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少女漫画と小説の感想ブログです

作者自身が出さなくても話がまわると思っているキャラの登場は商業主義の弊害

明治緋色綺譚(10) (BE・LOVEコミックス)
リカチ
明治緋色綺譚(めいじひいろきたん)
第10巻評価:★★☆(5点)
 総合評価:★★★☆(7点)
 

大好きってもっとたくさん言えば良かった――鈴(すず)に迫る死の恐怖。その時、津軽(つがる)は!? ――兄さまは、あたしが守る。春時(はるとき)を救うため単独で屋敷を抜け出した鈴。この無謀とも思える行動が、遠峰(とおみね)を追いつめる鍵へと繋がっていく。だが、真相に近づきすぎたことで鈴は絶体絶命の危機に直面し!? 歳の差ラブ、怒涛の急展開へ!

簡潔完結感想文

  • 津軽は本格的にミステリの名探偵ポジションになったため、事件解決時にしか登場できない。
  • 代わりに鈴が動き回って場面転換はあるのだけど、よくよく考えると新情報ゼロの引き延ばし。
  • これまで遠峰は迅速な行動で邪魔者を排除したのに今回は まるで倒されるのを待っているよう。

いに蛇足きたん? 10巻。

あとがき に作者が描いている通り『10巻』に登場するイケメン新キャラは「出さなくても別に話は まわ」る。それを敢えて出したのは編集者側からの要望で売り上げが良く雑誌の顔になりつつ連載の3~4話の引き延ばしを狙ったからだろう。わざわざ あとがき で そんな経緯を描いたのは作者側の不満や商業主義への反抗を表明しているのだろうか、と深読みしてしまう。
実際、作者がそういうんだから本当に新キャラは不要。鈴(すず)が新キャラと絡まないまま今いる場所から東京に直行することも可能だったろう。

新キャラ・倉田は幼女に興味がない最難関攻略キャラ。攻略完了は10年後!?

そして今回の鈴は津軽(つがる)との絡みはゼロ。すれ違いや行き違いが2人の関係を演出するのと同時に、これも作者が指摘する通り、津軽は「最強チートキャラ」だから彼の登場は全ての手筈が整う最終章に限られる。それは本格ミステリの名探偵役と同じ宿命。名探偵は事件を解決するクライマックスを演出するために現場に遅れて到着したり、ある程度 被害者が出てからではないと登場できない。津軽も何度も遠峰(とおみね)を追い詰める地味なことは出来ず、『9巻』の顔合わせ・敵対関係の意思を見せてからは遠峰に会うことが作品上できなくなる。

ミステリだけでなく少女漫画でも強すぎるヒーローは追放されがち。ヒロインが恋に悩んだり、事件に巻き込まれることで連載を盛り上げようとするから、圧倒的な暴力だったり津軽の場合は知力を持つキャラは何かと理由を付けて追放されがちになる。完璧最強のヒーローよりも未熟な当て馬や脇役と一緒にいる方が話が展開させやすい。少女漫画におけるチートヒーローは登場こそ派手だが連載には向かない。その手のヒーローが不遇な扱いを受けるのは何度も見てきた。
この長編に向かない布陣、そして恋愛にならない年齢差を抱えたまま よく ここまで話を続け人気を獲得できるもんだと感心してしまう。作者が最初から長編を念頭にした作品は どういう仕上がりになるのか、後発の作品を読むのが楽しみだ。

津軽が最後まで本格的に活躍できない宿命なので、間延びしている物語を そう感じさせないようにするのは鈴の役割。馬車に潜り込んだり、潜り込んだ先で すぐに脱出しようとしたり、津軽に会える機会を逃してピンチに陥ったり落ち着きがない。本来は作者も鈴を もう少し利発な人間に描きたいのだろうけれど、それでは物語が止まってしまう。だから子鼠のようにチョロチョロさせるしかないのだろう。
目先の動きを追求するから、一体 彼らはどうして遠峰と対決構図になっているのかと本気で考えてしまった。遠峰は社会悪ではなく、鈴を守ろうとする男たちの敵でしかない。この辺が話を壮大に見せているけれど実はスケールが小さいという作品の抱える問題に繋がっているように思う。佐之次(さのじ)の覚醒などプリンセス鈴をまもるイケメン男性で構成されたパーティーが結成されつつあるのは楽しいのだけど

また遠峰が余裕をかましているため敵役として無気力で、それが敵として無能に思えた。遠峰は手抜かりがないから悪事を企てながら罪に問われず、同時に その悪事で目障りな相手を排除してきた。そうして社会の中で頭角を現した遠峰だけど、春時(はるとき)を潰そうとする動きは見せるが津軽は放置。『9巻』で津軽の有能さを目の当たりにしても何も対処しないから倒されるのを待っているだけの悪役に見えてしまう。津軽に遠峰の刺客や妨害を受けるということがないため、津軽も悠々自適に調査しているだけになってしまう。動くのは鈴や河内(かわち)といった手駒だけなのだ…。


