《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

卒業は いつも新しい世界の手前にある。僕らはファンに愛されすぎている。

カノジョは嘘を愛しすぎてる(22) (フラワーコミックス)
青木 琴美(あおき ことみ)
カノジョは嘘を愛しすぎてる(カノジョはうそをあいしすぎてる)
第22巻評価:★★★(6点)
 総合評価:★★★(6点)
 

とっくにCRUDE PLAYは5人のバンドになってたのに、4人でやろうとするから、おかしくなってたんだって、やっと気づいたんだ――。「この曲だけは、誰にも負けたくない」――学校の文化祭で行われたMash&Co.の初単独ライブは、アンコールが鳴り止まないほどの声援をうけ、理子(りこ)たちは感涙。一方、活動休止を発表したCRUDE PLAYは、ツアーファイナルのドーム公演ライブの打ち合わせを進めていた。秋(あき)から相談したいことがある…と、ラストライブのための新曲を聴かされたメンバー。それはツインベースの楽曲で…!? 青木琴美のスーパーヒット連載にして最高傑作! ついにファイナル!!!

簡潔完結感想文

  • 8年前のデビューと同じ曲名でCRUDE PLAYは再スタート。秋のモラトリアムからの卒業。
  • 高樹が育てあげた3組の歌手・バンドは これからも音と共に生きていくハッピーエンド。
  • 音楽活動の顛末を優先したため恋愛問題の顛末は明確にならず。シバケン不要説浮上。

たちの戦いはこれからだッ! の 最終22巻。

作中でプロデューサー・高樹(たかぎ)が見い出した才能が明日を見つける。厳しい商業主義に直面せざるを得ない音楽業界を描きながら、最も甘ったるい結末と言えるだろう。高樹はずっと 時に露悪的に憎まれ役を買ってでも自分が関与した者全てに その業界で生き抜くだけの実力と覚悟を育てていた。本書は高樹の大きな愛に包まれた作品と言えるだろう。それぞれの第一章が終わり、第二章が始まる。そして第二章を描かないことで彼らは永遠になる

読了して心配なのは過去最大の過失を取り戻してしまった秋(あき)は作曲の才能が枯渇しないか、ということ。これまで満たされないことで惨めさを音に変換してきた秋は、公私ともに順調になり彼から音が消えそうで怖い。そういう危惧を払拭させるためのラストシーンなのかもしれない。ただ理子(りこ)との恋愛を曲と歌詞に変換した後は世界平和を歌う大物アーティスト路線になりそう。CRUDE PLAYはピークを もう一つ作ることでバンドの価値を維持してきたが、ここからの舵取りが難しそうだ。

表紙はCRUDE PLAY。理子はいない。でも最終巻でしか この5人の姿、しかも全員が揃いのスーツを着ている姿は絶対に描けなかった。この夢のような5人の姿を描くために作者は8年間 作品に打ち込んできた。

今回、MUSH&Co.、そしてCRUDE PLAY、2つのバンドは最終巻にして自分たちの音を響かせる。どう考えても後者の方に重きが置かれている気がしてならないけれど、作者はちゃんと2つのバンドを明るい未来に導いている。作品の本体はバンド活動で恋愛は おまけ になっている上に、秋と心也(しんや)の反発と相互理解の方が理子よりも重きが置かれている。考えてみれば ここまでの3作品、作者は恋心を描くよりも その恋が成立する特殊な環境の描写に力を入れている。秋が被害者意識も多々影響している惨めさを克服して大人になったことは理子の幸せにも繋がるから恋愛方面でも未来は明るい、と思おうではないか。

