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少女漫画と小説の感想ブログです

偏見で鈴を判断している平賀と、先入観なしで「その人」を知っていく鈴

明治メランコリア(3) (BE・LOVEコミックス)
リカチ
明治メランコリア(めいじメランコリア)
第03巻評価:★★★(6点)
 総合評価:★★★☆(7点)
 

露西亜密偵として追われる想い人・津軽。尉官候補生・平賀の言葉。少女はこの恋で、さらに女性へと成長する……!? 行方をくらました津軽を捜す鈴。旧知の間柄である海軍大尉・半次郎から、津軽が日本の密偵である、ある女性と共にいると知らされる。動揺を隠しながら、津軽を追いかけ、ついに異国の地へ旅立つことを決めるが、その裏で、半次郎とその部下・平賀の思惑もうごめいて──!?

簡潔完結感想文

  • 花の都・パリに役者が集結。漫画制作に旅費はかからないけれど海外舞台は制作費が必要。
  • あの頃 自分が描いていた理想像と違う自分を痛感する鈴。しかし そのギャップは伸びしろ。
  • 鈴の成長は春時のタイムリミット。津軽の不在とNEW当て馬の覚醒までは春時が当代の当て馬。

軽を巡る三角関係、鈴を巡る四角関係が完成する 3巻。

鈴(すず)が津軽(つがる)を追いかけ、津軽と再会するまでの道行きが描かれる『3巻』。

津軽が不在の間に鈴は成長を決意する。これまでは津軽に それとなく守られ、そして甘えさせてもらっていた鈴が、自分は一人の人間として未熟だということを痛感し、今の自分に出来ることを心掛け、1か月という長い船旅の中でも自己研鑽を忘れなかった。この鈴の決意が血の繋がらない兄・春時(はるとき)との不和に繋がる流れも良い。春時にとって鈴は守るべき存在。だから遊郭から出してあげることで春時は鈴のヒーローになろうとしたし、今も鈴が幼ければ それが守る理由になると思っている。そして津軽と鈴が成長してしまうことは鈴が誰か(おそらく津軽)のものになるということで、それなら大人になんてならないで、というのが春時の願い。決してロリコンの対象外になることを恐れているのではない(苦笑)

ただそのままでいて欲しいと成長の阻止を願うことはヒロインのことを真に考えてくれる人ではないという意味にも繋がる。そして春時が鈴に異性として近づけるのは津軽が不在の時、そして『メランコリア』の当て馬枠の男性が当て馬に覚醒するまでの間だけ。冷酷なことを言うと、春時は鈴に胸キュン提供者がいない間だけの当て馬。鈴が津軽と行動したり、NEW当て馬が始動すると、いつまでも諦めの悪い旧当て馬でしかなくなる。平賀(ひらが)というニューフェイスの登場で春時の出番が少なくなる未来しか見えない。もしかして春時の『メランコリア』最大の活躍場面は この序盤なのではないか。

そんな関係性が安定しない春時だから『2巻』での神戸への電車旅とは違い河内(かわち)も参加し3人旅となる。河内は兄妹関係の破綻を止める安全弁で潤滑油。彼が同行しなければ楽しい旅にはならなかっただろう。そして河内も津軽の母親も、津軽と春時どちらかに肩入れするのではなく、どちらも想いを ちゃんと表現して欲しいと願っているところが優しい。春時は この2人が自分の根本的な味方だと思っているから好ましく思うのだろう。

続編でも根暗で沈みがちな春時を気に掛けるのは、生まれついて根明な人たち

軽がいないからこそ平賀という悪い虫が鈴に接近できる。平賀の態度は『緋色』における初期の春時と被る部分があり、鈴に害為す者と津軽が判断したら平賀と鈴の間に割って入っただろう。そうして津軽が場をコントロールしてしまうのが『緋色』だったけれど、鈴自身の成長を描くためにも津軽は物語の外に追いやられがち。だから鈴は平賀とは自分の力だけで関係性を改善していくのだろう。最初は嫌われていた平賀と分かり合えることが鈴の成長と不断の努力の証となる。

春時は鈴の格好良いヒーローになりたいがあまり こじらせてしまっていたが、平賀も自分の過去が影響しているらしい女性への偏見を そのまま鈴に適用している。この平賀の過去を修正することで鈴は彼に一目置かれるのだろう。

そして平賀と違い、鈴は先入観や警戒心を持ちかねなかった『メランコリア』の重要人物「ひな」と最初に自己紹介をせず人となりを知っていく。最初にフラットな気持ちで接することによって鈴は ひな に悪感情やライバル意識を持たないままでいられるのだろう。ただ それも津軽が不在だったから出来たことで、ここから関係者の男女3人が一緒にいる時に鈴が どういう感情を抱くのか分からない。惨めな思いをするあまり ひな に対して劣等感と それが反転した否定的な感情が生まれるかもしれない。

『2巻』と『3巻』で津軽がいない間に起こすべきことは起こした感じで、ここからが『メランコリア』の本番といった感じ。ただの恋愛沙汰だけでない大きな事件が予感される。

それにしてもパリを含めたフランスの場面は背景に相当 力が入っている。このクオリティを出せるのは『緋色』がヒットして背景担当のアシスタントを雇う余裕が生まれたからなのだろう。漫画作品は現実と違い一瞬で場面転換が出来るけれど、小説と違って描き込む労力を払わなければならない。背景の美しさは作品の資金力の違いなのだろう。


