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少女漫画と小説の感想ブログです

眺めてる風景が いつか同じになれたら‥『「ただいま」』

たいようのいえ(2) (デザートコミックス)
タアモ
たいようのいえ
第02巻評価:★★★☆(7点)
  総合評価:★★★★(8点)
 

居場所のない真魚(まお)を家に置き、変わらずやさしく接してくれる基(ひろ)。そんな基への恋心に気付いた真魚は、基に「好き」だと言ってしまった。しかし、ぎくしゃくする基を見て、真魚は告白を取り消す。基を困らせたくないけど、好きな気持ちはあふれてくる。そんなとき、真魚の小説の読者「ラジカル」さんと会うことに。待ち合わせに現れたのは……!?さらに、基の弟・大樹(だいき)が帰ってきて――!!

簡潔完結感想文

  • 「好き」が発動したことで こじれる関係。愛情が友情を壊しかねない事態。嘘ではない気持ち。
  • 仮想空間上での関係が現実世界でも繋がる。二次元が三次元に広がったはずなのに息苦しい。
  • 自分が誰かの居場所を作れること。その幸せをくれる存在がいること。家の温度がまた上がる。

心と本物の家族の到来で今までのようにはいられなくなる 2巻。

そういえば本書は、登場人物(ほぼ)全員 初恋漫画なんですね。
誰も彼もが初恋を抱え、初めてだからこそ対処の仕方が分からない。
白を基調としたカバーもピュアさの増幅に一役買っている気がする。

ただ一方で、初恋ながらも しがらみの多い恋でもある。

家庭の不和から誰かに恋をするような心理状態ではなかった主人公の真魚(まお)。
クラスメイトで何かと話し相手になっていった真魚に今巻で告白した織田(おだ)くん。
その織田くんを好きな同級生の ちーちゃん こと千尋ちひろ)。

この三角関係だけで普通の少女漫画が成立してしまう。その上、

幼なじみ的な存在の基(ひろ)と同居することで恋心を生じた真魚
そして真魚のネット上の友達のラジカルさん こと杉本(すぎもと)さんは、会社の同僚である 基(ひろ)に恋していることを打ち明けた。
女性2人から恋のベクトルが向けられている基の恋愛はというと…、謎だ。

今巻の掉尾に収録されている、高校生の頃の基の日常が描かれた番外編でも、こと恋愛に関しては鈍感だが純情っぽい描写がある。
何となく魔法使い候補(30歳まで性体験がない男性は魔法使いになれるという俗説)っぽくは、ありますが。
プログラマという職業がまた、魔法使いっぽさを強めている気がする(偏見)。

基の過去の恋愛などは一切排除されており、そのお陰で少女漫画の定番の元カノ問題などが出ない本書。
ですが、語られないからといってないと決めつける訳にはいきません。

年齢差もあり兄的立場もあって、真魚からの好意にも取り乱したりはしていない。
そういえばスキンシップなどにも余裕が感じられるなぁ。

目つきが少々鋭い感じがするが基本的にイケメン要素の多い男性である。
両親を早くに亡くしたこともあり、同級生たちよりも精神的に早熟にならざるを得ず、
そこがまた影と愁い、寛容さと ある意味でセクシーさに繋がりそうだ。

そんな お兄さんよりも目つきが悪いのが、基の弟、中村家の次男・大樹(だいき)である。
彼の初恋も ややこしいのだが、それはまた後のお話。

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中村家の3兄妹の真ん中・大樹が登場。目つきは悪いが、長身イケメン。そして不遇。

樹はきっと人気キャラですよね。
だって私も好きだもの。

ただ彼は段々と惹かれていくタイプ。
本格的な登場が初となる今巻では、無表情や目つきの悪さもあって取っつきにくい。

読み返すと『2巻』でも好きになる要素は詰め込まれているんですけどね。
チェコやロシアなどの奇怪なキャラクタが好きだったり美的センスは真魚寄りの人なのだ。

序盤の大樹は基と真魚の暮らしを快く思わない。
そして2人の暮らしが好きな読者からしてみれば大樹は排除したい異物のようだ。

だが、大樹からしてみれば真魚こそ、この家の異物である。
基と2人で向き合い、真魚の同居を反対する大樹の、
真魚の両親は生きてる」「でも 生きてる」という言葉は重い。

