《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

恋愛の決着、迷惑なヒロインの特殊能力の消去方法、早くも本編終了の準備は整った!

花になれっ! 2 (マーガレットコミックスDIGITAL)
宮城 理子(みやぎ りこ)
花になれっ!(はなになれっ!)
第02巻評価:★★★(6点)
 総合評価:★☆(3点)
 

ナゾの男・梅吉に誘拐されたもも。その陰には、大きな組織が関わっているようで…? 連れ去られた先は、大財閥・花神グループの大邸宅! 後継者である百合矢から、ももは自分が人のカタチをした花…女神の香りを持つ伝説の「純系花人」であると聞かされ…!?

簡潔完結感想文

  • ヒロインを利用する悪いイケメンが登場して ようやくヒーローの良さが見える。底辺の二択。
  • 学校内の四角関係は自然消滅。恋愛に決着がついた上、特殊能力の消し方が分かり本編終了。
  • この頃は純系花人や、彼女を求める三大名花などの設定があり、話に流れがある分 まだまし。

(あご)男同士の決闘から目が離せない 2巻(文庫版)。

『1巻』の感想でも書きましたが、序盤の男性たちは顎が長い。その上、下唇がぽってり描かれているから、唇が前に突き出して見えて、イケメンが しゃくれているように見えてしまうのが気になってしまう。

そんな… うそでしょう…っ!? 首も顎も長すぎる。その尖り過ぎた顎を武器にして決闘するのかしら!?

そして『2巻』はヒロイン・もも の拉致から始まって拉致で終わる。「純系花人(じゅんけいはなびと)」という花の香りをまとう「花人」の世界でも稀な人間であるために、世界中から狙われることになる もも。特に世界で3つの家が名乗る「三大名花(さんだいめいか)」に組織的に狙われることで もも は常に巻き込まれヒロインで い続ける。

イケメン新キャラに出会う舞台が変わるだけでパターンは全て同じの本書。『2巻』でもイケメン枠が3人増え、早くも計7人となった。

『2巻』終了時点。
イケメン枠:蘭丸・矢野・花音・梅吉・花神・春日部・プラチナ(計7人 前巻比+3)
キス:蘭丸・矢野・花音・梅吉・花神・春日部・プラチナ(計7人 前巻比+3)
裸を見られる:矢野・花音・花神(計3人 前巻比+1)
男性からの愛撫:梅吉・花神・蘭丸・春日部・プラチナ(計5人 前巻比+4)

最も読者の関心が高かったであろう少女漫画の大事な要素である三角関係は突然 終了が宣言されるし、早くもマンネリを見せる本書であるが、この頃はまだまだ後半に比べれば、大きな流れがあり、そしてヒロイン・もも が父母の影を追うことが、自分のルーツを辿る旅になるので読んでいられる。スピード感もあるし、謎が謎を呼ぶ展開と言えなくもない。問題は この後である。やがて専門用語など使われなくなり、ただ同じことが繰り返される読者が頭を使う必要のない展開が用意され、読めば読むほど頭が悪くなったと感じる内容に変質していく…。

そして『2巻』では上記の通り三角関係が終わり、もも と恋人・蘭丸(らんまる)の交際に障害がなくなった上、もも の特殊能力で、世界中から狙われる「香り」の消し方まで判明する。要するに もう いつでも物語を畳める準備が整えられているのだ。実際『2巻』まで読めば、その次に最終巻を読んでも話は十分に分かるだろう。問題は知らないキャラがいたりするぐらいで、純系花人の謎などは無かったことになるんだから…(絶句)

まだ この時点では本書から面白そうな漫画の香りが漂っている。だが その香りも やがて消えてしまう。花の命は短いのだ。


吉(うめきち)に誘拐された もも だったが、梅吉は組織の飼い犬に過ぎず もも は男たちに別の場所に連れていかれてしまう…。

遊園地に連れていかれた もも だったが自力で脱出を図り、蘭丸と無事合流。離れ離れになれば仲直りをするのが2人のルーティン。蘭丸は もも に大人げない態度を謝罪し、もも の方は三角関係のライバルである咲間(さくま)先輩の件が解決していないのに「もう いいや…」と蘭丸のキスを受け入れる。本当に目の前にいる男に流されるがままのヒロインである。

