
丘上 あい(おかうえ あい)
やさしい子供のつくりかた(やさしいこどものつくりかた)
第05巻評価:★★☆(5点)
総合評価:★★★(6点)
「花子(きみ)のために世界中の花を」。オレ、タケシ。幼なじみの花子とつきあって4年半。オレの浮気未遂で一度は別れたけど、やっぱり花子が本当に必要だって気づいて再会した。花子が出した仲直りの条件は“花子の好きな花を探す”こと。ってどーすりゃいいんだ!? みんなが知りたい本音がいっぱい! 大人気「Hな純愛ストーリー」。感涙の仲直り編!!
簡潔完結感想文
- 浮気の件を今後 不問にするための謝罪の儀式。欲しいのは花ではなく誠実さ。
- 保育士の花子は一足早く社会に出るが悪戦苦闘。タケシが珍しくヒーローしてる。
- 大学受験に続き就職活動も苦労するタケシ。今度は花子が袋小路から脱出させる。
しっかり者ヒロインの珍しい失敗、の 5巻。
本書はタケシが男性主人公ということもあり、彼の失敗を集めた黒歴史本とも言える。花子(はなこ)は賢くて そつがなく これまで大きな失敗をしていない。しかし専門学校を経て保育園に保育士として就職して初めて保育士の仕事の壁に ぶち当たる。これまでは恋愛だけが彼女の感情を揺るがしてきたが、今回 初めて花子は それ以外の問題で涙を流す。
この花子の保育園での失敗で改めて感じたけれど、本書は何事も一方的に悪役を配置しないところが良い。今回の話も園児と その家族を悪役として描けるところなのに、花子の方も保育士としての資質が欠けていたと園長に言わせ、その言葉に花子もハッとなる。この塩梅が上手くないとヒロインが絶対正義の作品になってしまう。そして そういう作品は どこかに歪みが出てきて読者として読んでいて気持ち悪い。作者自身が花子と一定の距離を置いて見守る保護者のような立場でいることが嬉しい。


そして この話はタケシの大きな器を感じられるエピソードにもなっていて、花子にとってタケシという存在が不可欠で見習うべき人だということが伝わってくる。こんな風にタケシが成長できたのは浮気(未遂)という本書の黒歴史の中でも最大級の失敗を経験してこそなのだろう。黒歴史を重ねて男のことは大人の男性になる。そんなことを思わされた。
黒歴史を元同級生たちからイジられまくるのは、イジってもタケシが本気で怒らないからという周囲の安心感があるからだろう。バカだけどアホだけど、底抜けに やさしいことを皆 知っている。そしてそんなタケシの性格が今回 花子の救いになるという流れが良かった。
タケシは大失敗で交際後、初めて別離期間を経たことで互いが不可欠であることを思い知り、2人の恋は愛へと変化し始めている。だから彼は初めて花子との子供を望む。就職活動では自分の未来が見えなかったが、人生では先に未来が定まっている。その気持ちはタケシだけじゃなく花子も同じ。人生を歩むなら この人しかいない。それが離れたから見えてきた真実。
人生で一番大切なことが分かったのだから、タケシはもう大きな失敗をしないだろう。
「16時間目 仲直りのしかた」…
タケシの「浮気」の罪滅ぼしとして、花子は自分の好きな花を探してきて正解することで許す、という条件を出した。花子は「許さないし なにもしない」と言っているけど、もうしている。
花子の好きな花なんて知らないタケシは手当たり次第に花を贈る。しかし失敗続きで散財続き。闇雲に手を出しても埒が明かないと考えたタケシは花言葉に気持ちを込める。しかし それも外れ。大学が再開されてからは宅配を利用して花を送る。
そんなタケシの前にコーセーが久々に現れる。今は自分のDVと正面から向き合い大学を休学してカウンセリングを受けている。作中で美怜(みれい)とコーセーが復縁する描写はないが、身内カップル製造機、そしてカップルは別れない少女漫画だから いつか再会するのだろう。コーセーの退場によって浮気編も終了する。
花を贈るのはタケシが花子と向き合うこと。花子はタケシの贈った花が100本に到達したことで全てを水に流す。


「17時間目 成人のしかた」…
浮気編で時間の流れが緩やかになったが、その次は もう成人式。成人式では同窓会再びという感じで懐かしいキャラたちが集合する。タケシの黒歴史が次々と暴露される中、さとキンカップルの成立過程が初めて語られる。総集編としては『3巻』の日下(くさか)視点の話の方が出来が良い。その日下が仲間内で最初に結婚予定を発表する。相手は辻(つじ)。
タケシは酔ったこともあって珍しく花子にストレートな愛情表現をする。そんな2人の様子を仲間たちが陰から こっそり見守る様子は中学時代(『1巻』)から変わらない。
「18時間目 花子の就職のしかた」…
専門学校の花子は成人式を終えると すぐ卒業。地元の保育園に就職した。新人保育士として悪戦苦闘する花子の様子が描かれる。少女漫画で ありがちなエピソードだけど、一人のトラブルメーカーの園児と花子は向き合うことで成長する。子供の問題行動を保育園の責任とする母親、というのもテンプレな配置。この園児は母親の再婚によって新しい父親と小さい妹がいる。
花子はタケシと再会しても仕事のことで頭がいっぱい。日々に追われて身なりも綺麗じゃないことに気づくが、タケシは花子の本質は変わらないと少しも幻滅しない。そんなタケシに元気をもらい花子は仕事に向かう。しかし園児のことが周囲の保護者の間でも問題になり、花子のストレスも限界。ある日、園児にキツい態度で接すると最初は抵抗していた園児が、急に泣き出す。
園児に苛立ちをぶつけてしまいそうになった自分の失敗に花子は珍しく号泣し、そしてタケシにも八つ当たりしてしまう。けれどタケシは そんな花子の感情を受け入れ、問題児だった自分だから分かる その園児の気持ちを代弁する。タケシに救われ守られた気持ちになった花子は園児に対する愛情を新たにする。園長は園児の家庭環境を把握していたが、花子に先入観を持たせないため体当たりで学ばせた。そして花子もまた昔は新しい家庭環境に順応しようと感情を押し殺していた側の人間。そんな時にタケシに救われた。花子を絶対正義に描かないけれど、タケシが いつの間にかに頼れる存在に なり過ぎているきらいがある。この回でタケシが花子との子供を欲したのは最終回への布石だろう。
「19時間目 タケシの就職のしかた」…
大学受験と同じように手当たり次第に就職活動するタケシは40社連続で内定が出ない(就職活動がアナログだ。この世界にIT技術は無いのか)。父親や花子の兄など身近な人に仕事に対するモチベーションを聞き回るタケシ。
落ち込むタケシに花子は旅行を提案する。2人で初めての旅行ということでタケシは楽しんで行き先を考える。そんな中で立ち寄った旅行代理店の社員に接して、旅行会社への興味が湧いてくる。
旅行中に花子はタケシがタケシらしく いられることを願う。花子という存在がタケシの道標なのだろう。花子が落ち込んでいる時はタケシが、その逆なら花子がタケシを支える。そういう成熟した関係性が見えてくる。
その後タケシは興味のない大手企業よりも名前も知らない旅行会社の面接を選び、そこで人となりが見えてくるタケシの言葉で質問に答えることで内定を得る。