真魚と中村家の面々は、両親と暮らせないという状況が同じように見えて全く違う。
中村家には子供たちと両親の間に死という決して越えられない深くて暗い川が流れている。

ほんわかした絵柄の中で、こういう厳然たる現実をしっかり描く作者の力量に感服する。
作家性の高い人だなぁ、と登場人物たちの親である作者が大好きになる。


樹の存在、つまり基の本当の家族の存在は、真魚を不安にさせる。
なぜなら、この大きな家、中村家にとって自分は異物であると痛感させられるから。

真魚の中に渦巻く、足元が崩れ落ちる不安は いかばかりか。
この辺りから、基の幸せが、自分を決して幸せに繋がらないという真魚の葛藤が見え隠れします。

同じように自分が基を好きなこととは別に、基に好きな人がいる可能性も真魚を苦しめる。

昔のよしみか同情からか自分を拾い上げてくれた基だが、
基に自分以上に この家に上げたい人が出てきた時、真魚は分をわきまえて退出しなければならない。

これは父親が再婚した時の状況に似ている。
構って欲しい相手が自分以外の誰かを心の安らぎにしている。
まだ真新しい傷跡がまた広がる予感に、こちらまで胸が苦しくなってしまう。

またネット上の友達・ラジカルさんが、基の会社の同僚・杉本さん(真魚は本名知らないが)であることも頭を悩ませる。
前述の通り、基の好きな人だったり、恋人になった時、どこで暮らすか身の振り方を考えないといけないし、
数少ない友人が恋敵になってしまう恐れもある。

仮想世界と現実世界が交錯し、どこまで情報を把握していることを開示していいかも難しい。
恋が絡むことで、安寧だった2つの世界が一気に生き辛く、息苦しくなったのはとても不幸なことだ。

そういえば現実世界では決して人付き合いが上手くない真魚とラジカルさん。
逃避先として選んだのは広い意味での二次元と、ネットの世界。

からしてみればネットで繋がる方がハードル高いですね。
何気に2人とも コミュニケーション能力が高いのではないだろうか。


んな真魚の懊悩を知ってか知らずか、基はある計画を進行していた。

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この家に誰か居てくれることで、そして自分が大人になったことで迎えられた新しい家族。

それが、このお犬様、命名・コロッケである。

真魚にとって嬉しいのは、基が犬を飼う前提として、真魚を家の一員として勘定に入れてくれたこと。
この家に住むのが自分一人では亀を買うのが精いっぱいだったが、2人ならば犬も飼える。

そうして犬を通じて居場所をくれたことが真魚にはこの上なく嬉しい。
『2巻』を通して排除される不安に怯えていた真魚の不安が一掃されて幕を閉じる。

あぁなんて読み返す度に新たな発見のある本なんでしょうか。
すなわち良書と言わざるを得ませんね。
作者の頭の良さが垣間見れる構成です。講談社漫画賞も納得。

また犬を飼うことは基にとっても長年の夢だったことが巻末の番外編で明かされる。
高校生の基は友人と遊ぶ時間もなくバイトをし、
それでも犬を飼う経済的余裕なんてまるでない。

そんな彼が真魚に手を伸ばしたことから、かつての自分の夢を叶えられた。
小さな命は、人と繋がることの幸せの象徴であります。

しかし愛犬・コロッケの存在で、飼い亀・若葉ちゃんの地位が低下したことは否めない。
物語の後半は本当に出番少なかったなぁ。

まぁ、孤独だった、そして家族の増員が叶わなかった かつての基の孤独の象徴だと思えば、
若葉ちゃんが登場しないことが幸せの逆説なのかもしれないけど。

運命につねられた 赤い目の私がいて『「ただいま」』

たいようのいえ(1) (デザートコミックス)
タアモ
たいようのいえ
第01巻評価:★★★☆(7点)
  総合評価:★★★★(8点)
 

「今、この家に帰ってこなきゃいけないのが、すごくすごくうれしい--」……子供の頃、むかいの基(ひろ)の家に入りびたっていた真魚(まお)。その家に行くと必ず元気になれたから。数年後……父の再婚で家に居場所がなくなった真魚は、両親を亡くして以来、独りで家を守る基の家に住まわせてもらうことになったけれど……!?年の差幼なじみ2人の、明るく切ないラブストーリー!

