かみのるり
棗センパイに迫られる日々（なつめセンパイにせまられるひび）
第07巻評価：★★☆（5点）
総合評価：★★☆（5点）
筋肉に目がない日比華帆は、バスケ部の棗先輩とついにお付き合いを開始！ カラダだけの関係から心もめでたく繋がったふたりは、ラブラブ絶好調。・・・と思いきや、彼氏になった先輩からの猛攻や、棗の幼馴染でライバルである一慶からのリベンジ告白もあり、波乱の連続！？ たくさんの荒波を愛と筋肉で乗り越えたふたりは、さらなる最強カップルへーー！ 理想の筋肉に、攻められ迫られまくりのムキムキラブコメ、LOVE＆POWERがつまった超絶ハッピー最終巻！！！
簡潔完結感想文
- 1話から最終話まで棗の筋肉と溺愛を堪能できる作品。筋肉 見て顔を見ず、が勝因か。
- 一慶の けじめかと思ったら熱愛の継続宣言。ってか 男たちは告白にキスが必須なのか!?
- 最初からイチャイチャの2人だから交際後も大きな変化が見られない。幕引きは妥当な判断。
告白の その後を描く 最終7巻。
作品の結論は、男性たちに愛されてヒロインは迫られ続ける日々はネバーエンディングである、というもので読者の承認欲求を上手く刺激している。一つ残念なのは棗（なつめ）と一慶（いっけい）の友情の証ともいえるキーホルダーの処理。作中で行方不明になったまま最後まで出てくることはなかった（一慶のキーホルダーが まだ華帆（かほ）の手にあるのか、それとも返却したのか どちらだったか）。
前半で重要アイテムの予感をさせておきながら、2人の幼なじみの友情が回復した後も それが使われることが無かったのが惜しい。中学生までの一慶が無駄だと切り捨てていたことの中に恋愛があったが、彼が華帆に恋をすることで無駄の中にある価値を見い出した。これにより一慶の中で棗の考えが正しかったことになり、棗に対しての遺恨は完全に消失した。そこでキーホルダーが登場し、2人の完全な和解（恋愛面では一生ライバル）を演出すれば良かったのに と思わざるを得ない。他の部分は悪くなかっただけに、この一点が心残りとなった。
物語に当て馬・一慶が登場してから、彼とヒロイン・華帆は同じ速度で成長していった。自分の中にある特定の人への感情が恋だと気づくまでに時間がかかったし、それを相手に伝えるのにも時間がかかった。この『7巻』は相手に想いを伝えた後の彼らを描く。相変わらず棗は どんな華帆も全肯定してくれていて、彼は徹頭徹尾 華帆に愛と筋肉を注ぎ続けてくれた神様であった。
華帆と棗の交際模様は予想範囲内。交際以前、というか1話からイチャイチャしているような2人だから関係性が あまり変わらない。華帆は相変わらずテンパってばかりで、それを棗が愛おしく面白がるという構図のまま。大事な場面で鼻血を噴射したり気絶したりするからオチも同じ。このまま続けていてもワンパターンに陥ってしまうので早めの幕引きを決めたのは賢明か。
最終回までの1巻分の短い交際描写となることが決まったからなのか、あれだけ恋に奥手だった初恋の華帆が、早々に初体験に挑もうとする。これが あまりに性急で戸惑う。何かと理由を付けて逃げ回っていた華帆が棗に跨って彼の性欲に点火するシーンは華帆に対するイメージが変わってしまった。しかも性行為に挑みました、未遂・未達成に終わりました、という結論が欲しかっただけなので、華帆は その次の回では性欲など忘れ去ったかのように棗を放置している。これもまた疑問で、華帆が自分勝手な人間に見えてしまう展開だった。
棗は ずっとスパダリで あり続ける。余りに理想的すぎて もう人間味が無くなりかけている気もする。なぜ棗が ここまで華帆に尽くしてくれるのだろうか、と当初の疑問に立ち返る。これは一般の女性が棗の容姿だけを褒めるのに対して、筋肉バカの華帆は棗の顔の造りに一切 興味を示さなかった。自分の本質を見てくれた、ということなのだろうけれど、そこからずっと溺愛するには理由が弱い。華帆のキャラクタも含めて彼女の全部が好き。そういうことにしておこう。
1話で いきなりキスした割に、性行為に対しては及び腰というのも よく分からない描写だった。華帆を大事にする余りなのは分かるが、ならキスもするなと言いたくなる。華帆の1話限りの性欲と同じで、作者が描きたい場面に合わせて その時々でキャラクタの行動が変化していると思う部分が少なくない。
