- 作者: 二階堂黎人
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 1996/11
- メディア: 文庫
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野尻湖畔にある修道院の塔で起こった二つの密室殺人。満開の桜の枝に、裸で逆さに吊るされた神父の首なし死体。ヨハネ黙示録に見たてた連続殺人。そして、不可解な暗号文も発見されたのだ。神秘の領域で惨劇が繰り返される。名探偵・二階堂蘭子の推理が、ついに暴き出した地下文書庫に隠された驚愕の真実。
解説によると著者の持論は「ロジックよりもトリック、トリックよりもプロット」らしい。ミステリなのにロジックやトリックを二の次、三の次にして良いのかは疑問だけど、実は私、後半の展開が少し楽しかった。怒涛の後半は最早ミステリの範疇ではないのだが、冒険小説的な緊張と興奮を味わえた。ただし重箱の隅に退けられたロジックとトリックがお粗末なので今回も低評価です。
後半は好きだが、前半の展開はダメ。探偵役の蘭子らは第一章から事件現場に招かれ、事件の概要は最初から語られる。と、あっという間に100ページ近くまで進む(若干の誇張)。しかし残念な事に、その後100ページは時間が巻き戻され、蘭子らの事件介入の顛末と警察の地道な捜査の描写が続き、スムーズだった物語を一気に堰き止めた。既知の事が繰り返されるのには辟易&苦痛。
更に(好きな)後半でも言いたいことはいっぱいある。序盤では骨のある刑事として書かれていたはずの好美警部が、いつの間にか「蘭子の犬」に成り果てて、しかも蘭子のあの「たわ言」を完全に信じてしまう愚かしさ。一体、彼は警察で何と報告したのか気になる。「犯人は××だったんです!」「お前はクビだー!!」。
真犯人登場のタイミングも悪い。物語は一段落し、既に着地体勢をとっていた。着地後のひねり技は遅い。驚けない。また犯人指名の方法も嫌い。蘭子らは金持ちの道楽に殺人事件を利用している様に見えて嫌。殺人現場での古典ミステリの引用は最低の冗談だ。無責任な学生探偵の中でも最低の部類。
作者が強調する文章や真相は驚きよりも、読者を呆気にとらせて口を開けさせる効果があるみたい。バカミス路線を狙っているのか、本気なのか判断のつかない所が、この作者の恐い所。ある意味で底が知れない作家さん。しかし、アノ結末まで読むと(ネタバレ→)地下で秘密の儀式をしていた人たちは文書庫に1回も入ろうとしなかったのか(←)などなど色々と辻褄合わない事がいっぱいある。読後に疑問が脹らむ変なミステリ。この作品は「本格ミステリ」の定義内なのだろうか…。