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少女漫画と小説の感想ブログです

主人公と同じ長さだけ恋をしてきたサブキャラで描く「ただしい失恋のしかた」

やさしい子供のつくりかた(3) (デザートコミックス)
丘上 あい(おかうえ あい)
やさしい子供のつくりかた(やさしいこどものつくりかた)
第03巻評価:★★★(6点)
 総合評価:★★★(6点)
 

みっともないくらい、おまえが好きなんだ。一途な彼のつくりかたがわかる大人気シリーズ!! オレ、タケシ。幼なじみの花子とつきあいはじめて4年たつけど、今でもラブラブ。でも、大学からは初めて花子と離ればなれになる。隣で花子が笑ってないと不安だけど、オレたちは大丈夫だと思う……!? 大人気「Hな純愛ストーリー」。波乱の大学編スタート!

簡潔完結感想文

  • 自分の道を進んでいる花子と 流されるままのタケシ。男子は いつだって成長が遅い。
  • 高校生編と大学生編は時間の流れが違う。これまでの総集編のような日下の失恋日記。
  • 花子に涙を流させたくないと願うけれど、そう願った自分が彼女に涙を流させる。

学生だった彼らが読者の想定年齢に追いつく 3巻。

この『3巻』から大学生編が始まる。これまでは1話につき1年弱 経過するような時間の流れだったけれど、今回の大学生編から時間の流れが一般的な少女漫画に近くなってくる。これはタケシと花子(はなこ)の2人の年齢が、掲載誌「デザート」の当時 想定する読者の年齢に近づいたからだろう。読者が一番 読みたい等身大の恋愛模様になったために時間の流れが緩やかになったのではないか。

今回 良かったのは、高校生編と大学生編の間にあるサブキャラ・日下(くさか)の6年間の片想いを総括した話。主要キャラは内輪でカップルになっていくことの多い作品の中で、数少ない本気の恋が成就しなかったのが日下ではないか。主人公のタケシに恋をした時点で勝ち目のない戦いだったが、彼女の その6年間の片想いを通して、これまでの年月の流れを振り変えることの出来る良い構成だった。単なる総集編ではなく、日下視点で彼女がタケシの相手として花子を認めるまでを描いていて、ここまでの日下の登場シーンの裏側が余すことなく語られている。そんな日下も内輪カップルの成立のメンバーになっていくという終わり方も良い。主人公たちでは描けない「ただしい失恋のしかた」が しっかり描かれている。

花子の喜びは日下の絶望。それでも思い続けてきたから3年後に嬉しいことが起きる

日下をはじめとした周囲にいたら迷惑なキャラ(さつき やタケシの父親)を上手く動かせるのが作者の強みだと思う。塩梅を間違えると出てこないで欲しいと思うぐらいのキャラになってしまうが、作者の場合 迷惑な人間が憎めない。そこに作者の愛を感じる。そして そんな迷惑キャラの中にも誰かへの確かなキャラがあるから読者から愛されるのだろう。

大学生編は、高校の修学旅行回(『2巻』)が ずっと続いている印象を受けた。新天地では新しいライバルが出現するのは少女漫画での定石。読んでいて愉快ではない内容な上に、良からぬ方向に話が進み、いつもなら1話で解決する2人の すれ違いが回・巻を跨いで続くのが苦しい。
しかし修学旅行回の浮気未遂と違う理由を持ってきていて同じことが繰り返されていない。高校生の時は性欲に負けそうになったけれど、今回は心理的な欲求。相手を助けたいという やさしいタケシの心が彼最大の失敗を招こうとしている。

遠距離恋愛を軽々と乗り越えてしまっては連載のネタが無くなってしまうのだろうけれど、苦しい時期が長いのは読んでいられない。これまでが平和だっただけに最大の波乱に心が沈んでしまう。


「9時間目 受験のしかた」…
花子は専門学校に合格したが、タケシは大学受験が上手くいかない。クリスマスは返上して勉強したけれど いかんせんスタートが遅すぎた。浪人は出来ないと言われ、聞いたこともない大学を受験し、何とか6校目で合格する(願書提出とか どうなってんだとか、郵送による発表に時代を感じるが…)。しかし大学は千葉。この作品が どこを舞台にしているか知らないが、千葉は舞台となる××県から3時間かかるらしい。

遠距離恋愛が確定しても花子は気丈に振る舞うが、飲み過ぎて気持ちを保てなくなってしまい淋しいと本音を漏らす(高校の頃から平気で飲酒する時代なの?)。花子にとってタケシは自分の孤独を救ってくれた かけがえのない存在。その人が隣にいなくなることが どれだけ不安か。その気持ちを察せなかったことがタケシの今回の失敗。