簡潔完結感想文

  • 理由は違えど育った家庭を失った真魚と基。喪失感を抱えた2人は身を寄せ合うように同居する。
  • 昔からよく知っている相手の知らなかった顔。言い争いをしながらも、それが出来ることが嬉しい。
  • 母のように兄のように思っていた基への想いは恋⁉ 思わず告白してしまったが、どうなる同居⁉

(加筆修正中です)

礎工事・基礎設計が しっかりされた丈夫な家。そんな印象の漫画です。

物語が進むにつれ、がらんどう だった家と心が少しずつ満たされていき、幸福感に包まれる。
『1巻』時点では少し暗いお話ですが、それもまた基礎工事の一つ。
その上に『たいようのいえ』という建物は構築されていく。


ずは基本情報。

主人公の本宮 真魚(もとみや まお)は高校2年生の女性。

1話で語られるのは両親に振り回されてきた、これまでの彼女の人生。

共働きの両親は家を空けることが多く、料理も出来合いのもの。
小学生だったある日の夜、家に帰ってきた母親は父とは違う男性との結婚を告げた。

そして真魚は消去法的に父親との暮らしを選んだが会話も少なく、
最近、その父が再婚し、新しい母と妹が増えたことで、家での真魚の居場所は失われた。

温かなご飯、温かな家庭を知らずに育った真魚の中で、その象徴ともいえる家庭が、近所の中村家だった。


そして、もう一人の主人公と言えるのが中村 基(なかむら ひろ)。
男性・23歳・新人プログラマー

2話で語られるのは温かな家庭、家族を一度に失った基(ひろ)の過去。

仕事場が遠く父親の不在が続いた中村家だったが、
基の要望もあり引っ越した大きな家では家族揃って食事を囲むことが出来るようになった。

その引っ越しで出会ったのが真魚だった。
中村家の大きな家で基たち3兄妹と両親に温かく迎えられる真魚だったが、
数年後に中村家の両親は事故で他界してしまう。
基だけが大きな家に一人で暮らし、弟妹とも別々に暮らすようになった。

そして現在、住んでいた家での居場所を失った真魚と、
住んでいる家から家族を失った基が身を寄せ合って同居を始める…。

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何かと真魚の身の回りの世話をする基(ひろ)。母性?同情? いや、同病相憐れむ、だ。

軸となるのは、真魚と基の関係性である。

遠くの親戚より近くの他人という言葉通り、他者の方が手を差し伸べやすいこともある。
ましてや2人の目下の悩みに血縁者が関わってくるのなら なおさらだ。

2人は互いに欠けているものを補填するかのように同居する。

真魚にとって基はお節介な人である。
年齢や性別的に兄かと思えば、基は母のように何かと細かく真魚を注意し、そして家事もこなす。
しかし両親に存在を無視されるように育ってきた真魚にとって、そのお節介は くすぐったくもある。
自分を確かに気にかけてくれている人がいる。
そのことは今後の真魚にとって基盤となる出来事だろう。

これまで真魚は辛い現実に折り合いをつけるシェルターを構築してきた。
子供の頃から落ち込むと神社に駆け込むのも、その一環だろう。
そして父親の再婚の前後から逃げ込んでいるのが、ケータイ小説という架空の空間。

基の家もシェルターの一つだろう。
自分が大丈夫と思えたら立ち上がり帰るべき本当の家に向かうはずだ。
2人にとって、お互いの存在は かりそめの家族なのだ。


一方で、そんな基にとっても真魚との同居は苦労ばかりではない。
甲斐甲斐しく世話をするのも、それが何も全て優しさに由来する訳ではない。

真魚との同居を提案する直前まで基は、離れて暮らす実の妹との再会と同居に浮かれていた。
だが妹から同居の延期を告げられ、精神的に落ち込んでいた時に真魚に居場所がなくなった。

