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文庫版 魍魎の匣 (講談社文庫)

文庫版 魍魎の匣 (講談社文庫)

箱を祀る奇妙な霊能者。箱詰めにされた少女達の四肢。そして巨大な箱型の建物。箱を巡る虚妄が美少女転落事件とバラバラ殺人を結ぶ。探偵・榎木津、文士・関口、刑事・木場らがみな事件に関わり京極堂の元へ。果たして憑物は落とせるのか!?日本推理作家協会賞に輝いた超絶ミステリ、妖怪シリーズ第2弾。


うへぇ、なっ、長い…! 解説を含め全1060ページ(文庫版)。単行本やノベルスを文庫では分冊して売るのは出版社の金儲けだと信じていた私も、この本を持ち歩きには躊躇。明らかに読み切れない本を持ち歩くのは徒労に思えるのだ。
と、余談はともかく、噂通り、噂以上に凄い本だった。限られた部分ではなく全体が凄い作品。巧緻にして大胆、奇妙奇天烈摩訶不思議ながらも、何の不思議も残らない。このミステリとしてのダイナミズムは島田荘司さんを連想した。大掛かりなトリックや、どう考えても不可能・不可解な出来事に合理的解釈を示す手法がよく似ている。謎の描写に基本的には虚偽がないのだ。「化け物」がいると書いてあれば本当に「化け物」がいて、その上、ミステリとしても成立させてしまうという力量の高さを感じる(それが現実に成立するかは別としてだが。しかし、小説内で成立しているのだから何の文句もない)。また、途中で読み手に際どい手掛かりを与えながらも、絶対に読者が(少なくとも私は)たどり着けない真相が用意している所も似ている。特に人体消失の謎は精神が健全な(?)私には絶対に解けない真相である。騙される悦びに満ちている作品だ。京極さんはミステリとホラーの融合が出来て、なおかつ、ミステリという箱型からはみ出さない人である。また、殺人を犯す動機の面では森博嗣さんと同じ解釈をしていたのが印象的。森さんが著書の中で、「トリックが重複しそうで怖いのは京極さん」と書いていたのも納得である。殺人者の精神を正常だと考えるからこそ、論理的なミステリが成立しているのだろう。
私が文句を言えるような作品ではないが、ラストの展開が急すぎるようにも感じた。アノ人の心の動きがいまいち理解できずに終わったのが残念か。
京極堂シリーズは、時代設定が昭和20年代後半という事も物語に大きく関わっている。戦後という混沌とした時代には、不思議なことなどなんでも「あり」そうな気がするのだ。1作目もそうだったが、本書でもの現代の「常識」や「科学」との違いや遅れが謎と関連している。過去を振り返る時、同時に私たちは現代の「基点」もまた考えている。今はどのラインなのか。この時代から50年以上経って、科学は進歩したかもしれないが、人間は変わらない。変わらずに幸せを望んでいる。

魍魎の匣もうりょうのはこ   読了日:2006年10月03日