今回MUSH&Co.は文化祭というプロではないステージに立つことで発展途上の演奏を可能にした。彼らは素人バンドとMUSH&Co.という2つの顔でステージに立ち、商業主義に呑み込まれかけた自分の音を取り戻す。しかも それは耳の肥えた業界関係者が認める音でMUSH&Co.の更なる飛躍が予感される。作中のMUSH&Co.は伸びしろがあることを示して終わる。
『5巻』の心也の回想で言及された通り「サードシングルこそが勝負曲」ならば まだセカンドシングル発売を控えるMUSH&Co.は次こそ本当の勝負となる。勝負のサードシングルのことを あれこれ考えるのも楽しい。『21巻』で理子が初めて作曲した曲なのか、引き続き心也と秋の共同作曲になるのか。もしくは秋へのコンプレックスを克服した心也が新境地を見せるのかなど選択肢は無限にある。さすがに秋の単独楽曲、ということはないだろう。もう秋は独占欲を爆発させるような幼稚な自分を卒業したはずだ。


してCRUDE PLAYもまた8年間の紆余曲折を経て一つの形に収斂(しゅうれん)する。それが心也を追い出さないままの秋の加入。再読して見ると『1巻』で瞬(しゅん)が「でもアキが戻って来たらツインベースでやればいいじゃん」と言っていたのは作者の伏線なのだと分かる。伏線というか結末そのもので自分からネタバレしに行っているけれど、作者が描きたいのは その結末ではなくて、そこに至る過程なのだろう。

『1巻』から作者はCRUDE PLAYの未来を描いていた。やっぱり恋愛は おまけ

主に秋と心也に何度も「惨めな僕」を体験させて、その痛みや憎しみを超えさせている。繰り返し描かれてきたように相手への敬意と憎悪を乗り越えて互いに認め合う。本書は秋が己の弱さを乗り越えてモラトリアムを卒業するまでを描くと同時に、最初から孤高を仕組まれていた心也が孤独を卒業し「仲間」を作るまでを描いた作品なのだろう。

活動休止を前に自分たちが密かに願っていた理想像を手にしたCRUDE PLAYだが、音に関しては どうなのだろうか。秋と心也は生演奏しているけれど、他2人のメンバーもそうなのだろうか。それともツアー初日のドーム公演と同じように本人たちの録音なのだろうか。どちらでもプロの演奏を卒業した本人の演奏だから引っ掛かるような問題ではないのだけれど。

一つのピークは凋落の危機で、CRUDE PLAYは活動休止という名の空中分解寸前。少なくとも心也の脱退は決定的だったかもしれない。けれど人数が少なくなりがちな芸能界においてCRUDE PLAYは脱退者を出すことなく追加加入で増員する。この5人体制は8年前のデビュー前では絶対に考えられなかったこと。それが表向きの円満と順調な活動をしていた7年間よりも、この1年弱で衝突をすることで理解が深まり5人のCRUDE PLAYの姿が明確になる。

ここからメンバーの誰もが納得した形のバンド活動が始まりCRUDE PLAYは新しい航海に出る。ピークアウトしたかと思いきや第二の黄金期を予感させることでCRUDE PLAYは永遠になる。まるで新人バンドのMUSH&Co.のようにCRUDE PLAYにも伸びしろが残されている。


ークアウトは茉莉(まり)の役目となる。ただ彼女は高樹(たかぎ)のケアによって破滅願望すら抱いていた自分の存在意義を取り戻す。

高樹は情に厚く、茉莉のもとを絶対に離れない唯一の男性となる。だから商業主義の歌姫という地位ではなく茉莉という歌手の色が出す方向にシフトするのだろう。彼女が歌うのは自分の歌。しかし その曲の作曲者は迸(ほとばし)る才能を見せる秋ではなく、以前のように高樹になるだろう。高樹の作曲とアレンジは以前のようなセールスを出さないかもしれない。茉莉が歌うのも愛や希望ではなく不安を含めた素直な心情。それは世間に一層 落ち目の印象を与えるかもしれないけれど、そうして自分の人生を歌うことが茉莉の強みになるだろう。
高樹は既婚者で子供もいる。でも結婚の倫理観よりも高樹は音楽の信徒である意識の方が強いだろう。自分が目を掛けた者、手を出した者を途中で見捨てない、それが高樹の信念だろう。そして高樹なら家庭にも茉莉にも注げるだけの愛があると思う。

