
リカチ
明治緋色綺譚(めいじひいろきたん)
第12巻評価:★★★☆(7点)
総合評価:★★★☆(7点)
阿片事件にかたがつき、物語は鈴(すず)の今後の話となる。誰と一緒に今を生きるのか…? 独りにできない兄・春時(はるとき)、そして大好きな津軽(つがる)、二人の間で鈴の心は大きく揺れ動く。最終回直前、少女の運命ははたして!?
簡潔完結感想文
- 2人の おみくじ を総合すると「命と同じくらい大切なものが命失いそう」。津軽は自分に無頓着。
- 生まれる前から鈴は味方で花嫁。自分がヒーローになるなら少々 鈴を不幸にする自作自演兄さん。
- 説得に応じて春時の将来を救った倉田が余計な事をして誰かの将来を奪う。鈴に尻を叩かれろ!
親ガチャ大成功者・津軽の初めての凶年(享年じゃないはず…)、の 12巻。
『12巻』は おみくじ に支配されている。冒頭で久しぶりの日常を味わう鈴(すず)と津軽(つがる)だったけれど、この年 初めて参拝で引いた おみくじ は鈴が末吉で、津軽が生まれて初めての凶。この おみくじ の文面が巻末の衝撃のシーンに繋がっている。
津軽の年齢は確定していないけれど もしかしたら この年は厄年なのかもしれない。それでなくても津軽は おみくじ の結果を回避するために お祓いを受けるべきだったのだけど、鈴の言う通り「自身に興味が向いていない」津軽は何の対処もしない。そういう津軽の性格を熟知している鈴は食道楽になっている場合ではなく、津軽の不運を回避するように努めるべきだったのだろう。


※ネタバレになるけれども、『11巻』で遠峰(とおみね)に「君は… 刺されたことは あるか…」と聞かれた津軽は「いや それは さすがに ありませんよ」と言っていたのに、そこから1巻で津軽が その経験をしている。中盤で鈴が津軽に「夢で会おう」と言っているのとラストで津軽が鈴に同じ言葉を言っているのでは意味が違うことが切なさを増幅させる。ちなみに完璧ヒーローに隙が生まれるのは吉田秋生さん『BANANA FISH』を彷彿とさせた。春時(はるとき)が撃たれて以降、刃傷・発砲沙汰が続く。このままのペースだと登場キャラ全員に身体に傷が残る大仰な作品になりかねない。現代物ではなく近代物だと このような急展開も許される みたいな雰囲気が漂うのは なんでだろうか。
鈴と春時が、それぞれに苦境の中で出会った「大切な人」に真正面から別れを告げられない共通点が良かった。同じように臆病だから相手に直接 別れを言わないまま事後承諾で済まそうとしている。
そして臆病なのは津軽も同じ。幼なじみの河内(かわち)だけが津軽に そう指摘できる関係性が良かった。自分に興味が向いていない津軽だから自分の変化に気づいていない。それを気づくのは彼を観察し続けてきた河内だけ。
だけど津軽が その臆病さから一歩を踏み出して鈴に会おうとする時に凶行は起きる。そこに切なさが演出される。ただ あの津軽が自分から動いたことが一つの結論で、やっぱり津軽にとって鈴は「大切な人」になる。作者は津軽をロリコンにさせないために慎重にさせてしまっているが、ロリコンではないが希望はあることを上手に潜ませている。
笑ったのが春時がロリコン丸出しになったこと。いや春時はロリコンなんじゃなくて鈴しか想えない呪縛なのだろうけど、自分に正直になって鈴への本来の要望を隠さなくなった春時の鈴との将来像、家族計画が語られるのには驚いた。その前の、津軽が横入りしない春時の本来のプランにおける都合の良さも笑ってしまう。あぁ こうやって鈴のヒーローになりたかったんだなぁ、と19歳の青臭い青写真が初めて見られる。
作者は ちゃんと制御しているから物語は鈴が津軽と春時どちらと暮らすのか、という問題に終始しているけれど、やはり それが三角関係の決着に見えてしまう。ラスト付近の鈴を捜す津軽と春時の3人のそれぞれの視点では、どちらに遭遇するかで運命が大きく変わりそうな予感があった。そして それを裏切る展開に繋がっていることが読者を驚かせた。久々に1巻を通したテーマが見えて満足です。
遠峰(とおみね)は一命を取り止める。加害者のメンタルケアは必要だし、遠峰の監獄行きは火の粉がかかる者たちによって揉み消されるものの、だからこそ遠峰は縁を切られ社会的立場を失うこととなった。実質 無力だから無害化されたと津軽は認定する。実行犯だった夏川(なつかわ)だけが逃亡。しかし津軽たちは鈴の標的回避のために遠峰と対峙しただけで社会悪を断罪しようとするわけではないので放置される。
