった大切な贈り物。
贈り物を渡したい人がいる。それだけでとても幸せなこと。


のように『6巻』は全体的に、相手に何かをしてあげるという行動が共通点にあります。

その代表格が、晴れて両想いが確認されて淡いお付き合いを始めた すずめ と教師・獅子尾の仲。

先生の誕生日を知った(そういえば、これも人づてに聞き知ったことだ)すずめが、
先生にプレゼントを用意して、最高の一日を過ごしてもらおうと計画。

すずめ が先生との仲を話している唯一の友人・ゆゆか のアシストもあり、
用意した先生へのプレゼントを直接 手渡せた すずめ。

自分の好きな物を優先するというプレゼントには御法度の行為をするのもご愛敬で、
先生はその「寿司ネクタイ」を受け取ってくれた。

そして翌日には早速 着用してくれる先生だったが、生徒たちは大爆笑。
青ざめたり、先生の「これがお気に入りなんだよ」という言葉に赤くなったり、
顔色を変化させる すずめ。

そんな すずめの様子を見ていた、彼女を想う馬村は何かに感づいて…。


た、別の日。
先生のお昼ご飯が毎日コンビニ弁当だという職員同士の会話を聞いた すずめ は、
先生へ昼食を用意する。大きい大きい おにぎり を…。
これもまた先生の好みなどお構いなしに、自分の好きな物を優先している すずめです。

これは先生に渡す前に、別の生徒が家庭科の時間に作った出来の良いお弁当を、
生徒からは受け取れない、と先生が拒否している場面に遭遇し、すずめ は おにぎりを隠す。

この一連の すずめの計画は先生には露見しなかった。
すずめが間接的に聞いた話から思いつき、馬村にアイデアを求めて(拒否されたが)、
すずめが一人で勝手に作ってきたもの。

プレゼントを渡す前の興奮と緊張感、
それ自体が楽しいのは真実だが、渡せなかった時の悲しみは より大きいものだ。


…と、このように、誕生日 そして お昼ご飯と連続で起きた2つの出来事、
どちらも先生の情報は すずめ は直接 聞いていないことが分かる。

交際して相手のことをどんどんと知っていく、という楽しい ひとときは、
決して間接的に見聞きして情報を得ることではないはずだ。

それならばファンやストーカーと変わらない。

もちろん教師と生徒という立場もあるが、
すずめ には根本的な勇気と発想がない。
これは恋愛経験値がゼロという若さでもあるのだけど。

そして2人にはコミュニケーションがない。

何だか早くもコミュニケーション不全に陥るカップルのようにも見えるが…。

この円滑にいかない関係は12月の すずめ の誕生日を先生に伝えられない、という出来事へ繋がる。
自分から言う必要はないけど、相手に知っておいて欲しいことは たくさんある。
会話量の少なさが、2人の障害になっている。


もし気軽に話せる関係性ならば、今回の「おにぎり事件」も、
先生に笑い話として話すことも出来ただろう。

また、おにぎりの存在を知った先生は、規則を破ってでももらってくれるはずだ。
なぜなら他ならぬ すずめ が自分のために作ってきてくれたものだから。

しかし、取り下げてしまったおにぎりは、
すずめの異変を察知した馬村の手の中に入った。

そして、その光景を見せつけられる形になった獅子尾。
先生を喜ばせたい、先生のために何かをしたい、という
すずめの当初の構想とは全く違った結果になってしまった…。

そういえば実際に すずめ お手製の おにぎりを食した馬村は、
先生のために作ると感づいた時には冷たく突き放した、
自分の好きな おにぎりの具を素直に答えている。

これは、次回もありつける可能性を信じてのことだろうか。

すずめ の作った おにぎり は、サッカーボールに見えなくもない。
ということで、以下、サッカーに例えて馬村の解説です。


村、恋の守護神説、を提案したいと思います。

前述の通り、先生のために恋のゴールを決めようと七転八倒する すずめ。
だがシュート態勢に入ったのに、ボールを思いっきりけることが なかなか出来ない。

そんな宙ぶらりんに浮かんだボールを しっかり受け止めるのがゴールキーパー・馬村の役割。
これは、たとえ得点にはならなくても、すずめ の攻めの姿勢を無かったことにはしない馬村の心意気。

馬村は、すずめの守護神ですね。

獅子尾への得点が入ることは許さないが、
彼女が悲しがる姿を見ることのないように自分から動く。

すずめがシュートしたことを世界中でたった一人分かってあげて、
そしてどんなボールでも全て受け止めるという気迫がある。

馬村には守りながらゲームメイクしている感じがありますね。

馬村には、すずめがどんな想いでシュートを打とうとしているか、見渡せる広い視野がある。
そこが獅子尾とは違う。
これは愛情の深さの差なのか、個人としての能力の差なのかは分からないが。
何となく後者な気がするが、あまり言及すると獅子尾が可哀想なので割愛。