茉莉と理子の造形と立場が、2009年の連載開始前に放送していた2008年のアニメ「マクロスF」に似ていると思うのは下衆の勘繰りだろうか。歌姫と新人歌手だと こういう形に落ち着くのだろうけど。


愛関係では既に秋と恋人関係にある理子は秋の恋人として世間が並び立ててくれるぐらいの実力と知名度の獲得を目指す。そのためにはメンバーとなった幼なじみたちの協力が必要。恋愛が音楽活動の一つのモチベーションになっている。いつの日か世紀のビックカップル誕生!とマスコミを騒がせるのだろうか。
秋が大人になったから、作中で見られたような恋愛でメンタルが不安定になって仕事に悪影響を与える心配は減っただろうか。ただ理子はファンと同じぐらいアンチが生まれそうで心配だ。CRUDE PLAYの活動休止騒動で学校内で誕生した新たなアンチは文化祭を見て意見を変えたのだろうか。私はドームで歌い出す前の笑顔 好きになれなかったよ★

その他の恋愛要素は急いで決着を付けない。心也へのコネとして蒼太(そうた)を利用した寺田(てらだ)告白は作中では描かれない。それは まだ彼女が変わる途中だから。いつか浅はかだった自分を乗り越えたと思える日まで告白は順延となる。

色々な人とフラグを立てていた実は恋を多き長浜(ながはま)は心也と喧嘩する仲で落ち着いている。お互いに素直になれない性格なので長期戦になるかもしれない。しかし長浜関連は よく分からないまま。瞬(しゅん)が長浜を好きであり続けているというフラグも回収されずにいる。まぁ理子に対して悪意を持った長浜が、作中で本当に格好いい存在の瞬と結ばれたりしたら荒れるだけだ。

要するにヒロインの理子様に少しでも害意や悪意を抱いたものは幸せになる権利すらないのだろう。少女漫画らしくない本書だけど、実に少女漫画らしいルールが適用されている。彼女たちは、作中最強の男性・瞬や もう一人の こじらせイケメン・心也、そしてNo.1精神イケメンの蒼太などの お相手になる資格の所持を本編中では許されない。

シバケンは秋に理子を奪われ、祐一(ゆういち)に告白する当て馬のポジションを奪われ中途半端に終わる。祐一じゃ秋がライバル意識を覚えるのには力不足だったからシバケンが考案されたのだろうけど、結局 告白は祐一に奪われている。後半からのイケメン追加キャラで それなりのページ数を消費してきたのに ただの浪費に終わっている気がしてならない。

そういえば ずっと秋をニートだと誤解していた祐一が ぬるっと受け入れている。あれだけ勘違いさせ続けた割に真相披露の面白さが用意されていなくて残念。連載において大きな流れに文句はないけれど、小さなフラグや布石が上手に機能しておらず惜しいと思う部分が少なくない。

本書は もはや一般的な少女漫画とはいえないので、多くの少女漫画で描かれるカップルの家族問題がない。家族の反対は祐一や瞬が担当しているし、ここまでのスターとなると両親や兄弟だけでなく遠くの親戚まで金銭的な援助を求めたりしそうだけど、本題じゃないから割愛されている。茉莉の家庭なんて お金で揉めそうだけど、音楽以外の俗世間の話は一切なくクリーンだ。クリーンと言えば茉莉は睡眠薬じゃなく危ない薬に手を出しても おかしくないメンタルだ。そういう部分を描くと似ていると言われる矢沢あい さんの『NANA』っぽくなり、いつまでも話が収拾がつかなくなるので音楽と恋愛的要素に絞り込んでいる、

