
リカチ
明治緋色綺譚(めいじひいろきたん)
第01巻評価:★★★☆(7点)
総合評価:★★★☆(7点)
明治中期、少女・鈴(すず)は吉原の廓に売られていたが、縁あって呉服屋の御曹司・津軽(つがる)に身請けされる。自分を救ってくれた津軽に感謝していたが、彼がなんの為に大金をはらって自分を救ってくれたのか解らない鈴。何も話さない津軽の本心を探ろうとするけれど!?--ふたりの運命の恋が緩やかに動き出す、明治の恋物語。
簡潔完結感想文
- 読切から短期連載・定期連載と形態が変わった作品は内容もミステリからサスペンスへ。
- 助手にも時には探偵にもなる鈴は、いつか さがしもの屋の津軽に灯台下暗しを痛感させる。
- ヒーローの弟なのに淡路は物語の外に追放!? 新キャラの方が家族扱いされていて憐れ淡路。
幼女 かわいくないよ 幼女、の 1巻。
読切作品が短期連載になり、後に定期連載が始まり全13巻、正統続編全11巻を含めると全24冊に亘るシリーズとなった作品。『1巻』は短期連載の5回分が収録されており、真の1話である読切作品は『2巻』の冒頭に収録されている。読切があっての短期連載部分から読むから、そのせいで やや唐突で不自然な部分もある(ヒーローの実家で弟以外の家族が登場せず主人公が会おうともしないなど)。
『1巻』収録分の話はミステリ色が特に強く、このままミステリ雑誌に掲載されていても おかしくない。もしくは本書が とある短編ミステリのコミカライズだと言われても違和感はない。1話分(または前後編)でミステリ部分に加えて掲載誌に合わせた少女漫画的な要素も詰め込まなければいけないのでノルマに追われた ぎちぎちの展開で謎も小粒。1話目なんて本当に捜す気があるのか疑わしいほど簡単。それでも久しく読んでいないミステリ短編集のような面白さを感じられた。また5回の連載分で主人公・鈴(すず・本当は鈴子(すずこ))とヒーローであり探偵役の津軽(つがる)の関係性を安定させるエピソードを紡いでいくなど高い手腕が感じられる。
更に凄いのは定期連載化して物語の奥行きを しっかりと出していく点。やや大仰になり過ぎていくし、特定キャラクタへの偏愛も感じたりするが、読切から始まった世界観を ちゃんと広げられる才覚を感じられ、ここから人気作家として飛翔していくのも納得できた。


また『1巻』では津軽(または鈴)が声なき声を届けるという共通点が見られる。
津軽は「さがしもの屋」を道楽にしているが、物的証拠を捜すよりも大事なのは どうして その人が その行動を取るようになったのかという「ホワイダニット」を見つけ出す。それが ある謎に悩む人たちの心を整理させ、結ばれていく人間関係に読者はカタルシスを覚える。相談者、または その近親者が ずっと言えなかったことを代弁する、その優しい物語を好ましく思う読者が多かったから本書は長編化したのだろう。人情ミステリのような部分を期待していた読者たちは この後の変節ともいえる作品の雰囲気の違いを どう受け止めたのだろうか…。
途中で鈴が「さがしもの屋」になるなど早くも番外編のようなエピソードがあったり、ラストでは鈴こそ津軽に見つけてもらう宝物であり、そう思わせられるようにすることが鈴の目標になる。鈴が いつか今は声に出せない津軽への想いを届ける予感が少女漫画読者の心をくすぐる。それを見届けられる環境が整ったことは喜びだろう。
幾つか作品の問題点を挙げると、まず鈴が可愛くないのが大問題。彼女の内面・外見はチグハグで9歳という年齢設定の割に見た目が幼すぎるように思う。目が幼女のように大きい割に、描かれている場所が顔の下方にあり過ぎて宇宙人のように感じられるコマが数え切れないほどあった。現代の未就学児の見た目にも見えるのだけど、思考は中学生以上に見える。内外が年齢相応に見えないから、どちらの面でも可愛げがなく見えてしまうのが惜しいところ。
