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ナイチンゲールの沈黙(下) (宝島社文庫 C か 1-4 「このミス」大賞シリーズ)

ナイチンゲールの沈黙(下) (宝島社文庫 C か 1-4 「このミス」大賞シリーズ)

手術前で精神的に不安定な子供たちのメンタルサポートを、不定愁訴外来担当の田口公平が行なうことになった。時同じくして、小児科病棟の問題児・瑞人の父親が殺され、警察庁から出向中の加納達也警視正が病院内で捜査を開始する。緊急入院してきた伝説の歌姫・水落冴子と、厚生労働省の変人役人・白鳥圭輔も加わり、物語は事件解決に向け動き出す。読者を魅了する、海堂尊のメディカル・エンターテインメント、下巻です。


悪い予感的中。そうだよね、本書はミステリじゃなくて『メディカル・エンターテインメント』だもんね、と読了後にあらすじの言葉が目に痛い。下巻ではミステリ要素が更に薄くなり、人間ドラマっぽさが増大した。そして作品も「火喰い鳥(探偵役・白鳥)」もパワーダウンしたという悪印象ばかりが残された。白鳥への好意や嫌悪はともかく、読者は彼の能力を高く評価しているはずだ。そして彼には思う存分、事件や登場人物を掻き回して欲しいのだ(実生活には側に居ないで欲しいけど)。それが本シリーズが他作品と一線を画す売りである。なのにどうにも大人しい。前作の感想で白鳥の探偵手法は京極道の「憑き物落とし」に似ていると書いたが、本書も白鳥なりに「憑き物」の正体を見極めて、その除霊(?)のタイミングを計っているらしい描写がある。けれど彼の自重が事件解決に抜群の効果を発揮している訳ではない。そこには白鳥は登場させなくてはならない、けれど事件は(小説は)長引かさなければならない、という作者のジレンマがあるだけだった。
本書は白鳥が担当するに値しない事件である、というのが作品の辛口評価であり白鳥への敬意(?)である。また上巻で期待していた加納警視正との対決場面も、2人が大学の同級生という設定により霧散してしまった。それどころか2人で捜査協力してしまう始末。今回は白鳥に噛み付く人物が少なかったのも評価のマイナスに繋がるかも。にしても田口と白鳥の同期・同級生ばかりだ。
一縷の望みとして、事件の真相が読者の予想の斜め上をいっているという淡い期待を抱いていたのだが、まさかの直球勝負。ギャンブルと違ってミステリの予想は外れて欲しいのに…。本書の読み所は意外な真相ではなく、意外な方法での自白だったのだろうか。暗示される真相は全部ミスリードだと思っていた自分が恥ずかしく、作者が腹立たしい。解説によると本書は『SFじみた設定』に『読者から、一部批判の声が上がった』らしいが、そうではないはず。ミステリとして凡庸だから憤っているのだ。確かに今回の設定はアニメ「マクロス」シリーズかしら、と思うほど歌の可能性に特化し過ぎていた。
今回も前作で登場した「Ai(死亡時画像診断)」技術が半ば強引に登場する。本シリーズはAiを始めとした作者の薦める最新技術の使用法のバリエーション紹介になるのか? 実際に作者は本シリーズによって社会を動かし始めたらしいが、今後も事件解決場面でAiのセールストークが始まるとしたら辟易してしまう。
私が本書を好ましく思わないもう一つの理由は、ラストの中途半端な美談である。こうやって話をまとめてしまうと、その能力もその病魔(の悪化)も機械的に用意されたものだという印象が一気に強まってしまうのだ。天上の歌声の存在やこの下手な感動話は、かえって作者の筆力不足が露呈させてしまっている。作者に心の機微を描き切る繊細さはまだない。物語に上手に入り込めなかったから、ラストの展開には自己満足だけを感じてしまう。小夜の立ち位置を優等生にしてしまったのも違和感の要因だと思う。
本書では医者と二人三脚で医療を支える看護士たちの仕事、特に小児医療にスポットを当てていた。小夜は2つの意味でナイチンゲールなのである。脆い心を持つ小さな患者たちに、病院側は医療そして看護に細心の注意を払う。そのケアの難しさに少しだけ触れる事が出来た。

ナイチンゲールの沈黙(下)ナイチンゲールのちんもく   読了日:2011年03月02日