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少女漫画と小説の感想ブログです

変身アイテム「クロス」を奪われた主人公が変身できない ピンチ回。

悪魔とラブソング 3 (マーガレットコミックスDIGITAL)
桃森 ミヨシ(とうもり みよし)
悪魔とラブソング(あくまとらぶそんぐ)
第03巻評価:★★★☆(7点)
  総合評価:★★☆(5点)
 

何事にも正面から向き合うマリア。その姿を見た甲坂友世は、学校へ行き自分の気持ちをクラスメイトにぶつけます。さらに神田優介も衝撃の宣言を――。マリアの理解者が少しずつ増える中、クラスの人気者・井吹ハナが復帰して…。 【収録作品】悪魔とラブソング番外編 みっかめ。―3日目―

簡潔完結感想文

  • 一致団結。合唱コンクールに向けて、初めてクラスがまとまったのは人気者のお陰。
  • 存在価値。わたしにできないことが、あなたにはできます。わたしにできることって…?
  • 本領発揮。クロスを奪還し、自己も回復。私は悪魔だから どんな望みも叶えてやろう。

全に彼女の存在を忘れていた 3巻。

この巻から 「クラスの人気者」井吹(いぶき)ハナちゃん が登場。
でも ついこの間、読了したばかりなのに マジで存在を忘れていたよ…。
『4巻』で合唱コンクール編が終わり、役目を果たしたら存在しないも同然の扱いになったからなぁ…。
ハナちゃん、元気にしてるかな。

名前に共通点が ある人以外、本当に扱いが ぞんざいである。
これが愛を感じない、世界の広がりを感じない原因だと思う。

マリアが学校社会に、人の輪に溶け込むという主題よりも、
結局、マリアと その仲間たち の描写に終始してしまっている。
世界の中心がマリアでしかないのだ。

そして構成が少年漫画のそれである。
最初のボスを倒したら、次は中ボス、そしてラスボスまでマリアの戦いは続く。

作者も「××編」と命名しており、
大雑把に言って、1編は4巻で構成されている。
全ての編が連載当初から構想されていたことなのに、
それらが あまり繋がりを見せないのが残念なところ。

マリアという人間のルーツを遡っていくというテーマは見られるが、
彼女を中心としてパーティーが組まれ、彼女を守りながらボスへと辿り着く構造が同じである。

他に類を見ないマリアの個性だが、そこに頼り過ぎている きらいがある。

彼女がラブリーな靴・オーガスチンを毎日 磨いているように、
全体を もう少しずつブラッシュアップ出来たのではないか。

私が言える具体例は登場人物を大事にする、ということぐらいだけど。
ハナちゃん、そして この後に登場する とある人物など、
無かったかのように扱うことはしないで欲しかった。


達とは何かの『3巻』である。

これまで、クラスメイトたち(主に自分の弱さを認められない女子生徒)は、
悪意を振りまいてマリアに攻撃的だったが、
友達という免罪符で、マリアを苦しめる人間が出てきた。

それが井吹ハナである。
彼女は、ぜんそくで2週間とちょっと入院していたため学校を休んでいた。
だからマリアとは直接面識がない。
(ということはマリアが転入して まだ2週間以内なのだ。)

「クラス名簿と てらしあわせて名前を覚えた時
 1人欠席がいるのは気になってたんだが」とマリア。

物語上 仕方ないけど、マリアの性格なら そんな疑問が湧き出した際には、
神田 優介(かんだ ゆうすけ)に この生徒はどうしていない?と問い詰めると思うけど。


ハナは これまでの女子生徒のように悪意を剥き出しにするのではなく、
相手の善意を利用して、その人を自分のコントロール下に置くタイプ。
上級存在であり、裏番長的存在である。

マリアによって分断されたクラスを
「こんなの まちがってるよ!」と胸を張って訴え、
渋る女子生徒を合唱コンクールの練習に参加させてしまう。

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垢抜けない外見だが真っ直ぐな心根。別の漫画なら主人公だったかもしれない完全な脇役。

々堂々の正論こそ彼女のパワー。
ただし、それには2つの例外がある。

1つは、それが彼女の自己演出であるということ。
彼女は友達が大好きなのではない。
友達が大好きな自分を演じるのが大好きなのだ。
人の本質を見抜くマリアの能力は そこに引っ掛かり、
彼女から発せられる言葉たちを真実だとは認定しない。

