池山田剛(いけやまだ ごう)
好きです鈴木くん!!(すきですすずきくん!!)
第06巻評価:★★★(6点)
総合評価:★★★(6点)
爽歌、輝、ちひろ、忍。4人は中学2年生。今日は演劇部の定期公演。主役を演じるのはモチロン爽歌。ところが、爽歌を逆恨みする部員たちが劇を欠席。主要キャストを欠いたまま舞台が幕を開けた!劇を中止させないため、5役に挑戦した爽歌。見事に5人を演じわけ、舞台は大成功!!その輝く姿に爽歌の両親も演劇を続けることを許してくれる。そんな幸せな日々の陰で、運命のときが近づいてきていた…!!
簡潔完結感想文
- 爽歌の両親に娘の晴れ姿を見せることが幸福と、そして不幸の始まりになる。
- 進路問題で2組のカップルは別々の道に進む。それで幸せになるはずだった…。
- まるで最終回のような遠距離問題。そうなる前に2人の距離をゼロにしたい。
爽歌の叶えられた願いが、別の願いを切り裂く、の 6巻。
「15歳の別れ」が予告されていた本書だが、その1つが爽歌(さやか)の父親の異動による転勤だということが発覚する。遠距離恋愛自体もそうだが、更に胸が苦しくなるのは、これは輝(ひかる)が爽歌の幸せを願って行動したことの結果でもある、ということ。『6巻』の序盤のクリスマス回で輝が爽歌の両親に娘の演じている姿を見てもらった。これによって娘の幸せを一方的に押し付けていた母親が柔軟になり、同時に仕事ばかりに生きてきた両親が娘と そして夫婦の関係を見直すことになった。風邪の時も娘を放任しておくような両親だったが、クリスマス以降は娘との時間を出来るだけ捻出して、寒々しかったリビングに笑い声と人の体温を感じるようになった。
家族に一体感が生まれたことは良いことで、爽歌の願いでもあったのだが、それによって父の異動が単身赴任ではなく、一家での引っ越しになった。それは交際から丸2年での遠距離を意味することになり、中学3年生の彼らにとって厳しい現実となってしまった。輝は自分の行動に後悔はないだろうが、爽歌を笑顔にするための行動が彼女の笑顔を奪ってしまう結果になったのは誤算だっただろう。もちろん輝も苦しい。遠距離恋愛は少女漫画の完結前のクライマックス。でも本書は これが第一部の終わり。第二部は これ以上の試練が彼らを襲うことになる。
いよいよ前振りが終わり、作品が本気を出す時が来た。何度も繰り返してきた通り、つまらない訳ではないが これまでの作品に比べるとキレがなかった本書。でも それもここまで。いよいよ池山田作品らしい周到な仕掛けが発動して、微妙だと思っていたことにも意味が出てくる。
ただし前振りだから駆け足で駆け抜けなくてはならなかった中学時代には残念な部分も多い。
1つは輝と忍(しのぶ)が所属しているバスケ部。これまでの3作品でヒーローは全員スポーツをしていきた池山田作品だが、本書は その中で一番スポーツをしていない。『6巻』で中学3年生になった彼らが進学先を選ぶ際にバスケの強豪校を選んでいるのだが、作中の描写だけではバスケットボールに情熱を注いでいるようには とても見えない。これでプロになる宣言をしていて、おそらく実際になってしまうのだから、バスケ舐めんなと思う。輝の器の大きさは繰り返し描かれているが、少しでいいから輝がバスケの練習を怠らない様子や体力強化など自主練をする様子を挿んで欲しかった。これまでの作品と違ってヒロインが一緒に部活に関わることが出来ないという制約があるが、進路や将来に関わるのなら もう少し描き方があったのではないか。まぁ過去作も いかにも少女漫画といった感じで最低限の練習で優勝してきてしまっているが…。この辺は作者のオタクっぽさというか、スポーツに関わってきてないんだろうなと思う部分である。
同じく『6巻』の部活動では爽歌の演劇部の描写が中途半端だった。演劇部で いつも爽歌が目立ち過ぎて、部員の一部がボイコットという事態は爽歌の機転でピンチは乗り越えた。でも結局、部活内での不和は解消されていない。作者の他の作品なら こういう細かい部分もフォローがあったと思うが、本書はイベント消化が優先されて後処理が雑な部分が多い。この辺も駆け足進行の残念なところである。ボイコットした生徒が一方的に悪いままで、和解のチャンスすら与えられていない。ここから爽歌が舞台で目立ち過ぎる自分に悩むという展開でも良かったのではないか。
そして以前も書いたけど忍が どうして女子生徒たちからモテるのかが いまいち分からない。輝が優しくて寛大だから日本を代表する女優すら魅了するのは分かるが、忍は表面上 傲慢な俺様でしかない。それなのに2年生のバレンタイン回でもモテモテなのが よく分からない。もしかして自己紹介になっているスポーツ万能・成績優秀という言葉で処理しているのだろうか。もうちょっと忍がモテるの要因を描き込んで欲しかった。ちひろ が少しずつ惹かれる部分は共感できるけど、他の女子生徒は その部分を知らないし。
輝は爽歌の舞台を両親に見てもらおうと爽歌の母親の勤める会社に続いて父親の会社に突撃する。
一方、爽歌は部員のボイコットによって公演中止の危機を迎えていた。しかし爽歌は自分で1人5役を演じることでピンチを乗り越えようとする。そういう自己中心的な姿勢が他の部員から嫉妬を買っているような気もするが…。
