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少女漫画と小説の感想ブログです

いつも となりにいてくれるオトナくん と共に人生を歩むために私は前に進む。

となりのオトナくん(5) (別冊フレンドコミックス)
るかな
となりのオトナくん
第05巻評価:★★☆(5点)
 総合評価:★★☆(5点)
 

ついに日野っちと両思いになったりりか。でもりりかの卒業まではキスもNGのプラトニックな関係をキープすることに…! それでも日野っちと恋人らしいことがしたいりりか。おうちデートで日野っちを困らせてしまうけど、日野っちの本気を知りさらに好きになって…。そして卒業まであと半年。久々のデートで幸せいっぱいのりりかに日野っちが伝えたこととはーー…!? ギャル×サラリーマンのおとなりラブ、完結!

簡潔完結感想文

  • 最終巻で新しい男性キャラを投入。その位置って横原じゃダメだったの…?
  • 受験勉強に恋人の存在は不必要。莉々花が独力で未来を進むための遠距離。
  • ギャルが夢を叶えるなら、サラリーマンも その夢の隣に立つために成長する。

間や空間を飛び越えても いつも隣にいるのは貴方、の 最終5巻。

最終巻は「時をかけるギャル」になっており、莉々花(りりか)の高校3年生が この1巻で終わる。そして最後は そこから2年後の とある場所でのシーンで終わる。少女漫画の王道パターンの結婚式や家庭内で夫婦となったシーンではなく、20歳という莉々花の成長途中のシーンで終わったのは、作者の21世紀的な女性像を表しているのだろうか。
本書のヒーロー・日野(ひの)は最初からサラリーマンで収入や生活が安定している。それはつまり莉々花が高校卒業後すぐに結婚することも可能で、20世紀の作品や低年齢向けの少女漫画誌での連作作品なら結婚をゴールにしていただろう。

ただし それでは女性側の自立が描けないと作者は考えたのではないか。莉々花の進路をしっかり考え、留学という夢を持たせたのだから、結婚式のシーンで莉々花が日野の扶養に入って、彼を支えるのではなく、日野と交際しながらも莉々花もまた自分の進みたい道に進んでいる途上にあることを描きたくて あのラストシーンになったと思われる。それは日野というオトナの存在で莉々花の人生の選択肢が狭まることから脱しているということでもある。確かに日野は自分との交際で莉々花の人生に悪影響が出るリスクを気にしていた。2人が離れ離れになる辛さや苦しさを乗り越えて、安易に一緒にいる道ではなく自分の道を歩いている、という結末が現代的だと思った。

そして莉々花が自分の道を歩いているからこそ、最終的には本編と正反対に日野が莉々花を追って、キャリアを描いたり努力をしたりしていることが分かる。圧倒的にJKギャルからのアプローチが多かった本書だが、高校を卒業して対等な関係になった2人は、相手を尊重しつつ自分の人生も しっかりと生きている。離婚などはしないと思うが、彼らの生活スタイルは莉々花の両親のような感じになるのだろうか。

莉々花が日野に頼らない(依存しない)生き方をするというのは高校3年生の夏休みから始まっている。この頃に莉々花は日野の家庭教師を卒業し自分の道を歩いている。そして それは日野との遠距離恋愛の事前準備でもあった。いつも一緒にいた相手が となりにいなくても彼らが大丈夫なことを描くことで愛と信頼の深さを描く。長期間遠距離にするには2人の交際期間(正確には交際の描写)が短すぎて、こんな超長編作品のような遠距離は大袈裟に映ったけれど…。
しかし高校3年生にはオトナの存在は邪魔なのだろうか。いよいよ受験シーズンになると物語から遠ざけられるオトナの姿を見て、同じ「別冊フレンド」の連載作品だった 三次マキさん『PとJK』を思い出した。話の構造といいオトナの追放の仕方といい、掲載誌が同じだと そういう部分も似てくるのか。


