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ナイチンゲールの沈黙(上) (宝島社文庫 C か 1-3 「このミス」大賞シリーズ)

ナイチンゲールの沈黙(上) (宝島社文庫 C か 1-3 「このミス」大賞シリーズ)

第4回「このミス大賞」受賞作で300万部を突破した大ベストセラー『チーム・バチスタの栄光』の続編が登場。大人気、田口・白鳥コンビの活躍再び! 今度の舞台は小児科病棟。病棟一の歌唱力を持つ看護師・浜田小夜の担当患児は眼の癌、網膜芽腫の子供たち。眼球摘出をせざるをえない彼らに心を痛めた小夜は、患児のメンタルケアを不定愁訴外来担当の田口公平に依頼し、小児愚痴外来が始まった。

   

冒頭5ページだけで「当たり」を予感する本もあれば、その逆もまた然り。前者の代表例は作者のデビュー作で、残念ながら本書は後者だ。それは単に医療ミステリの開幕が宴会シーンだったからかもしれないが、やはり読書の第六感が作品の纏う空気の違いを感じ取ったのだろう。
作者にとって光栄でありそして不幸な事は『栄光』の過去が読者の期待値を遥か高くしてしまった事であろう。あの緊迫感と、あの未体験の謎に直面した興奮を願って再通院してきた読者にとって先生の診療は不安と疑心が残るものだった。
非常に「ぼんやり」とした作品。同じ「ぼんやり」でも作中の登場人物の猫田看護師長の様に、爪を隠した眠り猫なら良かったが、本書の場合はただただ焦点がぼやけている。上巻の終盤までなかなか事件は発生しないし、今回は医療ミステリではない普通の事件らしい。その上、その真相も単純そうな予感がして謎に魅力を感じられない。ラストまでジャンルやテーマといったそもそもの土台が不明確なままで、読者側は居心地が悪いのだ。
下巻(後半)に向けて色々と伏線は張られている気はするが、ミステリの伏線になるかは微妙。後半への数少ない期待としては警察庁の一匹狼・加納と、下巻からの登場が運命付けられたあの人との対決場面ぐらいか。下巻への期待が全く膨らまないな。舞台と共に視点も田口先生から移行したのが不味かったか。
珍しく感想に書く事がない。それぐらい本書の「ぼんやり」具合は凄いのだ。田口の会話は相変わらず楽しいし、どの登場人物にも癖をつけているから人物を混同する事はない。なぜかディテールが凝っているヒーロー物や、物語のキーパーソンになるであろう人々と装飾はきらびやかだ。けれど、いかんせん本筋が弱い。前作に比べて情報量が格段に少ない。前作も余計な比喩描写などはあったが、そこに凝縮感があった。しかし本書にあるのは希釈感だけ。変に人間ドラマっぽくなってしまい、作者の作風とマッチしていない気がした。2作で緩急の変化を付けたのかもしれないが…。
余談:冴子が吐血した時、毒殺事件だ!と早合点した人は少なくないはず(苦笑)

ナイチンゲールの沈黙(上)ナイチンゲールのちんもく   読了日:2011年02月14日