だが追手が迫り、2人は再び離れ離れに。そして蘭丸がいないと新イケメンが登場するのが本書のルール。もも は新イケメンの言いなりに別の場所に連れていかれてしまい、なすがままにキスをされる…(またか)。

新キャラの名は花神 百合矢(かがみ ゆりや)。花神は日本でも有数の大財閥・花神グループの(実質上の)頂点に立つ男。
その屋敷で もも は「フローラ」。ローマ神話の花の女神の彫像を見せられる。そのモデルは もも の母親だという。
花神が語るには「むかし この世で最も美しい花が咲いた。その花は美しい乙女の姿をしていて ある時 ひとりの若者と恋に落ち、ふたりの子供たちは世界中に広がった…」。それが花人の先祖だという。

もも たち母娘は女神の香りを持つ伝説の「純系花人」だという。もも の価値のインフレが止まらないが、同時に これは、今後もも が男性たちに言い寄られる理由が簡単に出来たということでもある。この不自然な設定が、ヒロイン総モテへの不自然を帳消しにするのだ。


神に愛撫されながらも もも が思い出すのは蘭丸。「あんな男の どこがいい」という読者と花神の問いに対し、「蘭丸くんは あたしが ひとりぼっちの時 手をさしのべてくれた」という。運命と言えば運命なのだろうが、順番の問題、という気もする。蘭丸の良さが全く出ていないのが本書の大きな問題だろう。第一、もも が蘭丸を思い出すのはピンチの時だけで、日常では すれ違いが多い。ただし花神を冷徹な人間に描くことで、蘭丸の温かさがよく分かる。

蘭丸は花神の屋敷に到着するが、やがて花神に見つかり、2人は決闘することに。甲乙つけがたい2人の男性が自分を巡って決闘する。これは乙女の夢?

花神が狙うのは純系花人だけがもつという幻の香り。どんな男の心もとろかすという甘い媚薬が、もも が持つ「女神の香り」らしい。その香りは、清らかなカラダでいるうちだけ、男を知ったとたんに消えてしまうもの。これは本書の逆ハーレム状態は いつでも終わらせられる、ということでもあろう。物語を畳む準備が早くも整い、あとはどれだけ延命できるかが本書の目的になってしまった。

蘭丸は花神が持つ その情報を知らなかった。ということは、蘭丸は純系花人というブランドに惹かれた訳ではないという証明にもなる。やはり順番的な問題になるが蘭丸は もも が開花する前から出会った人で、純粋に彼女の素質に惚れたと言える。そういう意味では蘭丸だけが特別だと言えるか。

剣を交える決闘の最中、折れた刃先が もも へ飛ぶ。蘭丸は その刃から もも を守るために自分を犠牲にする(どうにも瞬間移動っぽいが)。その自己犠牲の精神、そして蘭丸の名を必死に呼ぶ もも の姿を見て、花神は勝負をあずける。そして世界中の者たちが もも の香りを求めて動き出していると忠告するのだった…。
こうして物語の舞台は世界になることが予言された。


校に戻った もも は蘭丸と親密さを隠さない。男性の間を行ったり来たりする もも に女性たちの悪意が向くのも当然か。もも も相当な尻軽女であることは事実なのだが、周囲を悪者にすることで、それに屈しない もも だけが綺麗な精神の持ち主かのように演出するのが狡猾だ。

そして久し振りに咲間先輩と交流し、彼女が蘭丸の恋人じゃないと知らされる。咲間が好きだった人にふられ、自殺しようとしていた時に助けてくれたのが幼なじみの蘭丸だったという。絶望の中にいた咲間は やさしくしてくれれば だれでもよかった。これは以前、咲間が もも を非難した言葉。だけど それは本人のことを語っていた。
こうして矢野(やの)も含めて四角関係にまで膨らんだ関係は全て解消する。もう少女漫画的には、何もすることがなくなる。あとは花に寄ってくるハエどもをヒーローが蹴散らすだけになる。

そして咲間の件を考えると、蘭丸は困っている女性を見過ごせなくて、これからも同じように自分を差し出して、その女性を救いそうな気がしてならない。優しいって時に残酷だ。まぁ どちらも目の前の人に夢中になるような浮気性の気質を持つから、物語は延々と続くのだけど…。


もも が次に出会うイケメンも出会った瞬間にキスをしてくるような男で、もも は その人の香りを知っていると感じる。
10代にしか見えなかった その男性だが、高校の臨時新任教師として再び もも の前に現れた。名前は春日部 花織(かすかべ かおる)28歳。例によって新キャラに急接近し、男性を拒絶しない もも だが、その理由を春日部は もも と血が繋がっているからだと説明する。

