
酒井 まゆ(さかい まゆ)
MOMO(モモ)
第06巻評価:★★★(6点)
総合評価:★★★(6点)
叶歌を傷つけてしまったことを悩みながら誕生日を迎えた夢。モモと叶歌からのサプライズプレゼントに喜んだのもつかの間、失踪していた父親が突然帰ってきて…!? 女子高生とキュートな大魔王が繰り広げるゴシックファンタジー、急展開の第6巻!!
簡潔完結感想文
- 1年ぶりに父 帰る。色々とダメな父親のお陰で自分の居場所が明確に浮かび上がる。
- 地球の代表権は飽くまで夢。叶歌を徹底的に部外者にすることで それを貫徹させる。
- 互いに耳に入れたくない話を聞いてしまった男女は そこから上手く未来を描けない。
あらすじ に偽りなしで、急展開としか言いようのない 6巻。
地球の存亡と かけ離れていた日常回のような『5巻』から物語が大きく動く。『5巻』から緩急が上手に つけられていて、日常があるからこそ非日常に大きく気持ちを揺さぶられた。
そして夢(ゆめ)が初めて自分の「願い」を口に出す記念すべき内容となっている。
私が最も感心したのは、やはり叶歌(かなか)のスタンス。1話では夢と一緒に宇宙空間に飛んだにもかかわらず、アホの子の反応をして、これ以降 彼は常に部外者となった。
だけど今回、叶歌が部外者である意味が初めて分かった。それは叶歌が願えば夢は絶対に地球を救済しようと必死になる、ということだ。夢にとって叶歌の願いは絶対。もし最初から叶歌がモモの役割を知り、地球の破壊を阻止するようにモモに訴えたら、夢はモモと対等な関係性を構築する前に、モモを満足させるために どんな手段でも取っただろう。もしかしたら『2巻』後半で代表権を移住された美結(みゆう)が したことは、夢の もう一つの可能性だったのかもしれない。
地球破壊という迫りくる危機に対して、夢が1人で抱えることが いかにも少女漫画らしい悲劇のヒロイン的な発想だと思ったこともあったが、それは違う。おそらく作品は叶歌を無知でいさせるために、全人類にも情報を与えないことにしたのだ。それこそが夢の価値観そのもので、彼女にとって叶歌の願い=世界の重さと同等であることが分かる。
叶歌の意見に左右されないで飽くまで夢の意志を、作者は作品を通して描いている。そしてラストの衝撃展開によって、夢が何に価値を置くのか という彼女の最終的な願いが最終『7巻』で描かれるのだろう。
『1巻』の感想文でも書いたけれど、私は本書は前作『ロッキン★ヘヴン』に似ていると思っている。その理由の一つが、ヒロインの行動と恋愛の分離ではないかと改めて思った。
『ロッキン』はヒロインが荒れるクラスの改革をする中で中心人物であるヒーローと恋仲になる。けれどヒロインは そのヒーローを籠絡して彼の協力を仰いでクラス改革を達成するのではなく、2つの問題を混同しない。ヒロインの意志はヒロインのもので、輝きも勢いも最後まで失われない。同様に本書でもナナギと叶歌という2人の男性は夢に対して何もしない。ナナギはモモの手下(?)であり地球外生命体という部外者で協力する理由も立場もない。そして叶歌は徹底的に部外者。だから夢は最初から最後まで1人で問題に直面し、1人で答えを出す。
少女漫画らしい絵柄のまま、ちょっと少女漫画らしくない女性の意志や自立を キッチリと描くのが作者の作品が他と一線を画す部分なのではないか。甘いのに甘くない。そういう不思議な味わいが私は大好きである。


一方で『6巻』は少女漫画として恋愛面で非常に見所が多かった。
そして そこでは甘くないのに甘いという不思議な味覚を感知した。
内容が内容なだけに本書では ここまで恋愛面は本当にオマケ程度だったが、これまでの叶歌の言動と『6巻』でのナナギの言動は、2人の男性が夢を大好きだからこそ、という行動で胸を打った。この2人のヒロインを想う気持ちは他作品に負けていないと思う。
ただし三角関係の緊張は一瞬スパークするものの その直後に霧散する という展開も面白かった。夢の隣にいられる男性という特権は驚くほどスムーズに譲渡されていく。ネタバレになるが、これはナナギが叶歌の、そして夢の相手を想う気持ちが どれほど強いか感知したからで、そしてナナギが夢の言葉にしていない彼女の気持ちを分かるのは、彼が どれほど愛情深く夢を見ていたか という証明であるという逆説も良かった。恋愛描写は最小限なのに、彼らが相手に抱く愛情は きちんと描かれているのが凄い。
