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終の棲家は海に臨んで

終の棲家は海に臨んで

新進外交官・吉成智樹、海なし県の海なし市に生まれ育った男。出世に淡白な常識人、のはずなのに、どうして不運を呼んでしまうのか? 辛口の人間観察も快感な、天下一品のひねくれ小説。


著者の小森さん本人ですらweb上で仰っている通り、非常に内容説明の難しい小説。↑のあらすじは、説明が決して十分ではない。小説の全体の流れを表すのなら、本の帯に書いてある「なんでこうなってしまうんだ小説」がピッタリだと思う。また、舞台で表すのなら「警察小説」ならぬ「外務省小説」と言えるだろう。広義の意味でのミステリでもあるけれども、それが全面に出てはいない。系統としては近年の江戸川乱歩賞の作風と言えば一番かもしれない。物語の背景には現実の社会情勢があり、問題点を指摘してるとも言える。でも、やっぱり「なんでこうなってしまうんだ」小説がピッタリ。読めば分かるとしか言えないので是非、一読を。


感想も難しい。どう書けばいいか分からない。多分、この本は主人公の翻弄されるがままの人生を純粋に楽しめば(?)いいのではないだろうか。私は楽しかった。知的なジェットコースタに乗って、見える景色を、興奮感を楽しめばいいと思う。
東大卒の外務省のキャリアだが、無頓着が故に不運な男・吉成智樹が主人公。話は二転三転して本当に先が読めない。彼は知らずに多くの味方を得るが、敵も作る。つまり人がどう思うか考えない、思慮の足りない男でもある。だからこそ、人に翻弄される。それは恋人・雪子にも同じで、彼の欠点が分かる箇所でもある。(雪子の気分を害してる時に出る丁寧語が面白かった)。思えば最初の「出来る男」のイメージから随分とかけ離れていて、そこが吉成に好感を持つ所でもあった。
この本は非常に頭のいい小説だな、と思った。例えば前述の通り、この小説は現実の社会情勢を背景にしているのですが、「9.11」と一文字も書かずにテロが起こった事を描写してしまう筆力。9月12日という記述はあるので、時差さえ考えれば誰にでも分かるんだろうけれど好感を持った。直接書かない所が好き。(ネタバレかもしれないですが)展開が皇室に話が及んだ時に非常に驚いた。今まで皇室にこういう形で触れた作品を読んだ事無かった。ある意味タブーだと思っていた。また、時の外相は「真紀子」であり、その他この頃の一連の外務省問題・批判も書かれていて、知らなければ、誰?と思う人物も。私も分からない人がいたり、外務省の内部の組織や、使われている符牒などがいくつか分からなかった。いくらか不親切だけれど、この小説には説明くさい文章は似合わないと思う。不親切と言えば、この本は登場人物の名前に読み仮名が振っていない。その所為で「雪子」さんが「ゆきこ」なのか「せつこ」なのか最後まで分からなかった(多分「ゆきこ」だろう)。例外的に、山南さんには振り仮名があったが「新選組!」のお陰でこちらは読めた。登場人物の名前が県名(もしくは地名)だと気付いたのは中盤になってから…なんというネーミングセンスだろうか。脱帽だ。神奈川からしておかしかったけど。
この本を、私は「ダ・ヴィンチ」で紹介されているのが目に留まったので読んだのですが、他の人の感想を見ようとヤフーでタイトルを検索しても20件である。私は↓の事もあり多くの人に読んでもらいたい。
(ネタバレ:反転→)私は金沢さんの子供の「トトロ」好きと、山南さんの携帯の着信音が「トトロ」の曲であった事から、二人は夫婦であると思って、ラストへの伏線だとずっと思っていた。思いついた時、してやったりとも思った。が、そうした記述は最後まで無かった…夫婦の設定に、説明のつかない所もあるような気するが、どうなのだろう。私の考えすぎなのであろうか?(←反転終了)

終の棲家は海に臨んでついのすみかはうみにのぞんで   読了日:2004年12月27日