…と、私なりに最終回に唐突に挿入されるラスト8ページの意味を考えてみたが、それが全読者に伝わっているかは微妙なところである。私も最初は えっパリ? お洒落感を出したいの?とか、時間がスキップし過ぎて落ち着かないとか批判的な感想を持った。

私が思うに、作者は構想はしっかりと練っているのだが、それを作品内で表現するのが あまり上手くないように思う。以前も書いたが、中盤の日野の心の動きは もう少し読者に分かりやすく描かないと伝わりづらく、天然で思考が見えにくい彼が何を考えて莉々花に対する態度を変化させているのかが本当に分からなくなってしまっている。もうちょっと丁寧に分かりやす過ぎるぐらいに読者に登場人物たちの心境を分からせた方が良かったように思う。

また長期連載が初めてだったのは分かるが、どうも1話が連続しているだけに見えて、連載という流れの中で物語を感じられなかった。1話分の構造が莉々花の不安や悲しみを増幅させる → 日野と会って その悲しみが帳消しになる の繰り返しで、不安が長続きしない親切設計の代わりに幸福感も長続きしていないように思えた。日野の感情が見えにくいという設定もあるが、作者はキャラたちに熱量を持たせるのが上手くないように思えた。

交際後の日野が嫉妬する高校生役で用意された新キャラ。彼を馴染ませるため大事な1話を消費。

そして一番 気になるのは日野以外の男性キャラの使い方。最終巻に新キャラ・羽芝(はしば)を投入させる意味が私には分からなかった。いや分析すれば分かるのだが…。両想いになった後の日野に、同年代の男子と一緒にいる莉々花を見せることで彼の心中が穏やかではない、という胸キュンが描きたかったのだろう。そして わざわざ新キャラを用意したのは、これまで登場してきた横原(よこはら)は、既に偽装彼氏として利用してしまっているため、彼では日野の嫉妬を買わなくなってしまったからだろう。だから急遽 羽芝が用意され、一気に仲良くさせるために羽芝に多くのページが消費されていく。そして彼は特に意味もなく莉々花の友達と くっついていく。最終巻で始まる恋物語のどこに感情移入すればいいの? と、この『5巻』は構成に首を傾げる部分が少なくない。
横原も当初は当て馬として投入されたのに、思うように動いてくれず路線が変更されたらしい。初登場から変に目立っていたのに、特に役割がなかったのは そういうことなのか。まぁ当て馬がいたら日野が嫉妬心で莉々花を好きになっていくようで、恋心が濁ってしまったかな、と作者の選択を支持します。

最後まで1話1話が悪い意味で独立している印象で、作者が物語の全てをコントロール出来ていない印象を受けた。おそらく それは作者も心残りがある部分だろう。所々で聡明さを感じる部分があったので、それが作品内で伝わると もっと良かったかもしれない、なんて審査員的な感想を持った。


終巻で3年生になった莉々花。
せっかく『4巻』の感想文で褒めた莉々花の自重だったが、やはり それでは物足りないらしく、日野と お部屋デートをしたり、彼の隙を見て後ろから抱きついたり、日野の「モラル」の中でのラインを探る。これは日野に一線を引かれた時と同じような実地調査である。前向きというか へこたれないというか。
そんな莉々花のスキンシップに対し、日野は水を頭からかぶって冷静さを保つ、というイチャラブな話。何だか物語のラストが近いのに驚くほど内容のない話だった。集中力の問題なのか なんなのか。こういう部分で私の評価が下がっている。


々花の友達が日野の出身大学を受験するかもしれないということで、日野の家で勉強会&相談会が開かれる。そこに なぜか話の流れで1年生の新キャラ男子生徒・羽芝 葵(はしば あおい)も参加する。

