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涼宮ハルヒの退屈 (角川スニーカー文庫)

涼宮ハルヒの退屈 (角川スニーカー文庫)

ハルヒと出会ってから俺はすっかり忘れた言葉だが、あいつの辞書にはいまだに“退屈”という文字が光り輝いているようだ。その証拠に俺たちSOS団ハルヒの号令のもと、草野球チームを結成し、七夕祭りに一喜一憂、失踪者の捜索に熱中したかと思えば、わざわざ孤島に出向いて殺人事件に巻き込まれてみたりして。まったく、どれだけ暴れればあいつの気が済むのか想像したくもないね…。非日常系学園ストーリー、天下御免の第3巻。


「憂鬱」「溜息」に移り変わる間の半年間』のSOS団の活動記録。願望を実現出来る力を持つ涼宮ハルヒが、反対に退屈な世界なら崩壊させてしまう力を持つ涼宮ハルヒが、学校・地域・慣習などなどイベントというイベントに介入するとどうなるのかを描いたシリーズ初の短編集。野球大会ではホームランを狙い、七夕は星に願い、部室で仕事の依頼、孤島では殺人事件いらっしゃい。この半年間、怪奇現象は千客万来。だけど何だかんだで楽しい毎日…!?
本書共通のテーマは(ネタバレ:反転→)接待(←)、だろうか。ハルヒがイベントを持ち込んだ表題作の1編目以外は、(→)それぞれみくる(キョンの時間旅行接待)・長門(皆で遊ぼう)・古泉(古泉所属組織による制作・脚本、劇団まっがーれ↓)の3人がハルヒの為に企画・立案したイベント(←)であった。未知との遭遇を心待ちにするハルヒの姿勢は『いつでも今日が、いちばん楽しい日©よつばと!』に通じる生き方か。また刺激のある毎日により内容のバリエーションも自然に増え、それが小説のエンターテイメント性をより高めていて読者も飽きない。
今回は1編1編の完成度よりも各人に焦点を当てられていたような気がする。七夕の願い事や殺人事件に直面した後の行動などに個性が表れていた。また後述の通り長門の変化がシリーズを追う一番の楽しみになって来たかも…。

  • 「プロローグ」…キョンよ、その退屈こそが青春その物だ。有限だから謳歌せよ。
  • 涼宮ハルヒの退屈」…団長命令によりアマチュア野球大会に参加する事になったSOS団+α。本当に素人集団のSOS団は当然の如く旗色が悪く…。野球に負けると世界崩壊とは、ここまで来るとバカバカしさの限界突破で寧ろ爽快。コメディとしてのお約束が確立されましたね。ハルヒ社長への接待野球をセッティングゥする部下たちの尽力が涙ぐましい。いやぁ社長、ナイスバッティングゥ〜♪
  • 笹の葉ラプソディ」…七夕の日、誰も居なくなった部室でキョンとみくるは二人っきりで…。みくる編。キョン初めての時間跳躍と、みくるの能力(?)証明の巻。無責任な発言でまたもハルヒの行動選択に介入するキョン。それは運命?『憂鬱』に繋がるエピソードが幾つか。涼宮ハルヒのメッセージには全て意味がある、のは次作との共通点。でも同一人物が同時間帯で接触してもいいの(みくる(大)と(小))?
  • ミステリックサイン」…行方不明中の彼氏を捜して欲しい、という悩み相談者第一号がSOS団に来室して…。長門編。自戒していたのに長門が好ましいぞ。困ったものです。(本編と次の短編のネタバレ→)長門の自作自演カラクリは長門人間性獲得の第一歩としての効果は抜群だが、ミステリ仕立てである次の短編のヒントに成り得る点が欠点か(←)ハルヒは本当の神・キョンの身代わり説、捨ててません。
  • 孤島症候群」…夏休み初日から孤島に『合宿をするために合宿に行く』SOS団だったが、そこでハルヒ待望の(?)殺人事件が起きて…。古泉編。『溜息』の感想で書いた、人の死をハルヒが願えばどうなるかという答えが出てしまった。作者の「ミステリ者」の一面が見えた作品。そしてハルヒの分別が初めて(?)垣間見えた作品。ミステリとしては犯人候補が一人とは物足りない。更に上記の欠点が残念だった。奇抜な文章や描写が少ないからか読書速度が前3編より格段に上がった。

涼宮ハルヒの退屈すずみやはるひのたいくつ   読了日:2010年10月30日