ハナにとって、他のクラスメイトとは違い正論を押し通しても自分の信念を曲げないマリアが
次第に目の上のたんこぶのように見えてくる。

そして もう1つが恋愛。

ハナは昔から優介が好き。
両想いは叶わなくても好きでいるだけの自分でいようとする。

しかし学校に来れなかった間に、
優介がマリアに告白したという事実が彼女に判明した途端、余裕をなくす。

ハナにとって自分が「キレイ」なポジションにいられないことが死活問題らしい。
だから自己の本質・恋愛の2つの意味で自分を汚れさせるマリアに敵意が芽生える。

多少の誤解はあるとはいえ優介からの告白の事実が、ハナを徐々に狂わせる。

でも ハナは同じく優介を好きな中村 亜由(なかむら あゆ)とも仲良くやっている様子。
これは全く脈がないだろうと踏んでのことだろうか。
残酷な子です。


この問題、優介には何の責任もないが、
女子生徒たちに モテる彼が、マリアの疫病神になっている気がする。
八方美人を続けるなら誰か一人に肩入れしてはいけなかったのだろう。


ナはマリアを優介に近づけさせないために自分から恋愛トークを持ち出す。
これも自分から好意を先に示せば、相手は横取りできないという計算があってのことだろう。

そんな女子の恋愛トークを目黒 伸(めぐろ しん)が途中で遮ったのは、
上辺だけの仲良しトークが聞くに堪えなかったからか。
それともハナが指摘した通り、マリアに恋愛や異性を意識させたくなかったからか。

目黒 曰く、恋は「気ィついたら堕ちてんだよ」だそうだ。
「堕ちる」という感じを使っている時点で恋の相手が悪魔であることが自明である。
話し言葉なのに、マリアにも「堕ちる」で変換されているのが謎です。


ハナは自分のルールの中で生きている人。

「自分の恋愛うちあけるのは友達の証なんだよ⁉」
「そーゆー誠意ふみにじるなんて 人として終わってるよ 可愛さん」

ハナの「友達の証」「誠意」という言葉のチョイスは、
彼女なりの「ラブリー変換」であり、人を押し黙らせる手法でもあるのだろう。


唱コンクールにテレビ局の取材が入ることになる。

志望者の減少による定員割れを回避すべく、
学校PRとしてマリアを利用しようとする学校側。
その ふれこみは

「とんでもない悪魔のような生徒が 天使になれる学校」ですって…。

炎上。大炎上で逆効果でしょうね…。
「偏差値やや低め」の学校の無教養さは よく出ていると思うぞ(ラブリー変換)。

学校側の腐った実態を描きたいんだろうけど、無理がある。
作者もモチーフである悪魔に固執しすぎだと思う場面が多い。


ナのような悪意のない人も傷付けてしまうマリア。
マリアはコンクールのリーダーを諦めそうになるが、
それを止めるのはマリアに自分の心を丸裸にさせられた人々。

ある者は叱咤激励し、ある者は感謝を述べ、
口下手な目黒 伸は彼女の全てを抱擁する。

嘘偽りのない言葉、
ずっと言って欲しかった言葉をくれる人の存在を確かめるマリア。


だが、テレビ局の取材も利用して
マリアの孤立と寛容な自分の演出を企てるハナ。

女子生徒たちは一丸となってマリアを貶める工作を始める。

このクラスの男子を相手にした自作自演の演技や、
テレビ取材に際して、嘘八百を並べるハナには唖然とする。

君ら劇団員かよ。

私なら明確な本心からの悪意を言うよりも、
示し合わせた演技をする方が小っ恥ずかしい。

「これって可愛(かわい=マリア)さんの字だよね⁉」
「え―――っ 『使えない人間』リストだってぇ」

こんなセリフを割り当てられた日には、学校を休みたくなる。
絶対、棒演技になっちゃうし。

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直接的なイジメ描写よりも私が最も共感性羞恥を覚える三文芝居の場面。何度か練習したのかな?

そんな女子生徒たちの嘘を見抜くのは、目黒 伸。

その根拠は、彼女が書いたという悪口が「生ぬるすぎる」から。

目黒が想像するマリアの言いそうな悪口は
「ちょっとピアノがうまいくらいで いい気になっててウザい」
ではなく、
「余裕ぶっこいて見せてるけど内心緊張しっぱなしの しょぼい奴だ」だそうだ。

自分で自分を切りつけているなぁ…(笑)
自覚があるんでしょうけど。


リアとの直接対決で、ハナは内心を見透かされたくないから
横にいる優介の方ばかりを向いて喋る。

マリアの能力から逃れるには最善かもしれないが、
それでは自分が嘘をついていることがバレバレだ。

マリアにしても信じなければならないのに、
能力もあって、信じるに値しないと思ってしまう。
自分を友達と呼んでくれる人を、今度はこちらから手を拒まなければならない。
そこが苦しいところ。