鈴が学校に通わないのは、あまり働かない大人組と行動を一緒にするためなのだろうか。自宅学習しているから問題はないのかもしれないが、同世代との交流することによる社会性は身に付かないだろう。津軽の教育方針が謎だ(と思ったら『2巻』の おまけ漫画で鈴は学校に通っているという作者の脳内設定が唐突に提示された)。
また長編化への展望なんて分かるはずもないから仕方がないのだけれど、津軽に弟・淡路(あわじ)がいる設定を作ったのは余計だったのではないかと読了して思う。この淡路という人は津軽の実家に ずっといる設定なのに引きこもりのように登場しなくなり、果ては この家の弟キャラを全く血が繋がらない男性に奪われていく。
『1巻』で再来が予感されていたキャラを再度 登場させたり、させようとしたりと作者は序盤も大事にしているのだけど、淡路だけは拾った犬よりも大事にされていなくて可哀想。続編では彼も年齢を重ねるのだから結婚など一定の幸せを施してあげればいいのに放置されるばかりで可愛そう。兄にツンデレで実は溺愛している おもしろキャラになる予感もするのだけど。


また『1巻』ラストの前後編の話は、津軽の過去に通じて、短期連載の まとめ に相当させなければならないのは分かるけれど、事件の大きさの割に駆け足で雑に処理されているのが気になった。屋敷の使用人たちは どういう感情で彼女と接していて、その状況をどう受け止めていたのかなどが全部カットされている。まるで感情の無いロボットのようだ。津軽にとっても鈴にとっても一つの最終回となる話だから そちらの描写を優先したのは分かるけど、これまで丁寧だったミステリ部分の質が急に落ちたのが残念だった。
老舗の呉服屋の長男・藤島 津軽(ふじしま つがる)に拾われた9歳鈴子(すずこ・通称 鈴)。鈴は没落華族の出身で姉と共に遊郭に売られ、吉原の地で津軽に出会い、姉の死後 身請けされた。津軽は鈴を手に掛けたり、「紫の上」にしようと考えた訳ではなく、鈴を養育し教育を与える。でも清廉潔白だからこそ信用ならない、というのが欲望の街で男たちの姿を見てきた鈴の正直な心情。
津軽は呉服屋の支店店主をしながら、午後は自分の趣味として「さがしもの屋」をする。犬や猫、落とし物などを捜す。その津軽の親友に華族の河内 慎一郎(かわち しんいちろう)がいて、見た目はワトソン役に見えるけれど お笑い要員である。でも河内がいるから鈴と津軽は すれ違う思いやジェネレーションギャップを乗り越えているように見える。
冒頭は河内から持ち込まれた話で、亡き妻が最期に捜してくれと託した手紙を捜すことになる。その手紙は生前の妻が頻繁に他の男と交わしていた文だと夫は考えていた。しかし津軽は状況から妻が最期に伝えたかったメッセージを浮かび上がらせる。
お互いに素直になれない性格の似た者同士だから上手くいかなかった夫婦生活。そこに津軽が添えた答えは夫の救いになるのか、はたまた後悔になるのか。ただ不幸な記憶にはならないだろう。
この夫婦と、津軽・鈴の関係性は金で関係を結んだという共通点があり、津軽が支店の店主の責務を負うのは鈴の身請けに必要なお金を親に肩代わりしてもらうためだと、口の軽い河内から聞かされる。鈴は津軽の動機を知りたくなり、彼女もまた物語の探偵になる。
海外の曲馬団(サーカス団)を鑑賞した鈴たちは そこで親を捜す少年・叶(かのえ)と出会う。叶は現在 曲芸師として師匠の男性のもとで修業中の身。叶は死んだ母親が父親が曲馬団にいると告げられており、叶は10年前にも来日していた曲馬団を有力候補と考える。赤い髪と青い瞳の自分の容貌と、形見として所持する舶来の懐中時計が親が異国の人物であることが この説を補強している。
津軽は今回の残された証拠から真実を見抜き始める。そして身近な人の言い出せなかった本音を浮かび上がらせる。真実に反発する叶を鈴が決して不幸ではないと説教し一件落着となる。興行に出る際、叶は鈴に大切な懐中時計を託す。最初の当て馬の登場である。


