こうち 楓(こうち かえで)
LOVE SO LIFE(ラブ ソー ライフ)
第13巻評価:★★★(6点)
総合評価:★★★☆(7点)
詩春たちは、双子の祖父母の家に行くことに! 春から双子が暮らす場所を見て詩春は、安心とさみしさを感じる。そんな時、松永さんの熱愛報道!? 近づくV.D.に詩春は!? キュートな松永さんが必見の特別編も収録、ハートフルDAYS第13巻☆
簡潔完結感想文
- 父親の存在や引っ越しの事実、双子が傷つくかもしれないけど伝えるのが誠意。
- 元カノとの密会は知らないままだがグラドルとの交際報道を知ってしまう詩春。
- 観覧車の密室の中で松永が いつもの彼に戻ってから初めての本気チョコを渡す。
俺が もっと若ければ 君を滅茶苦茶にしたい、の 13巻。
作品が10巻を越えてから物語が大きく動く偶数巻と、最後の日常回を描いた奇数巻に分かれているような気がする。この『13巻』は特に大きなことは起きず最後の日常回といった印象を受けた。そして作者曰く『14巻』から最終章のはじまり らしい。といっても『14巻』で物語が大きく動く訳ではなかったが、そこからは確実に双子が詩春(しはる)たちの手を離れていく内容へとシフトしていく。この家や その周辺の人々との話がメインになるのは この辺がラストであろう。だから家の中の日常にも、お出掛け回の楽しさの中にも、大人と読者は どこかもの悲しさを見つけてしまうのである。
『13巻』では新年やバレンタインといった本書で2回目の季節イベントが描かれるのだが、1年目の様子は時系列順に収録されていないこともあり、本書の中でも早い『1巻』や『2巻』での出来事なので、実は作品の中でも一番 離れた距離に配置されている。
同じイベントでも2年目は詩春が双子との別れを ひしひしと感じながら過ごしており、そして松永(まつなが)への特別な気持ちにも気づいている。特に2年目のバレンタインは1年目と同じ手作りチョコであっても、そこに込められている気持ちが まるで違う。1年前と同じように渡すタイミングを気にしたり、松永の周辺にいる彼を好きな女性の存在を感じても、詩春は彼にチョコを届けたいと思った。松永が誰と交際しようとも関係がないと思いながら、松永の口から交際報道が否定されると安堵を隠しきれない。そんな欲張りな自分の気持ちに気づきつつ、詩春は松永にチョコを渡す。
詩春は気付いていないが、松永の熱愛報道は『12巻』の元カノの接近に続いて、松永が誰かに奪われそうになる連続の危機なのである。そして以前も書いたが、双子との別れは、松永との関係性や接点が一切なくなるということでもある。果たして詩春は そこに気づいているのだろうか。本当に片想いでいいのか、松永が誰かに恋をしてもいいのか、詩春は自分と向き合うべきなのかもしれない。
それは松永側も同じである。若返って詩春とデートしたいなんて夢を見てないで、どうすれば詩春と一緒にいられる未来が実現するかを考えなくてはならない。まぁ 松永側は色々考えていても彼の心の内は彼のターンにならないと明らかにならないだろう。元カノとの復縁を選ばなかった時点で彼の気持ちは決まっているので、あとは どういうタイミングで どう動くかが残された問題だ。
この『13巻』では詩春に失恋した直(なお)が一切 登場しない。同じ施設で寝起きしているのだから会っていない訳ではないだろうが、彼らが顔を合わせる場面すらない。この後、直がどんな時に再登場するのかが気になるところ。
新年を迎えて、早速 松永家は静岡の竹川(たけかわ)夫婦の家を訪問し、双子を この家に慣れさせようとする。家族水入らずの お正月に詩春まで招待してくれる夫婦もまた松永と同じく彼女を双子にとって大切な人だと認識してくれているのが嬉しい。
前回の訪問では描かれなかった双子の母親に線香をあげたり、母の写真を双子が見つけたりしている。松永は家では彼らの親の、特に兄の写真は努めて見せないようにしていた。それは松永の中で兄は彼らの父親としての資格がないと思っているから。松永の中では兄への失意や怒りが消えていないことが分かる。ただ そんな頑なになりかけている松永に祖父が、それは双子が決めること、と言ってくれているのが祖父の公明正大さを感じる。確かに松永家は元々 兄夫婦と双子が住んでいて、家族写真があっても不思議ではないのだが、それが飾られている場面はなかったように思う。作品上は詩春を含めた疑似家族のノイズになるからなのだろうが、松永が兄に見切りをつけた段階で片付けたのかもしれない。
祖父は改めて写真の中の夫婦が双子の両親だということを伝え、帰って来る日まで覚えていよう、と提案する。祖父は義理の息子が帰って来ると考えているらしい。でも松永兄は松永そっくりで、双子は写真を見て「せーたん?」と言いそうな気もするが。
