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光の帝国 常野物語 (集英社文庫)

光の帝国 常野物語 (集英社文庫)

膨大な書物を暗記するちから、遠くの出来事を知るちから、近い将来を見通すちから―「常野」から来たといわれる彼らには、みなそれぞれ不思議な能力があった。穏やかで知的で、権力への思向を持たず、ふつうの人々の中に埋もれてひっそりと暮らす人々。彼らは何のために存在し、どこへ帰っていこうとしているのか?不思議な優しさと淡い哀しみに満ちた、常野一族をめぐる連作短編集。優しさに満ちた壮大なファンタジーの序章。


SF・ファンタジー作家、恩田陸としての作品。SFというほど科学的な設定ではなく、超能力を持った人たちの話。その能力に翻弄された一族の現在と過去。連作短編小説で短編一つ一つがのちに相乗効果で物語の深みを広げていく。文章のそこここに恩田陸テイストを感じさせる一冊。

  • 「大きな引き出し」…膨大な記憶力を持つ家族の話。書物も音楽も「しまう」ことによって記憶されていく。私なんか冒頭に出てくる百人一首を意味も分からず暗記するだけの子だったので、うらやましくもあるのですが。人情味あふれる作品。
  • 「二つの茶碗」…未来が見える能力を持った女性。ある男性と結婚するまでの話。短いストーリーながらもグッと濃縮した世界が詰まっていている話です。
  • 「達磨山への道」…神隠しがあると言われている山道で親友と歩いている男が見たものは‥これも上手い。現在・過去・未来の話をたくみに織り交ぜて、哀愁漂うラストになっている。
  • 「オセロ・ゲーム」…特殊な能力に集まってくるアレに「裏返さ」れると消えてしまう一族の能力。父親は裏返されてしまい、母を守るため娘も戦い始める。まだまだ始まったばかりの戦い。
  • 「手紙」…能力者一族の「常野」についての話を集めた手紙によって構成される話。ここまでの話と、あとの話をつなぐ知識を取り入れられる。後半の話にさらなる盛り上がりを期待させる。
  • 「光の帝国」…表題作。「常野」の過去の話。マイノリティは異端だと思われるのはどこの世界でもいつ何時でも同じ。どんな怪奇話より、日本の怖い話がやはり私には一番怖い。切なくて読み進められなかった。
  • 「歴史の時間」…授業中に亜希子がみた幻想、それは来るべき準備のために用意されたものだった。「大きな引き出し」の記実子さんがキーパーソンとして再登場。これも今後の展開を予感させるラスト。
  • 「草取り」…街中のいたるところに生えている草。それらは能力者に相対するものとして生まれたらしい。それを刈っていく話。それは人間にも寄生し、人間を飲み込む。背筋の凍る、背筋を伸ばさなきゃ、と思う話でした。
  • 「黒い塔」…メインの話。「歴史の時間」の亜希子さんが主人公。彼女を取り巻く「常野」の人々。ついに力を発揮する亜希子の能力。今までの話が全部あったから無理なく話に入り込め、そして興奮し安堵できる話。ストーリテラーとして恩田陸はすごい。
  • 「国道を降りて…」…「常野」の未来への話。最終話としてこれ以上のものはないと思います。「常野」を取り巻く環境はまだまだ厳しいものがあるのだろうけれど、こうやって力を合わせていくのだな、という希望を残して終わる話。

光の帝国ひかりのていこく   読了日:2003年01月11日