日野は羽芝と親しげに話す莉々花が気になる様子。そして莉々花も一緒の空間にいると日野のことを ひとりじめ したくなる。いつもの空間に他者がいることで2人がムラムラする という話なのか??
高校生たちが恋愛話に花を咲かせるが、彼氏がずっといない友達と同じく、莉々花も学校内での彼氏との思い出はないと羽芝に指摘されて、莉々花は その話によって日野の心変わりを心配する。そして その心配は日野も同じだという両想いならではの胸キュンシーンとなる。心変わりの話は分かるのだが、学校の思い出からの話の流れが不自然で よく分からない。最後なのに どうも作者の考えが伝わってこない。

そしてラスト3話の ここにきて「友人の恋」が始まるのも意味不明。内輪カップルを作って全員幸せ=大団円ということなのだろうか。謎過ぎる展開だ。


々花は日野との受験勉強に限界を感じていた。どうしても彼氏が横にいると集中力が削がれるのだ。それを打開するために夏休みは夏期講習に通うことにする。そして お役御免となった日野は…という お話。

夏休みが近いと言うことは、莉々花の誕生日も近づいてきて、日野は彼女に ご褒美で欲しい物があるか希望を聞くが莉々花は思いつかない。ちなみに去年 貰ったハイビスカス(『1巻』)は無事に冬を越し、今年も花を咲かせている。これは莉々花が日野に対して惜しみない愛情を注ぎ続けたようなもので、彼女の努力の結晶と言える。
塾に通うと言うことは日野の家庭教師としての役目が終わるということで莉々花は本当は日野との時間が欲しい。だが節度を守った交際が前提だし、相手の立場や受験生という身分であるからワガママは言えない。会おうと思えば会えるのが隣人の特権だと思い直す。

そんな莉々花の心中を察したかのように、誕生日の週末、日野は莉々花の父親の許可を貰いデートをすることを提案する。行き先は去年は行かなかった夏祭り。日野は本来 人混みが苦手なのだが、莉々花のために頑張る。そして人混みで離れないよう2人は手を繋ぐ。それが出来るのは浴衣とメガネで変装をしているから。
日野がここまでサービスに徹するのは、自分の都合でもあった。彼が半年間の北海道への出張が決まったため、その前もっての埋め合わせでもあった。半年後というのは莉々花の高校卒業のタイミング。受験勉強もあるし、離れるには丁度いいといえば丁度いい。

芸能人でも教師でもないのに変装する自意識過剰な人々。親の許可まで取ってるんだし不要。

こういう困難な場面でも莉々花は笑顔になるのが定番となっているが、日野の方は莉々花の隣に居られないのが不安になっている。だから彼女の左手の薬指に指輪をはめて、確かな将来と自分の存在を感じてもらおうとする。もしかしたら莉々花が欲した出店の指輪を買わなかったのは、既に指輪を用意していたからかもしれない。
それにしても完全に賃貸であろう日野は あの家をどうするのだろうか。半年間も住んでいない部屋の家賃を払うほど若手社員に余裕はないだろう(指輪も買ったし)。その疑問を封じるためか、この後、2度と日野の あの部屋は作品に出てこない。


2人遠距離恋愛が始まる。あっという間に時間が経過し、莉々花は無事に大学に合格するのだが、日野は多忙で連絡すら ままならない。高校の卒業は大手を振ってカップルになれることでもあるのに、莉々花は日野の体温の低さに寂しさを覚えている。

卒業式の日に日野は帰京する予定だったが、天候不良で帰れそうにない。まぁ勝手に落ち込んで、そして日野に会えば立ち直るのは本書の決まりきったパターンである。読者は慣れた(飽きた)ので これしきのことで不安にもならない。ましてや最終回である。
今回も不安になった莉々花の相談役に横原が登場するが、彼を登場させるのは、彼に思い通りの活躍をさせてあげられなかった作者の贖罪の意味でもあるのだろうか。

