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少女漫画と小説の感想ブログです

事実と嘘を織り交ぜるマスコミに対して、僕は嘘を利用して真実をキミに届ける

カノジョは嘘を愛しすぎてる(20) (フラワーコミックス)
青木 琴美(あおき ことみ)
カノジョは嘘を愛しすぎてる(カノジョはうそをあいしすぎてる)
第20巻評価:★★★(6点)
 総合評価:★★★(6点)
 

「俺はリコの歌にあわせて演奏したくて ドラム叩いてる」「オレも」「だからさ お前も 俺達の演奏にあわせて歌いたいって思ってくれるんじゃなきゃ バンドなんてやる意味ないと思う。だから、これから何があっても、俺達には正直にいてくれ。手加減なんてしないでくれ。 友達なんだから。気を遣われ始めたら、もうそばにいられない」「ソーちゃん、ユーちゃん ハンパな演奏したら 叩き出すからね」「俺より上手いドラムなんて いくらでもいる。でも 理子の後ろで 一番気持ちよく弾いてやれるのは 絶対に俺達なんだ!」

簡潔完結感想文

  • MUSH&Co.が これからも活動していくために乗り越えるべき最初にして最大の壁の存在。
  • これまでなら言えなかったこと、これまでは受け止められなかったことを言い合う成熟。
  • 炎上しかねない火種も風向きを操れば延焼しない。秋は理子のリスクマネジメントが優秀。

つきはカノジョを愛しすぎている、の 20巻。

私は全22巻の作品だという前提で読んでいることもあって、それぞれの関係が成熟しつつあるのを感じる。

今回 久々に秋(あき)と理子(りこ)の恋愛関係が描かれる。ラストで秋は理子との熱愛スキャンあるを計算高く否定しつつも、その嘘を通じて理子が大好きでたまらない自分の気持ちを率直に電波に乗せる。秋は最初、理子を茉莉(まり)と別れるための自分の動機と理由に利用し、その後も理子のことが本当に好きなのか いまいち分からなかった。けれど今回の嘘を利用して理子を守ろうとする姿勢と嘘の中に混じる本当の言葉に秋の心を感じられた。この放送を受けて理子が どう思ったのかが描かれるのが今から楽しみ。

秋は理子のリスク管理に関しては異常な才能を発揮している。武道館ライブでも理子が異物だと思われない中の登場を上手く緩和する仕掛けを作っていたし、今回の週刊誌報道で理子がバッシングの対象となることを上手に回避している。秋をリスクマネージャーにすれば理子は今後 芸能界で厳しい立場に追いやられても逆転し続けるのかもしれない。2回の危機回避の実績は理子の明るい展望の保証に思える。少女漫画の一大ジャンルである芸能界モノでSNSの功罪を早々に取り入れているところも先見の明がある。

武道館で炎上を画策した寺田(てらだ)が理子の実力を見せつける音楽的な踏み台であるならば、シバケンは秋の理子への想いを見せつける恋愛的踏み台なのかもしれない。シバケンの好意が少しも理子に伝わっていないのは、双方において何もなかったことに出来るためなのかもしれない。

気の置けない幼なじみから気を遣われるような嘘の関係を彼らは望まない

た前半に描かれるのはMUSH&Co.が最初にして最大の分裂危機を乗り越えたこと。楽曲リリースという形ではソロ活動をしていない理子だけれど実質 理子はソロアーティストのような扱い。
今回セカンドシングルのレコーディングをするにあたり、蒼太(そうた)と祐一(ゆういち)はファーストでは出来なかった自分たちの音の採用をプロデューサーである高樹(たかぎ)に願い出る。高樹の耳を納得させる音が たった数か月の練習で会得できる訳はないのだけれど、きっと高樹は彼らが いつか自分たちの演奏で理子と共演する夢を持つ姿勢を示したことが嬉しかったに違いない。

そして これまで(特に前半は)横暴なプロデューサーとして描かれてきた高樹は実は誰よりも愛情が深いことが語られる。業界内や彼らメンバーの家庭が何と言おうと、高樹は かつて宣言した通り2人を見捨てることなく一生 食わせていく道を必死で模索するだろう。高樹がMUSH&Co.を世に出さないのは飼い殺している訳ではなく、芸能界というサバイバルな環境で2人が飢え死にしないだけのスキルを与えて猶予なのだ。

