《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

私が世界の救世主になったことは、君が知らなくてもいいこと。ただの私を好きでいてよ。

MOMO 7 (りぼんマスコットコミックスDIGITAL)
酒井 まゆ(さかい まゆ)
MOMO(モモ)
第07巻評価:★★★(6点)
 総合評価:★★★(6点)
 

やっと気持ちを確かめ合った叶歌が、あと1年で死んでしまう――。夢は全ての希望を失い、自暴自棄になってしまう。そんな夢を見たモモの心にも大きな変化が起きて…!? 新感覚ゴシックファンタジー、ついに全ての謎が明らかに!! 【同時収録】17o’clocks

簡潔完結感想文

  • 自暴自棄でも地球の命運が懸かったブレスレットは投棄できない。ご近所は地球を救う。
  • 提示された自分以外の幸福保証でも首を縦に振らないのは、ゆずれない願いを取り戻したから。
  • 大魔王(または神様)一行の計4人が地球から存在しなくなることで人類は日常を取り戻す。

独の中に到来した非日常が、誰かと手を取って歩む日常に繋がる、の 最終7巻。

誰もが孤独ではないことを予感させて物語は終わる。
夢(ゆめ)がモモと出会って、地球崩壊まで2年間の期限が設けられたが、モモとの出会いは夢の誕生日で、そこから作中で計3回 夢の誕生日が描かれる。その3回で それぞれに夢が胸の内に抱く思いが違うのが良かった。また過去も含めて、夢は誕生日に大きな転機を迎えているという共通点も見える。

そして何度も言及しているけれど、世界の改革と並行してトラウマを克服する という構造は前作『ロッキン★ヘブン』に共通している。違うのは本書でトラウマを抱えて前に進めないのはヒロインの夢自身だということ。夢は叶歌(かなか)への気持ちを封印して、彼と向き合わないように生きてきたが、そんな時に大魔王・モモという非日常の存在が到来し、地球の破壊という究極の危機を前にして、モモは周囲の人たちの願いを露わにしていく。そして願いを口にすることで人々は将来的な展望を抱き、真っ暗だった日々から希望の光を頼りに歩きだせるようになった。

私は本書の願いの具現化という工程が非常に面白かった。承認欲求まみれだった美結(みゆう)の願いも、ナナギや ぽんきち、そしてピコといったモモ側の願い、またはナナギの星の自分本位な願いたち(婚約者の心変わり、国王が望む継承者など)など、それぞれの願いが様々な事象を引き起こすことが描かれていた。究極の災厄であるモモを前にしたからこそ誰もが隠していた本音を語り始めるのだ。

それは夢と叶歌が それぞれに口に出来なかった願いも同じ。特に夢の願いはモモとの出会いがなければ口に出すことは絶対に なかっただろう。こと地球においてはモモは大魔王ではなく、人々に ゆずれない願いを引き出す使者のように思えた。

最後にモモの上位存在を用意したのも、モモの願いを引き出すために、そして それを実現するために必要だったのだろう。作中では割と傲慢に描かれている神様・沙成(さなり)だが、彼は結構 人の気持ちを理解している。モモたちへのアフターフォローが結構 手厚い様に思う。

また沙成の登場によって夢が神をも理解するヒロイン力で見せ場が作れている。沙成が男性のように見えるのはヒロイン力が通用する相手といて設定されているからかもしれない。
夢の存在が地球とモモを救った。だけど彼女の働きを知る者は最終的に地球上で美結ただ一人となる。夢はヒロインではあるが、地球の救世主としては描かれない。

モモが100億年なら、沙成は138億年の孤独か。138億年後に初めて夢に孤独を共感される。

終回で大魔王(または神様)一行は全員 地球上から姿を消す。

おそらく こうすることで、夢の救世主的な働きを知る者を排除し、夢は一般人に戻る。唯一、美結だけが夢の功労を知っているが、我が道を行く彼女が夢に恩義を感じることなどなく、これからも普通に そして対等に夢に接してくれるだろう。