母の秘密に続いて、父親候補が現れる。そして春日部は学校に現れた花音(かのん)を見て、花音の母親の名前を呼ぶ。
かつて花音は自分が死亡した母と そっくりだから、芸能人になってメディアに出れば父は自分を見つけられるはずと言っていた。そして その仮定から言うと、もも と花音は姉弟ということになるが…⁉

春日部の自宅への呼び出しに ホイホイと従う もも。このところ新キャラの男性が血縁問題を出して、その餌に もも が食いつく流れを用意してにしているが、父母の記憶も無いような もも がそれほど知りたいかというと そうは思えない。

雨に濡れてきた もも は春日部に されるがままに服を脱がされ、そして身体を触られていく。春日部は彼女に触れながら、もも の母親の話を語る。その口ぶりから どうやら本当に彼女の母と接点はあるらしいが…。

血の繋がりのある同士のスキンシップに嫌悪を感じた もも は春日部のもとから逃げ出すが、その帰路で花音に会う。花音は春日部の香りを漂わす もも を前に、いつもより乱暴にキスをし、そして泣く。彼の心を痛めるのは、自分が心から好きになった もも が姉かもしれないという現実だった…。

芸能界で輝く彼は自分の実の弟!? 世間に秘密の恋が禁断の恋になる話で長編が描けそうだ。

もも を助けに来た蘭丸、そして春日部のもとに事実を確かめに来た もも と花音は春日部から事実を聞く。

もも の母親は春日部の姉。つまり春日部は もも の叔父で、花音は従兄弟となる。春日部は自分の姉を姉以上に想っていたが、花神の父親と彼女の婚約が決まってしまった。その婚約を前に、純系花人を求める3人の求婚者が競ったという。ネタ元は かぐや姫か。

純系花人は もも の母親や春日部の家計の女性だけが持つ資質。しかも一族では女性はレアな存在で もも の母親も300年ぶりの女性。純系花人は数百年に一度しか現れない貴重な存在。もも は それだけ価値が高いという。

春日部と姉は、花神からの婚約から逃げ、その途中で姉だけが崖から落ちたという。春日部は姉を失い、その生死すら分からなかったが、この逃避行後に姉は もも を生んでいることから彼女が生きていた証拠になる。

ちなみに春日部が花音の母と知り合うのは、姉弟の逃亡の前らしい。花音の母が妊娠していることを知らせないまま春日部の前から姿を消したという。ってか、現在28歳の春日部が花音の父親になったのって何歳なんだよ。色々と計算が合わない気がしてならない。

花音の父親捜しは終わり、彼は春日部と同居を始める。叔父である春日部は戦線を離脱したが、従兄弟である花音は法的にも問題なく もも へのアタックを止めない。


もなく、花神から母親に会わせるという内容の手紙とロンドン行きの航空券が送られる。
そこで もも は蘭丸に黙って、花神の招待を受ける。動機としては母を知ることが、自分という存在を知ることに繋がると考えるから。序盤は もも の自分探しの物語とも言えなくもない。

花神が もも をロンドンへ呼んだのは、10年に一度の花人たちのパーティーがあるから。そこに もも の母親が現れる、かもしれないという。最初から随分と可能性が低いことを示唆する物言いである。

その主催者は「三大名花」の一つで、三代目いかとは、イギリス、日本、そしてアラブの3つの家柄で、花人の中でも富と実力 香りの高貴さ特に優れているという。先の春日部の話に出てきた、もも の母親の3人の求婚者とは、この三大名花であろう。

花神がパーティーで もも を大々的に宣伝したため、もも の その香りと蜜は招待客に狙われることになる。
そのピンチに現れるのが プラチナというイケメン。彼は花神に扇動される招待客の気持ちを一瞬にして削ぎ、もも の窮地を救う。I・Q200の超天才だが大の女ギライで変人だという。そしてイギリスの三大名花の後継者で、花神と同格の人間。


ンドンに来たが母には会えず、寂しさの募る もも は蘭丸に会いに日本に戻る決意をする。屋敷から出る際に再び出会うのがプラチナ。印象的な出会い方と その後の再会は、花音の時から続く全く同じ手法である。