しかしハナは友達じゃないものには排他的。
徹底的に自分を「キレイ」にすることで、マリアを汚れさせようとする。


担任教師によって剥奪されたマリアのクロスが1巻以上経って戻ってきた。
これは彼女の信念の象徴だろうか。

クロス再取得まで「受け身でしかいなかった」自分を自覚し、
彼女との新しい関係を自分なりに模索する。

本領発揮のマリアとの対決結果は次巻。


テレビ局取材のレポーターの名前は安積 真一(あずみ しんいち)って。
名前だけ拝借したようで、紳一郎さんとは容姿は似ていない。

悪魔とラブソング番外編 みっかめ。―3日目―」…
高校入学3日目の目黒 伸と神田 優介が距離を詰めていく様子。

目黒のツンデレというか、
距離を取ってからネバーっと相手を見つめる粘着質な感じは、
マリアだけに適応されるものではないのですね。

目黒の家庭環境とかピアノが弾けるとか、
あの目黒伸から聞き出せるなんて神田は凄い奴だ(マリア口調)。

ラブリー変換を解除した俺は ただのイケメンなことを自覚してるんだぜ♥

悪魔とラブソング 2 (マーガレットコミックスDIGITAL)
桃森 ミヨシ(とうもり みよし)
悪魔とラブソング(あくまとらぶそんぐ)
第02巻評価:★★★☆(7点)
  総合評価:★★☆(5点)
 

キツイけど真っ直ぐな物言いのせいでクラスから孤立してしまったマリア。しかし、そんなマリアを目黒伸がかばってくれた。少しずつマリアへの視線が変わりだします。ある日、マリアは登校拒否になった友世を迎えにいくことに。一緒にきた優介が意外な素顔を…。

簡潔完結感想文

  • 友世。クラスのイジられ担当。マリアに反射した自分の姿を受け入れる。
  • 合唱コンクール。担任からリーダーに指名され奮闘するマリアだが…。
  • 優介。クラスのムードメイカー。八方美人は八方塞がり? 優しさとは…。

んな顔 らしく ないぞ、の 2巻。

『2巻』の表紙は神田 優介(かんだ ゆうすけ)なんだよね?
イケメン化している…。
表紙だからって画像を加工し過ぎた芸能人のようだ(笑)

いつもの柔和な雰囲気とは違い、別人のような表情を見せている。
優介は最後まで顔が不安定だった気がするなぁ。

転校早々にクラスで孤立した可愛(かわい)マリア。
そんな彼女が自分の痛みは隠しながら、
クラスメイトと交流を深めていくのがメインストーリー。

その核を担うであろう合唱コンクールの準備も いよいよ始まり、
孤高に茨の道を進むマリアの奮闘が続いていく。

そこに彼女を想う2人の男性が加わって、恋の鞘当ても気になるところ。

『2巻』ではマリアに初めて本音をぶつける友世(ともよ)が自己を獲得したり、
「ラブリー変換」の師匠でもある優介が常にマリアの味方でいるために、
クラス内で異質な存在になってしまう事件が起きる。

相手を傷つけずに守る方法をマリアは模索する…。


きなり弱音ですが感想文が書けません…。

作品も、作者の漫画の描き方も、登場人物たちも独特すぎて思考についていけない。
この人を理解した、とか、ここには こういう作者の意図があったんだ!、
という理解する喜びが浮かんでこない。

今回、自己を回復した友世はクラス内で最弱の立場の人間だったのかな、とか、
逆に優介はクラス内のオールマイティカードなのかなと思うだけ。

マリアが、友世を突き放しながら応援する様子は やはり教師のようだと感じた。

前例はたくさんあるだろうが、
風変わりな教師が自分の手法を貫き通すことで生徒が また一人と感化されていく。

「偏差値やや低め」の高校が舞台というのも再生に もってこいだ。
治安が悪いほど、更生するカタルシスが生まれやすい。

逆を返せば、マリアの精神年齢や鉄仮面は高校生らしくないということでもある。
しかもマリアは人の言葉の裏に隠された真意を読み取る特殊能力つき。

これではクラスメイトが一方的に感情的になるだけでケンカにもならない。

巻が進んでも、あまりマリアの世界が広がった実感が湧かないのは、
こういう構造の非対称性が問題なのではないかと思う。

そういう人種とマリアが仲良くなったからといって、読者は あんまり喜ばしくはない。
マリア側の不器用さや熱情を描くことで彼女の本気を伝えようとしているが。


世はクラスの中で自分たちの醜さを暴露する。
これはマリアにとって初の同性の味方だ。

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傷害事件に机の落書き・廊下の貼り紙、だけど教師は無視を決め込む。「偏差値やや低め」は地獄か。

