
青木 琴美(あおき ことみ)
カノジョは嘘を愛しすぎてる(カノジョはうそをあいしすぎてる)
第06巻評価:★★☆(5点)
総合評価:★★★(6点)
大物プロデューサー・高樹にスカウトされた小枝理子(リコ)のバンドデビューが、リコたちが通う高校の臨時全校集会で発表された!バンド名はMASH&Co.(マッシュ・アンド・コー)。ペプシネックスCM出演も決まり、新人バンドとしての破格の売り出しの準備が進む。デビュー曲はリコがファンである売れっ子バンド・クリュードプレイの心也が作曲。だが、その曲を聴いたリコの彼氏、そして天才サウンドクリエイターである小笠原秋(アキ)は言った。「僕が作りたい。理子の曲は」だが、理子は即座に断って…!?
簡潔完結感想文
- 未発表の心也の曲を聴かせてしまう16歳JKと それを強要する すねやすい25歳児。
- 大々的なデビュー発表後に決まる楽器担当。高樹に一番 認められているのは蒼太?
- 描かれる歌詞には どうしても実体験が乗る。描き手に回って彼の嘘は再度 暴かれる。
誠実な三角関係が継続するから嫉妬もまた継続する 6巻。
『6巻』で とても好きなのは、冒頭と巻末で歌詞を描く作業がテーマになっていること。冒頭で理子(りこ)は失恋を歌ったCRUDE PLAYの新曲が秋(あき)の茉莉(まり)とのことを歌ったものなのかを気にしている。いつもの物分かりのいい自分を捨てて理子は秋に歌詞が実体験を踏まえたものなのか恐る恐る聞く。秋は いつものようにカノジョに嘘をつき、理子も それが嘘だと承知で呑み込む。
でも巻末で自身のデビューに向けて歌詞を描く必要性が出た理子は、血肉の通った言葉を並べるには実体験が何よりも有効だと経験則を得る。秋への想いが溢れて言葉になることと、その裏の秋もまた元カノのことを想っているから胸に迫る歌詞を紡いだという、同じ道を通るからこそ分かる残酷な真実が美しかった。胸がドキドキするのと同様に、その胸から血が流れていないか心配になった。


また歌詞でいえば最初に高樹(たかぎ)に提案した蒼太(そうた)の歌詞は評価されているのも見逃せない。心也(しんや)にさえ容赦ないプロの視点で語る高樹は蒼太のことに関して何も否定していない。リズム感が悪くないと評されたからドラム担当になった蒼太だけど、高樹の その言葉に どれだけの価値があるかを分かっていないだろう。実は秋の対抗馬になれる逸材なのではないか。
それにしても理子は本当に物分かりが良い。それは秋にとって とても助かる分別だろう。これまでも秋の「嘘」について責めたことはないし、自分が秋の元カノのことを知っても理子は何も言わない。理子は自分から地雷を踏みに行ったら、その爆風で自分が傷つくことが分かるぐらいに賢い。その賢さで恋愛経験値の低い秋は助けられ、嘘を許容し続けることで彼らの関係は継続する。
しかし理子は一方的に我慢する側に回ってる訳ではない。理子は自分で決めた道筋を守る人で、何もかもを秋に依存しない。そのことが秋に触れられない理子の領域の存在を思い知らせる。それが心也との疑似的な三角関係を成立させている。通常ならヒロインが最初に好きになった人以外にもトキめくことで三角関係は成立するけれど、理子は義理堅さで それを成立させている。その領分を決して混同しない理子に好感を持った。理子が ちゃんと2人の男性を目的によって使い分けているから、その2人の男性は自分の頭上で火花を散らす。
考えてみれば本書は目の前の人が手の届かない領域にいて、触れられないことの連続のように思える。理子は恋愛面を秋に、そして音楽面を心也に託す。秋にとって心也はベースの演奏において手が届かないし、心也にとって秋は作曲において次元が違う。それは憧れと同時に自分の限界を知る諸刃の剣となる。だから2人は理子のことを譲れない。しかし判断を誤った秋には理子に手の届かない領域が出来てしまう。
それは茉莉も同じだろう。自分から離れることはあっても秋から離れることはないと思っていたであろう彼の離別に悩む。自分の不実や選択の失敗を棚に上げて、手が届かない場所に行ったからこそ秋への執着を増す。茉莉は悪循環のフラグが立っているけれど、いまいち不幸が始まらない。本書は全体的に展開が緩やかすぎる。
理子たちのデビューが決まったし名前も決まった。何もかも動いているはずなのに、何一つ始まっていない気がするのはなぜなのだろうか。本書は いつまでもイントロが続いていてサビどころか歌い出しにすら届いていない印象を ずっと受ける。確かなストーリーテリングだけど、本筋が見えてこない。