噴水の中で意識を失くし、体温が下がり、呼吸が停止している(!)プラチナに もも は人工呼吸を施す。人工呼吸とはいえ もも が唇を自分から近づけたのはプラチナが初めてか。そして この仮死状態も花人の特徴なのだろう。彼らならロミオとジュリエットごっこも実際に出来るかもしれない(そういうパロディがあっても楽しかったかも)。
意識が戻ったプラチナは純系花人の蜜を欲し、そして もも はプラチナの放つ香りに気持ちが高揚し、人工呼吸は熱いキスとなる。これまでのイケメン枠7人に対して7人とキスする100%キスをするヒロイン。本書におけるキスの価値は限りなく低い。

ロンドンに来て分かったのは、花神と蘭丸の明確な違い。花神は純系花人として もも を利用しようとするだけ。プラチナは花神を快く思わない彼女の思いを汲み取り、もも を日本に帰国させようとしてくれる。

ちょっとした親切で もも は その人へのガードが緩くなるのも特徴。その緩んだ空気を察したのか、プラチナは本当に もも が自分の苦手な女性かを確かめるために身体検査という名のセクハラを始める。

その魔の手から逃げ出して、もも は蘭丸に助けを求めるが、もも を追いかけて蘭丸が乗る飛行機は ハイジャックされてしまい…⁉

そして もも もプラチナの趣味に付き合っている最中に拉致されて…。『1巻』ラストでも拉致、『2巻』ラストも拉致。ネタ枯渇の予兆がはやくも見えるようだ。

地味な少女が花開いて大人の女性になる お約束を破り、辿り着いたのはロリ系アニメ顔 巨乳。

花になれっ! 1 (マーガレットコミックスDIGITAL)
宮城 理子(みやぎ りこ)
花になれっ!(はなになれっ!)
第01巻評価:★★★(6点)
 総合評価:★☆(3点)
 

その地味さゆえに、好きな人からも相手にされないマジメな女子高生・山田もも。唯一の肉親である祖母を亡くし、天涯孤独となったももは、ひょんな事から超イケメン・蘭丸の家で住み込みのメイドをする事に! その上、蘭丸の手によりキレイに大変身を果たし…!? 解説エッセイまんが/宮城理子

簡潔完結感想文

  • 本末転倒。エロを隠れ蓑にしたSF少女漫画になるはずが、初期設定を捨て虚無マンガになる。
  • 愛されると拒めない、ビッチがデフォルトの仰天ヒロイン。浮気回数をカウントして楽しもう。
  • ヒーローと距離が出来たら新しいイケメンとの出会いの始まり。これが あと15回ほど続く。

たち読者もまた、エロやイケメンの香りに惑わされているのかもしれない、の 1巻(文庫版)。

虚無。
こんなに中身の無い少女漫画は初めてだ。
序盤は設定や謎の香りを振りまき続け、それでいて解決することを放棄した作品だった。中盤以降は「花人(なはびと)」という本書の核となる用語すら出てこない始末。花や香りがキーワードになるだけに、日本一の匂わせ少女漫画と言えるかもしれない。

とても、とっっっても好意的に解釈すれば、作者の当初の志においては、市川春子さん『宝石の国』みたいなことをやりたかったのかな、と思う。ほ乳類ではなく植物が進化してヒトになった、という発想から生まれた「花人」という設定。彼らがどう繁殖し、成長していくのかを描く、地球規模の壮大なSFになる可能性を秘めていた。このSF的なアイデアを、外国モノ・SFが禁止的空気のあった少女漫画界で通すために、ヒロイン・もも のような可愛らしい存在が必要で、花というのは美しいが生殖器だという解釈からエロ要素を取り込んだらしい。

結果的には これが大当たりしたのだろう。編集側から紙面を与えられず、連載が望めず、筆を折り転職すら考えた当時の作者を救い、そして 本書の連載開始から25年経過した今も漫画家として活躍されている。花人の香りが人を惑わせるように、少女漫画読者はイケメンとエロの香りに弱い。その読者の急所というべき点をしっかり押さえているから本書は人気を獲得したのだろう(たとえ どんなに中身がなくても)。ただ、これが作者にとって作家として良い転換点だったかは分からない。一番 簡単に売れる方法に手を付けてしまったのではないだろうか。少なくとも私には、ちゃんと話をまとめられない いい加減な作家として覚えられてしまった。