何とか日野が当日の夜の内に帰れると知って莉々花は空港に向かう。それだけ早く会いたい。そして再会して分かるのは、日野が莉々花に会わなかったのは日野側の自制心が弱まっていたからでもあった。日野は その我慢の限界を超えて、晴れて高校を卒業した莉々花に日野は遠慮なくキスをする(法律や社会的には3月中は高校生なのでアウトだと思うけど)。

そこから2年後。莉々花はフランス留学中という状況。日野も出張を合わせて2人はパリで会う。その夜、莉々花は日野の宿泊先に向かう。これが初めての夜かどうかも、致したかどうかも分からない(おそらく違うだろう)。莉々花が20歳の時点を描くのは上述の理由だと思いたい。最後まで分かりにくい描写だったけれど…。

見た目で判断されがちなギャルだからこそ、オトナくん の本質を しっかり見極め好きなる。

となりのオトナくん(4) (別冊フレンドコミックス)
るかな
となりのオトナくん
第04巻評価:★★☆(5点)
 総合評価:★★☆(5点)
 

日野っちに告白したものの「応えられない」とフラれてしまった莉々花は失恋のショックを抱えながら修学旅行で北海道へ。するとなんとそこで出張で来ていた日野っちと遭遇。夜景を見ながらお互いの素直な気持ちを伝え合うことができて…。そして日野っちの誕生日も近いクリスマス、2人の距離はついに――!? ギャル×サラリーマンのおとなりラブ、急展開の第4巻!

簡潔完結感想文

  • 文化祭に続き修学旅行にもオトナ男子を召喚。2人で抜け出す北海道の夜。
  • クリスマス回は誕生回。日野の変化が分かりにくくて優柔不断に見える。
  • 日野の天然炸裂で1年早い春が来た、と思いきや真面目炸裂で現状維持。

海道にいるギャルは なまら めんこくなる 4巻。

良くも悪くも ずっとJKギャル・莉々花(りりか)とサラリーマン・日野(ひの)の2人だけの物語で、その狭い世界の中でも『4巻』では ついに大きな動きがある。これは読者としては読みたかった場面であり、天然な日野の性格を利用した良いシーンだった。

他にも両想いになって日野とイチャイチャしたい莉々花が自分の想いを優先させずに、彼の立場と性格を ちゃんと理解して、自制できる真面目な部分も彼の良さだと分かっている点が良かった。これまで日野との接点を持つためなら親を騙してきた莉々花だが(この時も親に内緒での接近である)、日野 困らせるような子供っぽい言動をしなかったのには安堵した。これは日野に失望されるという意味だけではなく、一種の日野の恋愛のトラウマから彼を救ったのではないか、と私は考えた。
日野は「スパダリ」の素質を持つ人である。高学歴・高身長で容姿や学力、社会的地位は申し分ない。だが どうやら学生時代から彼は、その外見や地位を目当てに群がってきた女性に勝手に好かれ、そして その人が勝手に失望していく様子に少なからず傷ついていた。彼らの想像する理想の男性像になれないことは、天然である日野を傷つけ、おそらく彼は彼なりに自分の性格にコンプレックスを持っていたはずである。
そんな性格を最初から笑ってくれたのが莉々花で、彼女は日野の言動で悲しむことはあっても、日野の性格や言葉足らずな部分に逆ギレのように怒ったことはない。そういうネガティブな発言をしないから日野はギャル莉々花を好ましく思えたのではないか。

イチャイチャ出来なくても 日野の生真面目さに改めて惚れる莉々花。彼女は彼の本質を見ている。

交際直後という大事な時期に、日野は生来の真面目な性格が原因で、莉々花が理想とするような言動を取れなかった。だけど莉々花は それこそ日野の真摯で、そして将来を見据えた行動だと理解を示し、彼のことを否定しない。この物分かりの良さ、そして価値観や考え方の類似は日野にとって大きな安心になったのではないか。この莉々花の理解は日野の中にあった恋愛に対する恐怖やコンプレックスを見事に払拭し、彼らの交際が この後も上手くいくという輝く未来を暗示しているように思えた。特に まだ10代で青春の真っ只中で、即物的に距離を縮めたい莉々花が、自分のことよりも日野に歩調を合わせる感じが本当に良い。


