
sora
墜落JKと廃人教師(ついらくジェーケーとはいじんきょうし)
第19巻評価:★★★☆(7点)
総合評価:★★★☆(7点)
ひと月遅れのハロウィン、計画性皆無なクリスマス、頑なに大掃除をさせない大晦日、受験も間近な冬模様――。扇言に接触してきた同級生の男子が、“あの世”まで扇言を連れて行くと言いだして…?「もっと何かさせてもよかったの?」愛しさと切なさの雪解けを待つ――キケンなつり橋効果LOVE!
簡潔完結感想文
- 最終盤で現実と作中の季節が合致したのでハロウィン・クリスマス・大掃除の日常回乱発。
- 一馬を放置したまま女1男2の三角関係成立。奪い合いの対象は灰葉で争うのは共に死ぬ権利。
- 律儀な作者は題名の伏線を最後に回収。いや このフラグ要らん…。まさかのバッドエンド?
色々な意味で俺の後を追ってくれ、の 19巻。
本書の副題は葉鳥ビスコさん『桜蘭高校ホスト部』ならぬ『瑠璃高校自殺サークル』だったのではないか。1期生の扇言(みこと)から始まり2期加入が一馬(かずま)と一応 なずな、3期が薫子(かおるこ)、4期が安路川(あじがわ)。そして最終5期が新キャラ・関(せき)でサークルの円環は完成する。灰葉(ハイバ)を顧問とする この非公認サークルは生徒の安全のために動く。生徒会のような生徒を見守る上位機関なんて白泉社読者が悶絶する設定である。しかも秘密組織なんて厨二心をくすぐられる。それぞれが生きづらい現実と直面しているから誰もが否定されることのない世界というのも読者には心地良い世界観となっている。やっぱり灰葉は教師でいられなくなったらフリースクールを開設するべきだ。


さて『19巻』では女1男2の三角関係の亜種が見られるが、争奪の対象はヒロインの扇言ではなく灰葉と死ぬ権利なのが この作品っぽくて安心する。これまで教育実習生・姫野(ひめの)や灰葉の元同級生・一升(いっしょう)に陰で嫉妬を覚えていた扇言だけど、究極に嫉妬するのは灰葉との心中権を奪った泥棒猫の新キャラ・関(男性)だというのも本書っぽい歪み方である。恋愛の正統当て馬・一馬がいるのに新キャラで発生した修羅場もコントのようだった。
掲載号と現実の季節が合致する最後の日常回と関のエピソードが交互に展開し、灰葉が関と着実に関係性を構築しつつ、本来 遠ざけたい扇言が関に強い関心(嫉妬)を持ってしまうことで男女3人による生死をかけたド修羅場が成立する流れが見事。おそらく灰葉は、一馬をはじめとした「自殺サークル」の現メンバーよりも関は死を必死に願っていることを見抜いて、この案件は扇言に関わらせないように動いた。その動きをもってしても扇言が関わってしまうのはヒロインの持つ介入力の強さなのではないか。もしくは嫉妬力の強さ。いつもは灰葉が扇言の行動やスマホに目を光らせているけれど、灰葉の浮気のような行動を察知している扇言は何かと理由を付けて灰葉から離れず彼のスマホを盗み見る機会を得たとも考えられる。もし「偶然」灰葉のスマホ通知を見れなかったら扇言は様々な理由で灰葉と関の遣り取りを盗み見ようとしたに違いない。扇言は灰葉のストーキング能力を白い目で見つつ、自分も同じ穴の狢(むじな)であることを理解しているはずだ。
『19巻』ラストは衝撃の展開。まさか書名の伏線回収をするとは思わなかった。
ここで考えたのは本書は霊的な存在がいる世界なのか、ということ。『18巻』では安路川(あじがわ)の祖母の霊の気配を察知していたし、今回のラストの展開も この場所にいる霊による道連れと考えられないだろうか。その霊が連れて行きたかったのは別の人なのだけど扇言が巻き込まれヒロインとなったという考え方は出来ないだろうか。
また作品側が扇言と灰葉の人生を重ねようとする力も感じる。※ネタバレ 今回の結果で2人の人生の進み方が同じになっているのも その一つ。
この考えを進めていくと実は「先生」の死と扇言の兄・扇月(みつき)の死は同時期だったのではないかという深読みも出来る。『13巻』で「先生」の最期が描かれ、その時に灰葉は自分は成人しても「先生」から少年と呼ばれ続けていたと言っていた。更に「先生」は灰葉を一人前だと言っており これは灰葉が社会人として自分も先生になったことを意味しているのではないか。灰葉は一浪が確定しているから この時23歳以上。一方、扇月は扇言が中学生の時に亡くなっているので一回り上の灰葉は24歳以上となる。
灰葉は同じ森で死を迎えかねなかった扇言が自分と同じ時期に喪失を抱えたことを知って これまで以上に彼女への関心を持ったのかもしれない。それは灰葉の中の運命性の補強材料にもなっただろう。
