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謎のギャラリー―謎の部屋 (新潮文庫)

謎のギャラリー―謎の部屋 (新潮文庫)

人生に満ち満ちる、面妖な、ユーモラスな、不可解な、謎、謎、謎。いや、そもそも人生それ自体が“謎”ではないか。名手たちが鮮やかに切りとった人生の断片が、絶妙の配置で一堂に会しました。ミステリアスな異世界へ誘う作品から、「本格ミステリ主義者」の編者がこれぞと太鼓判の「本格物」まで、みごと“謎”の醍醐味を封じこめた一冊。宮部みゆき氏と編者の巻末対談「『謎の部屋』の愉しみ」付。


『本館』に続いて入場したのは、この謎の部屋。この謎の部屋は順路に従って展示作品を眺めると、前半はミステリアスな謎が多く、後半は本格的推理の謎が多く見られる。どの作品も私は読んだ事がなく(多くは作家は存在すら知らなかった)。この部屋を訪問しない限り、今後もお目にかかる機会はなかったであろう。更に北村さんの選考基準には作品の入手困難度も加味されているため、本当にこれを逃したら一生ご縁がなかったはず(特に外国人作家の本は基本的に敬遠してるし)。これこそ支配人(?)の北村さんが結んでくれた縁である。
中でも好きなのは「遊びの時間は終らない」「豚の島の女王」の2作品。前者にはコメディ的な謎があり、後者には悲劇的な謎があった。また一方が終らない事に意義があるのに対し、もう一方は終わりから始まる。この作品以外にもまさに千差万別にテイストの違う作品たちが一冊に収められているのが奇跡のようだ。世界に一冊だけの自分だけの本。アンソロジーを編む楽しみが少し分かった。
40ページ以上に亘る「宮部みゆき」さんとの巻末対談「『謎の部屋』の愉しみ」も読み応えがある。作品の解説として、お二人の読み方を学べるのは嬉しい。本シリーズの続きともいえるのが、「名短篇アンソロジー」ですね。お二人の巻末対談もそのままです。
30ページ以上の短編はあらすじを紹介。満たない作品は感想のみ掲載。

  • 「大人の絵本/宇野千代」…如何様に解釈できる。烏賊はイカではいかん。
  • 「桃/阿部昭」…記憶のインデックス。自分の記憶の謎に自分が合理的推理で名探偵になる矛盾的面白さ。記憶の危うさを覚える。また性の目覚めでもある。
  • 「俄あれ/里見紝」…据え膳は食うのが恥か、食わぬが恥か。お互いの思考、言葉の真意などを息を殺して読む方式のは推理合戦的な面白さ。
  • 「遊びの時間は終らない/都井邦彦」…銀行の防犯訓練でアクシデント発生。その余波は思わぬ所まで波及して…!? これは一番好き。「天藤真」「泡坂妻夫」を彷彿とさせる作風。つまり私好み! 「遊び」を頑なに止めない大人気ない彼も良いが、「遊び」に続々と参加する大人たちも良い。雰囲気が色々と昭和的(40年代ぐらい?)だなぁ、…と思ったら初出は昭和も後半の60年。作者が消息不明。一冊だけ作家を超えた、一編だけ作家の誕生!? 泡坂さんの別名義じゃないよね?
  • 「絶壁/城昌幸」…壁は思想的高みか? バベルの塔建設ってのはダメかな?
  • 「領土/西條八十」…読書の楽しみも妻の、夫の知らぬ楽しみに似ているかな。
  • 「賢い王・柘榴・諸王朝/K・ジブラン」…「賢い王」…ある意味で恐怖政治。悪貨が良貨を駆逐する。マスコミの力を連想。「柘榴」…ある意味で哲学の否定? そんな事よりのんびり暮らそうよ。「諸王朝」…これも恐怖の政治。しかし為政者に都合の良くない預言をすると罰せられるなら望まれる預言者太鼓持ち
  • 「豚の島の女王/G・カーシュ」…これは本当に読んだら忘れられない傑作。約20ページの短編だが作品密度は濃く、読後に深く溜息をつく。女王が気高いからこそ、人は愛さずにいられない、そして愛されたいからこその出来事。聡明だからこそ何もかも見通せた、運命に翻弄され続けた女王の存在が忘れられない。
  • 「どなた?/K・クーゼンベルク」…私の代わりはいくらでもいるもの。ドキリとした読者(夫・父)もいるのでは? 家族サービスサービス☆
  • 「定期巡視/J・B・ヘンドリクス」…殺人現場の状況から推理を展開。最後の一文が本格推理らしく合理的に、そして感動的に物語を落とす。
  • 「埃だらけの抽斗/H・ミューヘイム」…疑惑に取り憑かれた男は、相手の銀行員に復讐を計画する…。嫌な話しだなぁ。少し頭の切れるモンスタークレイマーだよ。この結末よりは復讐の計画が露見する方が余程スッキリするのに。
  • 「猫じゃ猫じゃ/古銭信二」…窮地に追い込まれた銀行支店長は起死回生の策を講じるが…。確かに足の付かない計画だけど、明らかに怪しい贈り物。トリックもバカミス寸前。読書中、北村さんと宮部さんが共編者の『名短篇、ここにあり』の「網/多岐川恭」を思い出した。犯罪や復讐に見合うだけの器が要る。
  • 「指輪・黒いハンカチ/小沼丹」…「指輪」…一連のシリーズの他の短編では殺人事件も発生するらしいが収録の2編はどちらも「日常の謎」。謎としてはどうって事ないが、軽やかな雰囲気が良い。ちなみに本書出版後の03年に東京創元社からめでたく復刊文庫化。「黒いハンカチ」…ニシ・アズマ先生の教師失格で名探偵合格の性格に魅かれる。2編とも困っている人を助ける健康的な作品。
  • 「エリナーの肖像/M・アラン」…新しい家にはその家で命を落とした娘の肖像画が飾られていた。その肖像画が何かを訴えている気がして…。『特殊なダイイング・メッセージ』。自らの運命を決然と受け入れる点では「豚の島の女王」の女性と似ている。二次元が三次元に立体感を持って彼女の強さが浮かび上がる。
  • 「返済されなかった一日/G・パピーニ」…時間の『スキップ』より、一日限定の頭出し再生と翌日のリバースは落差がより明確なだけに、より濃い絶望が訪れる。
  • 「私のノアの箱舟/M・B・ゴフスタイン」…大きな古時計? 私の全ての大切な人々を乗せた舟は人生という海を渡る。気持ち良く本を閉じられる編者の心遣い。

謎のギャラリー -謎の部屋-なぞのギャラリー  なぞのへや    読了日:2010年05月25日