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プロポーズによるハッピーエンドのはずが、1つ前の家族を崩壊させるメリーバッドエンド!?

LIFE SO HAPPY 3 (花とゆめコミックス)
こうち 楓(こうち かえで)
LIFE SO HAPPY(ライフ・ソー・ハッピー)
第03巻評価:★★★☆(7点)
 総合評価:★★★☆(7点)
 

天使の双子・松永葵くんと茜ちゃんは小学5年生! 2人にとって大切な存在の詩春ちゃんと政二さんから、松永家で結婚の報告が! 結婚を決めるに至った、その経緯とは…!? みんな気になる☆詩春ちゃんと政二さんの恋愛の続き…★ときめきいっぱいの第3巻!

簡潔完結感想文

  • 自分がそうだったから男は全員 保育士の女性に惚れると考える松永(34)。
  • 結婚は私的なものではなく公に認められるためのもの。秘密はそこで終わる。
  • アラサー松永の10年計画は結局 全てが前倒し。長すぎる春よりは いいか。

わず葵が破り捨てたくなる2人の交際模様が描かれる 3巻。

『1巻』ラストで結婚の報告が匂わされ、『2巻』ラストで実際に親族の前で公表したのだが、『3巻』は その後日談ではなく そこに至るまでの前日譚となっている。各巻の主役も茜(あかね)・葵(あおい)、そして詩春(しはる)と次々にバトンタッチしていく。

印象的だったのは詩春の泣き顔。不安に押しつぶされ立ち止まりそうになりながらも、自分で自分を奮い立たせて まず すべき行動から着手するところは大人になったと感心する点だった。しかし それも松永の顔を見ると我慢の限界を迎える。本書では徹底して詩春が感情を見せるのは松永の前だけというのが良い。その身の上から自分の感情を見えないようにしてきた詩春が松永の前では感情が大きく揺らいでいる。それが詩春にとって どれだけ松永が特別かという表現に繋がっていて、彼の前では素顔になれるから2人は飾ることのない関係性を構築できているのだろう。

松永がした10年後の約束が前倒しになるのは、今回ロケ中に松永が事故に遭い、その面会に来た詩春が彼の「親族」ではないと みなされたから。遠路はるばる運ばれた病院まで来ても、最後の壁を超えられない。その現実的な問題が松永に約束を前倒しさせる。

詩春は大事な人の前でしか泣かない。そして泣く=不安ではなく泣ける=安心なのだ。

プロポーズの直接的な理由は事故と病院内での出来事だったが、どうも心理的に松永に焦りがあることも読み取れる。家が別々で仕事も忙しく一緒にいる時間が取れないことが詩春の心が離れていくことに繋がると心配しているし、保育園に子供を迎えに来た父親が絶対に詩春に気があると思い込んでいる。そして芸能人ではないが有名人であるために交際に余計な気を回さなければならないことも彼の心の負担になっていた。
これらの自分の中の不安を解消する方法が結婚という明確な関係性だったのだろう。結婚すれば当然のように同居になり、毎日一緒にいる時間が確保できる。迎えに来る父親の件も詩春が既婚者になれば それが心理的ハードルになる(そもそも本当に恋慕しているのかも怪しいが)。そして結婚を発表すれば熱愛スクープとして報道される心配もない。

松永が自分の10年計画を次々と前倒しにしているのは、詩春に手を出しそうになったり、彼女を奪われたくないという独占欲が原因だったり松永側の欲望が その理由といて存在している。大人なので顔には出さないし、詩春にも察せられてはいないが、実は松永は強欲だと言うことが分かる。漫画表現としての2人の様子は淡々としているように見えるが、その裏では互いに深く相手を想っていることが分かるのが嬉しい。

しかし そんなハッピーエンドの典型と言える結婚話が葵にとって大きな心の傷となる。最後の最後で あの頃の松永家のメンバーが仲違いしていくという意外な展開が面白い。本編で描かれていた葵の異常なまでの詩春への好意だが、彼にとって残酷な現実となってしまったものの、ちゃんと引導を渡してあげるのが丁寧で優しい。この続編が存在してくれて良かったと心から思う。


25歳の詩春が、34歳の松永との交際して2年が経過していた。友人・梨生(りお)からは そろそろ結婚かと言われるが、仕事のこと貯金のことなど現実的な問題も出てくる。生真面目な詩春は自分の万全じゃないと結婚に飛び込めないのだろうから、そんな彼女を結婚に踏み切らせる大きな動機が必要だったのだろう。