く クリスマスイヴ。

すずめは先生の仕事が終わり次第、会う約束をして浮かれる。
その前にはクラスの皆とクリスマスパーティを開催。
着飾って当日を迎えた すずめだが、先生からの連絡はなかなか来ず…。

この場面、ゆゆか が家庭を優先したのは、
恒例行事であることと、土牛との交流の他にも、
馬村と顔を合わさない意味合いもあるのかな。

ゆゆか がいると、馬村の すずめへの視線や言動に
気づいて傷ついちゃいそうですもんね。


パーティの一次会が終わる頃にも先生の残業は続く。
その気配を察した馬村は、すずめ を街中のツリーに誘い出し…。

ツリーに喜ぶ すずめの後ろ姿に、
馬村は、獅子尾と会う約束の有無を聞く。

落ち込む自分を察してくれた馬村には本心が言える すずめ。
過ぎてしまった誕生日のこと、会えない淋しさ。

そんな すずめ に馬村はプレゼントを贈る。

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誰にも祝われなくても俺が祝ってやる。そのマフラーが俺の代わりにお前を温めてやるから。

さて、ここでクエッション。
この馬村のマフラーは、ずっと彼の私物だったのでしょうか?

どうでしょうか、可能性は半々だと思いますね。
これ以前に馬村がマフラーを巻いている描写はない(はず)ので、私物かは分からない。

もう半分の可能性は、馬村が今日のために、すずめ に渡すために買ったという可能性。

馬村はクリスマスにかこつけて、すずめ にマフラーを渡す機会をうかがっていた。
なので一時会終了後にも獅子尾との約束が無さそうな すずめ を引き留めて街に出た。

そこで すずめ が過ぎてしまった自分の誕生日のことを話すので、
ちょっとだけ予定を変更して誕生日プレゼントとして彼女の首にマフラーを巻いた。

結果論ですが、クリスマスプレゼントでは獅子尾と同じなので、
誕生日プレゼントとしてマフラーを(強引にではあるが)渡せたのは、
馬村にとって幸運だったのではないか。特別感がありますからね。

今回の馬村は、フォロー力が凄い!
まぁ、逆に言えば、ミスだらけの先生の姿が浮かび上がるんですが…。


事の付き合いとはいえ、飲み屋を はしごしてから すずめに会いに来た獅子尾。

彼はちゃんとクリスマス用にプレゼントを用意してくれていた。
獅子尾もまた少なからずこの日を待っていたことが分かり嬉しい すずめ。

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酔っぱらってるけど、咥えタバコだけど、この日のためにプレゼントを用意していた獅子尾サンタ。

獅子尾が用意してくれたのは、水槽のような図柄の入った宝箱みたいな形のガラスのケース。
これは獅子尾が すずめ の好きな物を把握している証明でもありますね。

すずめ は、先生からのプレゼントを机の上に置いて眺める。
そこには先生の確かな想いがあるから。

一方で、馬村から貰ったマフラーはクローゼットの中の籐の籠の中に入れる。
蓋つきの籠を閉め、クローゼットを閉め、
先生への不安だった気持ちを閉じる すずめ。

まるでそれは、何重にも封じないと、そこから別の気持ちが出てきてしまうからのように…。


2学期の終業式。

1学期の終業式には、先生への告白と失恋とか馬村の慰めとか色々とありましたねぇ(『3巻』)。

今回は、獅子尾と馬村の小競り合いのみ。
そんな中で、馬村は獅子尾がスルーした すずめの誕生日の件を暴露してしまう。
説教+相手へのダメージ、馬村くんなかなか策士ですわ。


冬休みに入って、叔父さんのお使いで獅子尾宅に届け物をする すずめ。

先生の友人たちの強引な勧誘で部屋の中に入る すずめ。
(さすがに先生は自分からは誘わ(え)なかった)

その部屋でキス未遂事件という大事なイベントが起こるのだが、
浮かれる すずめに対して、獅子尾の顔は何かを憂慮しているみたいで…。


始まりは同じ温度だったはずが、何だか温度差が見られますね。
すずめは情熱、獅子尾は冷静に。

それは経験や立場の違いでもあるんでしょうけど、
キス(未遂)一つで浮かれちゃう すずめに周囲は見えているのか…。


「ツユカオル」…
梅雨の頃、いつも真っ赤な傘を持っている木谷 露香(きや つゆか)に森野(もりの)は目を奪われ…。

「当て馬別冊」という読み切り用の話らしい。
果たして森野が当て馬なのかという疑問はさておき、良い短編ですね。
あれっ、露香の方が当て馬なのか。
ってか当て馬って何? と概念が崩壊していきます。

梅雨や雨はセンチメンタルを強調する気がします。

無表情で、無自覚に綺麗な女性を主人公にした先生の別の作品も読んでみたくなります。