果たして「りぼん」読者は作者のような作家性を持つ人と、それ以外の量産型の差は分かっているのだろうか。分かっているから、少なくとも編集部には重宝されているから作者は長年 第一線で活躍していると思いたい。
冒頭は夢の誕生回。今年は、遭難しかけた後から叶歌と ほとんど話さないままなので、叶歌に祝われない誕生日を久々に迎える。この際の過去の誕生日の回想で、夢が叶歌に自己肯定感や存在価値を与えられたことが分かる。それは人が生きるために必要な大きな喜びの一つだろう。
そして年頃を迎えて、何も変わっていないのに2人は ただの幼なじみから男女へと自他の意識が変容していったことが分かる。幼なじみという特別な関係が、2人の関係に恋愛を持ち込むことの難しさになっている。
けれど『4巻』で少し語られたように、叶歌は成長と共に健康を手に入れ、それと同じく叶歌の両親の息子への期待や願いも膨らんでいった。両親が叶歌に普通の幸せを願った時、普通じゃない夢とは一緒に いてほしくないという彼らの願いを夢は聞いてしまった。
だから夢は自分の中にあった願いを封印した。
そうして叶歌のいない誕生日を過ごす夢のもとにモモが訪問してくる。彼女は夢の誕生日を知り、『5巻』の貝殻を使った写真立てを手作りしていて、それをプレゼントする。予想外のモモからの初プレゼントに夢は心から喜ぶ。その表情に安堵したモモも嬉しくなり5ポイント目が加算される。ここのところポイントはモモの自発的な感情が多い。これはルール的にOKなのか疑問に思う部分もある(代表者の人柄やモモの贔屓によるところが大きすぎる)。
そしてモモはプレゼントの制作を叶歌が手伝ってくれたと白状する。彼は意識的に夢を避け、だけど夢のことを想い続けてくれていたのだ。モモと一緒に叶歌に祝われている気持ちを覚え、夢は涙する。


そんな時、家を出ていった父親が帰宅する。
父親が出ていったのは丁度 1年前の夢の誕生日。1年ぶりの対面に夢は驚き、そして激怒する。これは父親が酷いことをしたことを自覚させるための表面上の怒り。それに対し父親は今度こそ心を入れ替えたという。そして明日の訪問を予告し、この日は誕生日プレゼントを置いて どこかへ去っていく。
夢は たった一人の家族である父親の帰還が基本的に嬉しい。だから奮発して牛肉を買うし、父親が気持ちよく帰宅する準備を整える。迷っていた叶歌への父の報告は彼が学校を休んだために保留となる。
モモは いつか大家さんと話したように、夢の父親と河原で話す。そこで彼の中にも夢と同じ笑顔と優しさを見つける。そしてモモを追いかけてきたナナギも父親と対面する。いわゆる彼氏と父親の対面であるが、ナナギは、悪びれもせず、それでいて臆病な父親の姿に失望する。そして夢の寂しさを理解しないで、父親としての責任を放棄しようとする彼に足蹴りして、夢が言えない彼女の気持ちを代弁してあげる。これは そのままナナギの夢への理解度や愛情に変換できると思う。
ナナギに根性を叩き直されて、父親は帰宅する。
久々の親子の再会だが、食後に父親は自分に再婚の意志があることを告げる。更に父親は その女性のコネを使って、そこで働く算段を立てていた。そして夢は一緒に行くことを打診される。近々 スウェーデンで継母と一緒に暮らす提案に夢の頭は混乱する。継母は夢と10歳も離れていない。
それでも父親が自分を家族として同行させる意思を見せたことに夢は嬉しさを感じた。モモも同行の意志を示し、広い世界をモモに見せることはポイント獲得にも繋がると夢は前向きに転居を考える。家族がいて、大切な人がいて、望んだ普通の暮らしが出来る。ただ そこに叶歌がいないだけ。
その叶歌は夢の混乱の裏で叶歌が学校を休み続けていた。叶歌を最初に見舞ったのはモモ。夢が寂しそうな表情を浮かべて叶歌のことを話すのを見て、叶歌をスカウトしに来たのだった。