…と、色々と考えることの出来る本書だが、大事な両想いの場面でも淡々とし過ぎて盛り上がりに欠けるという短所は否定できない。その原因には、この大事な話でも本書における基本的な胸キュンの手順を守っているというマニュアル感と、遠距離危機というテーマを1話で済ませてしまう慌ただしさがあるのではないか。
胸キュン手順というのは、天然である日野の言動を莉々花が上手く把握できず、自分の勘違いで落ち込み、その後 誤解が解けることで気分がアガり、その下降と上昇で胸キュンが生まれるという順序のことである。『4巻』での告白回では、いつもとは逆で莉々花の言動が日野に歪曲して伝わり、その情報に騙された日野が勘違いから初めて自分から行動する。天然の日野だが莉々花に何も聞かされていないことで少しずつダメージを負い、追い込まれ、最後の最後で「オトナ」の良識よりも大事な自分の気持ちを開放する。自戒してきた日野が動くには こういう展開しかなかったのだろう。

残念なのは やはり それを1話で済ませてしまう点。ここは本書でも最も大事なシーンだから前後編の2話構成に分割することは出来なかったのだろうか。前編で莉々花の進路問題と留学の話を出して、その情報を日野が聞いて思い悩み、後編になって ようやく日野が決意を固めて莉々花に本音を語る、という日野の懊悩が長くなる構成にした方が、力を溜めた分、一気に想いが加速する様子が描けたのではないか。
それなのに本書は駆け足で降って湧いた留学話と空港での別れを描いてしまっている。日野側の想いの募り方や焦燥の描写が足りないまま、一気に加速した印象を受け、読者としては嬉しい反面、唖然とする内容になっている。どうして このエピソードを1話で まとめないといけないのかが私には分からなかった。


のように連載がブツ切りに感じられるのは本書の欠点だろう。2人の間に問題が起きても すぐに元通りになっているように見えてしまい、嬉しさも悲しさも淡々と過ぎていくように思えてしまう。例えば『2巻』のラストで一線を引かれても、『3巻』の1話目で あっという間に元通りになるし、『3巻』ラストで決定的な破局が訪れたかのように見えても、この『4巻』で すぐに希望を用意している。作者の優しさなのかもしれないが、これによって登場人物の(特に日野の)気持ちの流れが いまいち掴みづらくなっており、『3巻』で引き続けていた「一線」が いつのまにかに消失しているように見える。作者の中では ちゃんと日野の気持ちの変化には理由があるのだろうが、それがいまいち伝わってこない。心境が いまいち伝わりづらく、切実感や共感が少ないまま 話が進んでいく。何があっても1話で ある程度 救済されることが分かってしまうと物語が急に白けて見える。作者にとって長編は初めてだったのだろうが、もう少し読者にリズムとテンポを感じさせるような構成で、連載に緩急があれば良かった。ずっと同じ表情をしている日野のように、同じ展開ばかりが続いてサビの分からない曲のように どこで盛り上がればいいの??という気持ちが最後まで残った。

これは演出が下手なのだろうか。少なくとも もうちょっとモノローグで登場人物たちの心境や関係性を読者に伝えないと分かりにくい。日野は優しいからハッキリした態度が取れないのだろうが、線引き=フラれた、保留=将来的な交際の予感など白黒ハッキリしない展開が多く、区切りが分からないまま話が続いていく。その上、上述の通り、たった1話で悪化した関係性がリセットするから 読者としては どういう心持ちでいればいいのかが分からない場面が多かった。

