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ターン (新潮文庫)

ターン (新潮文庫)

真希は29歳の版画家。夏の午後、ダンプと衝突する。気がつくと、自宅の座椅子でまどろみから目覚める自分がいた。3時15分。いつも通りの家、いつも通りの外。が、この世界には真希一人のほか誰もいなかった。そしてどんな一日を過ごしても、定刻がくると一日前の座椅子に戻ってしまう。いつかは帰れるの?それともこのまま…だが、150日を過ぎた午後、突然、電話が鳴った。


訳の分からない冒頭。真希という女性が主人公のはずなのに、真希以外の視点・声がもう一つ。なんだこれは?多重人格か自分の中で会話をする人なのか。なんて思っていたら、起こった「くるりん」こと「ターン」。同じ日を何度も経験してしまう真希。「時と人」シリーズと銘打っただけあって、「スキップ」と同じように時間の魔力に囚われてしまった女性。そこは人がいない世界、そして毎日同じ日が繰り返される世界。150日もまさしく孤独でいた真希に繋がる一本の電話。繋がった電話は彼女に新しい一日を与えるが、新たな苦しさも与えてしまう。ここら辺の心理の変化が北村さんの描写の絶妙なところでしょう。会話から始まる気持ちの変化を、この状況ではこうとらえるのか、とハッとさせられました。
北村さんには珍しく悪意ある人も登場します。ここまで悪役も珍しいでしょう。その人の登場でまた同じ世界が変化を始める。どうなってしまうの?とページをめくらせる手腕には頭が下がります。
冒頭から聞こえていた声と、電話の声。その二つの関係が分かった時は、おぉそういうことか、とプロットの上手さに鳥肌が立ちました。北村さんは1冊を非常に丁寧に作る方だな、と本に対する愛情にこちらまで心が温かくなります。

ターン   読了日:2002年11月23日