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謎のギャラリー―名作博本館 (新潮文庫)

謎のギャラリー―名作博本館 (新潮文庫)

小説を題材にした空想の美術館“謎のギャラリー”へようこそ。古今東西の名手による奇跡のような名短編を、最高の配置でご紹介しましょう。案内人は、ミステリ作家にして無類の本読み、当館館長北村薫と、彼の敏腕美人(?)編集者。二人の丁々発止に気を抜かれた方、失礼、読書欲をかきたてられた方は、ぜひ当館自慢の『謎の部屋』『こわい部屋』『愛の部屋』へお進みを。


アンソロジイを編む事に並々ならぬ想いと情熱をお持ちの北村薫さんが館長となった『空想の美術館“謎のギャラリー”』。本書はその本館。『ミステリ作家にして無類の本読み』である館長が『謎』『こわい』『愛』の各部屋の展示品の選考基準やその理由が語られる他、館長の読書体験やそこから得た知識も続々と紐解かれていく。この本館に登場する書名・作品名は約200! そこからアンソロジイに収録されている作品もあるが、選に漏れた作品の方が多い。本書で知り、興味を惹かれた作品に手を伸ばすのもまた嬉しい書物との出会い方である。
数えてみて初めて、本書では200作品も紹介されていたのか、と驚いた。約250ページ中で200作品に触れているので本当に書名の紹介だけで終わっている作品もある。しかしどの本も読書欲がピクリと反応する魅力的な紹介の仕方であった。(脳内(?))編集者との会話形式を採る本書は大変読みやすく、また流れるように次々に話題が変わるので、あっという間の、それでいて読書の奥深さを感じる濃密な時間だった。読みながら思いを馳せたのは北村さんの中の書物の河、書物の海。森見登美彦さんの『夜は短し歩けよ乙女』の中の『本たちがみな平等で、自在につながりあっている』という言葉を北村さんの中に見た。きっと北村さんには駄作や読んで後悔する作品なんて無いんだろうな、と改めて書物に向ける愛情や知識といった諸々の姿勢の違いを思わされた。
私にとって館長の北村薫さんはミステリの、そして小説の入口に立っていたお方。最初に読んだミステリは北村さんの『空飛ぶ馬』だった。もし違った作家の違った本を最初に手にしていて、それが詰まらなかったら現時点までの読書体験もなかったかもしれない。だから私にとっては「全ての小説は北村に通ず」なのである。更に嬉しい事に北村さんは小説の名手だけではなく、ミステリ作家屈指の読書家の顔を持っていた。私の手に負えない本も多いけれど、読書の扉を常に開けてくれるお方なのだ。私の読書史、アンソロジイには北村薫作品が常に入る。
本書はまた北村さんに導かれながら、北村さんの読書世界を追体験するという面白さもある。作品の紹介だけではなく、その本を初めて読んだ読書当時の北村さん(少年であったり青年であったり)がどのような状況で読んだか、どう考えたかなど、北村さん自身にも迫れる。そんな読み方もファンとしては面白い。膨大な読書量とそれに付随する思い出を刻む記憶力には驚かされっぱなし。また本と本を繋ぐのは北村さんの旺盛な好奇心と知識欲。ここも見習わなければ。
いわゆる「ネタバレ」に対する注意マークの周到さは嬉しい配慮。こんな気遣いの中にも読書と読書体験に対する北村さんの熱い想いを感じられます。

謎のギャラリー -名作博 本館-なぞのギャラリー  めいさくはく ほんかん    読了日:2010年05月19日