こうしてタケシは高校を卒業する。中学の時(『1巻』)と違って花子はいないので、女子生徒が群がるタケシのネクタイは旧知の仲で、ずっとタケシを想う日下(くさか)に譲渡される。こういう中途半端な優しさが相手の女性を、花子を苦しめると日下は言っていたような…(『2巻』)。

「補習 日下理絵子の恋のしかた」…
高校を卒業してタケシと日下の縁も薄くなってしまうので、ここで日下が6年間の片想いに けり をつける話となる。日下視点での これまでの総集編のような内容にもなっていて、舞台が転換する幕間として良い配置である。この作品は少女漫画としては異質な作風だけど、登場人物が全員カップルになり、絶対に別れず幸せになるのは少女漫画らしい良いご都合主義がある。

日下がタケシを好きになった小学生時代は初キスを奪う。中学時代は合コンめいた企画でタケシが花子に想いを寄せていることを察知するが、持ち前の負けん気でアプローチを続ける。しかし その卒業式で2人の仲が確定。高校時代は片想いをするものの、さすがに諦めも滲んでくる。そんな高校時代に出会ったのがロン毛の辻(つじ)。日下に無関心なタケシと違って辻は悪態をつくが日下のことを実は ずっと見ていて仲が良いとも言える。
『2巻』の修学旅行回で麻生(あそう)がタケシに迫るのを見て、日下はタケシの彼女は花子だと認める。日下は地元の短大に進学。そしてタケシが県外の大学に進学することを知り、もう彼を追いかけられない現実に直面する。この寂寥感は花子と同等ではないけど、同質のものだろう。

落ち込む日下を不器用に励ますのは辻。そして高校の卒業式で日下に告白して完全燃焼させる。日下が告白できたら辻はロン毛を切るという。タケシの前に出ると小学校から続く彼に媚びた態度になってしまうが、最後にネクタイを渡され、その充足感で日下は満たされる。約束通り髪を切った辻と、約束していないのに髪を切った日下は、悪友ではなく男女として互いに向き合う日々が始まる。辻にとって、遠くから好きな人を見る日下の姿は、好きと言えない自分と重なるから苛立ったのだろう。

「10時間目 遠距離恋愛のしかた」…
出会いから12年強、そして交際から4年半で初めて隣に相手がいない日々が始まる。タケシが大学で最初に仲良くなったのは同じ商学部の新入生・袴田 光世(はかまだ コーセー)。コーセーは交際1年半の彼女と共に入学したけれど、彼女は病欠。翌日、その彼女・美怜(みれい)と初対面。タケシは美怜の物憂げな表情が気にかかる。

知り合った3人は誘われるまま飲みサークルに加入する。テニスやダンスなどのメインの活動をそっちのけで飲み会を楽しむサークルではなく、本当に飲むことを目的としたサークル。そうして美怜と接触する内にタケシは彼女の手首にリストカット痕らしきものを認める。

花子も新しく人間関係が広がる。その人間関係に男性もいることがタケシは不安で不満。だから せっかくの電話で悪態をついてしまう。そして今の彼らは仲直りのために顔を見せることも出来ない距離がある。いきなり遠距離恋愛の難しさを思い知るタケシの部屋に花子が初めて訪問する。自分が抱える不安や不満は花子も抱えるもの。それをタケシは思い知る。

やさしい人に囲まれた地元を離れて出会う様々な人や価値観。やさしいタケシは…

「11時間目 浮気のしかた」…
花子に頻繁に会いに行くためにもタケシはゲーセンでバイトを始める。このゲーセンのバイトでは人間関係や物語に展開はない。この頃のタケシは遠距離もあってか花子に対する言葉が優しくて甘い。

遠距離問題を乗り越えたばかりもあり2人の間に波風は立たないが、コーセーと美怜カップルの問題にタケシは巻き込まれる。美怜は ますます物憂げになり 遂にはタケシの前で倒れてしまい、その看護の際にタケシは美怜の身体に内出血の痕があることに気づく。コーセーの美怜への冷淡な態度からタケシはDVの可能性を考える始める。

しかし ある日、タケシの部屋の前で座る美怜の顔にアザがあることを確認しタケシは唖然とする。美怜を追いかけてきたコーセーは事情を聞こうとするタケシに対しても暴力を振るい、タケシは否定したかったDVを確信する。連れ去られようとする美怜を守るためにタケシは身体を張るが、その際に外階段から落ちてしまう。
その光景を見てコーセーは我に返り逃亡。残された美怜がタケシの部屋で傷の手当てをする。コーセーは美怜への独占欲や執着が暴力による支配へと移行したようだ。体中 アザだらけになってもコーセーの支配から逃げ出せないことに絶望しかけている美怜。そんな彼女が縋るのは恋人に対して優しいタケシだった。タケシを求めることは そんな彼の特性を変質させてしまうのだが…。