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少女漫画と小説の感想ブログです

これまで見られなかった低い温度の津軽の言葉は、鈴を一人前に見始めている証拠

明治メランコリア(1) (BE・LOVEコミックス)
リカチ
明治メランコリア(めいじメランコリア)
第01巻評価:★★★☆(7点)
 総合評価:★★★☆(7点)
 

変わってしまったのは津軽(つがる)? それとも――!? 女学生・鈴(すず)と青年・津軽の年の差LOVE、本格スタート! 時は明治、少女時代に遊郭から身請けされた鈴も15歳。ひとまわり以上、歳の離れた津軽を想う鈴だが、近づこうとすればするほど、津軽が解らなくなってきて――!? 明治時代を生きる女学生・鈴の、愛と波乱の物語

簡潔完結感想文

  • 探偵と助手の冒険譚の『緋色』を仕切り直した『メランコリア』で味の違いが出るのは最初だけ。
  • 『緋色』は国内限定だったけれど『メランコリア』は世界情勢を含めた日欧が舞台となる。
  • 鈴が結婚も出来る年齢に達して、既存キャラに新攻略対象も追加した乙女ゲーム2作目開幕。

裕綽々だった津軽は もう いないのよ…、の 続編1巻。

『明治緋色綺譚(以下・緋色)』では9歳だった鈴(すず)が15歳に成長した正統続編。作者はヒーロー・津軽(つがる)がロリコンに見られないように細心の注意を払っており、鈴の恋愛成就は時間を進めた『明治メランコリア』として仕切り直すことで、改めて2人の恋愛を中心とした物語を試みる。

当然 鈴は一気に大人になる訳ではなく、毎年 想いが届かない悔しさを更新中

『緋色』の序盤は不慣れながら短編ミステリの切れ味を出そうとしていたのと同様に『メランコリア』序盤では一生懸命 恋愛色を強めている。それなのに結局 両作とも中盤からは長編作品に適当なサスペンスへと移行する。作風を変えるためのタイトルの切り替えだったはずなのに、タイトルだけ違う同じ作風になったのが非常に残念。

そして『緋色』は明治時代をモチーフにした架空の日本という雰囲気もあったけれど、『メランコリア』は歴史的な事件を含めた社会派な作風になっており、年や場所が確定していく。平和なだけではない富国強兵を目指した明治時代の後半の雰囲気が より強く出ている。そして題名がカタカナだからか海外情勢なども組み込まれ、舞台も海の向こうに移る。仕切り直したはずが、内容の重複が見られてガッカリした。こういう壮大な物語を読者は望んでいないと思う…。

その中では この『1巻』は『メランコリア』の中では異質といえる。舞台も まだ国内限定だし、15歳の鈴の津軽との関係性の構築という本来 構想された物語が展開している。構造も面白く、『緋色』で春時(はるとき)が登場する『4巻』までの内容を『メランコリア』バージョンとしてギュッと凝縮したような印象を受けた。相談者が見つけられない捜しものをしたり、届けたい想いをしたためた手紙に関わったり、懐かしいキャラに再会したりと意図的に重複している箇所が見受けられた。

乙女ゲーム化していいから、このまま国内で平和に男たちに囲まれる日々を過ごして、その上で津軽エンドを目指す方向であってほしかった。作者の中で予想以上に津軽の理性が強すぎて恋愛に二の足を踏むから大仰な物語を用意せざるを得なかったのか。


は9歳から15歳と外見的に大きく変わる要素があるけれど、外見が変わったように見えないアラサー・津軽は内面が大きく変わる。『緋色』では呑気で自由な御曹司だったけれど、今回は『メランコリア』だけあって表情に憂いを含む。どんな時も余裕綽々だった津軽が余裕をなくす。彼は何に頭を悩ませているのか、というのが序盤の謎となる。

おそらく この変化は津軽に足りない翳(かげ)を付与するためだろ。『緋色』では春時が不幸を一身に背負って、それにより彼がヒーローのような状況で、最終的に彼のトラウマを除去する物語にも読めてしまった。だから作者は今度こそ津軽をヒーローにするために津軽に翳の部分を用意する。

優しいだけじゃない表情を見せるのは津軽が ちゃんと鈴の成長を認めているから

『メランコリア』は津軽の憂鬱。彼の中で受け止めていたことが予想外の展開を見せることで津軽は悩む。そして悩みの先に鈴との関係に自分なりの答えを出す。『緋色』の後半でもそうだったけれど津軽は どうしても一歩引いてしまい、相手を優先する振りをして自分の感情を大事にしない。その津軽側の心理的ブレーキが恋愛の障害なので、ブレーキの存在を津軽が忘れるような特殊な状況を作る。チートすぎる津軽は日常の延長線上では恋をしないから、どうしても非日常に身を置く必要があった。

だから作者は この困った性格の息子のために色々と手を焼く。そうして出来上がったのが壮大すぎる物語。津軽が相手を優先するように、作者も津軽の自発的に芽生える気持ちを優先する余り、壮大な外圧を用意した と言える。どちらも とても真摯な態度だと思うけれど それ故に事態が ややこしくなている。


学校に入学した15歳の鈴。髪も背も伸び、少女よりも女性に近づいていく。現在の鈴の姿は『明治緋色綺譚(以下・緋色)』の最終『13巻』で津軽が夢に見た姿。そして おそらく津軽の恋愛対象年齢(の下限かドンピシャなのかは津軽本人だけが知る…)。

