なかじ 有紀(なかじ ゆき)
ZIG★ZAG(ジグ★ザグ)
第08巻評価:★★(4点)
総合評価:★★(4点)
曖昧だった太陽と佐帆の関係は、太陽からの告白で晴れて恋人同士に☆ 苑生に想いを寄せていた芽も諏訪の一途さに惹かれはじめ、遊園地デートをすることに!? 一方、苑生に猛烈アタック中☆の桜子がB・Bカンパニーに入会! 苑生にキスをし「ふりむかせてあげる」と宣戦布告を…!?
簡潔完結感想文
- 1話の前半で苑生を想っていたのに後半では諏訪を好きと認める芽の心模様。
- 8巻(ラスト2巻)にして初のアレンジ知識披露。桜子だけレベルアップな件。
- 注文の花の配達でも恋愛フラグは成立。登場から1巻ちょっとで早くも決着。
諏訪一家の勝ちパターンはアタックし続けること、の 8巻。
少しネタバレになるが本書における諏訪(すわ)一族の恋愛は3勝1敗で終わる。勝ったのは諏訪・桜子(さくらこ)・彼らの父親。負けたのは兄・日向(ひなた)である。その違いは何か といえば「アタックしてアタックして…何度もふられて 射止めた」こと。勝者には それが出来て、敗者には出来なかった。


諏訪の芽(めい)への片想いは本書で一番 長いもので その成就は純粋に嬉しい。けれど芽の心変わりの描き方は疑問の残るものだった。『7巻』の感想で、太陽(たかあき)と佐帆(さほ)の恋愛が成就したのは苑生(そのお)に桜子という「つがい」が登場し、苑生が孤独ではなくなったから と書いた。それと同様に桜子の登場によって芽が一層 自分の旗色の悪さを痛感して、諏訪に気持ちをスライドしたように見えるのが印象が悪い。
芽の諏訪への気持ちは だいぶ前から布石は打たれていた。そこに文句はないし、作者は ここに向かって せっせと作業をしていた。でも芽が苑生から諏訪へ気持ちをスライドするのが1話の中、というのは余りにも苑生への気持ちが軽いように見えてしまう。1話の中で前半は桜子に対抗しているのに、中盤で失恋したと意識を変え、終盤で諏訪の胸に飛び込む。なぜ こんなにも性急な展開にしなければいけないのかが分からない。本書の、というか なかじ作品において ようやく恋愛が動く場面は唐突なことが多い気がする。
結局、作者が考える「正しい恋心」以外は静かに消滅させられる運命なのだ。芽の苑生への気持ち、太陽や仁の いとこ への気持ち、その淡い想いを作者は偽物に変えていく。本書の何が不快かと言えば その部分である。特定の相手以外には告白することすら許されない。そういう清浄な世界のための言論規制があるように思える。恋心の真贋を決めるのはキャラ本人ではなく作者。そういう歪んだ思想が作品を覆っている。
『8巻』は全体的に時間の流れ、そして話の展開が速い。前者は1年目で季節イベントを消化しているからだろう。クリスマス回や自分たちが主役になる大掛かりな文化祭回は終えているので、それらを割愛すると自然と時間がスキップしていく。
ただ これも『1巻』や上述の芽の時に感じた「音飛び」に近い。おそらく作者の中で連載の終了が見えたから、これまで だらだらしていた物語を巻き進行で進める必要性が出てきたのではないか。だから芽や桜子の恋愛模様は早急に答えを出す必要が出てきた。そして彼らの恋愛にページを割いてばかりだから太陽と佐帆のカップルは ほぼ出番が無い。桜子の影響で交際直後から脇に追いやられていて不憫だ。これも作者が連載のペースを見誤ったからだろう。芽と桜子の恋愛事情が ここまで接近するのは誤算だったのではないか。
早くも桜子の恋愛が成就しかかっているのは、彼女が諏訪家秘伝の恋愛テクニックを駆使しているのと、たとえ配達であっても彼女の手から苑生に花を届けたから資格が生まれたのだろうか。
桜子の褒めるべきところは その向上心だろう。苑生に近づくために彼の領域である花の技術を習得しようと奮闘する。桜子並みに素人であるはずの太陽が天賦の才で花を扱うことに苦労しなかったから、『8巻』にして ようやく蘊蓄が初めて語られているのは失笑ものである。そして桜子に花の技術が必要なら、諏訪や佐帆なんて何も出来ないまま在籍していたという矛盾が生じている。
始めから設定は変だし、物語の緩急の付け方が とてもベテラン作家の作品とは思えない出来だ。本書という花を もう一度 分解してアレンジし直した方が良いと思ってしまう。
沖縄旅行2日目。芽(めい)は苑生に対して積極的な桜子を羨望する。この時、芽が自分は告白して ふられた と言っているが、ふられた事実はない。それなのに まるで勇気を出して正面から告白したような描き方に違和感を覚える。芽が勝手に諦める理由を探しているだけではないか。しかも『6巻』ラストでは苑生 < 諏訪(すわ)のような印象を抱いていたのにリセットされているのも気になる。