あと重箱の隅をつつくようで悪いけれど、ラストの東京ドーム公演における描写は首を傾げざるを得ない。大きく よく通る声の理子はともかく、父親たちの声が あの関係者席からステージまで届くのは演出重視なんだろうけど無理がある設定だ。秋の誕生日を祝う役目を担っていた理子がマイクを持っていた、とか そういう現実的な手法じゃダメだったのだろうか。もしかしたら あの関係者席周辺にはマイクが仕込まれていたのかもしれない。


だの高校生バンドとして文化祭のステージに上がった理子たちだが途中からMUSH&Co.になりセカンドシングルを歌い、演奏する。この曲は蒼太(そうた)と祐一(ゆういち)がレコーディングを目標に練習し続けた曲。高樹からも一定の評価が出ているため演奏解禁となったのだろうか。作品として理子たちがMUSH&Co.としてもステージに立ち、生演奏をしたという到達点が描きたかったのだろう。この演奏はテレビ関係者の目に留まり、MUSH&Co.は音楽番組にバーターではなく単独での出演をオファーされる。まだまだ快進撃は続いている。

MUSH&Co.メンバーの中では唯一、バンド活動に反対していた祐一の父親も活動を密かに認める。表向きは最初の契約が終了する2年で辞めろ、という立場を崩さないが、息子が その期限までガムシャラに頑張る姿が嬉しくてたまらない。


全失恋に加え音楽活動に未来が見えない茉莉(まり)は行きずりの男たちに自分の身体を差し出し自暴自棄になっていた。その現場を高樹(たかぎ)が抑え、男たちを脅迫することで口止めをし、茉莉のケアを始める。

偽っている年齢的なこともあり茉莉は自分のタイムリミットに怯えていた。絶頂期を過ぎてしまい、死んで伝説になることも出来ないナイーブな時期が恐怖になり眠れない。出口の見えない明日に絶望する茉莉に高樹は歌手という本分を思い出させる。そして秋の楽曲ではなく、高樹の曲に、不安を含めた茉莉の心情を詩を乗せ彼女に存在意義を与える。


末のドーム公演でCRUDE PLAYは活動休止に入る。
そのステージに向けて秋は新曲を作っていた。タイトルはデビュー曲と同じ「卒業」。デビュー曲は高校生バンドだった自分たち4人を想定して作った曲。しかし自分と心也が交代したことで本来の4人でステージに立つことはなかった。そして今回の曲は4人ではなく5人を想定する。ベースは心也と秋の2人。

このスーツこそCRUDE PLAY正式メンバーの証。8年前に着ることを選ばなかった衣装

そこからドーム公演の日までの1か月、瞬は5人となった新生CRUDE PLAYの様子をSNSで伝え、ファンに秋の登場を事前告知する。心也を追い出すのではなく追加メンバーでありオリジナルメンバーだからか反対意見は見受けられない。秋がいるとバンドが陰気に見えるのは気のせいか…。活動休止を決めた時は様々な限界が見えていたけれど、5人のCRUDE PLAYの活動にメンバー全員 興奮気味。予告通りドームのステージに立った秋にファンは「おかえり」と声を掛ける。8年間まわり道をして秋は最初の場所に戻ってくる。代役出演だった『18巻』のシャツ姿ではなく、今回は秋が覚悟を持って衣装に袖を通しているのも感動的だ。


存の発表曲を全部歌い切ってCRUDE PLAYは活動休止の時を迎える。ラストソングは未発表の「卒業」。これは秋の8年間の まわり道の曲。それは逃避やモラトリアムからの卒業の曲。

この日は秋の誕生日。そして秋がベースを買って貰い音楽家として始まったの日。心也に合図された理子によりドーム内でバースデイソングの合唱が始まる。それが本当の最後の曲となり、メンバー全員に感動と そして終わりたくないという同じ気持ちが芽生える。だから満場一致でバンドの方向性が決まる。