繰り返し書いている通り灰葉も作品も扇言の人生に灰葉が強く介入しないように気を付けているのだけれど、どうしても強制力が働いて扇言は灰葉と同じ道を歩くことになっていくようだ。元々似た者同士ではあったけれど互いの相手に対する執着も どんどん同じレベルに達している。これがエスカレートすると2人の人生に差異が生まれないように同じ時点で死のうとする死の繰り上げになってしまうような恐れがあるけれど。
まさかのバッドエンドも本書には相応しい気がするけれど、丁寧に作られた物語には一馬という当て馬の放置は似合わない。もしかしたら このことへの未練や未決着が生真面目な扇言の生きる理由になるかもしれない。作者なら生への願望を そういう変わったベクトルで使いそうである。
扇言の前に現れた死神は同級生の関(せき)だった。関は自殺サイトで知り合って道連れを約束したのが扇言だと勘違いして焼け跡が見られる廃墟マンションへ連れて行く。その勘違いを補強させたのは灰葉とも言える。灰葉は関は自分には近づかないが「リスカ痕」のある黒髪の扇言なら勘違いすると愛する女性を囮(おとり)にした。
人違いと判明して関は全てを出会いのためと誤魔化すけれど、嘘つきとの交流歴が長い扇言は関の嘘を見抜く。関を野放しに出来ないと心配する扇言は彼が食いつきそうな餌を用意して別れる。


唐突なハロウィン回は現実の時間と作中の時間が合致する(してないのか?)千載一遇の機会を逃さないためか。現実で1年後のハロウィンの時期には連載は終わっていると作者は分かっていたのだろう。
コスプレは『17巻』で登場した灰葉のバケットリストの項目の一つとも言える。ちなみに札束風呂じゃないけど風呂も叶っている。これは扇言の灰葉への積極性の表れということなのか。
閑話として季節の日常回を挿んで灰葉は関と対面する。そこに間接的に扇言も召喚され3人で苦悩多き人生のゲームを楽しむ。そこで扇言は関の抱える闇のピースを知り始める。灰葉は このゲームで関と賭けをしており、見事 勝利(負ける気はしない)。そうして灰葉は関の道連れ探しを止めさせる。彼の自殺そのものに踏み込まないのは灰葉なりの順序があるからなのだろう。
再び季節ネタのクリスマス回。パーティーに不慣れな一同は今回もネタが被るばかり。サンタの増殖は彼らが誰かを喜ばせたい優しさの象徴だよ…。この回で さり気なく島袋(しまぶくろ)の生存確認。全員に中の人の正体がバレない限り島袋は生き続ける。また扇言は灰葉の1年前の発言もよく覚えていて、2年目には彼の願いを叶えようとする傾向がある。それを描けるのが長期連載の恩恵。
続いては大掃除回。掃除における身近な死の危険を教えてくれる物理教師。灰葉の部屋は詞(つかさ)が時々 来て勝手に掃除していくから そこそこ綺麗というエピソードが出る。扇言の存在を無視できるぐらいツワモノの そっちの方面が好きな人には良い燃料なのではないか。
灰葉は ずっと扇言を関の問題から遠ざけるものの、扇言は灰葉のスマホの通知で関との密会日時と場所を知ってしまう。
約束の日、扇言は2人の密会現場を灰葉を人生初のストーキングで突き止める。この日は共通テスト前日。扇言の受験への余裕が感じられる。
関は灰葉と一緒に死ぬ予定なのでテストは関係がない。関の中で灰葉の道連れが既成事実となっていることに扇言は驚き尻尾を出してしまう。そこで扇言は自分との約束を上塗りしようとする灰葉に逆上。こうして関に生徒と教師の危険な関係が露見してしまう。
灰葉の卒業までの関の存命の切望は扇言にも適用されるように思え、灰葉の愛を疑う材料になる。こうして始まる男女の諍いを関は冷めた目で見つめる。冷静になった関は扇言も自分と同類だと理解を進め、その同類に自分の事情を語る。彼は最愛の人を火事で亡くしていた。添い遂げるはずの人を亡くした関は自分も同じ場所に逝こうとするが1人では踏ん切りが付かず道連れを捜していた。
そんな関に灰葉は共通テストは受けろと自分の経験談と一緒に説得。ここで灰葉の一浪の理由が唐突に明かされる。扇言は関が受験票を用意するぐらい ちゃんと近い未来の予定を立てて行動していることを知り、それぞれの約束を一つにまとめて自分の都合で関は死ねないという建前を用意してあげる。それは実は死なない理由が欲しかった関の福音となる。関が抱えていたのは死ねない罪悪感ではなく、生きていたいと思ってしまう罪悪感だった。灰葉は自分の経験から本当は死ぬつもりのない受験生の心理が見えていた。
これにて一件落着なのだけどタイトルの伏線が回収される。