やはり せめて1話は日野側の本音が描かれた話があった方が良かった。作者以外には見えにくい日野の心だから、彼が莉々花との出会いを1から振り返り、それによって どこで惹かれたのか、どこで自覚したのか、どうして距離を置いたのかなどの オトナ側の葛藤と、これまでの莉々花との距離感の変化を丁寧に説明しても良かったのではないか。本書のままだと いつの間にかに好きになって、留学の危機で焦って告白したみたいに感じられた。


学旅行で北海道に来ている莉々花。明るくスノボを満喫するが、その裏には失恋を忘れようという反動があった。その中で これまで莉々花の恋愛相談に乗っていたクラスメイトのチャラ男・横原(よこはら)もまた年上の人に恋をし、そして振られたことが発表され、莉々花への お節介が共感からだったことが明かされる。この時に横原が莉々花に当て馬立候補しても 良かったと思うのだが、そんなことはなく男女の友情が続く。ギャルだけど一途、スパダリだけど純情というのが本書の売りなのかもしれないが、あまりにも2人だけの世界で波乱が少なすぎる。そこの塩梅は難しいのだろうけど。

修旅の最中に莉々花は父親から日野も北海道に出張中であることを聞かされる。それだけ2人の中は疎遠になっているということなのだろう。そして偶然に莉々花は夜景が有名な観光名所で日野の姿を発見し、彼を追って単独行動に走る。久々に日野に再会した莉々花は日野を好きなのをやめることも出来ないが、そのせいで距離を取られる悲しさに涙する。
嫌いにならないでと訴える莉々花に日野は むしろ好きだと伝える。人としてというエクスキューズをつけるが、その後に日野が社会人と高校生は つき合えないというモラルを持ち出したことで莉々花はワンチャンあると感じる。今の関係性でなくなったら日野と一緒にいられるかもしれない、そう考えた莉々花は卒業後の告白を予告する。

あまり悲しみを引きずらないのが本書の良い所だと思うが、それにしても切り替えというか救済が早い。莉々花が勝手に落ち込んで立ち直るのの繰り返しばかりで飽きてくる。

日野が好きなのは元気でポジティブな莉々花。涙の後に すぐに笑うギャップと逞しさに惹かれる。

して近づくクリスマス。積極性を取り戻した莉々花は父親を上手く排除し、日野と2人きりのクリスマス回を画策する。偽装彼氏や家具屋デートの時もそうだったが、人に嘘をついて自分の都合の良さを優先するのが ちょっと嫌だ。莉々花には、というかギャルには計算より直球勝負でいて欲しいからか。

莉々花は日野に関する情報を今更Facebookや彼が出場した大学のミスターコンテストのページで知る。Z世代っぽい情報収集の仕方だとは思うが、個人情報をそうやって間接的に知ってしまうのは少女漫画として情緒がない。本編では初めて日野の名前が出てくるが、どうして2人姉弟の長男なのに耀二郎(ようじろう)なのかが気になる。父親の子という意味なのだろうか。
ここで重要なのは日野の誕生日が12月27日だという情報。莉々花はクリスマスに加えて日野の誕生日を祝うことにする。自分の誕生日では(『1巻』)、日野が孤独から救ってくれたので莉々花も 何か特別なことがしたい。

約束の24日、莉々花は学校帰りに食材などを調達して帰宅するが、学校に置いてきた鞄に鍵を忘れて家に入れなくなる。うーん、そういう状況を作りたいんだろうけど、学校も終わるであろう24日に鞄を置いておくという判断が わざとらしい。学校がある平日に日野が冬至を過ぎた直後の季節で外が明るい内に帰宅してくるのも意味が分からん。多忙な師走なのに。


うして莉々花は『3巻』の9.5話以降、禁止されていた日野の部屋に入る。久々の日野の部屋はソファが増えている。このままパーティーの会場は日野の部屋になり準備を進めるが、彼の部屋だと調味料が置かれておらず、日野が買い出しに行く。その隙に莉々花は内緒で用意していた誕生日の飾りつけを済ませ、日野にサプライズを仕掛ける。

