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少女漫画と小説の感想ブログです

津軽から贈られた櫛には、苦と死、ときほぐす、求婚、どの意味が付与されていたのか

明治緋色綺譚(7) (BE・LOVEコミックス)
リカチ
明治緋色綺譚(めいじひいろきたん)
第07巻評価:★★★(6点)
 総合評価:★★★☆(7点)
 

津軽(つがる)、鈴(すず)を賭けた真剣勝負へ――!! 遠峰(とおみね)の夜会で鈴が賭けの対象に……。津軽と春時(はるとき)、二人の頭脳戦が始まる! ――久しぶりに二人きりの時間を過ごすことになった鈴と津軽。話したいことは沢山あるのに、何故かギクシャクしてしまい……。平和なひと時を二人はどう過ごすのか――?

簡潔完結感想文

  • ミステリ、メロドラマ、サスペンスときて今度は『明治賭博黙示録ツガル』が開幕(笑)
  • 幼女の養育権を巡って反目していた津軽と春時が暗黙の共闘。トロフィーヒロイン万歳。
  • 久しぶりの津軽邸での日常回は一定時間後にサスペンスに逆戻り。津軽以外の過去が重い。

時兄さまの仮面が剥がされていく 7巻。

今回ようやく『4巻』で津軽(つがる)が買ったまま鈴(すず)に渡せていなかった櫛が彼女に贈られる。今回のタイトルにもしたけれど櫛には苦と死という文字があるため贈り物には適さないという見方と、物事をときほぐす意味、そして求婚の意思を伝える場合もあるようだ。本書では どの意味になるかというと全部である。櫛を贈ったことで3巻分の放置が終わったと思ったけれど、これは困難が多い波乱万丈の未来を予測する意味があったのかもしれない。

津軽は櫛の存在を忘れていたけれど、会話での意思疎通の方が重要だったのか

そして『7巻』では もう一つ大事な小道具がある。それが お面。いきなり物語で賭博場が登場し、その参加者たちが着けているのが お面。賭け事のルールが長々と説明され、津軽の賭けに勝つための戦略が延々と繰り広げられた時には、私は何を読まされているんだ という気持ちになった。いきなり「賭博黙示録」が始まって実際1%ぐらい読者が脱落したのではないかと思う…。この場面で大事なのは、津軽と春時(はるとき)が表情による意思疎通が出来ない上に、直接的な言葉を交わすことも許されない状況で、それぞれに相手の思考を読み、自分たちが望む結末に共闘しているところだろう。

春時は お面を常時 心に装着していると言える。冷静で冷徹な自分を演じることで本心や本願を見せないようにしていた。けれど津軽の登場、そして遠峰(とおみね)が鈴に興味を持ったことで彼の お面の下から純朴な素顔が見え隠れし始めている。春時は自分の姉妹を遊郭に売るように手配したが、それは年齢によって役割が明確な遊郭という安全圏に鈴を逃がしたという逆転の発想も素晴らしい。世の中には小児性愛者がいることを身をもって知った春時は鈴の避難方法を模索したのだろう。これによって見えてくるのは冷徹な言葉を投げかけても春時が常に鈴のことを考えていた ということ。そんな春時の素顔が読者にだけは少しずつ見える その素顔の覗かせ方が上手い。


たヒロインを巡る(どちらかというと恋愛的ではなく養育権を巡る)バチバチのライバルが一瞬 共闘する場面は読者が萌えるポイント。それを可能にするために賭け事とルールが必要だった。
そして賭け事という決着後に異議が許されない世界を用意することで、津軽は合法的に穏便に鈴を貰い受ける(一時的にではあるが)。これによってロミジュリ状態だった2人が束の間の同じ時間を過ごせることになる、という流れが上手い。そして今後の別離のために お互いの意思を確かめ合い、春時に誘拐・軟禁状態だった これまでとは違い、相手を信頼して送り出す場面が生まれた。

これからも鈴は多くの困難に遭遇し、解決しなければならない予感がするけれど、これまでのように第三者によって離れ離れになる読者の心を乱す展開ではなく、覚悟の上で遭遇することなので読者の心は落ち着いていられる。これで やっと人心地ついた、という感じだ。

物語はサスペンス色を強め、ここから壮大になっていくものの、それは大雑把と紙一重の部分もある。序盤はミステリの「日常の謎」を扱っていたはずなのに、社会派サスペンスが続くのは あまりにも作風が違うと戸惑う。春時問題で留めておけば読者層の望むメロドラマになったのに、春時の黒い部分を中和するために より大きな悪として遠峰を設定したことで風呂敷を広げ過ぎた感がある。少女漫画における現実世界のサスペンスは、何ならファンタジー世界のそれよりも作り物めいて見える。しっかりした世界観が提示できておらず、時代設定など重苦しい要素を拝借しただけ。予期せずサスペンスを読まされるなら最初から他のジャンル(小説や青年誌)を選びたいところ。

繰り返される単独行動をする鈴の捕獲には辟易する。特に冒頭の鈴の遠峰の夜会への出席の流れなんて酷い。なぜ鈴が警戒心ゼロで遠峰の馬車に乗っているのか説明して欲しい。これが鈴と津軽の再会に繋がるとはいえ、鈴の賢さを都合よく奪うことは作品の質の低下に繋がる。春時はともかく、遠峰の事情は少しも興味ないんだよねぇ…。


は再び一人の時を見計らって遠峰(とおみね)から誘われ、彼が主催する夜会に向かう。鈴が誘いに乗ったのは理解しようとする兄・春時の外の姿が見られると思ったからなんだけど展開が不自然すぎる。