もちろん それだけではバンドとして成立しない。エアバンドであることを受け入れたはずのCRUDE PLAYが7年目に空中分解の危機を迎えたように いつか破綻が訪れる。理子以外の2人に飼い殺しに甘んじるか、高樹という保護者の許可が出るまで牙を磨くか、それに数年単位の時間をかける覚悟かあるかが問われた。
それは幼なじみの3人が対等であるかの確認でもあった。理子が少しでも他の2人の演奏に疑念や不足を抱いたら それでバンドは壊れる。だから2人は一流ミュージシャンとは違う自分たちの音を響かせる必要があり、今回は その試験を受け第一関門を突破する。技術的には未熟でも精神的なブレイクスルーは起こった。これがMUSH&Co.の未来が明るいことを予感させる。


して空中分解危機の先輩であるCRUDE PLAYも新しい関係を築いている。
活動休止を前に彼らは これまでの関係性の総決算を行っている。今回 心也(しんや)は秋にハッキリと憎しみを伝えるけれど、今の秋には同じだけの心也からの好意も感じ取っている。我慢強く我慢していた心也が一気に感情をぶつけても、もう2人の関係は壊れることはない。それは今回の楽曲制作で両者とも理解したこと。理子は2人のライバル関係を鮮明化するシンボルでありながら、同時に2人の仲を取り持つ鎹(かすがい)でもあった。

これまでオリジナルメンバーと後発メンバーという一線を作ってきた心也。最初から孤立を義務付けられ孤高であることが心也の代名詞になってしまったけれど、7年間一緒に活動して彼らは気の置けない関係になった。これ以上 早く心也が秋に憎しみを伝えても、これよりも遅くなるまで心也が我慢し続けてもCRUDE PLAYは崩壊していただろう。

ラストのラジオブースでの会話も秋と心也は決して仲が良い訳ではない。でも分かり合えている。相手が自分の良いところも悪いところも知ってくれているという安心感が確かにある。作者は この2人の こういう関係を描きたかったのだとハッキリ分かるし、それを しっかり描けている。自分の描きたいテーマまで しっかり話を繋げる力が作者にはある。


れまでの半生・高樹(たかぎ)編。幼い頃からピアノに触れてきた高樹は大学でバンドを組む。高樹が作曲するバンドの活躍はプロの目に留まり、デビューするもセールスは振るわない。自信家だった高樹は自分たちのスタンスの変更を考えられず、手の届かないメジャーシーンに毒づくことでプライドを保っていた。
やがてレコード会社との契約も終わり、自分たちの道を模索。しかし音楽業界は一度 失敗した者に厳しく取り付く島もない。それでもバンド活動は継続するものの恋人が妊娠したことでメンバーの一人が就職を選択。高樹は妊娠を夢を諦める言い訳にしたと怒りを覚えていたが、相手は高樹に引き留めてもらえなかったことで存在価値を失ったような気持ちになり、子の誕生の前に自殺を選ぶ。

自分の才能は、自分が選んだバンドは自然に売れる。それが高樹の慢心だったのだろう。曲を発表し誰かに聴いてもらえる環境を作る努力をしなかったから高樹の音楽は世間に埋没してしまった。音楽さえあれば幸せなメンバーを厳選したのに音楽で彼らを不幸にしてしまった。

そこから高樹は自分を変える。後足で砂をかけたプロデューサーに土下座をして音楽で生きる道に縋る。高樹は売るための手段を問わないけれど音楽に妥協しないのは失敗し大切な人を失った自分への罰なのだろう。


の音作りの信念があるからこそ高樹は蒼太(そうた)たちの演奏を認めない。それは蒼太たちが業界内で潰されないため。テレビ局の女性プロデューサーのように理子だけ需要がある現状で、蒼太たちが稚拙な音を一度でも響かせたら世間は その評価で固定してしまう。CRUDE PLAYも自分たちの音を響かせるまで7年必要だったように蒼太たちにも厳しく優しい管理が必要。それが もう誰一人 見捨てない高樹のもう一つの信念だろう。

演奏を巡る膠着状態を打破するのは今回のレコーディングディレクターである秋。一流のミュージシャンを待たせるよりも作業に入る方が効率的だと辛辣に語る。これは秋としては珍しい悪役に徹して、蒼太たちに一流との差を痛感させる流れを作った頭脳プレー。高樹は自分たちの実力を過信して音楽と仲間を失った。だから高樹は彼らに現実を見せつけ、そこから這い上がる道を地力を鍛えたい。


