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少女漫画と小説の感想ブログです

死に至る病とは絶望である。そして絶望とは この世界に貴方がいないことである。

墜落JKと廃人教師 20 (花とゆめコミックス)
sora
墜落JKと廃人教師(ついらくジェーケーとはいじんきょうし)
第20巻評価:★★★☆(7点)
 総合評価:★★★☆(7点)
 

受験前日、灰仁と関のあとをつけるが、壊れた柵から墜落してしまった扇言。目が覚めた時にはもう春が近づいてきていた。制服のまま駆ける少女の向かう先は――。「私今から飛び降りますね」「墜落JK」と「廃人教師」、2人の行く末は―――。キケンなつり橋効果LOVE、完結!

簡潔完結感想文

  • 臨死体験で灰葉の親、そして扇言の兄に挨拶と了承を得て2人は灰葉の夢の実現に近づく。
  • 成仏するのは一馬の片想い。恋心の自覚、告白、返事の全てが放置気味でスパイス程度。
  • 灰葉の家族計画は理解できるけど、扇言の人生設計が よく分からない駆け足の最終回。

板に偽りなし、の 最終20巻。

今はもう望まないことなのに扇言(みこと)が本物の「墜落JK」になったように灰葉(ハイバ)も本物の「廃人教師(休職中)」になって見事にタイトルが回収された。特に灰葉の廃人っぷりはコミカルに描かれているものの、それでも痛々しい。人間はどれだけの苦悩を抱えたら心が壊れてしまうのか分からないけれど、あのまま灰葉が「JK100号」と出会う頃には現実がどうであれ灰葉が100号に導かれて墜落していたかもしれない。その後に扇言が目を覚ましたら悲しみの連鎖が続いてしまう。「ロミオとジュリエット」方式は どちらも望まない形だ。

願掛けで副作用に悩まされ絶望を繰り返し味わう悪循環。67回も絶望したのか…

灰葉の廃人具合は彼が どれだけ扇言のことを深く想っているかの表れ。そして扇言が自分の受験よりも卒業を心配したのも同じこと。扇言が強く願っていたのは進学ではなく卒業の方。卒業で叶うのはJKという制約と呼称の終わり。もし卒業が不可能になったら扇言は絶望し灰葉と同じぐらいのレベルで廃人JK(留年中)になったかもしれない。

『19巻』の感想文で本書は霊的な存在が認められる世界なのかもしれないと書いたけれど、この世界には あの世は確実に あるらしい。そこで扇言は もう会うことの出来ない人たちに会う。特に「先生」と兄・扇月(みつき)と出会い、彼らから灰葉のために戻るように言われるのは、親族との挨拶と了承のように思えた。少女漫画では親族に認められることは婚約に直結する。もう一人の兄・詞(つかさ)は黙認状態なので これで結婚しなかったら詐欺である。
結婚の約束を交わすのが本来なら不適当な お墓の前なのも2人の将来的な願いが老衰で死ぬまで添い遂げることだから相応しい。お墓の前では嘘はつけないし兄も見守っている。そういえば扇言は白泉社ヒロインなので両親と死別しているような錯覚をしてしまうが彼らは存命。そのようなエピソードはないけれど実家近くの病院で入院していたのだから灰葉は扇言の両親と面識が当然あって、大体の関係性を理解しているだろう。


終巻は満足度も高いけれど不満点も多々ある。
まずは一馬(かずま)問題。『2巻』で初登場して、当て馬として覚醒するまでも長く 告白までも長かった一馬だけど、扇言の返答も最後の最後まで引き延ばされる。一馬本人も含めて扇言の返事は分かり切ったものだけれど、引っ張った割に呆気なさを感じた。一馬が数々のチャンスを独力で乗り切ることが出来なくて、なずな とのフラグばかり成立させていたのが悪いのか。

そもそも見込みはないし、扇言が一般的なヒロインのように2人の男性の間で揺れ動くのも見たくないから割愛は正しい。でも作品が縦軸として三角関係のために便利に一馬を利用したようにも見える。当て馬には最初に扇言に好意を抱いたはずの淳人(あつと)ではなく美少年の一馬が選ばれるというのも選民のルッキズムが働いている。最終的に なずな とも明確な関係性が示されないから、扇言=ヒロインは友情も愛情も失わなかったという少女漫画的お花畑に見えてしまった。扇言が最初の友人を失う訳にはいかないのは分かるのだけど。