しかしクラスメイトは事実を認めようとせずに暴力で訴えてくる。
友世を守るために、マリアは自分の身を身代わりにする。

彼女の 手のひらの怪我は、そのまんま聖痕を表しているのだろうか。

人間の理解が不足し、迫害されることの象徴か。

でも、マリアのクロスの形状で怪我するように見えないなぁ…。
痣として痕が残りそうな気はするが、流血には至らなそう。

流血騒ぎを起こしたとしてマリアのクロスは担任に没収される。
それを取り返しに直談判をしたのは優介で…。


友世の優介好き設定は、この後には完全に無かったことになりましたね。
女子生徒の言いがかりに必要で、
その後は もっと優介を好きな人が身近にいたので出せなかったのでしょうが、扱いが雑。

こういう点も作者が全体の統制を取れていないと思うところである。
もっと大事にエピソードを重ねてほしい。


書で一番の悪魔であるこの担任。
彼に何の罰もないのが本書最大のウィークポイントだと思う。

マリアは人に罰を与えることを望んでいないだろうが、
読者は分かりやすい勧善懲悪を望んでしまうもの。

クラスメイトたちが担任教師の資質に疑問を持たないのも ご都合主義のように思う。

10代の人って、もっと大人をしっかりと見極めている気がする。
大人の僅かな嘘や欺瞞を見抜いて嫌悪するものではないか。

彼らがマリアを嫌う理由は十分 理解できるのだが、
担任の言動を黙認する流れは理解できない。

マリアという共通悪に対して結託するという感じでもないし、
ただ単に作者の都合だけで、彼らの思考を奪っているだけのように思える。


担任は本当に しょうもない小物ではあるが、
彼に何の因果も起きなかったのは作者の怠慢のようにも思える。

本書において作者は登場人物を使い捨てるきらいがあるからだ。
役割を終えた人はフォローもなく無視を決め込み、次の章へと急ぐ。
この世界がリンクしていない、
円環の中にマリアがいないことが作品の質を落としたような気がする。

作品世界の構築というよりも、
いくつかの描きたい章を描きつけただけという印象が残ってしまう。
マリア以外は興味が無さそうなのである。

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マリアに劣等感を刺激されるのは教師も同じかもしれない。器が小さければ小さいほど、ね。

介の激おこ事件では優しさが問われる。

これまでクラスのムードメイカーとして絶対安全領域にいた優介が、
マリアに協力的なあまり、今度は孤立の危機を迎える。

そんな中でも笑顔をキープし、マリアを支え続けようとする優介。
だが、マリアの直感は優介の臨界危機を察知してしまい、彼にムリをするなと告げてしまう。

これには優介の友人・目黒 伸(めぐろ しん)が激おこ。

「てめーには 人の本質を みぬくようなカンはあんのかも しんねーけどな
 こう言えば相手は こう思うだろうっていう 想像力が欠けてんだよ!」

自分の味方をも傷付けてしまう自分の存在に懊悩するマリアだったが、
どうにか優介とクラスメイトを元の状態に戻すことに成功する。

自分の身に起こることを想像し、肝心なところで身がすくんでしまった優介に対して、
自分の身を汚してでも優介をクラスの輪に戻したかったマリア。

イジメられている人を庇う勇気と覚悟、
それを継続的に行う難しさについて考えさせられる。

クラス内最弱だった友世は反抗しても状況の悪化はないが、
優介に関しては、八方美人が暴かれ白眼視されるだけでなく、
自分の手法が通用しないというアイデンティティにまで関わってくる問題となる。

今回は優介も自分の弱さを自覚せざるを得なかった。
これからは彼がバランスを取って、マリアとクラスメイトを繋ぐのだろうか。


しても目黒伸の影の薄さは如何なものか。

『2巻』は優介のターンということもあるが、
どう考えても彼の方が読者とマリアの心を掴むだろう展開だ。

粘着質で湿度の高い視線をマリアに送り続けることで、
要所要所でマリアの助けにはなっているのだが、
どうにも活躍の場面が少なすぎる。

ピアノが弾けるという特技が加わったところで逆転にはならない。

この天邪鬼がヒーローになる日は来るのだろうか…。
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