その夜会には遠峰の動きを怪しむ津軽も河内(かわち)の親族と身分を偽り参加していた。津軽は その観察眼で遠峰の夜会には裏の企画があることを見抜き、津軽が企画を知る人間だと思った遠峰に案内される。

洋装に着替えさせられた鈴は遠峰から待機を命じられるが、窓の下に河内の家の馬車を発見し、津軽がいると屋敷内を探索する。そこで目撃したのが遠峰の夜会の裏企画・賭博だった。上流階級の人間限定の覆面賭博。安全かつ大金が動く この夜会は参加者の好評を得ている。


軽が春時と出会い、お互いに牽制している時、ディーラーとして鈴が紹介される。鈴は自分の役目を知り怒り、参加者たちに説教を開始する。遠峰の動きに怒り心頭に発しているのは春時も同じ。彼に怒気を隠さないが、この場の支配者は遠峰。変態参加者の要望もあり鈴が賭けの対象物となり、鈴を変態の魔の手が伸びる実家から遊郭という安全圏に逃がしたはずの春時の計画が破綻寸前。

その勝負に名乗りを上げたのが津軽。鈴は久しぶりに津軽の姿を見る。
全参加者は5人。ディーラーは春時が務める。勝負は確率論ではなく、ディーラーの思考を読む心理・推理戦の要素が強いもの。そして津軽は賭けの最中に春時の思惑を推理する。それは彼が津軽の勝利を拒んでいないということ。絶対に勝たせたくない変態紳士がいるため、春時は その回避のために動いている。それが分かった津軽は春時と呼吸を合わせる。その空気を察したのか遠峰は春時が取れる手段を奪い真剣勝負を強要する。そこで春時は津軽にだけ分かる符牒を口にするが、その手掛かりの難易度が高いところに津軽は春時の負けず嫌いな性格を見る。しかし2人の知識量は互角で、だからこそ疑われることなく勝負は決する。

春時の強引な手法や乱暴な言葉が封じられることで津軽にも見えてくる彼の本心

者となった津軽は鈴を会場から奪い外に出る。賭け事で得た1日、津軽が自由にできる鈴に彼は これまで住んでいた家での暮らしを与えようとする。その優しさに触れて鈴は津軽と再会を喜び合う。

自由な1日、鈴は早朝から河内の妹たちと再会し、その後は久しぶりの犬の散歩。久しぶり過ぎて距離感が生まれた2人は互いに緊張を覚えていた。その空気が戻らないまま今度は津軽の母親に鈴は奪われる。その後も津軽は鈴を独占できずに、やきもちを焼いたり落ち込んで体調を崩したり珍しい状況になる。

しかし眠る前に津軽は鈴に、遊郭に売られる前に養子に出された鈴は既に桐院(とういん)家の人間ではなく、養子先も今はない。だから身請けされた津軽の家にいるのが自然だと論理を展開し、鈴を迎えに来る春時も追い返す姿勢を見せる。その言葉に感動しつつも鈴は自分の意思で春時を見届けると宣言。ならばと津軽も鈴を外に出し、困難に当たったら何度でも助けると鈴の意思を尊重する。春時の家に出ていく時とは違い、互いに了承した上での別離となる。


想に反して春時は なかなか鈴を迎えに来ない。その間、遠峰は津軽の素性を調べ上げており、呉服屋に偵察に来た際に2人は遭遇し、牽制し合う。世間ではゴシップ新聞に遠峰の賭博場の記事が掲載されていた。タイミング的に津軽のリークと遠峰が考えたから遠峰は津軽を調査したのだろうか。

鈴は津軽の家を離れる前に自分の痕跡を残そうと物の配置を変える。その中で津軽の持ち物の中に櫛を発見し、自分の留守に津軽が女性を迎える可能性を考えてしまう。しかし これは『4巻』で津軽が買ったまま渡せてなかった鈴の櫛。それが判明し落ち込んでいた鈴は嬉しくなる。

ようやく春時が津軽宅に来るが、鈴を3日後に迎えに来るという予告だった。それだけ言って立ち去ろうとする春時に津軽は彼に抱いていた違和感を披露する。そして その話の途中で春時と鈴の間に全く血の繋がりがないという推理を開陳。その話を鈴に聞かれてしまう。


が追求する前に津軽に、閉店後の呉服屋本店が焼け、その中に母親がいたことが伝えられる。全焼する店舗に鈴は絶望を覚えるが、中から佐之次が母親を抱えて出てくる。ちなみに この話で津軽の弟・淡路(あわじ)が久々に登場。次はいつ登場するか分からないレアキャラである。

火事は呉服屋だけを燃やし、死者もゼロ。しかし佐之次は放火犯として拘留される。佐之次は呉服屋を騙した過去があり動機も心証も黒に近い。しかし津軽は他の可能性を考えていた。鈴は津軽の雰囲気から落ちついて見える彼が内心は怒りに震えていることを察する。そして自分の前で その怒りを抑えているのは、この事件が鈴に関わると直感しているからではないか、と鈴は考える。今は頼りっぱなしだけれど、いつか津軽を守れるような人間になると彼に伝える。

救出後、ほぼ眠るばかりの津軽の母親が目を覚ます。彼女は事件の顛末を語り、佐之次が犯人ではないと断言。しかし真犯人を追求せず、大らかに事件を受け止め、店を建て替える未来を見据えていた。その姿は鈴の理想像となる。

佐之次は釈放となるが、拘留中に昔馴染みに会い、彼の身に危険が及ぶ予感が漂う。その佐之次の身柄を引き取るために津軽から離れて先に警察署に向かっていた鈴は春時に遭遇。一連の流れの中心に春時がいると考えていた鈴は兄に真相を問うが黙秘される。分かり合えない兄と決別を考える鈴だったが…。