して最終回は説明不足で疑問が残った。作者が「Postscript」で言う通り「先生イズム」が受けつがれていく と言うことなのは分かるし それで良い。でも扇言の人生を考えた時、よく分からないことが多い。この辺のことは完結後に発表された番外編で描かれているのだろうか。それらを未読の私の感想なので誤解などがあるかもしれないけれど現時点での疑問を書いていく。

まず最終回は本編の10数年後が舞台となり、最後の新キャラの1人である善(ぜん)は灰葉たちの「息子」として登場する。中学1年生(背の高さなどから高校生ではないはず)の善は10年前に灰葉の家族になった。12~3歳の善と10年前に家族になったのだから彼は2~3歳の頃に灰葉が引き取った計算になる。灰葉が善を迎えたのは自分が「先生」にしてもらったように血の繋がらない子を迎える。それが灰葉の「先生」への尊敬と恩返しなのだろう。善の背景は分からないけれど おそらく何らかの問題があって灰葉と同じように親から愛情を与えられなかった子供なのだろう。

また善の発言から灰葉の年齢が推測できる。漫画特有の間違いなく中年になっても見た目(特に体型)が ほとんど全く変わらない灰葉だけど、善が灰葉の教師歴を20年と言っていたから1年浪人した灰葉は23+20年で43歳で確定か。

でも その10年前、灰葉が33歳で善を迎えたすると一回り下の扇言が21歳の時なのが ちょっと引っ掛かる。全く分からないのが この時2人が結婚していたかどうか。そして扇言の その時の状況。問題なのは現在よりも過去である

最終回の扇言は31歳で職業は保育士だろうか。この職業選択の動機も一切ない。扇言も先生と呼ばれる職業に就きたいと思うのは自然だけど、保育士は ちょっと違和感のある選択だ。臨死体験を経た扇言は人生観や進路が変わったのだろうか。でもバリバリ理系(多分)の秀才が進路変更するなら理由が欲しい。まさか これまで淳人・なずな の弟たちと上手に交流していたのが伏線だというのか。

生活力の無い灰葉が独身のまま善を迎えるはずがないと思われ、善を迎えた時に扇言と結婚していた可能性が高い。この2人はいつ結婚してもおかしくないけれど、21歳の扇言は4年制大学に進学していたら まだ学生だろう。保育士を職業にしたいと考えたのならば短大でも可能で、その場合は浪人後の扇言でも かろうじて卒業している。でも21歳の扇言に養子との暮らしは負担が大きいように思う。灰葉の教師歴20年を約20年にして上振れさせるとしても灰葉45歳ぐらいが限界だろう。そうなっても善を迎えたのは扇言が まだ23歳の時。養子を迎えるには早い年齢に変わりはない。

これでは「先生」の生き方を踏襲するために灰葉は扇言に負担を強いたように思えてしまう。ここまで来ると「先生」の影響力が大きすぎて信仰や洗脳、執念に近いように思えて、灰葉は その現実に躍起になっているように見える。
扇言がJKの時は あれだけ自分の意思が彼女の将来に影響しないように一歩引いていた灰葉が結局 扇言を自分の人生プランに巻き込んでいる気がしてならない。作者も灰葉が扇言を支配しているように見えないように あれだけ注意していたのだから、最終回も その配慮を見せて欲しかった。

彼ら夫婦が実子を望むのは善との3人家族の生活を数年継続させてからという家族計画からだと推測される。善が両親に安心を覚えたのを見計らってのことだろう。

聡明な作者のことだから、この唐突で やや少女漫画チックすぎる結末も ちゃんと理由を用意しているはずだ。それを描くために もう1話欲しいところだけど、そうなると最終話の切れ味が落ちてしまう。だから未来編を1話で まとめたのだろう。
駆け足な部分が否めないので番外編などでの補完を願う。私が納得できる流れとしては、灰葉と扇言が善に出会い、彼の不幸を知ることで彼を迎える決意をし、そのために扇言たちも家庭を作るために予定を早めて家族(結婚)になったという流れか。
また考えられるのは、最終回で31歳の扇言にとって善が生まれた12~3年前は18歳前後で、2人が問題なく交際を始めた日が善の誕生日だったりする可能性は低くない。自分たちの特別な日に生まれた善との縁を感じて灰葉が引き取る方向に動いた、という流れなら納得できる。

灰葉に助けられた扇言が善を迎えたい灰葉の思いを否定することはないのは私にも確信できる。とにかく読者の想像での脳内補完ではなく、この家族形態に扇言の自発的な同意があったことを見せて欲しい。これでは最後の最後で灰葉が血の繋がらない家族に固執した夫唱婦随となる悪い年齢差が出ているように私には思えた。