抗した春時(はるとき)を連行する遠峰の馬車に潜入した鈴。拠点到着後、鈴は男たちに囲まれるが、周囲の状況や到着までの時間など この場所の手掛かりを冷静に観察しようとする。
鈴は春時の看病を申し出る。今では春時は自分を憎んでいない、と鈴は確信し安心する。けれど春時が死ぬ決意をしていることは見逃せない。看病されながらも春時は鈴に津軽による庇護を勧めるが、姉の絶望を知りながら諦めてしまった過去のある鈴は春時を諦めたくない。過去の諦めは自分の弱さでもあると今の鈴は分かるから、その後悔を二度と味わわないように春時を見捨てない。

この家で春時が阿片(アヘン)漬けにされる計画を悟った鈴は それを阻止。その騒動で この家の管理者・倉田 半司郎(くらた はんじろう)に出会う。番長キャラと最悪の出会い、みたいな乙女ゲーム的な出会い方である。作中で津軽にとっては あと5年経ったら恋愛対象になると繰り返されているが、倉田は10年。倉田ルートの方が作品をいつまでも続けられる気がする(笑)


田は鈴の知性を気に入る。元々 竹を割ったような性格なのだろうけど見込んだ鈴に遠峰の目論見を教える。遠峰は春時に阿片犯罪を被せようとしている。実際、春時の家には事件発覚の証拠や証人が送り込まれ邸内は一新されていた。春時は10数年の実刑で監獄行きとなる予定。だから鈴は春時の回復に努め、彼を阿片から遠ざけようとする。

事情を話した倉田だが鈴に協力する訳ではない。鈴が邪魔ならプロとして彼女を傷つけることも厭わない。春時も自衛して阿片を吸入しないよう努めるが、それがいつまで通用するか分からない。だから鈴は自分に出来ることを模索し、子供が使いに訪問していることから近くに村があることを推理する。


護される春時は鈴に これまで話さなかったことを話し始める。鈴の実母は出産後、亡くなり父親は訳ありだったため姉が育てた。夫と妾の子である春時は この時代の慣例に背いても認めなかったのに、自分の姪にあたる鈴は実子として育てる という矛盾に満ちている。あの家の夫も問題だけど、妻も性格が歪んでいて その歪みの皺寄せを春時が一身に背負った。
死にたがり状態の春時は、津軽への遠峰情報リークを鈴に託す。こうでもしないと鈴は津軽の元に戻らないと踏んでの行動かもしれない。ただ春時は時機を見て鈴を安全に行動させようとしたが、単独行動大好きな鈴は、物語の動きのためにも勝手な行動を取る。

この屋敷に阿片が運び込まれていることを確かめてから鈴は行動を開始する。倉田は鈴の追っ手となり作品内の雰囲気は一気に緊迫する。新キャラということもあり倉田と鈴の やり取りは多め。倉田が実力行使に出ようとする際に佐之次が登場。鈴と津軽の呼びかけによって覚醒状態になった佐之次は作中最強の武力を行使する。鈴は佐之次に倉田の首根っこを押さえさせ、春時の介護を佐之次に託し、自分は予定通り津軽に会いに向かう。弱った春時と佐之次を、自分と同じように心を通わせようとするのも鈴の狙いだが、壊れた信頼関係の修復は時間がかかりそう。


軽は学校時代の友人たちに協力を仰ぎ遠峰の周辺を嗅ぎ回る。この旧友たちが協力的なのは津軽の「紫の上」を見たいからという動機もある。そして物語に津軽の過去の恋愛を持ち込み、「ひな」という人物を用意するためにも旧友が必要だったのだろう。後に ひな の存在は旧友が口を滑らせて鈴にも知られることになる。

初めての同性ライバルキャラが名前だけ登場。津軽と恋が上手く結びつかない

津軽の調査でも阿片を取り扱っていた首謀者の素性は明らかにならない。その動きを遠峰は察知しているが つまらない事案だと虚無感を抱えて処理しようと言う気にならず動かない。早い内に問題の解決に動かないのが遠峰の敗因になるのだろう。
やがて津軽は鈴が利用した人力車と、彼女が乗った証拠として贈った櫛が置かれていたことで鈴の単独行動を知る。この櫛が次に鈴の手に戻るのはいつなのか。鈴に釘を刺して安全を確保したと思っていた津軽は今度こそ鈴を手放さないことを誓う。


は東京に到着後、すぐに津軽に会わず蕎麦屋で空腹を満たす。そこで鈴は春時から聞いた遠峰の右腕・夏川(なつかわ)と思しき男と遭遇。夏川の手掛かりを逃してはいけないと彼を追い、彼のホテルを突き止める。そこで鈴は また捕獲されるのかと思いきや河内(かわち)ら津軽の旧友が登場する。しかし河内らは遠峰を追って ここまで来たことを知り、夏川と遠峰の接点の調査をしようと深入りしてしまう。遠峰邸で知り合った息子の名前を語り、遠峰の居場所を突き止める。遠峰はすぐにホテルから出たため河内は夏川を拉致監禁状態にする。しかし追い詰めているはずが追い詰められ、鈴はピンチに陥る。

津軽が姿を現さないのは彼は鈴を向かうため、鈴が連れていかれたと思われる遠峰の別宅に向かっていたから。その途中で佐之次と彼が救出した春時を見つける。しかし佐之次が春時救出を優先したため倉田が賊を連れて追いかけてくる。こちらもピンチである。