この回で諏訪の両親が登場。諏訪の母親は本書で初めて年相応の外見かもしれない。父親は極めて若い。5人の子供、少なくとも成人している日向(ひなた)がいるのに諏訪と並んでも違和感がない。若いイケメンしか描かない主義なのか描けないのか。
2日目の夜は肝試しイベントに参加する6人。くじ によるカップル分けは本書の結末になるのだろう。この肝試しで芽は苑生から消しゴムのお礼に渡されたマスコット(『1巻』)を落としてしまう。そのことを知った諏訪は怖がりなのに夜の森に捜索に出る。しかし なかなか戻らない諏訪を芽は心配し、やがて戻ってきた彼に思わず抱きつく。そして彼への好意を口にする。けれど諏訪には伝わらず両片想いが成立する。太陽と佐帆が くっついたから、今度は芽たちで両片想い状態をするのか。
桜子は兄・日向のコネを使って、苑生と一緒に花屋でバイトできるようにしていた。これは苑生との接点を持つためで桜子はB・Bカンパニーの加入も望む。苑生は桜子が何も出来ないと断るが、じゃあ諏訪は何か出来るのか…。
そこで佐帆は花のアレンジ技術を身に付けて戦力になろうと試行錯誤をする。失敗する桜子に苑生がアドバイスすることで本書で初めて花のアレンジ技術が描かれる。本来は『1巻』で太陽が苑生などからレクチャーを受けるべきだったのに、太陽は天才だから何も学ばず苑生と同じレベルにいるから本書の説得力が欠如してしまった。
桜子は本書で初のレベルアップする人なのかもしれない。そして努力をする人で技術を身に付けることで苑生にB・Bカンパニー入りを認めさせる。主要キャラは一つのグループ(職場やサークル)に入れてしまえ、というのが なかじ作品である。これで いよいよ桜子が苑生の「つがい」になることが明確になった。しかし本書には衝動でキスするような人間しか いないのか。
文化祭にB・Bカンパニーが初参加する。何をやるかアイデアに詰まる太陽たち。そんな時、桜子の頑張りに影響され、ようやく佐帆が自分も花を扱えるようになりたいと向上心を覗かせる(同好会結成から1年が経過してるよね…)。そうして太陽が佐帆にアレンジを教えることで、彼は文化祭で「見せる」のではなく「触れてもらう」ことを思いつき、アレンジ教室を開くことを提案する。
大きな大会では負けが続いている太陽だが、学内では無敵。今回の催しも大成功を収める。これまでの飾り付けは似たり寄ったりだったので このアイデアは漫画としても新しい。
諏訪への気持ちを自覚した芽は彼とのデートを約束する。だが当日、芽の2番目の弟が熱を出し、すぐ1番目の弟をデートに連れていかなくては ならなくなった。それに一瞬、落胆しつつも諏訪は弟の存在を すぐに受け入れる。兄弟が多かったから子供の扱いに慣れているという諏訪だが、桜子の相手をしていた時は諏訪も子供だっただろう、というツッコミたい。
芽は諏訪への気持ちを意識したら、照れ隠しで佐帆のような行動を取り出している。こういう関係性しか描けないのだろうな、と作者の芸風の狭さに溜息が出る。
ラストで携帯に付けていた例のマスコットを再び水の中に落とす芽だったが、諏訪は それを危険を厭わず取りに行く。その無謀さに芽が涙し、それを見た諏訪が芽の自分への気持ちを察知し、芽に問う。芽がするのは首を縦に振る簡単な お仕事だけ。嬉しさの余り諏訪は芽に抱きつき、彼らの交際が始まる。
残されたのは苑生と桜子カップル。なんだかんだ苑生は桜子の粘り強さを気に入っているようだけど、この2人が良い雰囲気になる未来が見えない。ある意味で一番 こどもっぽい苑生が自分の恋愛感情を素直に認めるとは思えない。
冬休みに突入しバイトは休み。苑生は悠生に連行されて年末年始を実家で過ごすことになり、桜子は苑生との接点を失う。だが桜子の実家の会社に苑生の家からの注文が入っていることを知った桜子は彼の実家に出向く。こうして桜子は苑生の母親とも顔を合わせ、婚約状態を自力で勝ち取る。母親から若い頃の着物を着せてもらい、代わりに桜子は学校での苑生の様子を伝える。
そして まるで お見合いのように若い2人は広大な庭を散策する。その途中で苑生は自分が生ける花材を集める。桜子の実家に花を依頼したのも苑生で、寮に帰る前に実家に自分の作品を置こうとしていた。この実家訪問で、太陽でも見たことがない苑生の自室に桜子は潜入することに成功する。苑生は早くも桜子に押し切られた様子を見せる。私には芽がダメで桜子がOKな理由が よく分からない。もしかして桜子が今回、花を届けに来たからなのだろうか。