もう一人 遠峰の面倒事を解決してきた倉田(くらた)が津軽宅に やって来る。これは津軽の招待によるもの。倉田は津軽と河内(かわち)の小学校時代の同級生。津軽が成長後の倉田も認識したため、倉田が遠峰の方針を嫌悪していることを見抜き春時の追走を止めさせた。そのことでの謝礼を倉田は受け取りに来た。倉田は鈴との会話で春時と一緒にいて監視してやるべきだと性格の危うさを指摘して去る。
日常が戻ったことで鈴は津軽と行けてなかった初詣代わりの参拝を楽しむ。互いの おみくじ の結果を総合すると今後 起こることが浮かび上がってくる。この頃には津軽は鈴の真っ直ぐな自分の想いが照れくさいと感じている。だが同時に鈴は春時と暮らすべきなのではという考えも浮かぶ。
鈴は春時と会えておらず理由を付けて会いに行く。そこに津軽も鈴の今後の処遇に悩んでいた同席する。佐之次(さのじ)は実家から便りがあり戻っていて不在。春時は津軽の家に戻らず宿にいた。その不義理を叱りに津軽の母親も宿に顔を出す。宿の玄関で津軽母子と春時・鈴の四者面談が始まる。春時は鈴を津軽に託すと言って孤独になろうとする。佐之次が戻るとも考えていない。
そう言って玄関先から追い返されたものの孤独な男性を放っておけないのがヒロイン。鈴は春時との同居を願い出る。津軽と離ればなれになっても会えない距離じゃない。だから全てを失わないよう春時と暮らそうとするが、春時は欧州で生計を立てようと考えていた。どうしても春時にとって鈴が「妹」ではないから春時が鈴と暮らすことは2人の間に恋愛感情を持ち込むことになる。妄想での春時プロデュースの鈴との本来の再会プランは笑ってはいけないけど笑える。
春時が鈴への恋心をハッキリと示したことで春時への印象が またガラリと変わる。最初は嫌われていると思ったのに まさか花嫁に考えられていたとは思わないだろう。しかも春時は勝手に家族計画を立てている(笑)
春時と同じように新天地を目指していたのは倉田と そして夏川だった。偶然に出会った2人は、夏川の似顔絵を鈴に見せられていたため倉田が声を掛け、それで夏川は自分の存在を追う者がいると勘違いする。倉田のせいで鈴たちが恨まれてしまう事態が迫る。
津軽の鈴への曖昧な姿勢を河内は糾弾する。頭でっかちで感情を動かされると一歩引いてしまう臆病さを河内が指摘した。だから津軽に代わって河内は鈴に会いに行き、津軽の元に戻るよう話す。躊躇う鈴に河内は津軽の現状を見せるため立場を交代する。河内は春時の監視をしつつ彼に一つ提案をする。


鈴が離れて見た今の津軽は異常行動ばかり。彼が彼なりに自分を大事に思ってくらていても それは互いの運命じゃない。そう考えてスイッチが切れて居眠りをする津軽に別れを告げる。津軽は眠る自分の身体に冷えないように布を掛けてくれたのが鈴だと推測する。黙って出ていった鈴の行動に津軽は彼女の決意を受け取る。
宿に帰ってから鈴は春時に同行する意思を告げる。津軽と佐之次、お互いに大切な人に直接 別れを言えないまま2人は新天地に向かおうとしている。その佐之次は口べらしとして外に出された実家で必要とされる状況になっていた。ただ家を出ている間に大切なものが出来て佐之次は身を引き裂かれる思いを抱える。
津軽は相手の決断をどうしても優先してしまう。それが自分が出した最適解だから。でも そうやって簡単に身を引いてしまったから かつて交際していた「ひな」との関係も終わってしまった。そんな理屈ばかりの自分が衝動にまかせようと動き出す刹那、倉田の手紙で夏川の存在を知る。
いつだって鈴が単独行動をした時に危険が迫る。周囲の不穏な空気を知って津軽・春時は それぞれに鈴を捜す。しかし鈴が最初に会ったのは河内だった。春時は佐之次に遭遇する。
夏川が狙ったのは鈴を守るパーティーの姫ではなく司令塔の津軽。誰もが凶兆を予感する中で津軽の実家で久々に弟・淡路(あわじ)が登場。名前も出ない1コマだけの出演。『明治緋色綺譚』では最後の登場だろうか。『明治メランコリア』では出てきたっけ…??
津軽は夏川の蛮行を周囲が認知するまで無理をする。その津軽の凶なる運命を鈴が発見し、今度は津軽が夢で会おうと別れを告げる…。
