- 作者: 有栖川有栖
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2011/06/10
- メディア: 文庫
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「とっておきの探偵にきわめつけの謎を」―臨床犯罪学者・火村英生のもとに送られてきた犯罪予告めいたファックス。術策の小さな綻びから犯罪が露呈する表題作ほか、過去の影におびえる男の哀しさが余韻を残す「長い影」、殺された男の側にいた鸚鵡が真実を暴く「鸚鵡返し」など珠玉の作品が並ぶ人気シリーズ。
火村英生シリーズの掌編(10頁弱)〜短編集(60頁強)。火村シリーズの質の高さを改めて実感。発表媒体や作品の長さに関わらず、どの作品も有栖川作品だ、という安心感がある。また長く続くシリーズ物でありながら、多彩な設定を用意して読者を飽きさせないようにしている。ミステリとしても本格ミステリとしての様式を貫きながらも、その中でチャレンジ精神や遊び心が垣間見られた。生活の変化(携帯電話やパソコンの進化)や本人が体験した出来事をミステリとして昇華させていて、常時アンテナを張り巡らせて生活しているのかな、と想像した。
シリーズとしての読み所は以前から幾度か触れられているアリスの高校時代のラブレター事件の一文ぐらいか。収録作品で最古の作品が2002年なので発表時期の問題もあるが、『妃は船を沈める』の女性刑事・高柳真知子さんが再登場してシリーズに刺激を与えてくれると思っていたので少し残念。次回作に期待。
- 「長い影」…男性が自宅の窓から見た怪しい影。その影は後に発見される男性遺体の殺害現場から死亡推定時刻に出てきたらしいが…。最有力容疑者が主張する鉄壁のアリバイをどう崩すかが焦点。一度、捜査を行き詰らせてからの見事な脱出法。事件としては凡庸だけれども変則的な人物配置と構成が上手いですね。
- 「鸚鵡返し」…被害者の飼っていた鸚鵡が犯人の名を名乗る…!? 語りは火村先生のみ。トリックは回りくどい。犯人の執念深さと小心さが窺える。
- 「あるいは四風荘事件」…社会派推理小説家の未完成の遺稿は、彼が毛嫌いしていたはずの本格ミステリの原案だった。遺族の依頼でアリスは結末を推理するのだが…。作中のトリックは幾つかの既存ミステリをブレンドしたような印象を受ける。このアイデアだけで長編も書けるはずだが、短編に収める贅沢な作品。
- 「殺意と善意の顛末」…アリバイを崩されても尚、否認を続ける犯人を「落とした」ある善意とは…。有栖川さん実体験シリーズその1。犯人が感情的で良かった。
- 「偽りのペア」…女性被害者と並んで写るペアルックの男性。だがその男性の正体は知れず…。有栖川さん実体験シリーズその2。先入観を上手く利用。
- 「火村英生に捧げる犯罪」…あらすじ参照。大学入試で身動きの取れない火村先生と、仕事場のアリスが抱えるそれぞれの問題。これは読者の先入観も上手く利用してる作品。ただ犯人の狙いは苦肉の策とは言え矛先がズレているような。まぁ暴力的な犯人じゃなくて××は命拾いしたとも言えるかな?
- 「殺風景な部屋」…何もない部屋で被害者が最後の力を振り絞ってしたかった行動とは…。犯人当てを含むダイイングメッセージ物。臨床犯罪学者の現場不在という変則的な設定。安楽椅子、新幹線の座席探偵。答えがやや安直かな?
- 「雷雨の庭で」…雷雨の夜に死んだ男性。だが最有力容疑者の隣人は事件当夜、ビデオチャットで仕事仲間と相互監視の状態で…。ハイテクアリバイ物。うん? この作品と類似するトリックを先日読んだような…。「火村英生に捧げる犯罪」ではないが盗作疑惑!?、なんてね。凶器の意外性が低いのが残念…。