少女漫画的に重要な恋心の動きも、嘘であったとはいえ最初から交際する2人に盛り上がる余地はない。今更 告白するのも変だしキスも何度もしている。作品的に恋愛は二の次だから、読者が望むような高まりは得られない。
また前半の理子の部屋のシーンがそうだったように同一場面が続くことを避けるための場面の切り替えが とても唐突で違和感があった。
好きじゃないのは心也の作曲曲を理子が勝手に秋に聞かせている場面。世間に公表されていない曲を独断で第三者に聞かせることがプロとしてアウトだろう。それは9歳年上の秋も同じ。プロの世界に長くいる年長者が相手(心也)への嫉妬と詮索で年下の恋人を意のままに操っている。秋が大人の分別を見せる場面なのに幼稚。そこに幻滅する。
自分の優柔不断で理子をプロデュースしなかったし、理子に音楽に携わって欲しくないから歌を奪おうとした。その秋が理子に音楽面での欲を出す。秋は傷つきやすい「僕」というより、子供っぽい「僕」でしかない。そういう秋の性格も作者が描きたいところなのだろうけれど、性的に手を出さないけれど、相手を篭絡させる邪な男性に見える。
アチラは同年齢の双子の兄妹であったけれど、グルーミング的な精神支配という意味では『僕は妹に恋をする』の関係性に似ていると思った。そういう作者好みのヒーロー像が共通している。才能が無くて本当にニートでも秋は同じような恋愛をしたかもしれない。16歳に嘘や幼稚性を許容される25歳という字面だけ見れば かなり気持ち悪い男である。
理子に茉莉(まり)との過去を知られて瞬(しゅん)と泥酔した翌日、ボーっとしたまま秋は理子の実家に足を向ける。そこで理子の父親と出会い、彼が理子の彼氏が心也だと誤解していることを知る。
やがて理子が帰宅し、2人の間に緊張感と気まずい空気が流れる。理子は秋の過去の恋愛を聞きたくないけど知りたい。そこで秋の年収から聞く。秋の去年の年収は4億。それでも理子は自分が、目の前にいるのがCRUDE PLAYの作曲家・アキだという認識を持っていない前提を崩さない。そして秋の描く歌詞が実体験ではないという彼の主張を受け入れる。嘘を許容するのは理子の領分なのである。
そういう理子に秋は一生 そばにいてほしい ≒ 結婚まで考える。そして理子のプロデュース権を奪いたい意思を示す。けれど理子はもう心也と約束をしてしまった。そして心也は理子のための楽曲を既に作っていた。
心也の曲の秋、そして高樹の評価は平凡。高樹は心也に厳しい言葉を投げかけるが、それは彼のプロ意識やセンスの表れ。心也が守りに入った曲を発表して、世間から評価されても、その曲に輝きはない。高樹が世に出したいのは そういう曲ではない。
理子たちは高樹・心也に連れられてレコード会社に出向く。高樹は2か月後のデビューを画策しているが、担当はCD制作経験の無い女性・長浜(ながはま)であることが心也のプライドを傷つける。一方で蒼太(そうた)が中心となって書いた歌詞は、あの高樹に認められる。その凄さを理子たちは分かっていない。3人のバンド名はマッシュ(理子)と その仲間たちを意味する「MUSH&Co.(マッシュ アンド コー)」に決定する。


高樹の策略により理子たちは学校での緊急の全校集会の中で登壇させられる。そこで全校生徒にデビューとCMタイアップが発表される。高樹によって取材陣が集められ、期待を煽る用意された記事が即座にネットを流れる。そのプロモーション姿勢に秋は反発するが、自分から彼女の理子を守りたいとか言い出す訳にもいかず、一度 自分からプロデュースを断っている手前、高樹に何も言う資格が無かった。
デビューが決まってから3人の楽器担当が決まる。そして理子は高樹に(秋との)恋愛の歌詞を書くように命じられる。高樹は秋の茉莉との恋を歌詞から読み取ったように、理子の歌詞を通して秋を観察したいのかもしれない。
しかし恥ずかしさを押し退けて書いた歌詞はボツ。歌詞の中に自分の中で惚れた秋を表現しろと言われる一方、高樹はプロの作詞家を用意する。決められた期間の中で結果を出す、それが高樹のプロの仕事。
高樹がMUSH&Co.のデビューを発表したのは、心也が仕事で海外に行っているタイミング。心也はそれをプロジェクトから自分を外してアキの楽曲で勝負しようとしていると深読みする。この「僕」も傷つきやすくて、すぐに すねる。