その後に一緒に準備する莉々花と日野。日野が もう莉々花に対して一線を感じさせないのは、彼の中で答えが出たからなのだろうか。ちょっと謎の心理状態で、読者に対して もう少し説明が欲しいところ。

この日は それぞれに内緒でプレゼントを用意しており、中でも日野は莉々花にイヤリングを用意していた。莉々花は勢いで日野に つけて欲しいと頼むが日野は それを拒まない。『3巻』の日野なら しなかったことだろう。自然と身体と顔が接近し、莉々花はキスを目論むが、父親からの連絡で中断され悔しがって2人きりのクリスマス回は終わる。まず鞄、取りに行けよ…。


が明け、高校2年生の3学期を迎える莉々花は進路問題に直面する。そこで得意な英語を使う進路を考え始める。
莉々花は日野の同僚の女性に相談する(2回しか会ってませんけど。相手の学歴とか知らないと思われますが??)。そこから伝聞が間違って伝えられ、莉々花が留学するという話になって日野に伝わる。自分を飛び越えて、そして自分の知らない進路の決定に日野は落ち込む。お酒に酔ったこともあり、マンション内で遭遇した莉々花に対し、自分の寂しさや莉々花の話を聞きたい気持ちが溢れるが話は横道に逸れる。

そこから時間は加速し、あっという間に終わっていた学年末テストでは莉々花の成績が向上する。それは彼女が目標を見つけたから。そんな彼女の成長に日野は また寂しさを覚える。そして莉々花が来週にもフランスに行くと聞かされ、日野は自分が莉々花の世界の外の住人であることを痛感する。

こうして遠距離生活が始まろうとしていた。日野は莉々花を車で空港まで送り、そこで彼女と別れてから自分の莉々花の気持ちが特別であることに気づく。そして彼女を追いかけ、後ろから抱きしめ、気づいたばかりの自分の気持ちを彼女に伝える。

自分の言葉で莉々花の恋も将来も縛ってしまうのが怖かったが、自分で1人で「留学」という道を選んだ莉々花なら大丈夫だと彼女に想いを就てた。日野は せめて帰ってくる時には連絡が欲しいと願うが、全ては日野の勘違い。莉々花は母親に会いに春休み中に旅行に行くだけで今回の件と留学は全く別。留学は将来的な夢として描いているだけで、具体的な話ではないから日野に話さなかっただけなのだ。盛大な勘違いをした日野だが、こうでもしなければJKである内の両想いは成立しなかったのだろう。


想い後 すぐに離れたため夢ではないかと莉々花は思うが、帰国後に日野と会って、彼の赤面を見て莉々花は初めて幸せを噛みしめる。
そして日野と両想いになって初めて莉々花の家で一緒に食事をする機会があり、日野は莉々花の父親と男同士の話を切り出す。莉々花は部屋の外で盗み聞きをし、日野が父親に莉々花に対しての恋愛感情を正直に伝える。父親にとって日野が気持ちに応えるのは意外で、2人の立場を考えて色よい返答はしない。それに対し莉々花が乱入して、日野との出会いと恋で自分が良い方向に変わったことを伝える。成績の向上など娘にとっての好影響は父親にも分かっているので、節度を守った交際を約束させ2人を認める。

莉々花は交際に浮かれるが、真面目な日野は卒業までは隣人としての付き合いをすることを決めてしまう。へこたれない莉々花は父親に内緒で日野との接点や交流を持とうと努める。勉強を理由に自宅で2人きりになり、色々と理由をつけて自室に彼を連れ込む。そこで積極的にスキンシップを図るが、日野は拒絶。この時期の誠実さが、この先も胸を張っていられることに繋がると考えていた。莉々花にしてみれば失望する答えなのだが、莉々花が好きになった日野は そういう真面目な部分である。

莉々花が見た目だけじゃない日野の良さを ちゃんと理解してくれていて本当に良かった。