
青木 琴美(あおき ことみ)
カノジョは嘘を愛しすぎてる(カノジョはうそをあいしすぎてる)
第21巻評価:★★★(6点)
総合評価:★★★(6点)
「怪刀乱麻」のシバケンと2人で食事中の動画が、ツイッターで拡散されてしまった理子(りこ)。二人きりで食事に行ったと聞き、秋(あき)は嫉妬から愚痴を言い続ける。「せっかく久しぶりのデートなのに…」と言い出す秋に、驚く理子!「だってここ事務所じゃん!」「でも二人っきりじゃん!!」「こっち来いよ」といつになく強引な秋に、理子はドキドキしながら、事務所の会議室でキスをする。そんな2人の様子を見てしまった、秋の元カノ・茉莉は過呼吸に。秋は茉莉を助けるため、理子の前で人工呼吸をして…!? 遂に、二人にとって特別な朝が来る…!!“その後”を、雑誌掲載時より10ページ描き下ろし!!
簡潔完結感想文
- 「次の巻で終了して下さい。」のカンペが出されたので風呂敷を急いで畳み始める。
- 抱えきれない想いを放出した曲を一刻も早く大切な人に聞いてもらいたい(理子Ver.)。
- 説教臭いところ、反論をキスで封じるところ、相手の欠点すらも愛おしく思う明け方。
ヒロインは大トリを飾れない小物、の 21巻。
最終『22巻』がCRUDE PLAY巻になる予定なので、その一つ前の『21巻』は理子巻になる。そのため理子(りこ)の恋愛事情の総決算が起きる。まずは第1の当て馬の祐一(ゆういち)の告白。登場からずっと告白できなかった祐一だけど、理子が自己評価を低くしているのを見て、そこからの復活のために彼女に価値を与える告白に挑む。結果は要らない。だから これは失恋ではない。繰り返す、これは失恋ではない。こうして男女混成バンドが崩壊する原因の第一位であるバンド内の恋愛問題を静かに消滅させた。祐一は理子のことが一生好き、だけど その成就も願わないから理子は祐一との友情関係を失わないという結論のようだ。少女漫画における女1男2の三角関係では当て馬になった男性が納得することでヒロインが何も失わないという結末にしようとする試みが多く見られる。読者の分身であるヒロインは何も失わないことが万全なハッピーエンドに繋がるのだろう。


この祐一からの思わぬ告白と恋愛を巡る抱えきれない感情が理子に初めて曲を作らせる。この流れは好きだ。いつだって音楽家は自分から溢れ出す音を止められない。そして かつて秋が理子を想って曲を作り上げたように、今度は理子が秋への想いを曲に変換する。完成した途端に届けたくなるのも『13巻』の秋と同じ衝動である。こうしてレベルの差はあれど、理子もまた秋と対等な音楽家となったことが2人の関係性を発展させる。
そして朝チュン(元々朝だったけれど)で秋は理子の曲にアレンジを加える。この勝手に素朴な曲に付加価値を与える秋の編曲は彼の成長の無さのようでヒヤヒヤするけれど、理子は秋を「魔法使い」だと称賛する。心也(しんや)や高樹(たかぎ)のプライドを傷つけたことを忘れているのだろうか…。その他にも秋がキスで理子を黙らせようとする癖があるとか、機嫌を害すとクドクドと説教臭くパワハラ気味になるとか これまで感じてきた秋の欠点が理子によって指摘されているのは笑った。でも その欠点を含めて理子は秋を好きなのだろう。人を好きになるのに完璧さは必要はない。
最終『22巻』の感想文でも書くと思うけれど今回の理子の作曲曲が、作中では描かれることのないMUSH&Co.のサードシングルになるのだろうか。今なら心也も自作曲を歌わせたい拘泥もないだろう。セカンドの心也と秋に続いて、3枚目は理子と秋の共同作曲という形となり一つの到達点にも思える。『7巻』で理子は恋人にプロデュースされてデビューした歌手は大成しないと秋の楽曲提供を断っていたけれど3枚目なら問題はないのではないか。
また文化祭のシーンは理子たちのバンドの初ステージを描くために必要だったのだろう。音に厳しい高樹はMUSH&Co.に演奏できるまで数年単位の時間が必要だと見込んでいる。その猶予を与える事こそ高樹の愛の大きさなのだが、それでは作中で蒼太(そうた)たちが演奏できずに不完全燃焼になってしまう。
だからMUSH&Co.ではなく その前身の素人バンドとして彼らをステージに上がらせ、初めて観客の前で彼らの音を聞かせる。MUSH&Co.では発表できないオリジナル曲を披露できるのも素人バンドだからこそ。そこでメンバーの3人の才能を開花させ、最終巻を前にMUSH&Co.は盤石であることを示す。ピークが描かれない読者の不満よりもピークに到達する不幸の始まりを描かないことにしたのだろう。その役目は茉莉(まり)が担っているし。