そんな祖父はゴシップ好きだから松永と詩春の進展も聞き出そうとする。孫たちの成長に目を細める年齢の彼だが、娘の世代である松永の恋模様も気になるらしい。それが若さの秘訣かもしれない。
祖父母は孫たちの3歳という年齢も考慮し、理解できなくても彼らに事情を説明する方針を示す。突然 これまでの家を離れると両親との別れのように彼らに心の傷を与えると考えてのことだ。
それを受けて松永は大人の事情に振り回される彼らのため、自分が責任をもって話すことにする。きっと それは今の詩春を迎えて安定した生活で落ち着いた彼らの心を再び傷つけるだろう。でも それが分かっていても、説明を果たすのが大人の責任だと松永は思っている。そういう誠実な人なのです。
祖父母は双子への お年玉として自転車を用意してくれていた。それに乗って双子は町内を一周し、祖母や双子と一緒に歩く詩春は、ここで双子が生活をするのだと改めて実感する。そこに寂しさがないと言えば嘘になる。そんな詩春の心情を慮って祖母は、血縁関係がなくて きっと気兼ねするであろう詩春に、双子に気軽に会いに来てあげて、と声を掛ける。その心遣いは詩春の寂しさを軽減するものであろう。
葵(あおい)は茜(あかね)に比べると こだわりの強い人で、自分の意に反することには強く抗議をするタイプ。詩春の前では いい恰好をするのだが、松永の前では彼に反抗的な態度に出る。これは松永が同性でライバルで、そして より甘えられる家族だからだろう。
相談を受けた詩春は松永に具体的な助言をし、彼の心を軽くする。以前よりも論理的に育児についての話をしている詩春に成長と努力が見える気がした。これまでも松永にとって頼れる存在だったが、精神的な面だけではなく、知識や経験で松永の役に立つ存在になっている。
そして遊びに来た健(たける)のアイデアで松永が葵の憧れの変身ヒーローであることを匂わせることで、葵に松永を尊敬させる手段に出る。葵の中で松永の お仕事は世界平和を守る人になったようだ。葵が信じ込んだことよりヒーローの衣装から そこまで推論を重ねられる3歳児の知能の方に驚いてしまう。
なんと松永に熱愛スキャンダルが報じられる。
詩春は携帯電話のニュースで それを知ってしまうが、詩春としては松永を好きだが、彼との お付き合いまでは考えていないと松永の自由恋愛を尊重する。それでも報道にあった女性について調べてしまったり、落ち着かない詩春。そして松永に彼女がいてもバレンタインにはチョコを渡して喜んでほしい気持ちが止められない。こんな時、以前だったら直が「やっぱりアイツは危険だ。近づくな」と詩春に自分を見るように仕向けたかもしれないが、そんな場面は もう見られない。
梨生(りお)は詩春の気持ちを心配して、うっかり詩春の恋心を話してしまった健と彼らの仲を間接的に深める計画を立てる。ここ2話は健のアイデアで助けられてばかりである。
そして彼らの お陰でバレンタインデーに松永家の4人と梨生と健カップルで遊園地に行くことになり、詩春はチョコ作りを決めた。
健が詩春の気持ちを今回 知ったように、松永は当日になって健の彼女が梨生だということに驚く。松永は熱愛報道が出たばかりなので変装が いつもより厳重。ただし空気を読まない健は、松永の熱愛スキャンダルを単刀直入に切り出す。
松永は自身の口からキッパリと否定し、出ていた写真も周囲のスタッフが映らない角度で、まるで2人きりのように切り取られたものだと明言する。どうやら松永が完全に狙われていたのは確かなようだが、これは元カノ話と同じく詩春が知らなくていい情報だろう。詩春は松永に彼女がいないと分かると安心して気分が晴れる。物分かりの良い振りをするよりも、心は もっと正直である。
少女漫画の遊園地と言えば大切なのは観覧車。梨生たちは計画を練り、詩春と松永が同じゴンドラに乗れるように画策し、双子を自分たちの手元に置く。こうして1周14分の2人きりの天空の旅が始まる。
梨生は詩春がチョコを渡せるように密室空間を演出してくれた。その狙いをメールで知った詩春は彼にチョコを渡す。そう言えば1回目のバレンタインも松永がモテるという現実を前に詩春が尻込みをしていたんだっけ。そして どんな高価なチョコよりグラビアアイドルよりも松永にとって詩春は特別という話であった。
そして2月は松永の誕生日もある。彼が望むものは「若返り」。それは詩春との差を少しでも埋めて、せめて健と梨生カップルぐらい自由な恋愛をしてみたいという願望であろう。そして それが意味するのは詩春と社会の常識や理性の抑制なく交際したいという松永の我慢の限界からくる願いのような気もする。もう少し若ければ いつでも抱きしめられるし、出掛けられるし、キスだって出来る。今回の梨生と健カップルがしているようなことを、松永は詩春にしたいのだろう。
観覧車の1周が終わり、ゴンドラから降りる際に松永は詩春に手を差し出し、彼女の降車をアシストする。そんな手の接触でさえ詩春にとっては顔の熱が いつまでも引かないほど嬉しい。