また叶歌は本当に部外者のままで終わる。彼にとって夢は(能力的に)特別な存在ではなく、普通の大切な幼なじみで最愛の人。最初から最後まで そういう位置づけのままを貫き通す。ただ叶歌がモモの消息を訪ねないなど、少し不自然に感じる部分はあるけれど。

魔王たちが完全に地球上から不在になることで、地球に日常が戻ったことを表しているのだろう。少女漫画的にはモモを即座に転生させ、夢やナナギの妹として配置することがハッピーエンドに思えるが、そうしないのは地球を あるべき姿に戻し、本来のハッピーエンドを演出するためではないかと思う。もしモモが すぐに出現したら、そこにはまだ沙成という神様の影響が残ってしまう。だから沙成(または作者)は理由をつけてモモの転生に時間をかけ、人類にオリジナルの歴史を歩ませた。その星に過干渉しないのは沙成の主義である。

そして本当のラストシーンに登場する2人の女性。少女はモモが人間になった姿で確定だろう。では女性の方は誰か。基本的には夢(の生まれ変わり)だろう。ただナナギの転生&転性した姿という可能性も排除できない。
考察すると、物語的にはナナギの転生の方が収まりは良いだろう。本書は沙成を含め、誰もが孤独から救われている。とすると あの女性がナナギだった方が彼も救われたと思えるからだ。またナナギの転生希望先は沙成に会わなくて済む星。それは もう二度と沙成が破壊することは出来ない地球であっても良い(沙成は崩壊を免れた星に再度 降り立って観察に来たりしてるから(例・ナナギの星)、地球にも しれっと顔を出しそだけど…)。

しかし おそらく あの女性は夢だろう。だって夢は約束したのだから。少女漫画においてヒロインの約束は世界の理を歪めるほどの力を持っていて当然だ。信じられないぐらい ダサい近未来の都市(まるで1970年代の人が想像した近未来の姿そのもの…)の風景があるから、夢は来世でモモと姉妹になって幸せに暮らしている、と考えるのが自然だろう。もしかしたら これも沙成の粋な計らいかもしれないし、それだけ夢とモモの約束の効力が強かったとも言える。
ただ そうなるとナナギは孤独になってしまう。夢の元恋人(?)かつ大魔王組だから地球にいられないし、転生先も不明。ナナギとしての願いは叶えられ、後悔も心残りもない状態。次の人生は、沙成に会わないという願いが叶えば何でもいいのだろうけど。キャラとしては便利だったけど、最後の最後で扱いが不遇な気がした。

作者は「ファンタジーは説明したら負け」と言っているが、説明しろよ、と読者からツッコまれるような描写になっているのは いかがなものかと思うけど。


愛描写が淡白なのも『ロッキン★ヘブン』に通じる部分である。叶歌との交際は一瞬で終わって、その後 彼は入院生活、そして闘病モノのような余命宣告の中での恋となった。

やっぱり何と言っても叶歌の使い方が最高だ。徹底的に物語の外に出して、それでいて夢の心の真ん中にいる。このスタンスは誰でも描けるもんじゃない。叶歌こそ作者の創作能力の高さの象徴ではないか。

交際の様子を望む読者がいることも作者は分かっているけれど、彼らが物語には描かれない部分で絶対的に幸せになっていることも分かって欲しい部分だろう。そのために世界を整えているし、叶歌の親問題も駆け足ながら ちゃんと解決している。最終回でモモが逃避した光景にはモモはいないけれど、あのような未来が2人を待っているのは確かだ。
それに物語を通じて夢と叶歌は互いを自分以上に大切にしていることが伝わる。そういう考え方が出来る2人が、病気や嫁姑問題をクリアした未来で幸せにならないはずがない。