3話目は津軽が自身の捜し物をしに実家に向かう。鈴が津軽の家族と初接触する(雑誌発表順では違うのだけど)。
実家で出会う津軽の弟・淡路(あわじ)は津軽を少し淡白にした容貌をした兄の信奉者。淡路は鈴に兄の一番を奪われたと反発している。けれど津軽の事情を知りたい鈴は彼と接触を図り、友好的な態度を取らない。そして鈴が知りたい津軽の動機を知りたければ、部屋にある筆を捜せと鈴を挑発する。初めて鈴が「さがしもの屋」となる。鈴は これまで見てきた津軽の思考に沿って考える。その捜し物の最中に、淡路は自由だった兄に呉服屋の店主という不自由を与えた鈴への不満を見せる。
約束を果たして淡路は津軽の動機として、津軽が幼少の頃、仲良くしていた女の子が売られ死んでしまった過去を伝える。彼女と同じ境遇の自分だから、その時に出来なかった救出を鈴にしたのだと鈴は理解する。鈴にとって聞きたくない現実だから淡路は教える気になったのだろう。なかなか こじらせている。ただし鈴の働きにより素直になれない淡路の心を津軽に伝えて兄弟仲の崩壊を防いだと言える。
ちなみに淡路は物語の中で雑に放置されるばかり。この後に登場する男性キャラに藤島一家の弟ポジションを取られたり、人生いろいろあったりで、なかなか可哀想なキャラクタ。作者は もうちょっと自分の作ったキャラに関心を持ってあげればいいのに、と思う。
そして この回で学生の頃から津軽と河内は事件に遭遇していたことが語られる。このままミステリ的な展開が続けば過去編・番外編として その頃のエピソードも出てきたかもしれない。津軽と河内の出会いは巻末で語られている。河内の黒歴史である。
淡路が言及した津軽の死んでしまった幼なじみ・奈津(なつ)の妹・律子(りつこ)が登場する。現在は裕福な家で過ごす律子は、2話目の曲馬団の興行で津軽を見かけて過去を懐かしみ会いに来た。そして津軽の道楽趣味を知った律子は住んでいる屋敷での指輪の捜索を願い出る。
自分が奈津の代替となった過去と関わる話で、律子の津軽の接近もあって鈴は機嫌が悪い。津軽も律子との会話、そして彼女からの接近に思うところがあるらしく、いよいよコンビのコミュニケーションが悪化する。
律子を良く思わない鈴は、律子の津軽宛の私信を勝手に開封し、文面から律子のSOSを感じ取る。そこで単独で律子の住む屋敷に乗り込み、不穏な空気を纏う律子と対面する。律子は親に売られたが行き先は遊郭ではなく工場で女工として売られた。姉の死を契機に脱走し、そこで酔狂なお金持ちに買われた。けれど その夢のような暮らしの破綻を彼女は知っているようだった。そこまで話を聞いて鈴は飲み物に含まれていた薬物で眠らせられる。
手紙の開封や鈴の行動を知った津軽が遅れて律子の屋敷に到着する。遅れてきた探偵は律子が隠す真実を次々に真相を暴き、やがて律子の口から全てが語られる。
津軽から更に遅れて河内が屋敷に到着し、屋敷内で火事が起きていることを確認する。それを知った津軽は危険を顧みず、また目の前の大切な人を振り返らずに鈴の救出に向かう。鈴は姉の幻覚を見て一度は あの世に引き込まれそうになるが、持ち前の機転で津軽に自分の居場所を正確に伝える。火事場で再会した2人は お互いが かけがえのない存在であることを確認し合う。
この屋敷で起きたことは全て火事によるものだと処理され、「律子」は姿を消す。後に届いた津軽への手紙には事の顛末と壊れていく心が したためられていた。律子は全てが明るみに出るように津軽の才覚に頼った。重い十字架を背負った律子だが、鈴は叶と同じように数年後の再会を予感する。
この回で自分と同じ境遇の捨てられた犬と出会った鈴は この犬を拾う(『1巻』では その描写はないけれど)。この犬は淡路よりも登場回数が格段に多く作品に大事にされる。