エロをSFの隠れ蓑に使用したはずが、エロこそ本体になり、当初の志は完全に忘却された。SF要素が使われるのは、なぜヒロインばかりがモテるのか、という少女漫画の都合の良い設定を上手くカバーする理由になったぐらいだろうか。どうせなら安定した人気を得た後の中盤から終盤で、もう一度「花人」についての伏線を張り、最終的にSF路線に戻せるような力量と覚悟があったら本書の評価も随分 違っていたのではないか。最終『9巻』で何の展開も用意されていないと分かったときの失望と言ったらない。最後は話を まとめてくれるはず、と信じていた自分が恨めしい。そして虚無感だけが残った…。

そして自分用の備忘録の意味も含め、本書における もも のビッチ生態を記して、イケメン登場人物の名前と人数、もも がされた行為などをまとめたいと思います。

『1巻』終了時点。
イケメン枠:蘭丸・矢野・花音・梅吉(計4人)
キス:蘭丸・矢野・花音・梅吉(計4人)
裸を見られる:矢野・花音(計2人)
男性からの愛撫:梅吉(計1人)


かし どうして少女漫画誌でエロをやろうとすると、少年・青年誌のエロと表現が似通ってくるのでしょうか。性的に迫られるのは女性側という一方向性が原因か。少女漫画界の中では、ヒロインは男性の身体に手を出さない 求めなければ無罪、という意識なのでしょうか。だから受動的に、男性側の どんな愛撫も受け入れるという構図が出来上がり、それが男性誌におけるエロ描写と重複する部分を生むのだろう。

裸の表現でも、イケメンの裸よりもヒロインの裸の方が圧倒的に多い。少女漫画なのだから、全部で10数人(推定)は出てくる男性たちを色々 理由をつけて裸にすることも可能だと思うが、やはり女性たちの楽しみの重点が、イケメンの直接的な裸などではなく、そのイケメンに自分の分身=ヒロインが愛されるという状況にあるからだろうか。

痩せて背の高いイメージだったヒロインが、段々と背の低いロリ顔巨乳になっていくのも「花人」の進化の過程だろうか。綺麗というよりも可愛いことが男女どちらからも庇護欲をそそり、そして自分に重ね合わせる余地が生まれるのだろうか。この少女漫画界での進化が、いわゆる典型的な男性オタク向けアニメの頭身やスタイルに落ちついていくのが不思議である。
『1巻』時点のヒロインからすれば、終盤の自分の姿こそ「あなた だれなの?」という感じであろう。

(左・『1巻』)のような姿だったヒロインが(右・『8巻』)のような姿になる。少女の理想=男性オタクの理想 なの⁉

本書は1997年連載開始。初期の絵柄としては女性は さいとうちほ さん やCLAMP っぽさを感じるが、じきにロリ系アニメの手法を採り入れていく。初期に登場する背の高い男性は とにかく 顎(アゴ)が長い。同時期に他誌での連載の『快感♥フレーズ』でも顎の長さに驚愕したが、この年代は下唇から顎までの長さが長いほど、顎の角度が鋭角なほど いい男だったのだろうか。これは やがて目立たなくなっていくから気にならなくなる。


ロインは地味な山田(やまだ)もも。メガネを掛け真面目で、クラスでも目立たず、想いを寄せるクラスメイト・矢野(やの)にアプローチしても冷たくあしらわれるような存在。祖母と2人きりで暮らしていたが、その祖母が亡くなり、身寄りも金銭的な余裕もなくなるという困窮の中、物語は始まる。

雨の中、一人泣いている もも に声を掛けた中年男性に彼女が ついていってしまいそうになるのは、それだけ孤独感が高まったからか、それとも この後2,700ページに及ぶ彼女の近くにいる男性に依存する体質が顔を出しているからか。

そんな彼女の貞操の危機や経済的困窮など諸々のピンチを助けるのが若王子 蘭丸(わかおうじ らんまる)。インパクト重視の1話からのキスを お見舞いして、もも に殴られる三枚目風の登場である(この頃の もも はまだ正常な判断が出来ていた)。

蘭丸は雨に打たれ高熱を出した もも を介抱する。目を覚ました もも は、祖母が裁縫を教えたという有名デザイナーの若王子エリカ、後に知ることになるが蘭丸の母親から若王子家のメイドになることを提案される。冴えない、そして泣いてばかりの現状を打破するために もも はメイドへの挑戦を決める。

