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君なら翔べる! 僕だって、奥さん新しくしたら、きっと三回転だって跳べちゃうだろうな(信夫63歳)!!

日本フィギュアスケート黎明期にそろって五輪に出場し、引退後はコーチとして佐藤有香村主章枝荒川静香といった名選手を数多く育て上げている佐藤信夫佐藤久美子コーチ夫妻が、二人三脚で歩んだスケート人生を振り返る。トリノ冬季オリンピックに向け夫妻に、現役時代の思い出から、安藤、村主、荒川選手の知られざるエピソードなどを語ってもらう。秘蔵ショット満載。

   
2006年のトリノオリンピック出場を賭けた、2005年フィギュアスケート全日本選手権の直前に出版された本。読者への惹句としては有力選手のエピソードを語る、という内容だが、それはホンの一部分。本書は日本を代表するフィギュアスケートコーチである佐藤信夫佐藤久美子ご夫婦が、ご自身とフィギュアスケートとの関わり、フィギュアスケートの変遷、コーチ業の苦労と喜びを語った本である。
夫の佐藤信夫さんは全日本選手権・男子シングルで連続10回優勝、後のコーチ時代を含め50年以上連続(!)で全日本選手権の会場に立つ御方。妻の佐藤久美子さんも全日本選手権優勝者で、信夫さんと結婚後、2人の子供を立派に育て上げ(娘の佐藤有香さんは世界選手権優勝者)、またこの後のトリノオリンピックでは荒川静香選手の横で金メダル獲得の瞬間に立ち会った人である。
本書はご夫婦が章ごとに、ご自身の経歴を交互に語るという構成。この構成が見事で、お二人のそれぞれの人生がある瞬間に交わり(出会いは50年以上前!)、その関係性が変化し夫婦となり、子供を育て、今もお互い同じ志で毎日スケートに向き合っているというのが読み進める内に実感として伝わる。本書は勿論フィギュアスケートというスポーツの本なのですが、私は一組の夫婦の本としても読みました。努力型の信夫さん・才能型の久美子さん、冷静沈着な信夫さんと一心不乱の久美子さん。それぞれの性格の違いを認め合い、尊敬し、何でも言い合える仲は大変羨ましい夫婦像だった。またお二人共、自分や競技をサポートしてくれた人たち(恩師・家族・周囲の人々)への感謝を忘れない姿勢にも好感を持った。
本書の中でも信夫さんが選手時代を語った第1章は、ミステリの様に張り巡らされた伏線と意外な真実が用意されていて、とても読み応えがあった。信夫さんの章は特に構成が素晴らしい。その謎とは「なぜ日本人の自分のスケーティングがアメリカ人解説者にとても誉められるのか?」である。この謎解き、ミッシングリンクには人と人の繋がりや縁を強く感じ、最後のエピソードは鳥肌が立つぐらいに感動した。また久美子さんの章では彼女の父親の存在が際立っていた。孫の活躍を見る前に…、という話も胸にこみ上げてくるものがありました。
私は最近の話よりも昔の、ご夫婦が語る選手時代の話に強い興味を覚えた。日本のフィギュアスケート黎明期の、今では考えられないエピソードの連続に目がテン! テレビ放送が無い中での手探りの練習、10年間滑り続けた同じプログラム、製氷車もないリンク、タブーとされていた数々の行為、3回転ジャンプへの挑戦。ここでは信夫さんが確立した練習・コーチ方法の多さに驚きました。また、堤義明西武鉄道グループ元オーナーが練習環境を整備して日本人の活躍を後押ししていた事、そしてお二人の結婚も取り決めたという話も意外だった。
一番笑ったのは、信夫さんと同年輩の人(60歳前後)で未だに三回転ジャンプを跳んでいる方がいて、その人は最近新しい奥さんを貰ったという話に対しての信夫さんの発言。『僕だって、奥さん新しくしたら、きっと三回転だって跳べちゃうだろうな(笑)』。私の中の信夫イメージが音を立てて崩壊しました(笑)

君なら翔べる!きみならとべる!   読了日:2008年11月08日