このキスも筋肉も棗は華帆の平常心を奪ってドキドキさせることで それが恋のドキドキだと錯覚させている、という作品を台無しにする読み方も出来る。恋愛マスターの立ち位置にいる棗にとって華帆の恋心のコントロールなど造作もなく、実は華帆は終始 棗に誘導されていた、という見方も出来なくはない。これをグルーミングとするならば本書は筋肉調教の物語といっても過言ではない（絶対に違う）。
一慶が華帆への想いを吹っ切ることなく、彼もまた ずっと華帆のことが好きというのは当て馬として正しいだろう。こうして華帆は筋肉を愛でていたら いつの間にか この世界のトップ2イケメンから愛されていました、という無自覚な最強ヒロインであり続ける。一慶が華帆を好きな限り棗は気が抜けず、彼からの愛やサービスは途切れない。そういう仕組みが継続されたまま物語は終わる。
作者も華帆も筋肉愛を出し切ったと言えるが、好きなものを作品にしてしまった後、作者は何を描くのだろうか。巻末には新作が準備中とあるが2023年末から1年以上が経過した2025年夏にも始動している様子がない。自分の分身ヒロインと理想のライバル同士の男性を描けたらネタが枯渇してしまったのだろうか。
めでたく棗と両想いとなった華帆。これまでもナチュラルにイチャイチャしていた2人だけど、いよいよ恋人としてのスタートを切る。華帆は初めての男女交際に硬直してしまうこともあるが、棗は そんな華帆に歩幅を合わせてくれる。それでも棗は自分の浮かれ具合を反省し、そんな棗に華帆も自分のテンパり具合や暴走した妄想を正直に話す。そして華帆も棗に自分から寄り添い、彼女として彼の隣に立つ。
2人の交際は、華帆を呼び出した一慶にも伝えられる。あの試合会場のコートの上にいた一慶は当然それを予想していた。けれど棗が隣にいる華帆に向かって、自分の気持ちを今度こそ正面から伝える。その気持ちは交際の事実で消失したりしない。言葉を重ねて現在進行形で好きなことを華帆に理解させる。
一慶の気持ちを聞いても もちろん華帆の気持ちは揺るがない。もしかしたら棗より素晴らしい筋肉の持ち主である一慶だが、自分が好きなのは棗であると今の華帆は断言できる。そして自分が果報者であると一慶からの気持ちに感謝を伝える。
最後に華帆を引き寄せてキスをして一慶は立ち去る。中学時代の引っ越しの前から棗と静かに対立してきた一慶は自分の主義の転向を認める。バスケに無駄としか思えない恋も悪くない。それが一慶が この恋で学んだこと。
華帆は棗との筋肉を抜きにした正真正銘のカラダの関係を考え始める。華帆のことを考えて遠慮がちな棗にバッチコーイという姿勢を伝えようとするのだが空振りに終わる。だから勇気を出して棗を2人きりしかいない自宅に誘う。こうしてカモーンと棗にOKサインを出すが、その姿を見て棗は溜息をつき、脱いだばかりの靴を履こうとしてしまう。
そこで怯まないのが ヤル気満々の華帆。棗にキスをし彼に跨り、据え膳を差し出す。こうして棗は紳士的に性的同意を取った後、華帆に愛撫を始める。しかし今の華帆は筋肉を見なくても棗に触れられると鼻血を出せるほど興奮する。交際直後に始まる するする詐欺は詐欺に終わる。
クリスマスは華帆の誕生日。だが華帆は予定が入り棗と一緒にいれないことを宣言する。前回、あれだけカラダの関係を所望したのに、今はもうドライ。華帆の目まぐるしく変わる心境に付いていけないし、自分勝手に思える。
イヴは部活。華帆は部員たちから ふんどし姿で お祝いされる。紅一点ヒロインらしい厚遇である。そして最終回だから全員を登場させようという意図もあるのだろう。
そして どこから ともなく一慶も登場し華帆を攫っていく。一慶は3か月の短期留学を決めており、華帆にトレーニング方法の記された自分のノートを渡す。これは一慶の独断ではなく棗とのペアによる祝福プランだった。暴走しそうになる一慶を棗が制するが、一慶は まだまだ華帆が好きのようだ。留学は傷心旅行なのかと考えたけど そうでもないっぽい。今後も3人で仲良くする時間が到来するだろう。
翌日のクリスマス、華帆の誕生日当日、当初の予定が終了した華帆は部員たちからのメッセージによって昨日の祝福は棗に企画を持ち掛けたことを知り、彼に会いたくなり駆け出す。そこへ同じように当日も華帆に会いたくなった棗が現れ、彼から誕生日プレゼントを貰う。左手の薬指に嵌められた その指輪に華帆は感動する。棗からの愛は季節が変わっても惜しみなく華帆に注がれ続ける。
最終回は掲載誌の12月号に発表されて季節に合わせたエンディングになっていたのか。
