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空に向かって 増補版 (扶桑社文庫)

空に向かって 増補版 (扶桑社文庫)

世界初の女子4回転ジャンパーが辿った栄光と苦難の道のり。トリノ五輪での挫折、ケガとの闘い、コーチの教え…。復活を遂げた世界女王が、スケートと自身について初めて綴る。スケートの楽しさに目覚め、数々の国際大会で優勝したジュニア時代。 世界初の4回転ジャンパーとして注目を集めた中学時代。期待されたトリノ五輪で15位に終わり、心ないバッシングに傷ついた高校時代…。相次ぐケガに泣かされ、不本意な棄権に一度は引退を考えながらも、新しいコーチの下でスケートの芸術性に目覚めた安藤選手。
これまで周囲の偏見や誤解の中、自身のことをあまり語ってこなかった安藤選手が、初めての自伝で、これまでの葛藤や心情を告白。また、彼女がこれまで考え続けてきた「フィギュアスケートとは何か?」について、たどりついた答えとは…?


フィギュアスケート安藤美姫選手が『頭が痛くなるほど』これまでのスケート人生を語った自伝本。スケート人生の嬉しい出来事には爛々と目を輝かせ、辛かった出来事には痛みを堪えながら言葉を探り喋る安藤選手の姿や声が伝わってくる血の通った一冊。本書の構成のライターさんは、ライターさんの書いた記事などを見る限り、安藤美姫のスケートが大好きな方なので、安藤選手も気兼ねなく自然体で本音を語れているように思えた。
安藤美姫選手は大好きなスケーターの一人だ。Lz(ルッツジャンプ)の跳び方一つ取っても安藤選手は間違いなく(ジャンプの)天才だ。今でこそ女子初の4回転ジャンパーという誇りを持てるようになったが、彼女は自分を特別だとは思わなかったらしい。それはスケートを始めた頃からいつも彼女の周りにはレベルの高い優れた選手が多く居たからであった。生まれ育ったのは日本屈指のフィギュアスケート大国・名古屋で、共に練習をしたのは浅田舞・真央姉妹や小塚崇彦選手、そして中学校時代から師事した佐藤コーチ夫婦の下には荒川静香村主章枝という世界レベルの技術を持つ偉大なる先輩がいた。書名の「空に向かって」は空が亡き家族に、世界中が一つに繋がっているという安藤選手の想いに由来するものだが、私は同時に彼女のスケート人生も常に上を、自分のイメージする空に羽ばたく努力をし続ける姿勢を表しているように思えた。
読んでいて楽しかったのは私の知らない安藤選手の過去(トリノ五輪以前)の逸話の数々だった。門奈コーチとの出会い、練習方法、連戦連勝のノービス・ジュニア時代は成績上だけでなく、彼女が心からスケートを楽しめていた無垢な少女時代だ。トリノ前・後のスケート人生を話す彼女の表情には翳りや痛みが見えるようで悲しくなった。
彼女の最大の不幸は彼女の若き才能の波紋が競技の枠を超えマスコミを通じて国民にも広がり、その跳ね返った波が奔流となって彼女を襲ったことだ。若き新星たちの登場、荒川選手の快挙からフィギュアスケートは日本のお家芸のように錯覚され、一試合でも調子を落とすと、まるで手の平を返したかのように悪意ある報道が目立つ。過度な期待と勝手な失望、それは安藤選手だけでなく09年からは浅田選手にも適応された悪習となった。巻末の「Special Column」で安藤選手が語るように、日本には人気スケーターのブームはあるが、本当のフィギュアスケートブームは到来していないのかな、と思ってしまう。競技や選手への正しい理解や敬意、報道の配慮、本当にフィギュアスケートの発展を考えている人はまだ少ないのが実情だろう。
安藤選手は時代の先駆けを運命付けられた人だったのかもしれない。女子初の4回転で注目され、スケートフィーバーによるファンの過熱、そしてネットの発達による誹謗中傷。ストレスで体重が増加し、ストレスで物が食べれなくなり体重が激減する。1人の女性が、過剰で一方的な報道や言動で壊されていく。それでもスケートを続ける彼女が弱いはずはない。
作中、安藤選手は『アスリートとしてのピークは、過ぎてしまった』などと言うが、20代でも安定した成績を収めている。しかもモロゾフ曰く『4種類の4回転を跳んでいる』らしい!! Sの他はT・Lo・Lzかな? 練習映像だけでも見たい。
最後の語られる安藤選手の今の夢は「コーチ業」。モロゾフコーチのように精力的に、門奈コーチの様にスケートの魅力を伝えられるコーチになりたい、と語る彼女の目は眩しい位に輝いていただろう。安藤コーチの誕生の日はまだまだ先であって欲しいけれど、確実に来て欲しい。選手の痛みを理解するコーチとして。
浅田真央選手の本でも思ったが、母親の存在・役割を強く感じた(本書の母親の注釈の必要性は疑問だが)。

空に向かってそらにむかって   読了日:2010年10月10日