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月の砂漠をさばさばと (新潮文庫)

月の砂漠をさばさばと (新潮文庫)

9歳のさきちゃんと作家のお母さんは二人暮し。毎日を、とても大事に、楽しく積み重ねています。お母さんはふと思います。いつか大きくなった時、今日のことを思い出すかな―。どんな時もあなたの味方、といってくれる眼差しに見守られてすごす幸福。かつて自分が通った道をすこやかに歩いてくる娘と、共に生きる喜び、切なさ。やさしく美しいイラストで贈る、少女とお母さんの12の物語。北村薫×おーなり由子


優しい物語。北村さんって本当に心地良い文章を書く作家さんだな〜。なんだか感想の文体までほんわかしてくるようです。おーなり由子さんの絵がまた優しい。どの絵も、この絵が見たかった!というドンピシャの絵を描いてくれています。よく物語一冊で一年過ぎる構造が見られますが、この本もその構成。でも今がいつなのかは、さり気ない描写で語られている。しかし日本人なら自然と分かる描写。ソラ豆の季節、台風の季節がいつなのか経験から学んでいるものです。
この本は色々な楽しみをくれます。まず、作家であるさきちゃんのお母さんが寝る前に話してくれるお話の面白さ。最初の「くまの名前」から引き込まれた。面白い!これだけで一つの童話になる。そして、そのお話をしているお母さんとさきちゃんのお話としての面白さ。理由は語られていませんが、さきちゃんのお家は母子家庭。お父さんは不在(離婚だと思うけれど…)。その二人が織り成す会話と慈しみの物語。さきちゃんは母親譲りなのか言葉に対する感覚が優れています。お母さんも、その鋭敏さから、さきちゃんの才能を喜んでいる。言外に喜びが溢れている文章。文中の言葉を借りれば「温かいお風呂に入った気持ち」になる作品です。私が特に好きなのは「連絡帳」。お母さんとムナカタくんの交流が面白い。子供の横に並ぶお母さんのスタンスと、言葉のユーモアが盛り込まれた作品。

月の砂漠をさばさばとつきのさばくをさばさばと   読了日:2001年02月13日