れでも蒼太たちはレコーディングに一区切りがついた際、演奏を熱望する。実力差がある理子と忌憚のない意見を言い合える対等な関係を彼らは望んでいる。理子が僅かでも自分たちを不必要と判断したのなら もうバンドではない。理子の性格を知る蒼太たちだから、先輩に助言を貰い彼女の歌に合わせる技法を磨いてきた。

メンバーと紡ぐ音は気の置けない幼なじみだからこその一体感があることを理子は実感する。しかし高樹は演奏の姿勢は認めるものの、当然のように彼らの音を採用しない。でも彼らは今回のレコーディングでバンドの現在地を確認できたはずだ。最初にして最大の壁をMUSH&Co.は乗り越えた。

そして蒼太の不屈の姿勢は秋に影響を与える。秋は自分より遥かに音が輝いている心也に簡単にベースの座を譲った。それは秋が潔癖で音に厳しいからでもあるが、心也に完敗する自分が敗走したに過ぎない。


カンドシングルの発売を前に、理子がシバケンと2人で食事をしている写真がSNSを駆け巡る。理子は出演するテレビ番組の共演者と食事会に顔を出したが、それはシバケンの計画。シバケンが食事会と嘘を付いて2人きりになりたかった。その場面が倫理観の低いアルバイトに撮影されてしまった。

トップアイドルの熱愛報道でSNS上で理子が叩かれる。これまで理子を炎上させたかった寺田(てらだ)は理子の名誉を守るため理子には彼氏がいると秋と映る画像を添えてSNSにアップする。寺田なりの正義感で彼女が以前と変わったことが描かれるが、これもまたアウティングである。シバケンファン、そしてCRUDE PLAYファンから叩かれる対象になり、学校でも芸能人・理子に対する くすぶっていた嫉妬や嫌悪が炎上を見せる。ここまで寺田が計算していたら策士だと思うぐらいの誘導だ。


子の熱愛報道を受け事務所で会議が開かれるが、それはシバケンのことや相手がアキ(秋)だと特定されただけでなく、秋が心也の代役をした舞台裏までバイトから密告されていたからだった。心也が体調不良ではなかったことが明らかになり、一連の騒動が理子と秋と心也の三角関係に起因すると推測する記事が出る事になった。

CRUDE PLAY内に確執があることを心也は否定せず、これまで秘めてきた秋への憎しみを初めて正面で口にする。しかし今の秋は音楽を通して心也と分かり合っている。そこには信頼がある。

ならばと心也は音楽的に秋を満足させない瞬以外のメンバーを例に取るが、彼らの存在は もはや秋の人生の一部。CRUDE PLAYになり、バンドが発展していくのに不可欠な存在。その中に心也も含まれようとしている。

心也の秋への憎しみの表明は、ヒロインの告白ぐらい勇気の証明で到達点

は この国民全員が芸能記者の現代社会を逆手に取る。
瞬のレギュラーラジオ番組に心也と出演して、仲の悪さや微妙な距離感を含めた ありのままの自分たちをリスナーに届ける。この放送では これまで面と向かって言えなかった悪口も そして互いへの評価や好意も届けられる。その嘘のないトークにリスナーは仲の悪いことを隠さない仲の良さという真実に触れる。だからリスナーたちは憶測の記事よりも自分たちの実感を真実にして それを自主的に拡散する。風向き一つで あっという間に炎上するのも鎮火するのもSNS社会なのである。

そして理子を巡る三角関係の件は秋の片想いとして触れる。実際は両想いの彼らだけど、理子はCRUDE PLAYの作曲家・秋の彼女として小物だと秋は冷静に判断し、ここで交際を公表すると世間は「女」を使って理子が のし上がってきたと判断してしまう。だから秋の片想いという設定で、秋が心也にプロデュースされる理子に嫉妬したり、時には奪ったりしたいと思っていることを電波に乗せる。それもまた秋の飾らない本心だからリスナーに、理子に、そして茉莉(まり)に その恋心が本物であることが伝播する。秋が本当に恋に落ちて、公共の電波を通じて初めて本気の告白した。