やはり『ロッキン』と同じく、世界を改革した後に彼らの本当の交際が始まるのである。


歌の余命を知ってから無気力に生きる夢。そんな時、父から手紙が届き、そこには自分の異母妹の女の子が生まれたことを知る。叶歌と異母妹、死にゆく者/生まれる者という対比が良い。身近な新しい命のために父親は ろくでなしにされた部分もあるのだろう。

美しい桜を見ても心を動かされない夢の前に、事情をナナギから聞いた美結(みゆう)が現れる。彼女は彼女なりの励まし方で夢を前に向かせようとするが、その「前」には叶歌のいない世界が何十年も続く恐怖が待っている。死を恐れる叶歌のために、夢は自分も彼の両親も全員で同じ場所に向かうことを願ってしまっているのだ。幸いなのか分からないが、全人類で夢だけは放っておけば半年後に世界が終わることを知っている。叶歌が生きている間に一緒に死ねることを知っている。
そんな全人類を巻き込んだ心中を企てる夢に対して、美結は夢に諦めることを諦めさせようとする。

彼の抱く恐怖、彼のいない恐怖から逃れるために全人類を巻き込んだ拡大自殺を望む。

夢が少し心を動かされた時、地球の命運を象徴するブレスレットを川に落としてしまう。それを紛失してはポイントは加算されず、地球崩壊は不可避。だから2人は必死に捜索し、そこに夢のバイト先の人や商店街の人、同級生たちが次々に顔を出し、美結の懇願で人の手を借りる。この場面は、そうとは知らず ご近所の、夢の世界の住人たちによる善意の輪が地球を救っていると言える。
モモも協力したいが『2巻』で助力したため沙成に制される。

こうして夢単独なら遠慮していた周囲の協力を得て、ブレスレットは回収される。美結は夢の良い友人である。そして夢は彼らを自分の悲しみに巻き込む罪を自覚する。


モは自分の意志で動けない自分への疑問から、大魔王という自信の存在そのものに疑問を抱く。沙成はモモに考えなくていい、と はぐらかすが、ナナギがモモの援護に回ったことで、沙成はモモを連れて逃亡する。

残されたナナギは夢に合流し、経緯と、沙成の強すぎる権限や経歴・能力の謎について疑問を呈す。これまでの少しずつの違和感が一気に溢れ出した形になっている。夢は沙成への一定の疑念を抱きながら、性善説を信じてモモたちの帰還を屋敷で待つ。

だが沙成はモモの「調整」を行っていた。余計なことを考えない大魔王が彼には必要なのだ。そこに邪魔に入るのはピコ。モモに匹敵する力の持ち主だから、沙成のいる場所に到達できる。もしナナギが夢を連れてワープしたら能力的に変だったもの。ピコはモモを逃がして、沙成に対峙する。事態の掴めないモモがワープしたのは地球の屋敷。そこには夢が ずっとモモの帰りを待っていた。


会も束の間、ピコを のした沙成が立ちはだかる。
そして真実を追求する夢に対して沙成は真の姿を現す。そして彼は神様を自称する。とんでもない話だが、現に大魔王は存在しており、その上位存在だと そのぐらいの格が妥当だと夢は考え始める。

沙成のいう神様とは宇宙を作って、きっかけを与えて、それを観察するのが お仕事。人々の意志には干渉しないのが沙成スタイル。宇宙創造のカオスがコスモスへと変化していく悠久の時間を経て、沙成は宇宙に生命を投入。確率は低いものの知性を持った生命体は独自の文化を形成し、沙成を満足させた。
沙成は そういう星に降りて、今回の地球のように、姿を似せて一緒に暮らして生活や文化を見た。ただ永遠を持つ自分に対し、星の生命体は短いスパンで絶滅する。自分が創った宇宙でも その生命の全てを沙成は守れない。

そうして孤独と退屈を覚えた沙成が創ったのが自分の力を分けた存在。星のエネルギーを食料にする半永久的存在、それが大魔王。そして神様にとって大魔王は玩具(おもちゃ)。
やがて自分の代わりに大魔王・モモを星に降り立たせ、今のルールが形成された。これは沙成の考えたゲームだったのだ。ピコは もう1人の大魔王のはずで作ったが、モモよりも誕生させる際の材料が劣っていたため「失敗作」になった。