作者としては ここまでが灰葉の人生プランの全て、という意味で描いたのだろうけれど、この部分でモヤモヤさせるぐらいなら1巻ぐらいの分量で番外編として丁寧に描いて欲しかった。自分の構想していたビジョンのために説明を省きすぎている。

大変楽しい作品の最終巻の感想文の半分が不満点になってしまった。すみません。


つては願ったことのある墜落を体験する扇言。落下の衝撃の後、扇言は彼岸で亡き人たちに会う。臨死体験というやつか。安路川(あじがわ)の祖母と再会し、「先生」こと凪(なぎ)先生とは面識はあるけれど話すのは初めて。そこで凪は早く戻らないと灰葉が後を追うと忠告し、息子のような灰葉への伝言を託す。これが この臨死体験が扇言の妄想ではない証明になる。最後に兄・扇月(みつき)にも再会。彼もまた もう一人の兄・詞(つかさ)と同じく妹を灰葉に託す。

扇言の臨死体験は現実で2か月が経過していた。その間ずっと扇言は意識不明だった。目を覚ましたのは転院してきた実家近くの病院。そして灰葉は ほぼ毎日 病院の屋上にいると聞き、満身創痍の身体を進め彼に会いに行く。


復を祈願して禁煙した灰葉は幻覚を見るほど精神状態が荒れていた。ここで本物の廃人が完成する。屋上にいるのは扇言の訃報を聞いた直後に後を追えるように、という悲痛な覚悟からだった。灰葉は扇言の転落の責任をとって辞職しようとしたが校長が責任を負った。いつだって年長者は年下の人を庇うためにいる。

昏睡期間により扇言は受験や卒業式をスキップしてしまった。ただ出席日数は足りているため卒業は可能。受験は ほぼ間に合わないけれど扇言にとっては浪人より留年して灰葉に想いを告げられない立場が続くことの方が問題だった。
幻覚世界の住人となっている灰葉を覚醒させるために扇言は墜落を試みる。それを阻止しようと灰葉が扇言に触れたことで彼もまた現世に戻ってくる。


休み中に扇言は卒業証書を貰う。扇言の事故以降、休職扱いとなっていた灰葉も次年度には復職する予定。

久しぶりの扇言の登校に一馬(かずま)・なずな・関(せき)が姿を見せる。関は予定通り共通テストを受け、人生の駒を進める(受験することが人生の第一歩)。

そして扇言は長らく保留にしていた一馬の告白への返答をする。一馬は返答の内容よりもライバルである灰葉に勝てなかったことが悔しい。それでも一馬が格好いいのは にわかに死の誘惑に駆られながらも扇言を大切な人に送り出せるところだろう。一馬を慰めるのは なずな の役割。彼女のスタートラインは ここからだろう。


中を押された扇言は初めて制服姿のまま灰葉の家に行く。
扇言が訪問しない間に灰葉の家はゴミ屋敷と化していた。そこに積まれていたのは自殺グッズの数々。それが灰葉の苦悩を物語っていた。それを知った扇言は生徒の証である制服を脱がされ、一人の女性として灰葉の前に立つ。そして先生ではなく名前で彼を呼び恋情を伝え、彼もまた彼女を名前で呼ぶ。
制服を脱がされる場面はエロスが漂う。このまま性行為に突入しても納得できる関係性だけど どうなんだろう。あと4/1にならないと社会的にアウトだし、その辺はどうなっているんだろうか。

扇言のいない世界に向けた「遺書 ver.2」は誰宛なのか謎。一番近しいのは詞?

は流れ お盆に墓参りに行った扇言は兄(故)に現状を伝える。扇言は浪人生をしながら書店でバイトを初めて現実社会の難しさに直面していた。同級生の安路川や薫子(かおるこ)、そして淳人(あつと)の卒業後の進路と彼らもまた生きづらさを抱えていることが描かれる。一番 病んでいたはずの関は意外に好調。扇言と同じ受験生になった一馬と なずな は進展していないけれど ずっと一緒にいる。灰葉の語る詞の恋愛フラグには驚かされる。

いつでも落ち込む扇言の墜落を防ぐのが灰葉の役割。自分の計画を前倒ししてでも扇言の気分の浮上を優先する。そういうところが扇言は好きなのだろう。


終話は教師の墜落をDC(1年生)が止める。このDCの名前は灰葉 善(ぜん)。彼は灰葉と扇言の血の繋がらない「息子」。善の弟は真言(まこと)という。一家は4人で幸せに暮らしている。
教師が墜落JKを助けるのが本編で、最終回は その全てが反転している。DCが墜落教師を助けているけれど10歳年上の教師と善は恋に落ちるのだろうか。