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遠い約束 (創元推理文庫)

遠い約束 (創元推理文庫)

駅からキャンパスまでの通学途上にあるミステリの始祖に関係した名前の喫茶店で、毎週土曜二時から例会。謎かけ風のポスターに導かれて浪速大学ミステリ研究会の一員となった吉野桜子三者三様の個性を誇る先輩たちとの出会い、新刊の品定めや読書会をする例会、合宿、関ミス連、遺言捜し…、多事多端なキャンパスライフを謳歌する桜子が語り手を務める、文庫オリジナル作品集。


出ました、新ジャンル「少女漫画ミステリ」の代表作。谷原秋桜子さんのシリーズに勝るとも劣らない少女漫画度合。表紙イラストが小説にそのまま移行したような内容、…ではなくて、小説世界をギュッと凝縮した表紙イラストが全てを物語っている。ある意味で完璧な装丁だ。敬遠する人も続出しそうだが…。
「少女漫画ミステリ」の鉄則は、鬱陶しいほどセンチメンタルでありながら饒舌な一人語りと、年上で美形の探偵像(恋心も!?)だろうか。主人公・吉野桜子浪速大学で入部したミステリ研究部、略して<なんだいミステリ研>の部員は桜子の他は三回生が3人。全員(当然)男性。美麗で怜悧で冷淡な若尾峻(メイン探偵)、温厚で温和で穏健な清水和彦(サブ探偵)、気は優しくて力持ち(?)の黒田大輔(力持ち)。まさに絵(イラスト)に描いたような『三者三様の個性を誇る』、古典・典型的な先輩たち。桜子は平成12年度('00年)入学のはずだが、内容もイラスト(主にシャツをインする服装)も昭和のかほりが漂う。著者の学生時代じゃないんだから。よく言えば軽く20年は時代を遡れる普遍性を持っている…。
…とまぁ、嫌味を書いてきたが私は「少女漫画ミステリ」の持つセンチメンタリズムが嫌いではない。彼女たちの精神性のお陰で今はもう会えない人への想いが倍化されて伝わる。また本書では桜子の他、子供の頃に好きだった物事、交わした『遠い約束』を忘れずに大事に抱えて生きる時の流れに翻弄されない強固で純粋な心や、またその「好き」を形にする能力や責任を有するまでの成長過程や葛藤も描かれている。会えない人と心を通わせてくれた名探偵たちは好きになっちゃうよな〜。続編希望。桜子の恋心によって友情が瓦解って展開もいいな(笑)
解説は大好きな西澤保彦さん。何じゃこりゃ!? 表紙イラストとは真逆の世界観に全くそぐわない難解な文章。役割上、推理場面ではいつも割を食った黒田への同情、なのか…。明らかに異質で、明らかに誰も望んでいないドイヒー解説。

  • 「花残月」…ミス研がなかったらどうするつもりだったのか…。
  • 「天清和 消えた指輪(ミッシング・リング)」…密室状態の風呂場で盗難騒ぎ。間もなく解決したのだが…。ミステリ好きは事件好き。しかし観察者が間抜けでは…。トリックよりも犯行の他に方法がなかった動機が主題。でも面倒な人物。
  • 「早苗月 遠い約束Ⅰ」…子供の頃、心を通わせた大叔父が亡くなった。彼は生前、遺言書を作成していたらしいが…。連作短編が本格的に始まる。暗号解読モノは作為的な感じが好きではないが、次々と関門をクリアする様子、そしてそれが故人の悪戯心やミステリ愛によって支配されていると思うと楽しい。
  • 「白南風 「無理」な事件−関ミス連始末記」…今回、関西ミステリ連盟交流会開催中に何者かが睡眠薬を混入し…。これは伏線があからさまで(犯人のキャラクタも問題か)、犯人を袋小路に追い込む為だけのSっ気たっぷりの推理が見物。トリックよりも人の心の機微までも読み取る先輩たちの手腕が後々にも役に立つ。
  • 「風待月 遠い約束Ⅱ」…遺言書が開封され、遺産の分配がなされる…。ほのかな「恋心」が全編共通のテーマか。でも桜子と若尾は蚊帳の外!?
  • 「夏見舞 忘レナイデ……」…桜子の友達に9年前の手紙が届く。しかも差出人は今春、事故で他界しており…。死者の伝言や恋心など本書を象徴する一編。動機は一編目に似ている。相談者の心の秩序を正しく取り戻すのも探偵の役割か。
  • 「文披月 遠い約束Ⅲ」…一件落着したはずの大叔父の遺言書。しかし桜子の胸に残る微かな苦味…。前半は以前の違和感を一気に除去するカタルシスを味わえ、後半は桜子の年上の男性たちへの感謝と覚悟が語られる。大叔父の本当の成仏の瞬間かもしれない。ミステリを通じた大叔父との宝石のような交流、そして成長した桜子が再びミステリを通じて出会ったナイトたち。余談:北村薫さん・加納朋子さんに続き最終話で誕生日を迎えるのは「日常の謎」派の伝統かしら。

遠い約束とおいやくそく   読了日:2010年08月12日