デザイナーの母は海外を拠点にしており、その家に住むのは蘭丸と その弟・サクラ、そして飼い犬のパンジーだけ。もも は その名の通り、作品の王子様である蘭丸の手によって美しく花開く。髪を切られ、眼鏡を取られ、生まれ変わるのが第1話。ここまではまだ一般的な少女漫画である。


境の変化に戸惑う もも だったが、前向きな気持ちで自分の精神をコントロールする。この辺は彼女の数少ない長所が描かれている。

蘭丸は もも の高校に転入する。同じクラスになった2人は同居生活を秘密にすることを決めるが、蘭丸は開口一番「山田もも はオレのモノです くれぐらも手出ししないよーに!!」と目立つ発言をしてしまう。
もも の変貌と、転入生・蘭丸との親密な関係に嫉妬したクラスメイトたちから嫌がらせを受けるが、この学校の絶対的存在である女生徒・咲間(さくま)先輩が助けてくれる。
その咲間、そして蘭丸兄弟から「花の香り」を嗅ぎ取った もも だったが、放課後、蘭丸と咲間のキスを目撃し、そして むせかえる香り に包まれ倒れてしまう…。

身内の死、経済的困窮、有名私立校という舞台、風変わりなヒーローなど設定はどれも白泉社っぽい。

その香りは もも を女性にした。これまでなかった生理が始まり、彼女の身体は変化し始める。変わりゆく もも に周囲の反応も変わる。憧れていた矢野から つきあおうと言われ、キスを求められる。繰り返しになるが、この頃はまともな少女漫画&ヒロインだったので、もも は これを拒否する。早くも『1巻』中盤からは されるがままキスされるようになるが…。

遅れて登場した蘭丸が矢野を牽制する。しかし咲間が蘭丸との関係を匂わせ、加えて咲間が もも を女性として相手にしていないことを肌で感じ、もも は蘭丸を見限り 矢野と交際を決める。
そして咲間と蘭丸のキスを再び見て、男性依存症が高まったのか、矢野にキスを求める。蘭丸のような熱いキスを…。


う訳の分からない展開である。考えてみれば蘭丸は、もも にとってキープされるだけの存在である。蘭丸を軸にしているものの、矢野や『1巻』後半に登場する花音(かのん)との関係が終わったら もも が帰ってくるホームでしかない。蘭丸は もも を安心させる存在であると同時に、同じ数だけ不安にさせる存在なのだ。そりゃ 読者から人気も出ないはずだ。もも に誠実で悲しませない当て馬の人気が高くなるのも分かる。

そして もも は、どうやら性に目覚めると相手を香りで惑わせるだけでなく、自分からも男性との交流を求めるらしい。1話の中年オヤジもその対象だったのだろう。

自分の変化に戸惑う もも は学校を早退し、蘭丸もまた それを追いかけ、2人はデートをすることに。蘭丸は高校1年生ながら「2年ばかし休学し」たらしく、現在18歳で車の免許取得済みという設定。が、休学の理由なども最終巻まで明かされなかったような…。

生まれて初めて見た海で、もも は咲間の話題を出し、彼を遠ざけようとするが、蘭丸から求められ再びキスをしてしまう。自分や彼に特定の相手がいてもキスをしたくなればする。本能のままに生きる斬新なヒロイン像だ。

もも が蘭丸や咲間から香りを嗅ぐように、咲間も もも の中の彼女の香りを嗅ぎ、そして前日のキスのせいで蘭丸の香りが混じっていることを もも に指摘する。そして咲間は もも の蘭丸への想いは寂しさに由来するもので恋ではないと断定し、蘭丸は もも に同情しているとも指摘する。三角、いや矢野も含め、ドロドロの四角関係に突入するが、誰もが軽薄で そこまで興味を持てない。


んな中、学校イベント1週間の九州一周の修学旅行が始まる(どうでもいいけど、新幹線の外観が、1997年当時にしても古い)。学園モノなら、大きなイベントとして取っておくネタですが、とにかく早く人気が欲しい本書は大盤振る舞い。

ここ最近、もも は自分の美貌や魅力が開花していることに無自覚で、それに伴う危険にも無防備。そんな彼女を蘭丸は放っておけない。咲間がいながら蘭丸は もも に、もも は矢野と付き合いながら蘭丸に惹かれる。そして蘭丸に惹かれながらも、矢野が近くにいると彼のキスを受け入れてしまう もも。「やさしくしてくれれば だれでも よかったのよ…」咲間の言葉が反響する…。

