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秋期限定栗きんとん事件〈上〉 (創元推理文庫)

秋期限定栗きんとん事件〈上〉 (創元推理文庫)

あの日の放課後、手紙で呼び出されて以降、ぼくの幸せな高校生活は始まった。学校中を二人で巡った文化祭。夜風がちょっと寒かったクリスマス。お正月には揃って初詣。ぼくに「小さな誤解でやきもち焼いて口げんか」みたいな日が来るとは、実際、まるで思っていなかったのだ。それなのに、小鳩君は機会があれば彼女そっちのけで謎解きを繰り広げてしまい…。シリーズ第三弾。


シリーズ第三弾で初長編・初の意味なし分冊(金儲け仕様?)。あの高2の夏休みを経た新学期の秋から、高3の秋までの丸々1年間が、連続放火事件と小佐内ゆきを中心軸に、新聞部員・瓜野くんと小鳩くんの交互の視点で語られる。互恵関係を解消した2人にはそれぞれに新たな出会いがあった…。
この上巻は瓜野くん・小鳩くんの「彼氏彼女の事情」の巻。可愛い彼女の為に放火事件に近づこうと奮起する者がいて、事件から離れようと放棄する者がいる。もちろんそれは自分の為でもある。一人は自己の痕跡のため、一人は自己の排斥のため事件との距離を計る。しかし肝心の彼女との距離はなかなか縮まない。2人は焦れて、それぞれに暴走してしまう。物理的に距離を縮めようとする者、論理的に思考を読もうとする者。追えば遠くに行っちゃうし、待っていてもなかなか近づいてこない。恋愛の秘訣は事件を解決する事、しない事…!?
実地調査を重ねた結果、瓜野くんは放火事件のあるミッシングリンクを見つけ出す。才気煥発、一躍、校内の名探偵に名乗りを上げ、新年度に入って遂には権力までも掌中に収めた瓜野くん。後は推理に従って犯人を現行犯逮捕するだけ。だが彼のために数々の助言があった事に彼は気づいていない。読者の目からすれば、色々と小物過ぎる瓜野くんの虚栄の地位はいつまで持つのか。そして衝撃的に無意味な事実と引き換えに小鳩くんは放火犯に見当を付ける…。
季節が足早に過ぎていく上巻。上巻は何もかもが嘘っぽい。2組の恋愛も、瓜野くんの探偵業も、どちらもカタストロフしか予感できない(1組の恋愛は早くも末期的状況)。多少の推理を披露するものの、基本的に上巻の小鳩くんは自制と色ボケ中なので、瓜野くんの事件への取り組みがメイン。しかし物語を牽引する若々しいバイタリティは良いのだが、破滅前提の彼の行動は読んでいて痛々しい。色々と人が悪いよ、上巻の小鳩くんは…。今回は「下巻」の感想を長めに。

秋期限定栗きんとん事件しゅうきげんていくりきんとんじけん   読了日:2010年05月09日