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少女漫画と小説の感想ブログです

俺様モテモテヒーローが選んだ恋は、男嫌いのヒロインとの究極のプラトニックラブ。

コイバナ!―恋せよ花火― 10 (マーガレットコミックスDIGITAL)
ななじ 眺(ななじ ながむ)
コイバナ!―恋せよ花火―( こいせよはなび)
第10巻評価:★★★(6点)
 総合評価:★★★(6点)
 

誓が花火に、誓への想いを「証明してみろ」と!? 想いは確かなのに、その方法が見つけられず悩む花火…。この恋はこのまま、終わってしまうの!? みんなの恋からも目が離せない、感動の最終巻!! 【収録作品】番外編「コイバナ!―恋する花火―」

簡潔完結感想文

  • 元カノ・雪音が金魚から犬へと転生しても、もう誓の心の中には別の犬が住んでいる。
  • 1年間 心の筋トレ=恋愛に励んだ乙女たち。そして変わっていく中で変わらないこと。
  • 性欲が満たされなくても花火といる道を選ぶ誓。ある意味で少女漫画史上一番ピュア!?

16歳にして性欲よりも愛に生きることにした宇野誓、の 最終10巻。

ある意味で最後までブレない主人公たちだった。男嫌いというトラウマに近い習性を克服することで恋愛解禁になるかと思ったが、ヒロイン・花火(はなび)の男嫌いは治ることなく、そのままの彼女を誓(ちかい)が受け止めるというラストであった。その誓も徹頭徹尾 俺様を貫いたと言えよう。少しずつ花火に甘い部分が出ているようにも思えるが、基本的な彼のスタンスは変わらない。結局、誓が飼い主で、花火は ご主人のことが大好きな飼い犬というスタンスであった。
俺様ヒーローやドS男子は交際が進むごとに性格が丸くなり、当初のような性格は失われて凡庸になっていくが、誓は自分を最後まで曲げなかった。花火といい頑固なカップルである。ただし、スタートダッシュをかけるべく特異な性格をヒーローに付与して、途中から その性格が忘れさられていく作品が多い中で、作者は男女ともに面倒くさい性格を貫いたことが潔いと思った。こういう作者の、常に作品に対する挑戦がある点は とても好きだ。
けれど、そんな2人だから読者の共感を得にくい。私も最後まで なぜ彼らが恋愛をしなければならないのかが分からないままだ。1つだけ分かるのは、誓は花火を深く愛しているということ。ダメダメでも我が子だから見捨てないのと同じレベルな気がするが、犬が好きな誓は、一度 自分が飼うと決めた花火に対して彼女の成長を長い目で見つめることにした。女性に対し「飼う」というと怒られそうだが、犬に例えただけであって、面倒を見るとか愛を注ぐとかに言い換えられるだろう。

そして誓が男嫌いの花火と一緒にいることを選ぶということは、キスも その先も思うように出来ないということである。煩悩に常に悩まされるような16歳の男性にとって それは仏門に入るに等しい。解脱し、ただ人間愛に生きるのみ。それでも誓は花火を選んだ。
その直前に容姿も端麗で、性格も誓の好みに近くなった雪音(ゆきね)から復縁されても、誓は花火を選んだのが印象的な出来事だ。かつて誓の部屋から雪音が学校に登校したりと、誓と雪音の間には肉体関係があったと想像される。一度別れた後の雪音は何もかもが理想的な人間になった。そして復縁すれば雪音は誓の恋人として正しい欲望も性欲も満たしてくれるだろう。それなのに誓は花火を選んだ。

交際末期での誓の雪音への不満は、雪音が本音を吐露するようになり解消された。ということは…⁉

花火は誓に近づくためにコントロール不可能な自分自身と戦っている描写が多かったが、誓は無限の煩悩をコントロールしようとしている。私は分かりにくい誓の愛のカタチの中で、この部分が一番 分かりやすく感じた。そして煩悩から解脱したからこそ、誓の心に残るのは最高にピュアな感情。逆風に次ぐ逆風で、なんだかスッキリしない物語になってしまった感があるが、2人の関係は少女漫画一の究極の愛といっても過言ではない。モテモテ男と男嫌いという特殊な恋愛の形式だったからこそ、性のない恋愛を描けた。作者の狙いは そこにあったのかもしれない。

そして誓にとっては花火とは未完成のカップルだから伸びしろを見つけたのではないか。雪音とは美男美女で完璧なカップルだったから、2人とも その枠にハマって身動きが取れなくなってしまった。だが花火とは互いに未知の存在だから、歩み寄る余地も まだまだある。それが誓には楽しいのではないか(もちろん苛立つことも多いだろうが)。


た、全体的な感想としては、主人公カップルよりも「友人の恋」枠の方が楽しかった珍しいパターンだった。普通すぎたり、ひねくれ過ぎていたり、特殊すぎたりした恋愛なので主人公にはなれない しのっちょ・美衣(みい)・厚実(あつみ)という花火の友人たち。彼らの恋愛が描かれることで作品に幅が生まれ、後半の花火の よく分からない停滞の連続の中で読者を引き留める役割を果たしていた。最終回直前に花火以外の3人が一気に動き、自分なりに現在の恋愛と向き合うという形式も良かったが、時間差で もう少し じっくり読んでみたいという気もした。