だがキスをした1分後には「ごめんね… もう あたし 矢野くん とは つきあえない…」と別れを宣言する。矢野は もう生理的に受け入れられないらしい。変わっていく心と身体への困惑を蘭丸が受け入れてくれたことで、もも は彼の胸で泣く。修学旅行中に男を乗り換え続けるヒロイン。学校の女生徒だけじゃなく、全読者からも嫌われそうだ。

だが蘭丸と楽しく過ごした修学旅行最終日に、咲間の声を電話で聞いてしまい、もも は現実に戻される。
そして咲間という絶対的な存在に比べれば、モブの嫌がらせなど児戯に等しい。ここで もも や作品の中で選民思想というか、モブと選ばれた者の絶対的な線引きがされた。こういう選民性や特殊な環境の創作という部分は白泉社系の漫画っぽい。


旅最後の夜に露天風呂出会ったのは、花音(かのん)という美少年。花音は芸能人であり、本書最初の追加キャラ。
花音回は、これから最終巻まで延々と続くパターンの雛型。まずイケメンに会い → ピンチを助けてくれた彼との交流があり、やがて男性側が発情し貞操の危機! → どうにかそれを乗り越えたら蘭丸に戻る → しかし蘭丸と些細なことで喧嘩をしてしまい すぐに新しいイケメンと出会う…、というエンドレスループが始まる。

女生徒から水で溶ける特製水着(苦笑)を与えられピンチになる もも を学校にロケで来ていた花音が助ける。花音は自分の香りを知っており、その能力を使って人を動かす。モテることや、キス・愛撫をされること以外の意外な香りの使い方と言えよう。

花音は孤児で、親戚中をたらい回しにされ、そして唯一の血縁である蒸発した父親を捜すために芸能界で仕事をしているという。そして前触れもなく熱を出した花音の傍にいてあげることで、花音が もも に特別な感情を持つ。日が暮れる頃には熱は引き、もも を家に届け、別れ際に花音は彼女にキスをする。いよいよ もも のビッチ遍歴が幕を開けようとしている。

蘭丸は学校を抜け出し花音と行動し、そして彼の香りを残す もも を責める。もも も咲間と交際している蘭丸を責める。自分がさっさと矢野と別れたから立場は上らしい。咲間も いよいよ もも を敵視して、もも のストレスは頂点に達していたのだ。

少女漫画史上 最もキスの意味が軽い本書。雑誌の制限上 キスだが、実は全部「してる」という意味でも驚かない。

丸との距離が出来た際に、花音に呼び出され ホイホイと参上する もも。花音のCM撮影のキスの練習という名目でキスを交わし、そして そのCMにも急遽 カメリハに出演することになるが、騙され もも の姿がオンエアされてしまう。
それがまた花音との逢瀬の証拠となり、蘭丸は気分を害す。花音を責めるようにキスをするが、もも は蘭丸を拒絶。

蘭丸との距離が出来ると何が起きるかというと、新キャラの登場である。行く当てのなくなった彼女に声を掛けるのは「何でも屋の 梅吉(うめきち)」。梅は もも の母親を知っている素振りを見せ近づき彼女を眠らせる。ここから梅も作品も母のことを匂わせるだけ匂わす。そして忘れる…。

目を覚ました もも は自分がショーウィンドウの中にいて、言われるがままにマネキンを演じさせられる。
そこで飛び出すのが「純系花人(じゅんけいはなびと)」という単語。どうやら もも は「香り」を持つ人間の中でも特別な人間らしい。そして花人は、愛されると拒めないという特徴があるらしい。だからショーウィンドウの外で街の人が もも が愛撫されているのを見ていることを知っても拒絶しない。
蘭丸がガラスを叩き割り助けに来るが、梅吉は もも を連れて脱出し、もも は引き続き囚われの花人となる…。

読者が退屈を覚える前に新展開を用意する、そのスピード感とセンスには感心する。息もつかせぬ展開の中で新しい謎を用意して、これが最後まで続いたりすれば本当に『宝石の国』ならぬ『花人の国』になれた可能性がある。
だが本書は謎の方を捨て、エロとイケメンに走る。少女漫画読者は小難しい設定よりも、目の前のイケメンに愛される事を望んだ結果か。