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象と耳鳴り―推理小説 (祥伝社文庫)

象と耳鳴り―推理小説 (祥伝社文庫)

「あたくし、象を見ると耳鳴りがするんです」退職判事関根多佳雄が博物館の帰りに立ち寄った喫茶店。カウンターで見知らぬ上品な老婦人が語り始めたのは、少女時代に英国で遭遇した、象による奇怪な殺人事件だった。だが婦人が去ったのち、多佳雄はその昔話の嘘を看破した。蝶ネクタイの店主が呟く彼女の真実。そしてこのささやかな挿話には、さらに意外な結末が待ち受けていた…。(表題作)ねじれた記憶、謎の中の謎、目眩く仕掛け、そして意表を衝く論理!ミステリ界注目の才能が紡ぎだした傑作本格推理コレクション。


恩田さんには珍しくバラバラな短篇集かと思っていたのですが、主人公・関根多佳雄が中心に置かれていました。彼の凄さが分かってからは、彼の特異な能力・体験・家族などの描写一つ一つがとても興味深い。と思っていたらこの家族、恩田さんデビュー作の『六番目の小夜子』の登場人物の家族だったんですね。うぅ、読む順番間違えました。失敗した…。やっぱり読む順番は刊行順にしようと決意。
恩田さんはやっぱり、とっても上手く読みやすい。一つの短篇は20ページほどなのに短篇一つに一つの世界が構成されている。祥伝社文庫のカバーは色が嫌いだったんですけど、今回はキレイな装丁も◎。短い短篇に深い考察が含まれてます。文庫版解説の「西澤保彦」さんもおっしゃっていましたが謎の解明以降も尚、深く胸に刻まれる物語だと思います。お薦めです。

  • 曜変天目の夜」…抜群の記憶力を誇っていた知人の学者は静かに死んだ。死の直前にとった彼の行動の意味とは…?一作目から惹かれた。静かな作品、でもズンと重い作品。冒頭から最後まで構成力で引っ張ってくれる作品。好きです。
  • 「新・D坂の殺人事件」…人で溢れかえった渋谷の街中で突如現れた死体。まるで空から降ってきた如く、目撃者がいない。巧妙な視点と集団の無自覚の悪意がいい。現実性は薄い、と思いたい。けど、自分も同じ行動してしまう。
  • 「給水塔」…静かな住宅街に佇む給水塔。その貯水塔は『人喰い』の噂が絶えないという…水に関する考察がいい。恩恵と畏怖の入り混じった感情。満の飄々として陰のある描写も秀逸。多佳雄の想像力・推理力を垣間見れる作品。
  • 「象と耳鳴り」…あらすじ参照。表題作。けれど10ページの超短編。この本の解説の西澤保彦さんっぽい作品という印象。モノに起因して思い出す情景ってありますよね、そういえば昔、私こんなこと感じた…みたいな感情。
  • 「海にゐるのは人魚ではない」…知人宅に招かれた旅中で聞いた小学生の会話。「海にいるのは人魚じゃないんだよ」という言葉。一体何を意味するのか?『九マイル〜』を彷彿とさせる推論。息子の春・初登場。彼もいい。
  • ニューメキシコの月」…骨折で入院した多佳雄を訪れにきた友人。彼は9人も人を殺した男から送られた絵葉書を持って来た。主題は9人の殺された理由ではなく、9人を殺した時の男の気持ち。ネットで調べた絵葉書の写真は幻想的でした。
  • 「誰かに聞いた話」…ふと思い出した話を、妻に尋ねると…思考の跳躍の話。こうやってどんな話にも解説してくれる人がいたら毎日スッキリ暮らせる。
  • 「廃園」…30年前、暑い日に迷い込んだ薔薇の庭。朦朧とする意識の中で見つけた倒れている従兄弟の女性。匂いたつような薔薇の描写と整然とした推理、恩田陸という作家は、世界を創り出す人だと改めて好きになる作品。
  • 「待合室の冒険」…人身事故で足止めになった駅の待合室で聞いた不自然な電話。そこから推理されるものは?恩田さんも書かれていますがまさに『九マイル〜』。春の本気モードが見れます。なんて想像力たくましい一家なんだ。
  • 「机上の論理」…春と夏の兄弟が従兄弟から見せられた部屋の4枚の写真。彼はこの部屋の住人の人となりを当てたら飲み代を奢るという。推理合戦。結末は予想できたけど面白い。春と夏のどっちが頭がいいか緊張して読みました。
  • 「往復書簡」…就職し北の地で奮闘する姪から手紙が届く。手紙をやり取りしている内に多佳雄はある点を鋭く指摘する。タイトル通り終始、往復書簡で綴られる物語。手紙や写真で全てを見抜く関根家には何も話せないかも…
  • 「魔術師」…地方都市として拡充していく街並み。引退して地方に戻った検事は街には意思があると指摘するが…「ニューメキシコの月」の登場検事引退。都市伝説の考察はとても面白かった。もっと他の展開も見てみたいぞ>恩田さん。

象と耳鳴りぞうとみみなり   読了日:2004年11月28日