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少女漫画と小説の感想ブログです

これからも夫として父親として失敗し続けるかもしれない おれの幸福な日々。

やさしい子供のつくりかた(6) (デザートコミックス)
丘上 あい(おかうえ あい)
やさしい子供のつくりかた(やさしいこどものつくりかた)
第06巻評価:★★★☆(7点)
 総合評価:★★★(6点)
 

「花子、おれと結婚してください」。オレ、タケシ。幼なじみの花子とつきあってもう8年半がたつ。二人の就職も決まり、ついに同棲を始めた。初めはすれ違いもあったけど、今は落ち着いてる。そろそろ……アレかな? オレもちょっと頑張ってみっかな!! みんなと一緒に愛をはぐくんできました! 大人気「Hな純愛ストーリー」。涙が止まらない感動の完結編!!

簡潔完結感想文

  • 同棲が孤独の始まり!? すれ違っても2人で方向性と味覚を合わせて おいしい毎日。
  • 理想の結婚に夢を見るタケシは目の前の人が見えていない。タケシ最後の失敗。
  • ここまで作中で2回しか泣かなかったタケシが泣き続ける愛に溢れた最終回。

者と登場人物 全員号泣、の 最終6巻。

少女漫画で描かれる結婚式で こんなに感動のは いつ以来だろか。涙、涙、涙、そして最後までタオルで涙を見せないようにする あの人の姿に涙。主人公のタケシはアホで生意気な子供だったけれど、それは両親がタケシを寛容に育てたからだろう。結婚相手となった花子(はなこ)や『5巻』で登場した園児のように、家庭環境で窮屈さを覚えてしまったら ここまで伸び伸びと育たない。そんなタケシだったから その大らかな愛で花子の気持ちを救った。花子の家族は実父を除いて全員 血が繋がっていない。それでも花子の家族は家族であり、(大人たち)全員が結婚式で彼女を思い涙を流した。そんな家庭になったのは間接的にタケシの存在が大きい。

出会いから ずっと関係性を維持してきた人たちの列席と祝福と号泣だから泣ける

本書はタケシの失敗談と黒歴史の集合体。今回も同棲してもプロポーズの直前でもタケシは大きな間違いを連発する。花子を泣かせないと誓う割に、彼は花子を泣かせ続ける。でも きっとマイナスを合算しても きっとタケシが花子と その家族を救ったプラスの方が大きい。だから それでいいのだ。きっとタケシのことだから、これからも小さなミスが絶えないだろう。浮気などはないにしても、夫として父親として未熟なのは目に見えている。でも ここまでタケシの成長を見てきた読者ならば、きっとタケシは未熟さを克服するだろうと信じられる。願わくば、彼の寿命が10年20年奪われたりせず、末永く花子たちと幸せに暮らして欲しい。


書は いわゆる少女漫画が描く理想の恋愛とは ほど遠い。タケシは少し顔がいいけれど頭は悪いし、少しもヒーローっぽいことをしない。でも本書は間違いなく恋愛の理想像だと言える。

そう言えるのはタケシと花子のように お互いに初恋の相手と恋をし結ばれ結婚という「スタートライン」に立てる人は この世界の ほんの一握りしかいないからだ(でも本書の内輪カップルは その一握りが結構いるけど…)。多少の波風はあったものの、結局この人しかいないと思う人と添い遂げる。だから本書は読者の理想となる。未熟でも格好悪くても ここには普通の、そして これ以上のない幸福が描かれている。そういう作品に出会わせてくれたことに感謝したい気持ちでいっぱいだ。

やっぱり1話からタケシのことを 程よい距離感で見守ってきた父親、そして誰よりも お節介に叱ってくれた花子の兄嫁・さつきが良かった。特に さつき は花子の一番身近にいる相談相手にもなってくれて、この未熟なカップルを支えてくれた恩人である。結婚式で彼女が号泣しているだけで こちらも泣けちゃう。1話で さつき が言った言葉が最終回で また使われる構成も良かった。実は もう結構な年齢なのに最後まで老けなくて羨ましい限り。
それにしても「Hな純愛ストーリー」という内容とそぐわない看板は外せなかったものか…。

「20時間目 同棲のしかた」…
2人とも就職したタイミングで自宅近くにマンションを借りて同棲を始めた2人。しかしタケシは旅行会社で添乗員として全国を飛び回る日々。それに加えて仕事が急に入ったりして同棲しても生活は すれ違い気味。

同棲が始まって味覚オンチの花子の手料理を食すことがタケシの苦痛になりつつある。しかし そのことが花子に伝わってしまい彼女は静かにショックを受けるだけ。それがタケシの心に引っ掛かるが、また仕事で別々の日々を過ごすことになる。