基にとっても疑似であっても真魚の存在は家族や他者を実感できる確かな存在なのだ。
真魚との暮らしは家族にこうしてあげたい、こんなことがしたい というエネルギーを発散できる場なのだ。

高校生の真魚から見れば基は社会人で、年齢差も感じるだろうが、
詳細な年齢は分からないが、基は高校生の頃(推測)に両親を亡くして、
それからずっと一人で家を守る使命に駆られて生きてきた。

穏やかで優しく母性まで感じさせてくれる人だが、
その裏でこの数年間、どんな思いで闘ってきたのか、
そこに想いを馳せるだけで、この人のことを好きになってしまう。
外見も格好いい人だが、一番惹かれるのは内面だろう。

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数年間ずっと大きな家に一人で暮らしてきた基(ひろ)。誰かと暮らす喜びを分かち合えることが嬉しい。

また、本当の家族・兄妹ではないから関係性が恋愛に発展することも可能だ。
『1巻』では真魚がその感情に気づいて、思わず基に告白してしまうところで終わる。

これまで不器用に距離を近づけてきた2人。
そこに恋という要素が入ることで、また新たな登場人物が入ることで、
どう話が展開していくのか、本書の構築する家の姿が楽しみである。


頭でも書いた通り、本書は基礎設計が入念にされているように思う。

全13巻の割には登場人物が多くなく、そして『1巻』の段階で、
ほぼ全ての人物の顔見せは完了しているのではないか。

連載の少女漫画には珍しく作者が書きたい作品を過不足なく描かせてくれている気がする。
同じ掲載誌『デザート』のアサダニッキさんの『星上くんはどうかしている』でもそんな印象を受けたので、『デザート』は私の好みの雑誌かもしれない。
こうやって次も『デザート』の漫画を読んでみようと思うのは良い連鎖ですね。

人気が出たから連載続行で、新キャラや新展開など増築に増築を重ねた構造の、全体として いびつな家より、
土台に見合った建造物を建ててくれた方が好ましく思います。

本書の場合は土台は大きさは基の家そのまんまだろう。
これまでは がらんどうだった基の家が温かな空気で充満すること、それが作者の目標ではないか。


なので作品の評価も全巻を通してして欲しい。
確かに『1巻』は、あまり気持ちのいい巻とは言えない。

なぜなら可愛らしい絵柄と裏腹に
真魚と基、2人の土台には不幸があるからだ。

基の両親の事故死という過酷な出来事も同じなのだが、
精神的には真魚の存在を無視するかのように生きる彼女の両親の存在が重い。

真魚に陰気さがないのは救いだ。
父や家庭に対して臆病にはなっているものの、基本的に明朗な人である。
勉学の面では頭は良さそうだが、基本的生活力はなく、不器用である。
そんな不器用さが愛おしくなり応援したくなる。
そんな点も本書は絶妙なバランスで構成されている。

本書の基幹となるのは人の優しさだ。
是非、そこが描かれるところまで読んでみてほしい。


また登場人物が増えるたびに面白さも掛け算式に増えていく。
真魚たちの恋路、真魚の家庭の事情、基の家庭の事情、
それぞれがどう変化していくのか、読み応えは十分だ。


全体的にはTBS系列で火曜10時でテレビドラマ化しそうな内容だと思った。
ドラマに興味ないんで見ないと思うが、
キャストと脚本に恵まれて、人気ドラマになって作品が注目されたりしたら嬉しい。
そのぐらいには作品が大好きなのだ。


余談ですが、女子高生(中学生)がケータイ小説を書いているという設定は『わたしに××しなさい!』を連想した。
出版時期(本書が2010年~2015年、『わた×』が2009年~2015年)も同じぐらい。
部門は違えど両者とも講談社漫画賞を受賞しているのも同じ。
主人公が不器用にラブを探すのも似てなくはない、か。