業界関係者が観客にいることでMUSH&Co.は地力を見せることが出来た。特に理子以外に厳しい女性プロデューサーに一目置かれることでバンドとして改めて良い評価を受けるのだろう。
少女漫画の到達点である性行為まで至ったから理子と秋の関係は盤石でエターナルになるのだろう。ただ そこに至るまでの駆け足と回り道に納得がいかない部分がある。
それが『20巻』の秋のラジオ出演と彼が初めて届けた素直な想いが無意味になっていること。私としては この放送を聞いて眠れなくなった理子が早朝に秋の家を突撃して性行為でも良かったと思うけれど、作曲させる必要と、落としてから上げる少女漫画的な構成のために、その前に迷走が起こる。私が好きな場面が無かったことになっているような構成に疑問を持つ。
そして そもそも この構成では結局 理子の恋愛はCRUDE PLAYの前座でしかないということを強調してしまっているように思う。本来なら最終巻にあるべきヒロインの恋愛問題が、大トリを飾るアーティストによって前に押し出されただけ。大トリに時間をたっぷり用意するために最初から巻き進行を強要される紅白歌合戦を見ているかのような慌ただしさに映った。
ラジオの電波に乗せた秋のI LOVE YOUで理子は感動したのかと思いきや、シバケンとのスキャンダルを追求されて辟易。常々 秋は起こると居丈高にネチネチ言うタイプだと思っていたけれど、理子は そこが好きらしい。キスが最大の愛情表現で、それですべてを水に流す傾向のある2人は事務所内でキスを交わす。
その様子を茉莉が目撃し、彼女は自分の存在を2人に不気味に知らせるが、どう足掻いても自分は敗者。結局その現実に襲われて茉莉は過呼吸を起こして倒れる。茉莉との交際時にも そういうことがあったからなのか秋は冷静に対処し、自分の呼気を茉莉に送る。秋の中では緊急措置だけれど茉莉と、そして理子はキスだと捉える。
今度は理子がメンタルが不安定になり、MUSH&Co.ではなく高校生バンドとして出る文化祭の打ち合わせ中に泣き出す。そもそも蒼太(そうた)たちと組んでいたバンド名での参加だが さすがにデビュー済みで熱愛報道などの影響もあり高樹(たかぎ)が場を仕切る。
理子から連絡を無視された秋は、序盤のように瞬に相談。そこで瞬は秋の理子への想いの疑念を口にする(読者も思っていること)。こうして いつも通り秋の行動は1テンポ遅く、理子に会う前に理子に重大なことが起こっている。中盤までは それが心也の役割だったけれど、今回は祐一(ゆういち)が動く。祐一の告白は想いを伝える意味もあったけれど、メンタルが不調な理子を励ます意味が強かった。両想いにならないことは分かっていても理子のために一世一代の勇気を出した。まぁ作品的には祐一を成仏させる最後の機会という意味合いがあるのだろう。
実は1テンポ遅れたのはシバケンも同じで、彼は理子に会いに車を運転していた(なぜ住所を知っている…)。しかし そこで秋に遭遇し、秋がストーカー行為をしていると糾弾する。シバケンの宣戦布告となったけれど、祐一の告白でシバケンは当て馬としても二番手に降格している。
祐一の気持ち、秋とシバケンからの連絡を知った帰宅後の理子は今の感情を曲に変換する。明け方、その曲を携え秋に会いに行く。以前、秋は理子のための曲を作った時、いつ連絡していいか分からず理子の家の前に向かったことがあったが(『13巻』)、今回は その逆。
理子が作ったのは事実を織り込んだ率直な気持ちを乗せた曲。どうしても秋じゃないと駄目だという気持ちを歌ったその曲が秋を積極的にさせる。キスで機嫌を取るのではなく、理子の全てを知りたくなる。こうして2人は身体を重ねる。ピロートークで秋は理子の初めての曲を口ずさむ。そこから秋は理子の曲を編曲。心也は秋の編曲でプライドを傷つけられたが、理子は秋を魔法使いのようだと称賛する。
秋は これまで理子を支配したい方向で曲作りを考えていたけれど、理子の自作曲に触れて彼女の魅力を引き出す手助けをしたいと思うようになった。そう思えたのは ここまで劣等感と向き合ってきたから。そして劣等感に対する立ち向かい方を蒼太と祐一に学んだから。それが秋の変化となる。


文化祭のステージにはシバケンやテレビ局関係者が並ぶ。これが理子たちの初ステージ。プロのMUSH&Co.ではなく素人バンドだから拙い音にも評価は下されないのだろう。観客である生徒が理子をマッシュと呼ぶのは違和感があるけれど。
今回の演出家は祐一。彼にも才能があることが示されたか。オリジナル曲の作詞は蒼太。最初に高樹に見せた蒼太の歌詞は高樹に却下されなかった。それが蒼太の才能。『6巻』からの超ロングパスである。