厚実と佐々(ささ)が交流するエピソードは全体的に好きだが、厚実が痩せる必要と動機に関しては疑問が残る。厚実は痩せて佐々の隣にいる資格のある自分になりたいのは分かるし、ダイエットが厚実の努力の過程なのも分かる。
ただ佐々自身が厚実の体型に注文を付けたことはなく、隣にいる資格うんぬんは厚実の考えでしかない。それに序盤では厚実は自分が豊満であることも含めて自分だという自信を持っていたのに、恋をしたら痩せなくてはいけないと思い込んでいるのが残念である。豊満なのは ただの怠惰で痩せることが努力という単純な構図になってはいないか。厚実は、以前も例に出した平間要さん『ぽちゃまに』と同じように痩せないキャラでいて欲しかった(最終回で厚実の厚みが戻っているのには笑ったが…)。


音が自分をさらけ出しても、誓には届かない。なぜなら もう誓の心には花火がいるから。自分の気持ちを正直に伝えるのは誓の好きなコト。だが彼の雪音に対する想いは再燃することはない。たとえ花火との距離が出来ても、そして雪音が誓の好みになっても、誓が選んだのは花火だという比較の対象として雪音は再登場したのだろう。

これは後に別の人の会話の中で出てくる言葉、「揺らぐ可能性が本当にないのなら ちゃんと向き合って ちゃんと終わらせてあげ」る、の実践でもあるのかな。『9巻』の感想文も書いたが、誓が今回、雪音に優しくしたのは、お世話になった彼女の母のためでもあるのではないか。それを雪音が自分自身に優しくされた、と勘違いした部分も大きいだろう。


火が誓から貰った木工細工を食べてしまった飼い犬・ナンパ。これは花火の悲しみの根源を消してしまおうというナンパの思い遣りでもあった。ナンパの体調は大事なかった。てっきり、ナンパの この行動が2人の仲を修復させるのかと思いきや実際は逆に進む。花火が動物病院にいたため、誓からの連絡を取らなかった。

そして花火は誓に連絡をしないまま新学年を迎えた。
廊下で誓と目を合わせたまま すれ違った花火に近いが、彼女を呼び捨てにし声を掛ける。花火は それに足を止め会話を始める2人。そこで言い合いの形ではあったが、誓が雪音ともう会っていないことを確認する花火。その言葉の真意を確かめられないまま帰路につく花火を、誓は待っていた。

彼は「お前でいんだけど」と言った。それを言ってくれたと思い、嬉しくなる花火。だが花火はまだ誓の目が見られない。2人の間には強い磁力は発生しているのに、どうしても反発してしまう。

他人のものでも欲しくなるのに、釣った魚には餌をやらない花火。考えれば考えるほど酷い。

というカタチのないものを信じられるようにするために乙女たちは奮闘する。本格的に春が来て、植物が一斉に花を咲かすのと同じように、彼女たちは一斉に動く。

しのっちょ はマサトの結婚に答えを出した。いつもの横顔ではなく、真正面からマサトと向き合う1コマは印象的。彼女が何かを乗り越えた最も美しい瞬間かもしれない。

美衣は、懇願されていた尾山の実家に初めて訪問する。これまで避けていたがのは、本門すると面倒くさいことから逃げられず、彼の実家に気に入られようと必死になってしまう自分が予想されたから。省エネで生きていたのに、どうしても胸の内から熱い感情が湧いてきてしまう美衣もまた美しかった。

そして厚実は佐々に告白する。彼女が目標としていた体重以下になり、性別の垣根を超えた友達を、いわばソウルメイトのような関係になろうとする。お互いの強い面を知っている2人は人として尊敬しあえる関係になるだろう。


して1人だけ動けない花火には、雪音が向こうから やって来た。穏やかではない会話の中で花火は一歩も引かない。
そんな花火の頬を雪音は叩き(本書で2回目)、花火もまた雪音の頬を叩く。そこで互いに確認するのは誓を好きだという自分の気持ち。一体 誓の何がいいのか、とここまで来ても疑問に思う。2人とも相手が欲しがるような人だから、と誓に価値を見出しているようにも見えてしまう。雪音と誓の恋の始まりが描かれていたら、それが雪音側の想いを知る手掛かりになったのだが、彼らの交際は初めから あるだけで、形式的なものにしか見えない。

花火は男嫌いのままだけど、誓に近づいていく。そして正直に気持ちを話す。そんな花火に誓はご褒美を与える。ずっと この繰り返しに思えるなぁ…。結局、花火と誓の関係が、犬と飼い主という同等でない所に落ちつくのも違和感がある。

1年間、心の筋トレをした彼らは それぞれの幸せを掴む、というお話なのだろうか。上述のように少女漫画で頻発するトラウマのように都合よく男嫌いを消滅させないから誓のピュアな恋心が際立つのかもしれないが、いつまでも設定が足を引っ張っている気がしてならない。別に恋は義務じゃないから、と作品全体が恋愛脳なのには辟易するばかり。

番外編「コイバナ!―恋する花火―」
最終回後の誓の部屋での お部屋デートの模様。誓の深い愛、そして花火の成長が見られる。
最後の1コマで子犬が増えているけれど、彼らは花火と誓の飼い犬の子供たちになるのだろうか。