津軽や河内(かわち)も5歳 歳を取っているはずなんだけど、アラサー組は見た目が変わらない。ちなみに河内は この5年で3回結婚し3回離婚している。この5年で『緋色7巻』で消失した日本橋の本店は再建され立派なビルになっている。呉服屋というより百貨店やデパートなのだろう。

鈴は現在、血の繋がらない兄・春時(はるとき)と暮らしている(『1巻』では登場せず)。少女漫画では同居した男女は高確率で結ばれるが、遊郭から出た鈴は津軽と暮らしていたので津軽に優先権があるのだろう。
そして この5年間ずっと春時と暮らしていたのではなく、春時が兵役に行っていた3年間は津軽の実家に お世話になった。津軽の家に戻るという選択肢もあったけれど春時は鈴が津軽の家に戻るのを全力で阻止したかったらしく津軽の母親に話を通す。春時が頼みごとを出来る人がいることに安心する。津軽の実家では弟・淡路(あわじ)が寮生活を始めたタイミングもあり母親は話を受ける。淡路は『メランコリア』で顔出しする機会はあるのだろうか…。


『メランコリア』の1話目は『緋色』の序盤と同じような「さがしもの屋」のエピソード。アラサーのバツ3の河内が年頃になった鈴にエロ本を見ていることを告白している…。『緋色』の最終巻で株を上げたけど、考えてみれば この人は最初から遊郭通いをしてた人で、現在なら風俗店を頻繁に利用するような人なのだ。離婚の原因は妹たちだけでは ないのかも…。

『緋色』では鈴が津軽の一挙手一投足にドキドキする場面があったけれど、同じような津軽の言動でも鈴が成長したことで現実味が高くなっている。何だかんだで鈴に近寄る悪い虫を撃退していくのが津軽なのだろう。


3年間 世話になった津軽の実家は鈴のことを気に掛けて時に縁談を持ってきてくれる。最初は鈴に冷たかった津軽の父親だけど鈴の努力もあり3年間の暮らしで雪解け。今では娘のように思ってくれている。

そして父親は実の息子には30歳までに結婚して欲しいと願っている。これが鈴の恋のタイムリミットとなるのか。しかし現状の津軽は両親が送り付けた お見合い写真に目もくれない。元カノ・ひな との交際歴が無ければ女性に興味がない人と思われかねない。ちなみに ひな とは肉体関係も含めた交際だということが河内の証言によって匂わされる。唯一の交際歴だから ないと津軽が経験ゼロになってしまうけれど、相手は お嬢様で時代背景から手を出すことが問題になりそうなのに。ひな も自由人だから この時代の一般的な貞操観念を持ち合わせてなかったのだろうけど。

1話目では変わらないことを描いていたけれど2話目は変わったことを描く。鈴は津軽との距離を感じる。津軽は「さがしもの屋」を休業しており、鈴は助手という津軽の一番 近い居場所を失った。それは津軽らしい鈴のことを思っての措置なのだけど、いつものように一方的に結論を出すから鈴は津軽から見放された気持ちになってしまう。

その上、津軽は難しい顔をして外国人男性とビアホールで会話をしていた。このところ津軽は神経が逆立っていて言葉遣いも いつもよりも乱暴に見える。視線が合わなくなった関係を修復するために、鈴は改めて15歳での告白する。こうして津軽に自分の方を向いてもらうのだ。しかし津軽の中の鈴は成長していないことを再確認させるだけだった。

序盤だけは恋愛色が強め。今度こそメロドラマを貫徹するべきだったのに…

れでも同席していた河内によって津軽が逡巡してから答えを出すことが進歩だと言われる。それは津軽も気づかない自信の変化。そのことを指摘され、そして津軽の両親も2人に それぞれを見合い相手の候補にしていることが発覚。自分たちの関係に答えを出すために お試し交際をしてみればいいと河内は提案する。期間は春時が神戸から戻るまでの間。

さっそく2人は交際を開始。並んで歩く時、津軽はナチュラルに手を繋ぐ。その行動に鈴が過剰に反応するから津軽は鈴が本当に恋をしていることを実感し、その強い想いに照れくささを感じる。この関係性に津軽も久しく忘れていた恋愛の効用・高揚を見い出したようだ。

『緋色』の最初のゲストキャラ・叶(かのえ)が再登場。彼の所属する曲馬団は海外公演を勢力的に行い世界を見てきた。当然 彼も成長しており子供からイケメンキャラへと変貌している。5年の月日が流れる中で、鈴が津軽の恋愛対象になり得るように、叶は一人の男として鈴を女性として見ており彼は鈴との結婚を考えていた。そのぐらい真剣な叶の想いなのに、作品は叶の恋心を正面から描いてあげない。本書が叶のルートじゃないのは分かるけど、年上男性の恋をするヒロインにとっては同年代は どうしても子供になって当て馬にもなれない現状が可哀想。登場シーンも極端に少ないままだし。

叶は春時登場までの津軽の仮想敵なのだろう。叶はライバル意識を出さない津軽から鈴をさらい、『緋色』での懐中時計のように今回は風呂敷に包まれた訳あり品を鈴に託す。

津軽が動かないのは自身が問題に直面しているから。そして いつも一緒にいたから鈴への愛おしさが恋愛なのか庇護欲なのか分からない。これまでは恋愛の障害が年齢だったけれど、それが満ちた今は津軽側の受け入れ態勢が問題になる。