爽歌の両親は舞台上で堂々と演じる娘の姿に初めて接する。その姿に心を打たれた母親は成績の維持を条件に部活動を認め、演劇に関わることを許可する。輝の大らかな心は母親の心も射止め、それに父親が嫉妬することで夫婦仲も改善していく。その姿は幼い頃から爽歌が夢見ていた光景。それを あっという間に叶えてくれる輝に爽歌は感謝の抱擁をする。実際、この日から家族仲は急激に良くなり、その影響で輝も家に招待されるようになって、両親公認の恋人になっている。
公園の日はクリスマスで、ちひろ と一緒に観劇した忍は帰り道に彼女にプレゼントを渡す。忍が くれたのはヘアピン。そういえば初デートで輝が爽歌に送ったのも髪飾りだった(『3巻』)。2人の男性は やっぱり似ているのかもしれない。
続いてはバレンタイン回。輝への愛が高まる爽歌はチョコ作りを考える。だが初めての経験で勝手が分からない。そこで ちひろ が事情を察し、2人は一緒にチョコを作ることになる。これがまた2人の友情を深める。
ちひろ はクリスマスの お礼も兼ねて忍の分を大きく作っていた。その忍は今年から好きな女がいるから他の女性からは貰えないとチョコを拒否していた。そのシーンを目撃する ちひろ(なんでも筒抜け)。
その「好きな女」である ちひろ がチョコを差し出すと彼は照れながらも受け取ってくれた。どんどん素直に感情を出す忍を ちひろ は可愛く思い始める。だが ちひろ だけ忍に特別扱いされるのを快く思わない女子生徒たちがいた。これは爽歌の演劇部でのトラブルと似ている。
ちひろ が嫌がらせを受けたのは、爽歌と一緒にいる時だった。女子生徒が石を投げてガラスを割り、ちひろ を威嚇する。
自分たちの行動が どういう結果を生むのか想像できない愚行は、ちひろ を庇った爽歌の背中に傷を残してしまう。爽歌は勝手に体が動いた。それに彼女は ちひろ を守りたかった。輝と同じように ちひろ は内気な爽歌の世界を変えてくれた恩人。その人を救いたかったのだ。
騒動によって爽歌は輝にチョコを渡せなかったが、翌日、自分からキスをすることで彼への愛を表現する。
同日、ちひろ と忍は犯行グループの会話を聞き、忍が激昂して彼女たちに迫る。彼女たちの動機が忍に特別扱いされている ちひろ を嫉妬してと知り、忍は ちひろ は関係ないと言い切る。自分が横恋慕しているだけで、ちひろ は同情で自分と関わっているというのが忍の認識だった。大切な ちひろ に害なす者を忍は粛清しようとするが ちひろ が彼を落ち着かせる。やがて自分の言動が ちひろ に悪影響を与えたと忍は自己嫌悪に陥る。それを ちひろ は優しく慰撫した後、自分の手で女子生徒に鉄拳制裁を加える。
ちひろ の怒りは爽歌が怪我をしたことに対するもの。間違って彼女を傷つけてしまった相手を ちひろ は許せないのだ。爽歌は ちひろ が自分のために怒ってくれているのを目撃し、彼女が自分を親友の「爽歌」と呼んでくれたことに感動する。修学旅行前後から築かれてきた女性同士の友情も ここに完成する。
いよいよ中学3年生。それは輝が爽歌と過ごす最後の時間となった。
この1年で男性たちは更に背が伸び、女性たちよりも高くなる。そして今後の展開の事前準備として、男女が それぞれ性教育を受けるのだが、相変わらず表現が下品だ。
そして中学3年生は受験生でもあり、爽歌と輝は芸能科やスポーツ科のあるマンモス校に一緒に入ろうとする。
一方、成績が優秀な ちひろ と忍には大学付属の高校の推薦枠の話がある。忍は ちひろ に一緒に行かないかと誘う。その理由は2つ。1つは輝と別の学校に進学することで彼とバスケで戦いたいから。もう1つは ちひろ と輝を引き離したいから。
ちひろ は輝と別れる決意をするべき時が来たと思う。それは これ以上 忍の好意に甘える訳にはいかない、という理由もあった。だから2人で同じ高校に通えたら つきあってと願い出る。その喜びで忍は ちひろ を強く抱きしめ、ずっと我慢していた2回目のキスをする。
それぞれに進路が決まったはずだったが、なんと父親の転勤によって1学期で爽歌は転校してしまうことになる。そして爽歌の退場が残された者に大きな影響を与える。
もしかしたら輝が登場する前の爽歌の家なら父親の単身赴任が あっという間に決まっただろう。だが今の爽歌の家は家族愛で溢れている。家族が一緒にいられる幸せを誰もが感じている。
家庭に温かさが戻ったのは嬉しいが、やはり爽歌は遠距離になることで恋愛が壊れてしまうことを恐れる。しかし これまで同様、輝は爽歌の心配を全て受け止める。でも今回の件ばかりは輝も感情を処理できない。そんな彼の限界を幼馴染の ちひろ は敏感に察知していた。
輝は残りの時間を一秒でも長く爽歌と いられるように努め、久々のデート回となる。実際は この2年 何度もしているのだろうが、同じことを繰り返している時間は無いので作中では割愛されていた。
2人がデートに選んだのは海。夕暮れの時間になるまで2人は一緒にいる。帰らなければいけないのだが帰りたくない。そして別れる前に大好きな人と結ばれたい。それが爽歌の本心で、輝も その気持ちを受け止める…。