だが夢の気持ちが少し変わる。父親と結婚予定の女性が来日し、夢と初対面を果たすのだが、彼女の お腹の中には新しい命が宿っていた。妊娠6か月の既に大きくなっている お腹を見て夢はショックを受ける。父親が黙っていたこと、父親に自分以外の新しい家族が出来ること。それが自分が支え続けてきた父親の裏切りにも感じられたからだ。
借金取りから逃げるため1年間の放浪中に女性と恋に落ち、妊娠させて、子供を作っちゃ いけないタイプの人間という自己分析をする中年男性はダメすぎる。妊娠6か月ということは恋仲になったのは半年以上前だし、自分の行為による結果が分からない年齢じゃないのに…。
そんな どん底の夢に声を掛け、彼女と一緒にいることを強く望んでくれるのは叶歌だった。だから夢は自分のいる場所を自分で決める。それは叶歌の近く。それが夢の望む世界なのだ。
けれど叶歌は、親子という特別な関係に割って入った自分の出過ぎた行動を反省していた。そこにナナギが現れ、夢を引き寄せるようにしたため、泥沼の三角関係が始まるかと思いきや、ナナギは叶歌の不甲斐なさに怒っていた。ナナギには夢が誰を想い続けていたかが分かる。
それが分かるのはナナギが夢を愛情深く見守ってきたから。だからナナギは夢にも憤慨する。唯一の家族である父親との新天地での暮らし、新しい家族の形態を拒否したにもかかわらず、叶歌との関係を濁そうとしている。想い合っているのに、気持ちが重なる その手前で躊躇する2人にナナギは喝を入れる。
夢は叶歌から離れるため、その足掛かりとしてナナギを使った。でも夢はナナギを叶歌以上に大切とは思えなかったから彼女の罪悪感となる。それでもかつて叶歌が夢の幸せをナナギに託したのと同じように、今度はナナギが夢と叶歌の幸せを願う。2人の男性の愛情は深くて優しい。
こうして叶歌は恋愛の土俵に上がり、そして これまでは部外者だったモモ周辺の事情にも足を踏み入れる。そして叶歌は これから夢を守れるように努力するという。そんな叶歌に夢は初めて封印していた自分の願いを口にする。
その夢を叶えると叶歌も言ってくれたため、彼らは同じ未来を描くことになる。その未来の姿が嬉しくてモモは6ポイント目の喜びを覚える。
2人は将来的な結婚も視野に入れた交際を始める。いよいよ叶歌もモモによる地球破壊を知るはずだったのだけど、その前に彼の病状が悪化し、吐血してしまう。
いつまでも夢は誰かと共に人生を歩むことが出来ないのか。
叶歌は幼い頃の病気が再発している可能性が高いという。その話を聞かされた母親は原因を夢に求めて、彼女を糾弾する。混乱の中とはいえ徹底的に拒絶された夢は、『6巻』前半の叶歌のように彼と距離を取り、クラスメイトによる見舞いに参加しない。それは夢は ずっと病院にいるという母親に再度 拒絶されるのが怖いからだ。
そんな時に夢の背中を押そうとするのはナナギ。そして現状を面白がるのは沙成だった。そしてモモは叶歌の心配をして、彼を夜中に見舞いに行くと夢を連れ出す。人格が統合したはずのモモだが、どちらかというと今のモモは星の破壊を止めるといった無垢なモモが大部分を占めていると思う。
この見舞いで ぽんきち が途中で気を利かせて夢と叶歌を2人きりにしてあげる。ここでナナギが気を利かせると痛々しくなるので、ぽんきち が お節介を焼くのが適役に思えた。
しかし この面会で2人の将来像が大きく異なっていることが発覚する。夢は叶歌が早く良くなってデートをする未来を描くのだが、叶歌は医師が あと1年生きられるか分からないと話しているのを聞いてしまったため、未来を上手く描けなくなってしまった。これは夢における、中学時代に起きた叶歌の両親の夢への非難を聞いてしまったのと似たような状況だろう。
それでも夢は絶対に叶歌を独りにしないと彼に寄り添う姿勢を見せ、2人は病室で悲しいキスを交わす。
あと1年という叶歌の命は、丁度 モモによる地球破壊のリミットと重なる。
そのまま夏から冬へと季節が流れるのだが、夢は進路調査表を出せずにいた。彼女は もう願いも希望も抱けない。…のは分かるが何十億人の命を真剣に考えられないなら、美結(みゆう)に代表権を移譲するぐらいの配慮は見せて欲しいが、そうすると作品としてテーマが ぼやけるのも分かる。