成にとっての誤算は自分が生み出した生命に自我が生まれたこと。現にモモは沙成の玩具ではないと彼を決然と拒絶する。
モモの自由を願う夢に対して沙成は、夢の大魔王就任を打診する。その褒美として夢の願いを全て叶えるという。ピコやナナギの人間化、叶歌の治癒、夢の父親家族も日本に呼んで、彼らが仲良く暮らすこと。けれど それは夢が そこにいない世界となる。

自分の大切な人たちの幸福が保証された世界に対して、夢は一度は思いを巡らせるが、すぐさま反対する。今の夢は全ての願いを欲しがると決めたのだ。もう願いを封印していた中学以降の夢ではない。
モモと出会った時、夢は孤独だった。代表者の使命を聞かされた時も2年間は孤独じゃないと安堵した。でも今の夢は自分を孤独だとは思わない。困った時に助けてくれる人たちがいて、困っているなら助けたい人がいる。世界は繋がっていて、その繋がりに自分も含まれている。


は神様という至高の、だけど唯一の存在である沙成の孤独を感じる。その不意打ちの指摘に沙成はモモを人間に転生させると約束する。そのタイミングは、神のみぞ知る、ではなくて神様も知らない。時間も場所も、そして確率も保証されないが、モモは人間になれるという。

けれど夢と離れる可能性を聞かされ、モモは自分の見たい幻影の中に逃避する。その大魔王の現実逃避は現実の地球に悪影響を与え始める。そこで夢が連れ戻そうとするのだが、彼女は夢も一緒に転生することを望む。大魔王の打診と違って、今回の夢はモモの提案を受け入れる。2人なら孤独じゃないからだろうか。
思わぬ回答にモモの方が混乱するが、夢は彼女に いつかの再会を約束して落ち着かせる。何の根拠もない約束だし、その場しのぎにも思えるが、その優しさはモモに伝わり、7ポイント目が加算される。

こうして地球は救われることが決定し、沙成は すみやかに この星を去る(自分のルールに忠実すぎる)。ナナギは転生を望み、そして意外にもピコは沙成に同行するという。こうすることで この2人も孤独ではなくなる。

そして転生者とは お別れになる。モモに命を与えられた ぽんきち は ぬいぐるみ に戻り、もう大魔王は この世界に いないことが分かる。


歌は新薬が劇的な効果を見せて回復。夢は そこに沙成の意志が入っていると予感していた。
この日は、早くも夢の作中3回目の誕生日で今年も夢は叶歌に祝ってもらった。そして叶歌の母親の反対問題は直接的な解決はしないけれど、父親によって叶歌の意志を通すべきだと伝えられ、叶歌は夢と一緒にいたい願いを改めて口にする。母親を孤独から救うのは父親なのだ。

ラストは信じられないほどチープな近未来の描写から始まる。その未来では2人の姉妹が家を出るところだった。1人はモモによく似た少女、1人は夢のように長い髪をした女性だった。奇跡のような確立を経て2人は対等の立場で人生を歩んだ、ということなのだろう。

「17o’clocks」…
17歳の高校2年生の夏は、人生を24時間換算した場合、朝の5時前ぐらいで夜明け前の希望に満ちた時間帯だと言える。だが それぞれに悩みを抱えたクラスの中は、日が落ちて視界は暗く闇に包まれる17時だと、クラス内で空気を目指す女子生徒・駒井(こまい)は考えていた。だがクラスメイトの男子・吉野(よしの)との交流で彼女の体感は12時間戻されることになる。それは恋や人生が始まる時間帯。

物語的には何も始まっていない。そして このすぐ後に彼女の恋は終わるかもしれない理由も用意されている。でも明けていく今日が どんな日になるかは誰にも分からない。そういう楽しさと期待と不安が混じった時間帯は17歳の青春と重なる。