2人は週末に会う詩春の部屋で約束をしているようだが、多忙な松永は どんどん訪問が遅くなる。詩春は土曜日も仕事のため会う時間は限られていて、減っていく。順調な交際に見えて、ある意味で2人の交際は危機を迎えていると言えよう。

今回、久々に松永の友人・及川(おいかわ)が登場する。いつ以来の登場なのだろうか。彼もまた34歳前後だろうが相変わらず下衆なことを言っている。作画の上では若いままだが、割と痛いオジさんになりかけているような…。そんな及川の言葉に松永は影響されているので、松永にとって及川は やっぱり友人なのだろう。

詩春の心変わりが心配になった松永はデート前に詩春が勤める保育園に寄り、そこで迎えに来た父子に対応している詩春を見る。松永の目からは その父親が詩春を狙っているように見えて彼は嫉妬心を燃やす。保育園の送迎で仲良くなって、深い仲になる事例に彼は心当たりがあるから疑い深くなってしまうのだ(笑)

詩春に近づく男は全員 敵に見える情緒不安定なアラサーアナウンサー。セルフツッコミ炸裂!

春は梨生以外の友人には松永との交際は いまだに秘密にしている。それは友人たちが情報漏洩をすると思っているからではなく、彼らに余計な気遣いやストレスを与えたくないと言う考えからだった。
そして本編開始当初は、ずっと亡き母親のことを考えていた詩春だったが、今は その時間が少なくなっている。それは詩春の世界が広がり、彼らとの時間の中に幸せを見つけたからだった。これは本編の描写がそうだったので、素直に納得できる。最初は読切と短期連載だったので詩春の悲劇性が繰り返し強調していたが、やがて そこから脱却し、思わず笑顔になってしまう松永家の日常が描かれるようになった。確かにその描き方の違いは詩春の心理とリンクしている。

松永が離島への仕事へ行っている ある朝、松永の兄・耕一(こういち)から詩春に松永のロケ中の事故の連絡が入る。耕一が病院に向かおうとするが、アクセスが悪く時間がかかる。そこで耕一は詩春に向かってもらおうとする。
本人も言っているが、耕一が突然 電話で身内の事故を聞かされるのは亡き妻の事故以来2回目。耕一の気持ちや不安を考えると胸が痛くなる。それにしても どうして漫画では本人の容態について 大まかにでも情報が伝わらないのだろうか。テレビ局スタッフも松永の部屋で談笑する前に もう一度 耕一に連絡すればいいのにと思ってしまう。まぁ それではドラマにならないのだろうけど。わざわざ与論島まで飛んだ耕一は、その後すぐに帰ったのだろうか。


春は動揺で頭が空回りしてしまう。顔面蒼白のまま なんとか松永が運ばれた病院まで辿り着くが、スマホの充電切れで松永の兄と連絡が取れず、確認が取れないと家族ではないということで面会が出来ないという現実に直面する。

ここまで来て松永に会えないことに絶望し、不安もあって詩春は涙を流しそうになるが、彼に会うための行動を優先する。売店で充電キットを買い、松永兄との連絡が出来るよう待っていた詩春にテレビ局スタッフが声を掛ける。受付からの連絡で松永が詩春の来院を知り、彼女に会いたいと言い、有名人の松永の代わりにスタッフが派遣されたのだった。

松永の診断は軽い捻挫と打撲程度。だが詩春は怪我の程度よりも、今回の騒動で松永に不測の事態が起きることが怖かったのだろう、松永の無事を確認して彼女は涙を流す。そんな彼女を支えるために松永は怪我した足で立ち上がり、彼女が感情を吐き出せる場所を用意する。いつだって松永の存在があって詩春は涙を流せるのである。


今回の一件で松永は、交際だけでは越えられない壁があることを思い知り、詩春と「家族」になることを提案する。またも詩春に自由を与える10年の約束は守れないけど、詩春が前向きに考えてくれるなら結婚を視野に入れて欲しいと松永は願う。

それは形は違えど家族を失った2人にとって、自分たちで作る新しい家族。
だが、そうして まとまった結婚話に反対するのが葵だった。まさか自分たちの結婚話が、あの頃の松永家の家族を崩壊させることになるとは…。