んだと聞かされていた津軽の元交際相手・ひな に会いに津軽は海を渡った。
そのダブルの衝撃事実を鈴は冷静に受け止めているつもりだけど動揺している。『緋色』のラストで津軽が重篤な状態になった時に彼が ひな の名前を呼んだことが彼の中の ひな の重要性を痛感した。河内(かわち)は そんな鈴の様子を見て、ひな が現在 既婚者なことを安心材料にしようとする優しさを見せる。

船に乗る前に平賀(ひらが)との縁を濃くするために、海軍兵学校主席卒業で少尉候補の彼に海兵たちが良からぬ企みをしていることを鈴が知り、介入する。平賀に助けてもらった恩があるという理由があるが、その話の一部始終を聞くのが不自然すぎる。どれだけ鈴と海兵が すれ違うのに時間が掛かっているのか。

鈴の行動はヒロイン的であるものの、組織のガス抜きの側面を無視したため、甘んじて屈辱を受け入れる平賀の覚悟を恥辱に変えてしまう。その鈴の直情的な行動を倉田(くらた)が視野の狭い幼さだと やんわりと指摘。津軽と出会った頃は利発で勇気があると称えられた言動も今は周囲への配慮が足りない行動になると鈴は自分の年齢相応の振る舞いを心掛ける。渡航を止めそうになるぐらい鈴は落ち込むが、それを大人への伸びしろだと前向きに捉える。


1か月かけて鈴たちはフランスのマルセイユに到着する。この1か月で鈴は同船だったフランス人から言語を学び、日常会話に不自由しないぐらいになったらしく、翻訳機能を獲得する。

出発まえから鈴は大人になろうと足掻くが、それでも津軽のことになると猪突猛進な性格が前に出て その度に落ち込む。そして鈴の無防備さ、早く大人になろうとする彼女は誰かのものになることと焦りを覚える春時との関係も悪くなりかけ、河内に修復してもらう。

どうやら鈴は春時の自分への強い恋心を家族愛だと認識しているらしい。自分の思いたいように世界を変えて、それが いつまでも良かれと思った行動が徒労に終わってしまう春時を苛立たせるのだろう。しかし残酷なのは やはり春時は津軽不在時の胸キュン要因でしかない。

『3巻』は基本的に旅行回。観光ついでに津軽を捜している、が正しいかも!?

ランスでは河内の親戚筋の家に お世話になる。当然のように お金持ちなので部屋など迷惑を掛けることは少ない。

鈴は春時との間に男女の空気が流れることに慣れず、混み合う場所で気軽に春時に手を伸ばせなくなったため迷子になる。フランス語も困らない時と困る時と波がある(展開の都合で)。そこからトラブルが連続し、置き引きされて困っているところに手を差しのべてくれたのが日本人女性。鈴は認識しないけれど それが ひな である。

鈴は ひな だと知らず彼女の人柄や性格を知っていく。ひな の言う「尊敬する ある女(ひと)」というのは津軽の母親だろうか。台詞的にはそうだけど、作中で津軽が ひな を親に会わせたという2人の接点が確認できる記述は無かったはず。

やがて春時が鈴を見つけ出し ひな とは名乗らないまま別れる。この時、春時は鈴を見つけて『緋色13巻』で河内に先を越された悔しい思いを解消できただろうか。でも今回 河内が鈴を発見しないのは、河内だと ひな の顔を知っているから展開的に回避しただけ という理由がある。


置き引きされてしまった鈴の鞄には津軽から贈られた櫛(『緋色7巻』)があり、鈴は津軽からの愛の象徴を喪失し落ち込む。だが それは すぐに のみの市で売りに出され津軽が発見し買い戻す。そして この櫛を異国で見つけたことで津軽は鈴が海を越えてきたことを予感する。津軽が櫛の特徴を覚えているのは彼にとっても思い入れが強い品だからか。

津軽に会う前に鈴たちは日本で出会った平賀とフランスで再会する。彼は「所用があ」って「倉田大尉のかわりに」派遣され、鈴たちと同行するという。鈴は平賀が軍人であることもあり、彼は津軽のスパイ容疑で追い確保しようとしていると認識する。その決めつけに平賀は冷静に対応し、何も話さないけれど同行する姿勢を崩さない。

その膠着状態を破ったのは ひな。鈴と再会し、同席していた河内によって その女性が ひな だと鈴が認識する。そして関係者が集う…。

「番外編」…
『緋色』と『メランコリア』の中間地点の、鈴が13歳になったばかりの頃の話。中間地点なので、鈴の津軽の父親との距離感は縮めている最中で、描かれなかったグラデーションの途中が見られるのが良かった。

結婚して1年も経たない内に離婚した河内は、離婚から1年も経たない内に2回目の結婚させられることになった。結婚に乗り気ではない河内のために鈴が想い人を演じようと背伸びをする。だが河内の電撃的な裏切りによって計画は未遂に終わる。それでも2回目も3回目も上手くいかない未来が待っているのだから結婚は難しい。

ずっと津軽は変わらないが、変わらないと思っている日常の中に鈴の成長や知らない部分が潜んでいることに気づかされる。そして最後に津軽は自分自身の無自覚な変化も知る。それは津軽が鈴への認識を変化させ、自分の中のブレーキを解除する予感でもあった。