タケシの仕事紹介をしつつ、離れても花子のことを考えることでタケシは彼女の悩みの根源が分かる。そして帰宅後、2人で一緒に料理をして花子の味覚オンチの原因が解明される。花子は実家を出るのが初めてで、その上 タケシは家にいないことの方が多い。名ばかりの同棲は孤独を際立たせてしまった。そこでタケシは花子の心の安定のために新しい家族を迎える。金銭面が やや心配だけど、これは作者が実生活で犬を飼い始めた影響であろう。

「21時間目 結婚のしかた」…
(この頃は20歳だった)成人式回(『5巻』)で結婚宣言をした日下(くさか)は23歳で結婚。すぐにでも、という感じだったけど このタイミングになったようだ。新婦姿の日下を見てタケシは自分たちの結婚について考え始める。

そんな頃、花子の妊娠が発覚。予期せぬものだったので花子は動揺。花子はタケシに話を切り出せないままいた。それはタケシが花子の体調の変化や抱える不安に気づいていないから。そして決して表には出さないけど、浮気未遂の時のことがトラウマになっている。ただでさえ初めての予期せぬ妊娠で不安な時に彼と一緒に暮らす心配が浮かんで言えない。タケシが花子に無関心なのは、自分の関心がプロポーズに向いていたから。一世一代の大勝負と意気込むタケシは、大切なことを見逃している。

最後まで失敗するタケシ。性別関係なく少女漫画の主人公は自分のことばっかり

タケシは自分の考える理想のプロポーズを実行することで頭がいっぱいで花子に つわりの症状が出ていることに まるで気づかない。またも彼女の涙を見て自分の愚かさに気づかされるタケシだったが、タケシは違う方向で花子のことをずっと考えていた。だから花子の不安を取り除き、2人の考えを同じ方向にするために結婚を申し込む。

「最終授業 やさしい子供のつくりかた」…
『2巻』で「避妊のしかた」を学んだはずなのに、妊娠したのは事故。ただしタケシは もしもの時は責任を取ると言っていた(それを忘れていた)。これもタケシ(と花子)の失敗と言えるけれど、その前から2人の方向性は決まっていた。妊娠は将来的なスケジュールを少し早めただけ。

安定期になって花子は保育士の仕事を続けている。そんな日々の中、実母の命日が訪れ花子は作中で初めて墓参りをする。これまで それが描かれなかったのは花子が実母と接すると今の家族が偽物みたいになってしまうからだろうか。そこで花子は母親に妊娠を報告する。
しかし花子は妊娠中毒症の予備軍と診断され、仕事を休む。その後、保育園が開いてくれた お別れ会に出席し、この日 タケシは保育園まで花子を心配して迎えに行き、タクシーで予定されていた検診に向かう。しかし その車中で花子は倒れ、即入院。元々 血圧は高くなっており検診で指摘されていただろうが、タケシが迎えに行ったことでスムーズに受診できたと言える。

タケシは医者から、出産はリスクが高く、母体か胎児か どちらかの命の選択を迫られることを告げられる。タケシは呆然としながらも しっかりしている。それよりも育ての母親の慟哭、さつき の動揺に どれだけ彼らが本当に家族を大切にしているかが垣間見られ心を揺さぶられる。
その後、タケシは初めて花子の実母の墓参りをする。そこで自分が花子たちを幸せに出来ていないことを告げ、泣きながら助けてほしいと懇願する。そして親族が集まる中、手術が始まり無事に終わる。生まれた男児に初めて会うのはタケシ。その命に触れ、タケシはまた号泣する。

出産後に予定していた結婚式を花子たちは延期するつもりでいたが、やさしい人たちの後押しもあり予定通りに執り行う。これまでの登場人物が一堂に会した結婚式。ここで2人の子供が「大喜(ヒロキ)」であることが発表される。

式が始まる前から花嫁側の親族は大号泣。あまり出番の無かった花子の実父が泣いていて、彼の人生も色々あったのだろうと想像できる。結婚はゴールではなく2人のスタートラインだという さとキンの言葉も良い。花子の家族に向けた感謝の言葉、そして式の終わりに新郎側から挨拶を述べるタケシの父親の言葉も涙を誘う。そして おそらく作中で一度も泣いたことのないタケシの母親も涙を浮かべていることに子供の結婚は親としてのゴールなのかと思ったりもした。タケシの挨拶も、本書が2人の10年間を描いてきたからこその説得力がある。結婚式を終えて行きつけのスナックで一息つくタケシの父親の姿から彼の息子への愛情の深さを感じる。

それから5年後、5歳になった大喜はタケシの子供らしく父親と同じ悩みを抱える。そんな大喜に助言を送るのは、かつてタケシに助言を送った さつき の子供の あゆ太17歳。タケシが あゆ太誕生の際に送られた言葉が17年後に次世代に語り継がれる。大喜も きっと誰かを幸せにする人になれる、そんな希望を感じながら ゆっくりと本を閉じた。